自分とのコミュニケーション

yunoguchi1コーチングで大人気講師である湯ノ口弘二さんにリーダーに求められる「場づくり」について教えて頂きました。

湯ノ口講師はこれまでの長い講師経験の中で様々な経営者の方に会われてきましたが、素晴らしい経営をされている経営者には共通してこの「場づくり」の能力に長けていました。親子、夫婦関係はもちろんのこと、地域の方とも良い関係を築き、何よりも会社の社風が良い。会社内で良い影響を受けているのでお客様に対しても良い関係が築ける。このような会社があるとお客様を通して地域が良くなっていきます。
良い場づくりとは周りに良い影響を与えていくもの、心がオープンで皆が協力し合い、どちらが正しいか間違っているかなどなく、コミュニケーションを取れば取るほど会話が弾んで自分たちの想像を遥かに超えたアイデアが溢れ出し、皆がそこに向かって行動していく。素晴らしいリーダーとはこの「場づくり」ができる人だということです。
この良い場づくりができるリーダーのことを「バリスト」と呼びます。

そして、良い場をつくれる優れたリーダーというのは主体的で積極的です。
その逆というのは受動的で消極的という態度であるわけですが、そうさせている要因は心の中にあり、素直に行動することを妨げるネガティブな感情を「ノイズ」と言います。このノイズは不機嫌な時、あるいは体調が悪い時に「ウザイ」「しんどい」「面倒くさい」といった具合に発生し、行動を妨げ、やるべきことを先送りしてしまいます。
このノイズは変化よりも安定を好むという動物が持つ「自己防衛本能」から来ています。自己保存欲求という根源的な欲求によって、目の前に突きつけられた変化や見慣れないものに対しては自然と心がシャッターをおろして防御しようとし、結果的に思考がノイズ化し体が固まって動けなくなります。このことから、自分対相手というコミュニケーションは大事ですが「自分対自分」のコミュニケーションがより大事になってくるのです。
ノイズの発生を抑えるために「自分のご機嫌は自分で取る」ことが必要だということでした。

湯ノ口講師は「成功には原理原則がある」と言われました。
これまで出会われた方の中で幸せな人生を歩まれている方というのは「良い習慣」を身につけられているということでした。人財開発において最も大事なのは悪い習慣を良い習慣に変えること。その良い習慣というのが「原理原則」だということ、原理原則を理解し自分のものになるように習慣化していくことです。
原理原則を柱にして生きている人はブレません。誰でも迷う時がありますが、このような人はその原点に帰ります。良い時もあれば悪い時もありますから、柱が無い人はブレてしまう。原理原則を手にしている人は調子が悪い時でもブレずにそこに戻ってこれるのです。
この原理原則を身に付けるためにも誤魔化すことができない「自分対自分」のコミュニケーションがとても重要だということでした。

健全なコミュニケーションの質と量が業績向上を支える

ここで有名な海外の町中でオーケストラが演奏するフラッシュモブの動画を観ながら場がつくられていく過程を解説してくださいました。
場づくりに欠かせないのはリーダーと心を合わせるフォロワーの存在。リーダーとフォロワーが同じリズムで演奏、動くことで調和が生まれ、さらに人をひきつけより多くのフォロワーを呼びます。調和の取れたリズミカルな活動は観ている人を魅了し多くの人、お客様を集めます。
これを会社経営で考えると、リーダーが創業の思いや理念というリズムを本にした取り組みを始め、そこに賛同するフォロワーが集まって調和の取れたリズミカルな活動となっていくことが大事だということがわかります。そこで重要になってくるのが、リーダーはもちろんですがフォロワー一人ひとりが意思を持って主体的に参加していくことであり、一人ひとりが自分のパートのリーダーとして活動することではじめてチームとしての素晴らしい演奏、仕事が生まれ、それに魅了された観客による大合唱が自然と沸き起こるということでした。
動画の演奏のきっかけは一人の少女が一人だけの演奏者にコインを与えたこと、つまり最初はこの一人の少女のために演奏を始めたのに、最後にはその演奏を聴こうと集まった人たちが大合唱を始めました。これは、誰もが幸せになりたい、そのための活動に協力したいと考えているからであり、これこそが本来のコミュニケーションの力だということでした。最初に一つの軸があり、そこに綿菓子のようにどんどんフォロワーが増えて大きくなっていき、最後にはとてつもないパワーが生まれるわけです。会社が大きくなるというのはこのように少しずつ賛同者を増やしていくこと、いきなり大きくすると「作用反作用の法則」で反対勢力が生じて失敗するということでした。

さらに、この健全なコミュニケーションを図るためには先述の「自己防衛本能」による行動が妨げられることに注意しないといけない、つまり自分の持つ「思考の癖」「感情の癖」「行動の癖(口癖)」に気づかなければならないということでした。ある出来事が起こると決まってネガティブに考え負の感情を引き起こしていることに気が付かないといけない。例えば、部下のある行動や態度を見るとすぐに頭にきて怒る、それも必要以上に怒りを爆発させてしまうといったことです。怒ったり叱ったりすることは必要なことですが、必要以上に感情が暴走することでコミュニケーションの健全度が失われてしまうわけです。そうならないためには自分の今の感情は正しいのか疑わなければならない、相手に矢を刺す前に「自分に矢を刺す」ことだと湯ノ口講師は教えて下さいました。
また、ハーバード大学から出された研究結果でも「人は自分の幸せとは関係のないことに時間を費やしている」というものがあり、つまりこれが「行動の癖(口癖)」のことだということでした。先程の例だと、必要以上の怒りから必要以上に説教してしまう、この行動やその時間は自分の人生の貴重な時間を無駄にし、結果として「時間がない」というのが口癖になっている。この一連の「思考の癖」「感情の癖」「行動の癖(口癖)」に気が付かなければいけない、これがコーチングやそれによる「場づくり」を学んでいく上での根本であり「原理原則」であることを押さえておくよう湯ノ口講師から教えてもらいました。
自分対自分のコミュニケーションで自分で自分の機嫌を取って調子を整えることでリズムを生み出し、周りに良い影響を与えて調和を作っていくことが「場づくり」なのだということでした。

良い場がイノベーションを起こす

yunoguchi3現代はとてつもない速さで変化し続けており、それによって価値観も大きく変化しています。
中国で全人口の3割にあたる4億人もの人が使用している電子マネーサービス「アリペイ」を筆頭にこの電子マネーはこれまでの「お金」に対する価値観を大きく変えようとしています。経済の中心にある貨幣がバーチャルであること、つまり国が滅んでもその国の通貨がバーチャルな世界に残っていればその国の経済は生きている事を意味し、「お金」の意味を私たちに問い質し始めていると湯ノ口講師は言います。
さらに、グーグルが発売した同時音声通訳イヤホンに触れ、この商品、技術によってもはや言語の壁はなくなり、翻訳などの仕事がなくなっていくことだけでなく、多言語を学ぶ必要性や学習時間も省かれていく可能性を示唆しているということを教えて下さいました。

このような変化の激しい現代において企業は危機感を抱き、生き残るために求められているのが「イノベーション(革新)」です。ここで湯ノ口講師が紹介されたのはハーバード・ビジネススクールのリンダ・ヒル教授です。教授はこの企業のイノベーションに対してこのように提唱しています。
「イノベーションを起こし続ける組織とは、一人のカリスマに頼るのではなく、メンバーの力を結集できる組織だ。イノベーションとは一人の天才だけでなく、”集合天才”によるものなのである。」
こうも言っています。

「例えば、ベンチャー企業の成長がとまってしまう理由の一つが、一人のビジョナリーリーダーに頼りすぎてしまうことです。次の革新的なビジネスモデル、製品、サービスを開発するのは、当然リーダーの役割だと思い、社員は努力を怠ってしまう。そうすると、イノベーションを起こす能力が、一人のリーダーの視点やビジョンに限定されてしまい、成長もとまってしまうのです。」

「イノベーションを起こしつづける組織には、社員が、お互いに協力しあい、アイデアを組み合わせながら意思決定をしていくという社風があります。組織には、ディスカバリー・ドリブン・ラーニングやデザイン・シンキング(筆者注:デザイン思考=ロジカルシンキングとは対極にある顧客主義に基づく思考法)が浸透しています。イノベーションに失敗はつきものですが、社員がたとえ出だしのところでつまずいても、紆余曲折しても、それを許容する文化があるのが特徴です。」

つまり、社長やリーダーだけが新しいアイデアを生み出す役割を担うのではなく、全社を一つの「チーム」として、先述のオーケストラのように各自が自発的積極的に自分の役割を果たすことでハーモニーが生まれ、新しいアイデアやこれまでにない結果を生み出すことができる。だからこそ、社風や会社内における「場づくり」こそがイノベーションを起こし得るものであり、そこに時間とパワーをかけていかなければならないということでした。

イノベーションを高める3つの組織能力

yunoguchi4このことを踏まえて湯ノ口講師から「イノベーションを高める3つの組織能力」について教えてもらいました。

1.創造的摩擦:議論を通じてアイデアを生み出す能力
社長一人で頑張れる時代ではないので、全社員が心を開いて本音で議論していくことで初めてアイデアが生み出されていく。

2.創造的解決:対立するアイデアを組み合わせて、統合的な決定をする能力
相手の意見を排除するのではなく、反対意見を取り入れながら自分の考えの枠を広げる。

3.創造的敏速さ:追求と熟考と修正を通じて、迅速にテストや試験的な試みを行う能力
全員で決めたら、後は全員で全力で取り組むこと

このアイデアを生み出すために全員で取り組むことを「コミュニケーション型チーム学習」ということでした。

これらを実践する上でリーダーに求められる「コーチング型コミュニケーションの重要な5つのスキル」を教えてもらいました。

1.傾聴力(現実直面力):話は最後まで聴く
聞く(hear)・・・自然に耳に入ってくる。BGM
訊く(ask)・・・こちらが知りたいことを質問する。
聴く(listen)・・・熱心に関心を持って耳を傾け、タイムリーに反応している状態。
◯傾聴行動のポイント
①相槌を打つ(ハー、へー、ホー)
②共感的理解(一緒に考えよう)
③積極的傾聴法
1)キーワード・キーセンテンスの繰り返しをタイムリーに行う(一言)
相手が伝えたいところに気づいて取り上げることで会話が盛り上がる
2)相手のメッセージを要約し確認する
熱心に関心を持って聴いていることが相手に伝わる
「要するに、貴方の言いたいことは〜ですね」
「こういう理解で宜しいですか?」

2.質問力(視点変化力):色々な角度から質問することで「思考の枠」を外す
質問力とは健全度を高める視点マネジメントであり、意味や価値、つまり「誰のために」「何のために」やっているのか、「あり方」を高めるために行う。
「視点」とは物事を見る時のレンズ、「視野」とは物事を見る時の思考の幅、「視座」とは物事を見る時の位置のこと。これらは心にノイズが発生することで重箱の隅をつつくような、あるいは凝り固まった狭い範囲でしか物事を捉えられず、そして低い位置から主観的にしか見ようとしなくなったりします。視座は高く、視野を広く、視点を柔らかく捉えることができるように自分と周囲をコントロールしないといけないということでした。

3.承認力(価値発見力):単に褒めるのではなく「価値」を認めて高めること
4.提案力(未来創造力):相手に提案することで新たな未来を創っていく
5.自己を律する力(自己対決力):良い場をつくるためにはまず「自分で自分の機嫌を取れ」

活気あふれる健全な職場づくり

yunoguchi5社会・コミュニティとは互いが役立つ場(相互作用)であるべきものですから、個人主義に陥ること無く互いに良い影響を与えることで良い反応を返すという良い「場」にしていかなければなりません。
コーチングとはこの周りに良い影響を与えることができる人になるためのもので、コミュニケーション・会話を通して自分を見つめ直す「内省的考察」を促し、それによる自分の「癖」を知る「活動的考察」から行動を変えていくように促します。このように自分は「何のために」「誰のために」という軸を明確にさせることによって変化していくことを「内発的動機づけ」と言います。コーチングによってこの人の本質を変えていくトレーニングを施した後に、「原理原則」に基づいた良い習慣を身につけることで性格を変えるのではなく「意識」を変えていくことだと湯ノ口講師は教えて下さいました。

湯ノ口講師、ありがとうございました。
また、ご参加された皆さまにも改めて感謝申し上げます。

 

さて、次回は11月17日(金)に行われる11月例会です。

 

次回も奮ってご参加ください!