今回の講師である株式会社中心屋の斎藤忠孝社長は和歌山経営研究会に所属し、本部レクチャラーでもあります。
その「強い組織づくり」の手腕を買われて全国の「組織活性化委員長」という立場で全国の経営研究会を飛び回っていらっしゃいます。
斎藤講師は10年前に日創研の可能思考研修を受けられましたが、当時はまだ腑に落ちていませんでした。
その3年後にTT研修を受講し、経営者の学び続けることの大切さを痛感、そこから真剣に学び始めます。
さらにその2年後の今から5年前に田舞代表に「わが人生を語る」ということで、過去の「蓋をしてきた」経験体験を赤裸々に語ったことがありました。
その時田舞代表から「3億円の宝くじに当たったようなものだ」と指摘され、これまで隠してきたその過去の経験体験を、同じように苦しんでいる人たちに語ることで勇気を与えることができる、と言われ、以後人前でこれまでの自分のことを語るようになったということです。
◆念いから理念へ
斎藤講師が代表を務める株式会社中心屋は和歌山という過疎化が進む地域に本社を置く居酒屋中心の飲食店のグループ会社です。
創業は15年前、料理を本格的に習ったことが無いので技術が無い、当時の貯金は2万円でお金も無い、無い無いづくしの中で何もないところから始まりました。
そんな中、たった一つだけあったのが「志」です。
その当時は飲食店経営が「ブーム」だったので、一時は流行るだろうとは思っていたが、長続きはしないと思っていたので、あらゆる本を読み学ぶことにしました。
学ぶ中で一つの言葉、「心を満たす」という言葉に出会います。
これは現在の経営理念である「空腹を満たす店よりも、心を満たす店でありたい」の元になったものです。
しかし当時はまだ理念としては確立しておらず、技術が無く飲食店であればジャンルは何でも良かった、何をしようかと悩んでいる時であったので、この言葉から「自分のやりたいお店」というのを見つけることができました。
斎藤講師は、この理念によって15年間ブレずに経営ができた、理念に助けられたと言います。
自分も含め飲食店のオーナーは大半が「拡大思考」であるため、日創研で学び、この理念を確立していなかったら確実に「債務超過」に陥っていただろうと振返ります。
経営において「ビジョン」がアクセル、「理念」がブレーキである、ということを日創研で学んだお陰でした。
さらに「理念塾」で学んだ時に「創業の精神」をまとめました。
『19歳から飲食業で働き始め、毎日、一生懸命に働いてはいたが、いつも心の中に「このままでは人生の流れは変わらない」と思っていた。
27歳の時、毎日不安定で不完全燃焼の自分に、あえて「自分はこの仕事が天職なんだ」と言い聞かせて胎をくくった。
それは、1歳の時に亡くなった父に堂々とした生き方を見せなければいけないと思ったから。
36歳の創業の時お金や信用など、ないものばかりだったけど、たったひとつ心から湧きあがる熱いものがあった。
それは”こころざし”だった。
「お客様に心から喜んでもらえるお店を創りたい」
そんなおもいからたどり着いた言葉が「空腹を満たす店よりも、心を満たす店でありたい」だった。
この創業の精神をいつまでも持ち続けたい。』
◆人財育成とビジョン
飲食業はお客様に対して接客から料理まですべて人がやることなので、その人の「価値観」がとても重要であるため「飲食業は人間業」であると斎藤講師は言います。
さらに、経営者は社員さんの人生を預かっている、だから社員さんに真正面から「真剣勝負」を挑んでやり続けられるか、が人財育成において大切なこと。
経営者は「一人の社員さんのために泣けるか」が問われているということでした。
ただ、そんな斎藤講師の中心屋さんでも、人数が増えてくると理念の浸透が浅くなり「血が薄れている」のが悩みだということでした。
人財育成では「やる気(社内独立)」「やり場(育つ環境を創る)」「やり方(従来のお店とは違う方法)」をキチンと社員さんに明記することが重要だと言います。
さらに中心屋では目に見えないもの、人の心が左右する「理念、社風、信用、ブランド力」を特に大切にし、この「人間力」を高い人財を育成しているということでした。
ビジョンについては、8年前に作成した「愛と感動と笑顔が溢れる会社を創る」に対して当時の社員さんから「これを達成したら自分たちがどうなるのか」という疑問を投げかけられました。
そこで、以前から社員さんの独立を応援していたこともあったので、4年前にそれを「10年で10人の経営者をつくる」という具体的なビジョンに変えました。
するとある時、和歌山の創業店舗が火災に遭い、その店舗を手放すかどうかの決断を迫られるということが起こります。
当時のそのお店の店長さんは独立志向ではありませんでしたが、火災を出した(火は出ていない)ことに責任を感じて落ち込んでいたため、店舗を手放さずに店長にオーナーになって再建することを勧めたところ、やる気になって引き受けてくれました。
火災に遭う前から移転も考えていた店舗であったため不動産会社に買い手を探すようお願いをしていたのですが、4年前に掲げた「10年で10人の経営者をつくる」というビジョンによって土壇場で自分の心が決まったと斎藤講師は言います。
その後の店舗は年々右肩上がりに売上を伸ばしており、このビジョンと人財育成が間違っていないことが証明された結果となっています。
◆二足のわらじ×2
現在中心屋の他に中国にお店を持つ会社、給食の会社(株式会社紀和味善)、そして日創研のレクチャラーという4つの仕事をしている。
紀和味善という会社には1年3ヶ月前に社長に就任をしたということですが、これは再建を託されて引き受けたという会社だということです。
離職率が高く、社風が極めて悪い会社であり、なおかつ以前は社員を引き止めるために赤字でも借り入れをして賞与を支給するといったことをしている会社でした。
普通ならそのような会社の再建を引き受ける人はいませんが、その会社の社長が古くからの友人でもあり、何より日創研で学んだことで何事も「可能思考」で考えられるようになっていたので、できるのではないかと考えて引き受けました。
現在「13の徳目」を時間をかけて取り組んでおり、まだまだ再建には時間はかかりますが、必ずできると信じて頑張っているということでした。
◆海外進出
海外進出のきっかけは、建設会社の社長から中国への出店を勧められたことでしたが、最初はやる気はなかったということです。
しかし、中国へ視察に行った際に「日本の居酒屋」と言いながら非常にいい加減な店がいくつもあり流行っているということに強い憤りと「本当の日本のおもてなしを伝えなければ」という使命感にかられ出店を決意しました。
中国であっても「接客の基本に忠実」であることを求め、顧客の大半は中国人で日本語がわからないのですが、挨拶などは日本語で元気な声で行っています。
中国に出店してから10年が経過して日系のお店も増えている中で上位の売上を上げられているのは、この「日本のおもてなし」を基本として徹底し、それが現地で評価されているからではないでしょうか。
さらに、中国進出後に政治的な問題が起こり、多くのライバルが撤退をしていく中でも、粘り強く経営し続けたことで、近年ではライバルの少ないマーケットでの利益、さらに為替による利益も享受できる、いわば「残存者利益」を得られるようになったということです。
◆覚悟を決める
斎藤講師は大阪で生まれ、13歳まで大阪で暮らしていました。
1歳の時に父親を亡くし、母親は昼夜を問わず働き続け、大変な苦労をしながらの生活でした。
中学生の時に一人だけいた親類をたよって逃げるようにして和歌山に移ります。
高校卒業前に母親がそれまでの無理がたたってリューマチになり働けなくなり、斎藤講師は高校卒業後から働き始めます。
しかし中々良い働き口が無く、常に2つの仕事を掛け持ちしなければいけない状態で、それでも一向に生活は良くならず、一時期は母親と姉に生活保護を受けてもらったこともあったと言います。
何とかこの状況から脱するために、36歳の時に独立を決意します。
しかしその時の貯金は2万円しかなかったので、派手なオープニングキャンペーンをするどころか店舗の建築費用も分割でなければ支払えないような状態からのスタートでした。
そんな苦労の末のオープンでしたが、初日からお店はお客様で溢れかえりました。
斎藤講師はそれまでひとつの飲食会社で17年勤めていたのですが、27歳の時にこの仕事を「天職だ」と覚悟を決めた時からお客様に尽くしてきました。
オープンから来店して頂いたたくさんのお客様というのは、そんな斎藤講師が一所懸命心を満たそうと尽くしてきたお客様であり、そのお客様から愛されてきた結果でした。
斎藤講師は最後に、これまでの貧しい生活も、貧しさから逃れるための和歌山への移住も、今となっては財産であり、その経験があったからこそ努力し続け、覚悟を決めて仕事に取り組み築き上げた今の自分がある、だからこれら苦しかった経験体験に感謝しているということを語られました。
今回の例会は、斎藤講師からの提案で講義の間にグループディスカッションが行われました。
斎藤講師の人財育成に関するお話を聴いて、自社にどのように生かしていくのかを参加者全員で行われました。
初めて例会に参加された方も多数いらっしゃいましたが、とても活発な議論が交わされ、発表も皆さんからたくさんの意見、感想が出されました。
斎藤講師、素晴らしい講演と参加者同士の交流の場を設けて頂きありがとうございました。
また、ご参加頂いた皆様にも改めて感謝申し上げます。
次回4月例会は4月11日(火)18:00〜 日創研 東京センターにて開催します。
奮ってご参加ください。