顧客満足と収益を満たす仕組み
今回の講師は名古屋経営研究会の会員で、株式会社サンアストの佐治邦彦社長です。
株式会社サンアストさんは元々集客をメインとした広告会社で、エリアマーケティング、雑誌集客、業種特化型など様々な集客を行ってきました。
集客の仕事をしながらも「これは本当にお客様のためになっているのだろうか」と疑問を持ち始めます。
それは、仕事をしていく中で、「集客に頼る」会社ほど業績が中々上がらない傾向が見られたからです。
さらに、集客があればあるほどなぜか「客層が悪くなる」という傾向にありました。
伸びる会社と伸びない会社の違いを見つけようと約100社ほど見られたところからの結論は「仕組み」があるか否かということでした。
具体的には「お客様がリピートしていく」という仕組みでした。
考えればわかることですが、お客様が継続して来て頂き、なおかつ口コミでさらにお客様を呼んでもらえるというのと、毎回集客をしなければならないという場合では、長い目で見ればやはり毎回集客というのは良くありません。
ですから、如何にお客様をリピート化させていくかという仕組みがとても大事だということです。
そこで佐治講師は「顧客満足と収益を満たす」独自の仕組みづくりというものにたどり着きました。
このコンサルティングを始めて6年目になるということですが、当初は「ブランディング」を中心にされていました。
「ブランディング」とはマーケティングの効率を上げる一つの手段ですので、それだけを伝えるのは難しく、ついつい小手先だけで終わってしまうことも多いため、中小企業に「戦略」として根付かせるためには仕組みごと考えて提供しなければいけないということに気づき、現在のスタイルになったということでした。
佐治講師が提供されている仕組みづくりの特徴は「ミッション」と「マーケティング」をつなげているというところです。
これからのマーケティングで最も重要なのは「市場の見極め」であるということです。
どの市場でビジネスを行うのか「市場決定でビジネスの8割が決定する」と言っても過言ではないと佐治講師は断言されました。
さらに、「強み・弱み」よりも「最も勝てる市場を選ぶ」ことの方が重要だということです。
勝てない市場を選んでしまうと、そこで一所懸命「強み・弱み」を並べたところで特に中小企業は勝てません。
如何に自分たちに有利な市場を見つけていくか、その市場はどこなのかを見つけることが最重要だということです。
では、「最も勝てる市場」とは何か?
それは、自分たちが「顧客のニーズを最も理解できる市場」です。
お客様と価値を共感できる、お客様の悩み・問題が理解できる、だからこそお客様は自社で買い続けてくれる。
現在は商品の差はほとんどなく、現在の差はサービスの差、つまり「購買のプロセスの差」です。如何に購買のプロセスの中でお客様に満足して頂けるような接客サービス・プロセスを作り上げられるかにかかっているということです。
その上でお客様のニーズを把握しているかということが最も重要です。
営業の場においても言えることですが、目の前のお客様の「本音」がわかればビジネスは簡単です。
コストのことを心配している、あるいはまだ自分たちのことを信用してくれていない、ということがわかれば取引は簡単です。
ですから、これからの時代は自分たちが「最も勝てる市場」を見極めるために明確な「ミッション」を持つことが重要というわけです。
これまでの社内での取り組みというのは「危機感」というのが一つのキーワードで、常に「危機感を共有しよう」と言い、この危機を乗り越えるために頑張って「何でもやってしまう」わけです。
こういう業種にも提供していこう、こういうお客様にもこういうサービスを提供していこう、というふうにドンドン複雑化させてしまっている。
大事なのは、目の前のお客様が何を求めているのか、何をしたいのか、何をしたくないのかを感じ取り、「見極める」ことなのです。
つまり、危機感を持って一所懸命やってしまうと目の前のお客様が「見えなくなる」わけです。
本来経営というのは「理念の追求」「ビジョンの達成」です。
自分たちがどのように成果を上げたから幸せを実現していくのか。
「幸福感」とはお客様の最大評価を得ながら業績を作ることです。
目の前のお客様の喜ぶ姿が如何に業績を作っていくか、これを仕組みにするだけのこと、ということでした。
「ミッション」とはつまり「私は誰を喜ばせるために仕事をしているのか」あるいは「その人は本当に喜ばせたい人なのか」を問いただして明確にしたものであり、最も自分たちの「強み」が見えやすくなるものだということです。
経営はすべてマーケティング
次に重要なのが「絞り込む」ということです。
わかっていても中々できないのがこの「絞り込み」ですが、それはどこかにまだ「売り上げ=利益」という考えがあるからだということです。
業績に苦しんでいるところというのは、業績に変化に合わせて新商品を考えなければならない、新しいお客様を開拓しなければならない、と増やすことばかり考えているところが多い。
しかし、増やすことによって経費も増えていきます。
収益が上がっていないにも関わらず、手が回らないから人を集める、そして結局は、その経費を賄うために売上目標が上がっていく、という会社が案外多い。
やるべきことは、収益を最大化させることであり、そのために「何をやらないか」を明確にすることなのです。
つまり「ミッション」を明確にすることで収益を上げることができるわけです。
一方「マーケティング」は売れる仕組みづくりのことですから、「経営はすべてマーケティング」だと佐治講師は言います。
マーケティングと聴くと、分析や集客のことだと考えられがちですが、売れる仕組みをつくる活動すべてのことを指します。
ですから、「ミッションを中心に経営活動のすべての仕組みをつくりあげていく」というのが「ミッションマーケティング」だということでした。
この「ミッションマーケティング」の事例として浜松にある居酒屋を運営されている会社のお話をしてもらいました。
ここは元々「居酒屋」「ホルモン屋」「カフェ」という3つの業態をしていました。
居酒屋でよくあるのが、流行りの商品を投入することで売り上げを上げ、新商品を投入することで売り上げが変動させるというやり方、なおかつ居酒屋の業態が続くかどうかが不安なので別のその時流行っている業態も新たに始め、それも下火になってくるとまた別の業態を始めるというビジネス展開です。
過去はこの「調子が良いうちに次のことをやれ」というのが一つのセオリーでした。
しかし、現在は変化のスピードが早く、どこかをテコ入れしたら別のところが下がり、そこをテコ入れしたら別のところがまた下がる、といったことの繰り返しになってしまう。
これは「どうなりたいか?」というよりも「どこが問題か?」という部分の問題に振り回されるということなのだということです。
悪いところだけ着手して次から次へ目先の売り上げのためだけにやっていく、これだと何時まで経ってもこの先の成長はありません。
佐治講師も当初はこの居酒屋さんの「ブランディング」に取り組んでいましたが、一つの業態で上手くいっても他ができないという状態になりました。
その理由は、売り上げのためだけにやっていることというのは「今はこれをやっていれば売り上げが上がるな」というのはわかっても、顧客の不満やそもそも自分たちがなぜこのお店を始めたのかといった「思い」が無いので改良改善ができない。
つまり「顧客の価値」を創造できないからでした。
ただ単に売り上げが上がったから成功、下がったから失敗、次の売り上げを上げるためには他所の成功事例を真似をする、というだけビジネスでお客様はリピートするでしょうか?
この会社も居酒屋一本に絞り、浜松餃子が売りの居酒屋から「遠州の人に誇りを持たせる」という郷土料理居酒屋とし、「遠州文化発信業」というのをミッションにしました。
この地域は本田やヤマハといった大手企業があり、対象はこれら大手企業のサラリーマンです。
この人たちの仲間が仕事で他の地域から出張に来た際に連れてきて、郷土の味と文化に触れてもらい、連れてきた人からは浜松を好きになってもらい、そのことでこの土地の人は誇りを持ってもらえるというお店にしました。
現在はこの居酒屋のみで5店舗、近日中にはハワイにも出店する予定で、6店舗になるということでした。
ミッションマーケティング フィールド
すべて同じ業態にすることで非常に効率は良いのですが、そうすることに対する不安を持つ経営者の方がいます。
時代の変化が早いので、うまくいかなくなったらどうするんだと考えられます。
ただし、それは「モノ」だけ売っている場合のことで、その場合は確かに「陳腐化するスピード」が速いわけですが、「価値」を売っていればそうはなりません。
佐治講師はその「価値」を理解するために「ミッションマーケティング フィールド」というのを作りました。
これはミッションを中心に周りに8つのポジションがある、というもので、これは「顧客満足」を図案化したものだということでした。
佐治講師は、顧客満足とは「顧客にとっての全体を最適化する」ということだと言われました。
飲食店で考えた場合、お客様は食事が美味しいという理由だけでお店を選んでいるわけではなく、居心地の良さやインテリア、接客、あるいは客層、お店の歴史といった背景やお店の持つ様々な物事と併せ持つことが選ぶ理由になっています。
いくら美味しくても接客が悪いと行きませんし、自分が嫌いなやかましいお客さんばかりだ、ということでも行きません。
今の時代の顧客満足というのは「全体を最適化」しないといけないわけです。
そしてそれが全社で共有化されていないといけません。
よくありがちなのが、経験の長い方だと例えば「腕に自信」があるので8つのポジションのうちの「商品戦略」にしか目がいっていないことが多い。
お客様は商品以外にも様々なものを見ているのに、社内の人が商品のことばかり考えて新商品をドンドン投入しますが、お客様の他のニーズとはズレているので上手くいかないわけです。
いくら料理に強みを持っていても、お客様が求めていなければそれは「価値」ではありません。
また「来客戦略」である接客対応もこれからの時代は「売り込み型」ではなく「提案型」でなければいけません。
これら会社としての取り組み、戦略の全体像を「見える化」して全社員に共有し、全社員が「変かわらなければいけないもの」と「変えてはいけないもの」をわかっていなければ永続させることはできません。
「変えてはいけないもの」とは「お客様にとって何のために存在しているのか」ということです。これがコロコロ変わってしまえば、お客様から信頼を得ることはできません。
「変わらなければいけないもの」とは商品の値付け、品質、接客の仕方、空間の作り方などであり、これらはドンドン変えていかなければいけません。
これを全員がわかっていないと、一所懸命頑張っているのにお客様の求めているものとズレていることに気づかないのでお客様は離れていく。
丁寧に接客したい、でもそうしていると料理が中々出てこない、どちらを優先すれば良いのかわからない、あるいは、接待のお客様と団体のお客様が来ているが、団体のお客様を優先してしまうと接待のお客様がいなくなってしまうが、どちらを優先すれば良いのかわからない、ということが現場でよく起こっています。
皆一所懸命頑張っているのですが、その努力が果たして結果につながっているのか、それぞれのビジョンの達成につながるのかどうかが問われています。
つまり「とにかく頑張る」ではなく、「誰の何の満足ために」それぞれが何を判断基準にやっていくか、その全体が最適化されることで初めてお客様に価値が伝わり、価値が伝わってこそ業績につながっていくわけです。
価値が伝わらなければ(その努力は)無いのも同じだということなのです。
このミッションマーケティングにおいて注意しなければいけない点として、「今後マーケットがどのように変わっていくかわからない」という危機感の元に、「ミッション」を変えてしまう経営者が多いと佐治講師は指摘しました。
これからの時代は商品で選んでいるわけではなく、商品が陳腐化しているのでもない。
陳腐化しているのは「商品の購買プロセス」なのです。
ですから、商品が変わっていく、対象顧客が変わっていったとしても、「ミッション」は変えてはいけません。
スターバックスのミッションは「サードプレイス(三番目の居場所)を売る」、家庭と職場の次に来る三番目の「居心地の良い空間」、コーヒー1杯で何時間居ても構わないという接客であり、「価値」を売っています。
同じカフェでもコーヒーという「商品」を売っているところはコンビニと価格競争になってしまい苦しんでいる中、スターバックスはコーヒーを売っているわけではないので、コーヒーはお客様の好みに応じてカスタマイズしても良いという販売姿勢で「価値」を売り、それを望むお客様に選ばれています。
「お客様の何のために、何をどうしなければいけないのか」ということが明確され全員に共有されなければいけません。
ミッション
これからの時代は「価値」を売らなければいけないわけですが、価値には2つあります。
一つは「機能的価値」、もう一つは「情緒的価値」です。
飲食店でいうと、「美味しい」というのは「機能的価値」であり、「あのお店は気持ちがいい」「あの店で食事をすると優越感に浸れる」というのが「情緒的価値」です。
業界が成熟すると「機能的価値」が無いというところはほとんど存在していませんから、お客様は「情緒的価値」で識別していることが多い。
そして「情緒的価値」というのはお客様も無意識のうちに選んでいるものですから、「お客様の言うことを聞く」ことが顧客満足になる、ということではありません。
「お客様が言う」ということは「満たされていないから要求している」と捉えないといけません。ですから、どんな問題、悩み、欲求を持った人たちに、何の価値を、どのようにして提供するのか、ということをまず明確にしなければいけません。
そしてこれがすべての物事の判断基準になり、市場を決めていくことになります。
ターゲット戦略
次にターゲットを決めていくのですが、ここでよく聞く「ペルソナ」についてターゲットとの違いを教えてもらいました。
ターゲットとは売上拡大を目的とした販売促進を行う際の狙うべき「的」であり、企業側が統計データなどを基にして設定するもので、それだけに幅が広く「誰に」とするには非常に曖昧な輪郭のものです。
一方「ペルソナ」は顧客の心理を理解して顧客満足を目的として考えるものです。
その設定根拠も一般的な統計データではなく、自分たちの理念や強みが生かせる、それを賛同し必要としている人たちに絞られています。
例えば狙う年齢層であれば誰でも良いのではなく、その中からさらに「理念や強み」で絞り込んで設定します。
そしてその人たちの購買心理について考えますから、その人物像は非常に具体的なものになります。これからの時代は単に商品を「売り込む」のではなく、顧客の購買心理を理解して心理を満足させる「価値」を売っていかなければいけませんから、この「ペルソナ」の設定は不可欠であり、全員の判断基準としなければいけないということでした。
商品戦略
ペルソナによって具体化された「求める人物像」の、その購買心理から必要とされる「価値」を持った商品・サービスだけに絞り込んでいきます。
これからの時代は「売れるかどうか」ではなく、絞り込まれたペルソナ、その人物像の購買心理を判断基準「あなたにとって良いもの」として商品・サービスを決めていかなければならないということです。
来客戦略
これは接客や営業活動についてのことですが、これからは先述の通り商品を買うのではなく「商品を購買するプロセスを買う」わけですからとても重要なところです。
お客様はそのプロセスの中でお店や会社に信頼をよせ、そこで買い続けてくれるわけです。
そのためにはまずそのお客様との接点「購入前」「購入時」「購入後」というすべての接点について理解しなければいけません。
まず販売時点において考えるべきは「売り込み型」から「提案型」に変えていかなければならないということです。
佐治講師はこの違いを「顧客への関心の有無」だと教えてくれました。
顧客のことは考えずただただ「これは良いから」と言って売り込むか、顧客のことを考え「あなたのこのために良いから」と言って勧める・提案するかの違いだということです。
例えば自分の子どもに「安いからこの塾へ行きなさい」と言う人はいません。
「お前はこういう性格でここが弱いから、そこを補強してくれるこの塾へ行きなさい」と言うでしょう。
この違いは「相手への関心」の差であることは明白ですし、その人にとって価値の無いものは必要ありません。
さらに、そのプロセスの中で必要とされているもの、価値あるものを提供しなければいけません。例えば最初に紹介された浜松の文化や郷土料理を提供する居酒屋さんの場合、接客時に重要なのは「方言」であったり地域で独特の「乾杯」の音頭です。
世界観
これは「デザインで価値を浸透させる」というもので、「ブランディング」と言われるところです。
デザインは「名称」「ロゴマーク」「スローガン」「カラー」という要素から成り立っていますが、これらは相手の記憶に残すための道具だということです。
現代はこのような「イメージ」というのものが消費に大きな影響を与えています。
ここで佐治講師は簡単な実験をしてそのことを説明してくれました。
画面に誰もが知っている水「いろはす」と見たことのない中国語のような漢字だけで商品名が記された水の画像を出し、会場の方にどちらを買うかを尋ねました。
尋ねられた人すべてが「いろはす」を選び、その理由として「知っていて安心だから」ということを上げていました。
中には逆に「(中国製品なので)危険そうだから」という明確な理由もありました。
でもこれは事実ではなく、イメージでしかありません。
にも関わらず会場の全員がイメージだけで買うかどうかを決めていたということから、イメージの持つ影響力の大きさを知りました。
ここで佐治講師が力説されたのが、知名度の低い中小企業において普段売れている要因は「人間関係」でしかないことを理解しなければいけない、ということでした。
いくら営業でパンフレットを持っていってお客様に力説してみても「あなたの会社のことを知らない」から買わない。
社員に「こんないい商品なのになぜ売れないのだ」と言っている社長が売れているのは社長の「人間関係」でしかないのであり、会社の知名度が上がればもっと売りやすくなるということです。
ただし、これは単に「知名度が上がれば売れる」ということではなく、人が持つ様々な心理・イメージを理解し安心感や信頼感を高めるような伝え方、表現をしなければいけないということでした。
ビジネスモデルを見直す
ここまでの「ミッション」と取り巻く4つの基本のポジションについて教えてもらいました。
佐治講師はここまでのまとめとして、この基本をしっかり理解して今現在のそれぞれのビジネスモデルを見直して欲しいと訴えかけました。
価格競争に巻き込まれて収益性が悪くなっている、商品やビジネスモデルが陳腐化している時に、利益が減った分客数を増やそう、あるいは商品点数を増やそうとする会社が多い。
それは即効性があるかもしれませんが、しかしそれをやって顧客満足が上がるでしょうか? 社員満足は上がるのでしょうか?
商品とサービスが増えて「複雑化」すると、ドンドン購買プロセスの質は下がり、顧客は離脱したり商品だけの比較をされるようになって価格競争に陥ります。
そのようなビジネスモデルを一所懸命危機感を持って新規開拓をしてやっていても、その先には更に大変になっていくだけです。
そのようなことになっていないか、現在のビジネスモデルを見直すということです。
今の商品でも適した市場に変えれば、今までの10倍、いや100倍売れるというものはあります。
それは「商品の価値」ではなく、お客様こそがその商品に対する価値観だからです。
「お客様次第」だということです。
だからこそ今やるべきは、現在のビジネスモデルを見直して、ブラッシュアップするということなのです。
陳腐化したビジネスモデルはドンドン顧客満足を下げていき、社員満足を下げていき、販売促進費が益々必要になってくるという悪循環を生じます。
さらに悪化すると社員さんの退職が増えていき、採用費が必要になってくる。
ですから、まずこの基本をしっかりと組み立て、出来上がったら広げていくことを考えるということです。
伸びる会社というのはブレがありません。
ブレがない会社というのは、お客様にしたことに対してお客様の「喜び」に気づき、仕事に対する使命感を持っています。
でも多くの場合は「儲かったやり方」「売り上げの上がったやり方」を正解だと考えています。
販売促進の仕方を変えた、あるいは新商品を出したら一時的に売り上げは上がるかもしれませんが、それでお客様が喜んでいることを感じ取ることができたかどうか、あるいは社員さんが誇りを持てるようになったのか、が一番大事なことです。
佐治講師の会社も元々は印刷物が中心の広告会社だったので、すぐに価格競争に巻き込まれて価格はドンドン下がっていき、先行きに不安だらけだったそうです。
だからその不安をかき消すために新しいビジネスモデルを考えては社員さんに伝えていたが、中々ついてきてくれませんでした。
そんな中でこの「ミッションマーケティング」を作り上げ仲間の経営者に伝えたところ喜んでくれて、もっと多くの会社に伝えて欲しいと言われて現在のようなコンサルティングを始めることになったそうです。
儲けを考えて始めたことではありませんでしたが、とにかく多くの人に喜んでもらえたことで佐治講師は初めて「これが自分がやりたかったことだ」と気づいたそうです。
さらに、その講演の場に社員さんを同席させ、周りから感謝される姿を見たその社員さんから「この場に同席させてもらって本当に感謝します」と言ってくれた、多額のボーナスを出しても喜ばなかった社員さん喜んでくれたことで、コンサルティングとしてやっていこうと腹をくくることができたそうです。
ですから佐治講師は、考え方を少し変えるだけでも今まで見えなかったことが見えるようになったり、それによって自信が持てるようになるから、今がもし足下だけを見たようなビジネスモデルであるなら一度見直して欲しい、と強く訴えかけました。
顧客管理・プロモーション
4つの基本ポジション(誰に、何を、どうして、どのように)がしっかりと組み立てられたら、そこで初めて広げていきます。
ただし、広げていく時に気をつけないといけないのは、収益に最も影響を与えるのは「今の顧客」と「周辺客」であるにも関わらず、現在の顧客と市場を分析せずに新規顧客の開拓や新商品開発に取り組もうとすることです。
「今の顧客」をしっかりと分析することが大事です。
商品が陳腐化しているからといって、皆が評価を下げているわけではなく、評価してくれているお客様もいますから、正しく「今の顧客」を分析しなければいけません。
これは「認知客」から始まる段階において、どの段階にどれだけのお客様がいて、どこが一番収益が上がっているか、逆にどこがボトルネックになっているかを見極めて改善していくということです。
上手くいっていない会社というのは一番売り上げの上がる顧客に「依存」してしまい、売り上げも多いが要求も多いので利益は下がってきているのにそこに集中し続けてしまっています。
この顧客は「ファン客」ではなく、自分たちにとっての「VIP客」なので盲目的になり疲弊していきます。
「ファン客」とは「最も自分たちの会社・商品・サービスを喜んでくれて評価してくれるお客様」です。
この「ファン客」が全員に見える理解できるようにすることで、全員にこのようなお客様のために自分たちのビジネスは存在しているという信念が生まれ、このようなお客様を増やしていこうという働き方になっていきます。
お客様の評価こそが社員さんの精神的満足を高め、さらにその評価から自分たちの強みを知ることができ、その上新しいお客様を連れてきてくれます。
これからの時代は、お客様を営業マンにしていく仕組みが必要だということです。
これまでのように、自社の営業マンを育て、販売促進をして初期段階のにいる人に対して一所懸命取り組んでも収益は上がりません。
これからは、「安定客」「ファン客」を増やしていくか、どの段階の顧客にどのようにアプローチしていくのかを分析・管理していくというのが大事になっていきます。
また、その際のプロモーションというのは新規集客するためだけのものではなく、リピートであったり口コミを起こすために必要なプロモーションを考えていかなければいけません。
先に紹介した浜松の居酒屋さんでは地元の「特別な乾杯」の時に使う「升」をプレゼントし、利用すればそれが溜まっていくというプロモーションをしているそうです。
そうすることでもらったお客様はお店のことを覚えていますし、増えればそれが強化され、周囲にも影響していきます。
このように、自分たちが最も認知して欲しい人たちに自分たちの存在を知らしめていく仕組みが重要なのです。
立地・空間管理
立地というのも、この立地だから成功する、失敗するというよりも、業種業態に合った立地があります。
つまり、単に人が多い、人通りが多いというのではなく、提供する商品・サービス、扱うビジネスによっては買う時の心理的効果を生み出すロケーションが必要なこともあるということです。
空間も同様に、どの様なお客様にどのような体験をしてもらうのかを考えていくことが必要です。
経営とは仕組みづくり
佐治講師は具体的に作るべき5つの仕組みを教えて下さいました。
- 商品を常に磨き上げる仕組み
- 顧客満足を実感させる仕組み
- 優良顧客を見極める仕組み
- 認知度を効率良く上げる仕組み
- 口コミ、紹介が産まれる仕組み
さらに、下記の質問を考えるワークに取り組みました。
「売上アップのために行うこと」
「顧客満足のために行うこと」
「顧客不満足を起こしている可能性のあること」
これは社員さんに対して戦略指示をする上で正しく整理されておくべきことなのですが、佐治講師からは、この中で「売上アップのために行うこと」がやりきれていないことで「顧客不満足を起こしている可能性のあること」という不安に繋がっている人が多いだろうという指摘がありました。
佐治講師は「ミッションマーケティング」を永続経営を目的に作られました。
永続経営で最も重要になってくるのが「顧客満足(CS)」と「社員満足(ES)」ですが、多くの経営者はこれを利益相反と捉えており、どちらも満足させることは難しいと考えています。
しかしそれは、顧客に与えるべきことがわからず、戦略も無いままに何でも与えようとしていたために、社員も振り回された挙句に業績も上がらず不満になっていたのです。
「ミッションマーケティング」はその解決のために考え出されたメソッドです。
これまで説明されたように「ミッション」とはお客様を絞り込むことです。
それは「最も自分たちがお客様の価値が理解できること」という一点で絞り込むことなのです。
共感できる人、顧客心理が理解できる人だけに絞り込むことです。
そうすることで、何をしてあげれば良いのか、逆に何をしてはいけないかがわかるようになりますから、効率性が高まり収益性が高まります。
一方社員満足というのは待遇ではなく自律ですから、自分たちで考えて決めて取り組み、お客様から評価されて業績も上がる、ことが満足につながります。
つまり、お客様を絞り込むことで何をすれば良いのかがわかり、自分たちの判断でドンドン評価してもらえるようになっていくわけです。
「ミッションマーケティング」は非常にシンプルな考え方であり、仕組みですが、これを実際に取り組もうとすると、落とし込める会社とできない会社があります。
佐治講師はこの数年間その違いについて考えてきたそうです。
そこでわかってきたことは、落とし込みにはノウハウの理解以上に「手順」の理解が重要だということです。
その手順というのは
Step1 単純化
→Step2 標準化
→Step3 仕組み化
→Step4 システム化
多いのが、今回のような方法を学ぶと今やっていることに加えて新しく取り組もうとします。
これが習慣化してしまうと「以前にも同じようなことをした」となり、人はついてこなくなります。ですから、新しく取り組むのではなく、現在の取り組みを単純化させること、絞り込みを行うことで社員さんが理解しやすく判断しやすくなるようにするのが第1です。
次に標準化ですが、これも現在のお客様に関する全ての対応を標準化するということです。
お客様ごと、あるいはその都度その都度やり方が違うということであれば教えきれませんし、なかなか成長もできません。
またものづくりや情報発信についても標準化されたものがなければ、都度都度考えなければならなりません。
仕組み化というのはPDCAサイクルのことで、これは単純化、標準化がされて初めてそのチェックが可能になりサイクルを回すことができるのです。
そしてシステム化は最後に行うものですが、これもよくあるのが、何を見なければいけないのか不明確なままにシステムを導入したために続けられなくなり、挙句にはこんなことをする必要があったのか、ということに陥る会社があります。
ですから、経営改善をしようとする場合は、まずはこの手順をしっかりと念頭において、その手順通りに実施していくことが上手くできる、全社で取り組むことができる条件なのです。
自分らしい経営
最後に佐治講師の過去の苦しかった経験から得られた「自分らしい経営」についてお話されました。
経営とは経営者自身がどうなりたいのかを明確にさえすればドンドン変えていける。
周りと比較して大きくしようとか、立派な会社にしようとかではなく、本当に自分はどんな会社を作りたかったのか、誰のために仕事をするのかを明確にすること。
そう考えていくと、経営とは努力して踏ん張ってやるものではなく、顧客の満足を創造することが楽しくて仕方がない、というものであれば最高でしょう。
これからの時代は経営者、経営幹部こそ自分の幸せのための「自分中心のビジネスモデル」を作ってもらいたい。
「自分中心」とは自己中心とは違います。
「自分中心」とは「自分が活きる」ビジネスモデルを作ってもらいたいのです。
自分が活きることで周りも活きていく、やはり経営者がワクワクして、希望を持って、自信を持って、誇りを持って経営することで、周りはついてきますし、一緒に達成しようと思うのです。
義務役割で、社員のためにと言っても、それでは社員さんから見ても重荷になったり辛くなったりします。
ですから佐治講師はこれから成功のノウハウよりも「生き方」について伝えていきたいということでした。
これからは中小企業ほどドンドン変えていける、経営者が思った通りの経営ができる。
その時にどのように変えるのかが大事ですが、それは自分が最も得意な市場、つまり最もお客様の問題が理解・共感できる市場が最も勝てる市場だということです。
そして、今回教えて頂いたことも聴いて終わらせないで実践すること、その時にはまず経営をシンプルにすること、絞り込むことに取り組んでもらいたいということでした。
佐治講師、今回はとても濃い内容のお話をありがとうございました。
また、ご参加された会員の皆様にも改めて感謝申し上げます。
次回は今年最後の例会です!
大懇親会まで奮ってご参加下さい!