発想を絞り込む「フレームワーク」
今回のテーマは「精度を高める戦略づくり」として、参加者全員でワークを通して戦略づくりの一つの方法を学ぼうというものでした。今回のファシリテーターである寺門聡一郎さんから「フレームワークを使った戦略づくりを体験し、自社に持ち帰る」を本日のゴールとして示して頂きました。
まず前段として「戦略はなぜ必要なのか?」という問いかけがされました。寺門ファシリテーターから出された答えは「進むべき方向性とシナリオを描き、その目的を達成するため」というもので、目的を達成するために考えだされる「こと」でした。
続いて今回学ぶ「フレームワーク」についての説明もされました。フレームワークとは「枠組み」ということですが、何かを決める、あるいはアイデアを考えるにあたっての「制約条件」のことを言います。
何かを決める、話し合う場面、会議や打ち合わせなどにおいて時間ばかりかかってしまって何も決まらない、下手をすれば「何の話だったっけ?」となってしまったことは誰もが経験したことがあると思います。
その原因がこの「フレームワーク」が無い中で会議や打ち合わせをしてしまっているということなのです。「何のため」「誰のため」「予算は」「何時までに」などの5W2Hもフレームワークの一つです。
さらに、具体的なアイデアを出す際にも「ブレーンストーミング」のように、とにかく思いつくままに発想していくという方法もありますが、逆にこの「フレームワーク」を用いて、つまり「制約条件」を決めてその条件の中で発想を「絞り込む」ことで答えを出しやすくしようという方法もあります。
今回は前述の具体的戦略を生み出しやすくするために、フレームワークを使って「何のための戦略なのか」を明確にしていく取り組み方、考え方を学びます。
今回寺門ファシリテーターが用意してくれたのが4つの項目を順にまとめていくというものでした。
「ギャップ」をあぶり出す
①問題の発見
問題は何か、と問われた時に思いつくのは「売上が上がらない」「人財が育っていない」「新商品がない」「お客様の減少」「人手不足」などといったことではないでしょうか。
では、それらに対してどのような対策を取るでしょうか。恐らく多くの経営者はすぐに「解決策」を求めて部下に対して「何をしていくか」を考えさせるのではないでしょうか。
実はここに「BEING(在り方)」と「DOING(やり方)」という2通りの考え方があり、大半が「在り方」ではなく「やり方」に集中してしまいがちと言われています。つまり何か問題が起こった時に「どうすればいいか?」と「やり方」ばかり考えてしまうということです。
しかし本来は「何を目指すのか!?」があって、「DOING(やり方)」が見えてくる、やはり目的や目標をしっかりと立ててから「その為に何をするのか」を考えることが必要です。
ですから、ここではいきなり「自分たちの頭にある問題」に目を向けるのではなく、自分たちが求めている「理想(あるべき姿)Being」を明確にし、それを踏まえて実際の「現状」とを比較することで出てくる「ギャップ」をあぶり出します。
この「ギャップ」こそが本来考えるべき「問題」なのです。そして「解決策」というのはそのギャップを「どのような目標を立てて埋めていくのか(Doing)」を考えることなのです。
ここで、早速ワークに入ることになり、まず「戦略テーマ」を、今回何について考えたいのかを出してもらうことになりました。
そこで、わかりやすくするために事例として会員の杉山浩一さんが代表を務める株式会社プラン・ドゥさんから出して頂きました。
プラン・ドゥさんの戦略テーマは「シェアハウスの短期満室化」です。プラン・ドゥさんは近年使われなくなった企業の独身寮を買い、それを新たにシェアハウスとしてリノベーションした後に富裕層の方に売り、その物件の管理をするという仕事をされています。
その中で去年手がけたある物件が、半年で満室にする目標を立てていたにも関わらず、9ヶ月経った現在でも7割しか入居できていません。好条件の立地でありながら中々埋まらないことから、このシェアハウスの短期満室化をテーマとして上げてくださいました。
次にいよいよ①問題の発見について考えていくのですが、まずは今掲げたテーマにおける「理想(あるべき姿)」について考えてみました。1年後なのか10年後なのかわかりませんが、何が実現できているのか、そうなることで何が嬉しいのか楽しいのか、を具体的に思い描いてみました。
同様にプラン・ドゥさんのシェアハウスの理想の状態についても出して頂きました。
杉山さんがこれを考える際に寺門ファシリテーターからアドバイスされたのは、「定量よりも定性で考えた方が良い」や「単に理想の状態そのものではなく、その時にどんなことが起こっているか」をイメージした方が良いと言われ、理想の状態を単に「満室」で終わらせるのではなく、「入居者さんがシェアリビングで週末パーティーを楽しんでいる」といったことを考えられました。
寺門ファシリテーターからは理想なのでやはり自分が「ワクワクする」ものをイメージして欲しいし、例えば売上高のように「数字(定量)」にしてしまうと理想ではなく「義務・役割」になってしまうということを教えて頂きました。
理想がイメージ出来たら今度は現実を直視していきます。
プラン・ドゥさんのことについて杉山さんは、やはり寺門ファシリテーターからイメージした「理想」の状態から見た「現実」はどうかを捉えるようアドバイスをもらったということでした。
「理想」のところでイメージした「入居者さんがシェアリビングで週末パーティーを楽しんでいる」ということに対して「現実」はどうかというと「なかなか入居者が増えず、夜のリビングがさびしい」といったように書きだされていました。
杉山さんからは「今までのように問題点から考えていたら、先に現状に対する言い訳が並んでしまったであろうところが、理想から考えていったことで現状をより冷静に客観的に捉えることができた」ということを教えて頂きました。
そして最後に問題を発見するために「理想」と「現状」とを比較することで見えてくる「ギャップ」を上げていきます。
この理想と現実のギャップを見た時に浮かび上がるのは理想のところでイメージした「ワクワクする」ところと現状が「一致していない点」です。
理想のところでイメージしたのは「ある・ない」といった定量よりも定性「喜びや楽しみが増えている、大きくなっている、幸せになっている」といったもの、一方現状は「ある・ない」の定量ですから、その「ギャップ=問題」というのは「喜びや楽しみや幸せになるもの(定性)の欠如・不足」ということになります。
プラン・ドゥさんを見てみると、
理想「多くの入居者さんがシェアリビングで週末パーティーを楽しんでいる」
現状「なかなか入居者が増えず、夜のリビングがさびしい」
ここにあるギャップは「入居者が増えない」という定量的なことではなく「入居者がシェアハウスを楽しんでいるかどうか」という定性的ところです。
また、それ以外の理想であげられていた「オーナーの収益増」というのは定量的なので、どちらかと言えば現状から考えた理想になっています。ですから別で挙げられていた「人気のシェアハウスとして各種マスコミに取り上げられている」という理想に付随するものと考えれば(人気のシェアハウスなので収益は予想以上で次の物件まで考えている、など)、「入居率7割」という現状とのギャップは「人気(話題性)が無い」ということが考えられます。
ギャップを考えた時に現状と同じになってしまう、ということが参加者からの意見として上がっていましたが、ここで大切なのは細かく切り分けて考えることです。
普段私たちは現状を考えながら問題を出してみたり、解決策を考えてみたりと全てを一緒くたに考えがちです。現状はあくまで事実を書き出す行為です。
一見無駄な作業に感じるかもしれませんが、細かく切り分けることで、いままで見えていなかった本質が見えてきます。こうした思考を何度も繰り返しながら精度の高い問題を発見していくことが大切だと教えて頂きました。
②解決の定義
次に考えるのは解決策(アイデア)を上げて決めていく上での定義(条件)をあげます。
これは最初にお伝えした通り、何かを決めていく上で何の制約も無く考えてしまうと有効な解決策というのが何時までたっても出てこなくなるからです。
「有効な解決策」とは、先ほど出したギャップ(問題)を埋める現実的な方法のことです。
なぜ「現実的」なのかというと、ギャップというのは先述の通り「定性的」なものだからであり、時間も費用も労力も考えうる上限はありません(際限なくやり続けてしまう)。
ですから、定性的な問題を解決しようとするならば「どのような状態になれば解決されたとするか」という定義と実行の範囲(時間・費用・労力の条件)を決めておかなければならないのです。
プラン・ドゥさんの事例ですと、ギャップは「入居者がシェアハウスを楽しめていない」ことと「人気(話題性)が無い」ということだったので、その定義は「既存の入居者さんが満足度の向上」と「マスコミに取り上げられるほどの人気(話題性)を持つ」ことになります。また、その実行範囲として3ヶ月という期間と50万という費用を挙げられていました。
③解決策の発想
いよいよ次は解決策を考えるところです。先ほど出したギャップ(問題)を解決(満足)させる方法を考えていきます。ここでは寺門ファシリテーターから発想する上で役に立つ方法を教えて頂きました。
・すべて書き出してみる
・世の中の流れはどっち?
・極端にする
・逆さまにする
・くっつける
ここでは先ほどの定義や実行範囲は考えず、とにかくたくさんのアイデアを発想することが大事ですから、上記の発想のヒントを元に色々な方法を出し合います。
④解決策の選択
解決策を出したら、最後にその中から実行するものを選びます。この時に、先ほど決めた定義と実行範囲に照らし合わせて決めていきます。
ただ、この時も単に上がったものの中から選ぶのではなく、以下の方法で決めていくことを教えて頂きました。
・要らない物を捨てる
・グループに分ける
・順番を変える
・物語を記す(5W2Hなど)
まずは「あるべき姿」を思い描く
「まずあるべき姿を明確にすることが一番大事で、やはり何のためにやるのかが明確になれば方法というのはドンドン出てくるものだと思いました」
「普段自分の中にはヴィジョンというは持っていますが、改めてそれを書き出してみることでより現実的になり、これから自分がやっていくことが明確になりました」
「普段現場にいると、どうしても問題点ばかり目につき、解決策もマイナスから考えてしまうことが多く、中々いいアイデアは浮かんできません。理想を掲げてから考えることで問題というよりも課題として捉えることが出来、達成した時のワクワク感も得られるようになるということを学びました」
「普段自分たちの仕事がどのように役立っているのか、喜ばれているのかというのが、特に現場の方にわかりにくいところですが、それが伝わるような動画を作って公開したり、これから入ってくる人へのメッセージにもなる、などといったことがディスカッションの中で明確になりました」
「以前の会議はやはりBeing(在り方)よりもDoing(やり方)優先で、現実問題に対してどうするのか、営業増やしますといった目先のやることばかりを話していました。でも、例えばどんな人に入居して欲しいのか、入居者さんにどう有って欲しいのか、といったところを皆で描くということが忘れがちになっていました。PDCAを回すということは学んでいましたのですぐにそこに目がいっていましたが、それ以前にやるべき戦略づくりがあるということを今回学びました。次はこの理想的な会議(の進め方)というものを社内でチャレンジしていきます」
「今日の1時間ちょっとの中でどれだけの発想ができて、どれだけまとまったのかはわかりませんが、今回一人でやってみたことが会社で何人もの人と同じようにやってみるとその人数の倍数で発想が出てくるわけですから、理想的な会議やミーティングになるかと思います。ですから、今日の流れをしっかりと掴んで頂いて、是非社内でやってみてください」
また、今回学んだフレームワークを経営計画書に落とし込んで考えるやり方を教えて頂きました。
今回の学びは日本実業出版社から出されている小野ゆうこさんの著書『「結果を出す会議」に今すぐ変えるフレームワーク38』を参考にさせて頂きました。
最後に寺門ファシリテーターがリスペクトしているというスタンフォード大学内にある施設「d.school」に掲げられたポスターを紹介してもらいました。「d.school」とはスタンフォード大学の中で「デザイン思考」を学ぶための施設で、主に新しい事業や製品を立ち上げようとする学生がイノベーティブな発想をするためにこの「デザイン思考」を学んでいます。そこに掲げられているポスターにはこう書かれています。
「NOTHING IS A MISTAKE.(間違いなんてない)
THERE’S NO WIN AND FAIL.(勝ちも負けもないし失敗もない)
THERE’S ONLY MAKE.(ただ、創るだけだ)」
今回学んだのは戦略づくりについてのことですが、私達は勝ち負けのためにやっているのではなく、より良い社会の実現のために仕事をしているわけですから、失敗を恐れる必要はありません。あるのは「創るだけ」つまり実践行動あるのみ、行動こそ真実ですから、ドンドン色々なことにトライしチャレンジしていくことの大切さを教えて頂きました。