社会起業家としての自覚

watanabe1今回は株式会社アバンティの代表取締役と渡邊智恵子さんにご登壇頂きました。

株式会社アバンティはオーガニックコットンを使った製品を製造販売している会社です。

オーガニックコットンについては、「日本オーガニックコットン協会」のホームページに以下のように説明されています。

オーガニック・コットンは、オーガニック農産物等の生産方法についての基準に従って2 ~ 3 年以上のオーガニック農産物等の生産の実践を経て、認証機関に認められた農地で、栽培に使われる農薬・肥料の厳格な基準を守って育てられた綿花のことです。

オーガニック・コットンは、紡績、織布、ニット、染色加工、縫製などの製造工程を経て最終製品となりますが、この全製造工程を通じて、オーガニック原料のトレーサビリティーと 含有率がしっかりと確保され、化学薬品の使用による健康や環境的負荷を最小限に抑え、労働の安全や児童労働など社会的規範を守って製造したものを、オーガニック・コットン製品といいます。

日本オーガニックコットン協会HPより

実はこの協会も渡邊さんが1993年に設立されました。

講演の冒頭に渡邊さんと会社が取り上げられたNHK番組の一部が流され、このオーガニックコットン事業を「ソーシャルビジネス」、渡邊さんを「社会起業家」として紹介されていました。
ソーシャルビジネスとは何か、なぜ渡邊さんが取り組むことになったのかを教えて頂きました。

株式会社アバンティは1985年9月4日に設立されました。

テレビ番組出演は2010年、当時の売上が7億円だと紹介されていましたが、2016年現在は12億円、6年で180%近い成長をしています。

渡邊さんは、この番組出演が一つの大きな決心をさせてくれたと言います。

watanabe2ソーシャルビジネスとは、社会問題をビジネス(起業)によって解決していこうとするものであり、その実践者を社会起業家と言います。

渡邊さんを「社会起業家」として紹介したのはこの番組が初めてで、渡邊さん自身もそれまでは自分たちの事業が「ソーシャルビジネス」だとは考えていませんでした。

そこで、この有名な番組への出演理由を聴くと「先物買い」、つまりこの「ソーシャルビジネス」「社会起業家」という存在がこれから伸びていく求められていく会社になるだろうという予感があったからだと言われました。

渡邊さんはそれを聴いて、「社会起業家」として自覚をし、その名に恥じない人生を歩まなければならないと決心をされたのです。

さらに、この番組出演の翌年の3月11日に東北の震災が発生しました。
渡邊さんは番組出演から自身を「社会起業家」であると自覚しましたが、この震災が「社会起業家」としての仕事をしっかり行うことを決めさせたと言います。

そして「ソーシャルビジネス」というものを会社の柱にするために「ソーシャル事業部」というのを立ち上げ、オーガニックコットンもその一つとして位置づけ、それ以外の社会問題にも取り組んでいくことに決めました。

その第一号として行ったのが「東北グランマの仕事づくり」でした。

震災によって一夜にして家も職場も失った”おばちゃんたち”に何か仕事を創ろうというものです。
”おばちゃんたち”にオーガニックコットンでクリスマスオーナメントを作ってもらい、最初の年は2500万円も売り上げ、”おばちゃんたち”に工賃として800万円支払うことができました。

でも、年を重ねるごとに東北への意識は薄れ、売り上げは下がっていきました。

そこで渡邊さんは2014年のソチオリンピックのスポンサーにかけあい、フィギュアスケートの選手たちに”おばちゃんたち”が作ったスヌートと帽子をプレゼントし、大会中ずっとそれを身に着けTVインタビューなどで知らしめることができました。

渡邊さんは東北はまだまだ復興できていないこと、未だ仮設住宅に暮らしながらも仕事をしている人たちがいること、その人たちがアスリートにベストを尽くして頑張って欲しい、東北の人たちも一緒に頑張っていることを伝えたい、伝えなければならないという「志」なのだと言います。

「志」というのは、自分ひとりでは成し得ないほどの大きな思い、目標のことを言います。
渡邊さんの会社はスポンサーではありませんし、知り合いもいませんでしたが、会う人会う人すべてにJOC(日本オリンピック委員会)に知り合いがいないかを訊き続けました。
そうするうちにJOCの副会長と知り合いだという人が現れ、この「東北グランマ」のことを伝え、スポンサー企業にたどり着くことができました。
渡邊さんはこのことから、「思えば叶う」こと、でもそれは自分のためではなく社会のためにどのようにして自分の力を、より多くの人の力を借りて成し遂げていくものなのか、これが「志」であるということを思いました。

「愛あるお金」に変える取り組み

watanabe3渡邊さんはこの震災以降「魂で結ぶネットワーク」が充実し「無駄なことが無くなってきた」と感じていると言います。

当時渡邊さんは一つの言葉に出逢いました。

代受苦者:本来なら自分が受けるべく苦しみや悲しみを自分の代わりに受けてくれた人たち

遠くはなれたところで被災した人たちは遠い存在なのではく、自分たちが被災していてもおかしくないのであって、被災した人たちと共に自分の人生がなければいけない、この言葉によってそのように理解することができたということです。

この思いで被災した人たちとこれからも向き合っていきたい、これから20年、80歳までは一緒に仕事をしていきたい、「ガンガンコロリ」を目標にやっていく、ということでした。
高齢者の方の中で言われる「ピンピンコロリ」元気なままでコロッと死ぬ、よりもさらに上の「死ぬまでガンガン働く」歳をとっても新しい仕事にもドンドン取り組んでたくさん儲けて、そのお金を「愛あるお金」に変えていく取り組みを皆でしていきましょう、と呼びかけられました。

2012年から「福島オーガニックコットンプロジェクト」が始められています。
これは、風評から食物栽培が困難となり放棄された耕作地を綿花栽培によって再生を図ろうというものです。
福島で栽培されたものをアバンティが買い取って製品化し、それをまた福島で販売をするという循環型ビジネスです。

これは、元々日本の繊維自給率が0%という問題解決のために全国で綿花栽培に協力してくれる農家を作る取り組みの一つです。
ただし、純国産の綿製品は高額すぎて(Tシャツが10万円)ビジネスにはなりませんから、海外から輸入されたものに国産の綿を5%入れて製品化することで上代を抑えつつ付加価値商品として販売しています。

また、渡邊さんの会社アバンティは2018年に本社を現在の東京から長野県小諸市に移転することが決まっています。その理由は会社を永続させるためです。

東京に大地震がいつ来てもおかしくないと言われ、大雨により荒川が氾濫すると一日もかからずに都心の大半が水没してしまう、といった危険を東京という場所は孕んでいる。
100年企業を目指している渡邊さんは、そのためのリスクヘッジ、特に所在地における危険回避のために移転を決断しました。

watanabe47年前から土地を購入し、社屋建設の準備に入られていますが、仕事は始められています。
近隣でオーガニック商品を扱っている人やお店を集めて「Bioマルシェ」という市場を開催し、オーガニック生産者と消費者を結びつける仕事です。これは言わば移転に向けた、小諸での仕事の土台作りです。

さらに、その場所に福島の子どもたちを呼んで、自分たちで家を作るといった体験会も開催しています。
これは一つには、福島の子どもたちの「保養」が目的で、これは普段放射線量の高い場所に生活することによって体内に蓄積された放射線を環境の良い土地で過ごすことで浄化させるものです。もう一つは、震災と原発事故によって家を失う、あるいは家に帰れなくなった子どもたちに「自分たち(の力)で家を建てる」という体験をしてもらうためです。一人ではできないけれども、友達の力を借りれば家は建てられる、という体験を通して家を失ったトラウマから少しでも解放されるのではないかという考えからです。

このように渡邊さんは新しいことにドンドン取り組まれていますが、一方で生業であるオーガニックコットン事業にもっと集中した方が良いのではないかと反省することもあると言います。
でも、やらずにはいられないし、使命を感じてドンドンやっていってしまうのだと言います。
そして、このように仕事ができるのは元気で健康だからであり、それは奇跡だと捉えているからだということです。

様々な理由からやりたくても自由にやれないという人のほうが多い今の社会において、元気でやりたいことがやれるのは奇跡だ、だとすればその奇跡を自分のためだけに使わない。
だから、人から頼まれたり相談されたなら、自分にできることはないかを考え、ビジネスに変えていくという取り組みをしている、それが自分の役割だと考えているということです。

2016年から始めた取り組みの一つが「22世紀に残すもの」というネット番組です。

渡邊さんはオーガニックコットンの取扱を始めた時に「セブンス・ジェネレーション」というネイティブ・インディアンの教えを知りました。
それは「私たちが現在していることは7世代にまで影響する。だからちゃんと考えて行動しなさい」というものです。
でも7世代、300年先のことは考えられないので、84年後の22世紀のことを考えて行動したらどうなるだろうか、それを皆で考えようというのがこの番組の主旨です。
月80万円の費用の内60万円を負担(20万円はスポンサー)して運営しています。
各方面の著名な方、皆渡邊さんの知り合いで、ノーギャラ(綿製品一つだけ)で出演してもらっています。

同じく今年の2月に渡邊さんの私費1000万円を寄付をして「一般財団法人 森から海へ」を設立されました。
これは、山における「鹿害」問題に対する取り組みです。
地球温暖化によって、本来なら越冬できない鹿が生き残ることによって数が増え続け、餌である樹皮や草を食べ尽して山が枯れてしまうという問題です。
捕獲しなければならない鹿の数は年間100万頭と言われていますが、50万頭しか捕獲できていないのが現状で、増えていく一方なのです。

その上、捕獲された鹿のうち「鹿肉」として利用されているのは10%に過ぎず、残りは放置されています。
渡邊さんはこれらが人間の勝手な行動から引き起こされたことが原因である上に、捕獲した「命」を無駄にしているところに大きな問題があると捉え、「鹿肉」の商品化して積極的に消費することを考えました。それが「鹿のめぐみ」という犬猫用のペットフードです。
この財団は「森を守る」という目的に、寄付だけに頼らず、自分たちで商品を販売して得た利益を「森を守る仕事をする人の育成」に活用していくというものです。

敬天愛人

ここまで、渡邊さんの取り組み、その信念、志について語って頂きました。

これを受けて、参加者でグループディスカッションを行い、理念や志、そして22世紀に残したいもの、をテーマに参加者同士で語り合いました。

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次に渡邊さんと主催であるリーダーシップ委員会の舘林秀朗委員長との対談が行われ、舘林委員長からの質問に渡邊さんに答えて頂きました。

渡邊さんは初めからソーシャルビジネスで社会問題を解決していこう志を持っていたのか、という質問に対して、全くそうではなかったと答えられました。
渡邊さんは「来るもの拒まず」の姿勢で仕事をしてきたので、オーガニックコットンについても「それをアメリカから輸入してくれ」と頼まれたから始めたものだということでした。
最初から社会貢献がしたいといって始めたものではなく、たまたま手掛けた仕事に社会問題が横たわっていて、それを見て見ぬ振りもできないから始めたことだということ。
そして、どうせやるなら「気持ちが良い」つまりブラックでもグレーでもない、後ろめたい問題が無いものを作りたいという思いがあったからだということです。

そして、渡邊さんが常に言っているのは「武士は食わねど高楊枝とは言えない」、お金儲けは必要だということです。
お金を儲けて企業を永続させること、社員さんの雇用を守ることこそが「目の前の社会貢献」であることに間違いはないということでした。

だから「私は社会貢献のためにこの会社を作りました」というのはあまりに青臭くて好きじゃない。

tai1会社を経営している以上はしっかりと稼いで払うものは払う、その上で残ったお金をどう使うかは経営者の人格あるいは社格によってくるので、今日より明日、今年よりも来年と、その格を上げ磨いていくことが経営者の仕事だということでした。

アバンティの基本理念は「敬天愛人(天を敬い、天が人を愛するように人を愛する)」です。
企業理念は「オーガニック製品を通して地球環境の保全と社会貢献をする」、オーガニックコットンを生業としている会社としてはこの理念は外せない。
そのための行動指針の一つは「社会倫理に照らし、人として正しいと思うことを実践する」。
これは男性社会における「本音と建前」という理性中心の曖昧な言動ではなく、女性ならではの感性中心の言動、その価値基準はあくまで「人として」行うことを示したものです。

行動指針のもう一つは「関わる全ての人々が利益を分かち合う、『四方良し』の精神を実践する」です。

tai3これは近江商人の「三方良し」から考えた造語で、「売りて良し、書いて良し、周り良し」の三方に「作りて良し」を加えた「四方良し」なのです。
オーガニックコットンを生業としているアバンティですが、何一つ作っていません。
農家さんが綿を栽培し、紡績会社が糸を紡ぎ、機屋さんが生地を作ってくれ、縫製工場さんが商品を作ってくれています。これら作り手さんがいなければアバンティという会社は成り立たない。
だからアバンティでは必ず「四方良し」であることを求めているのです。

渡邊さんは経営においてはこの理念が全てであり、理念こそが会社にとって最も大切なものであるということでした。

最後に渡邊さんが22世紀に残したいものは何かという質問に対して、「思いやり、愛」でありそれ以外の何物でもない、と言い切られました。
そして、リーダーシップの本質とはその「思いやり、愛」によって育まれる「素直さ」にあると言われました。

tai4自分の考えに固執し意固地になるのではなく、周りの意見を聴く耳を持ち、間違っていると気づいたら素直にそれを認めて軌道修正していくことができる柔軟さが必要だろうということでした。

質疑応答の中では、渡邊さんが自分の使命に気付いたきっかけは何だったのかという問に対して、自分の使命は何かなどと大それたことを考える必要はなく、毎日の生活の中で見つかっていくものではないかと答えられました。そして、お客様の2,3歩上を行き、より良く生きる提案をするのがプロであり、そのプロの仕事を追求することではないかということを話されました。

また、女性の参加者から「女性スタッフが働きやすい環境を作る上で大事にしていることは何か」という質問がありました。
女性が仕事をしていく上で大切なのは、「育児」と「介護」という重要な人生の「事業」があることを理解し、会社はそれをサポートしてあげなければいけないということでした。
だから、小諸には会社の近くに託児所と託老所を作る予定で、このサポートによって女性は安心してキャリアを積み、会社に仕事で返してくれるということでした。
そして同時に女性は子どもが産めるのであれば、それは子どもを産み育てることをして欲しいとも話されました。子どもができるということには意味があり、育児によって人は磨かれるからだということでした。

講演終了後に謝辞が述べられ、いつも通りお礼の品が渡されたのですが、今回は会員企業のナチュラルハウスさんからオーガニック商品の詰合せが渡されました。
いつもなら手渡して終わりのところが、渡邊さんとナチュラルハウスの白河洋平さんとはお知り合いということもあり、その場でその商品を壇上で開封し、参加している皆さんに紹介されました。その姿は普段の渡邊さんの姿そのもので、ありのままの感性で「人として正しいと思うことを実践する」という話されていたその通りの姿でした。

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話を聴いた全ての方が渡邊さんの大きな「愛」を感じ、元気になった例会となりました。

渡邊智恵子講師、本当にありがとうございました。

ご参加頂いた皆様にも改めて感謝申し上げます。