今回は「人様の喜びにお役立ちできる企業へ」というテーマでホッピービバレッジ株式会社の代表取締役社長 石渡美奈さんに講演していただきました。

バトンを繋ぐ責任

石渡講師はホッピービバレッジ株式会社の3代目として2010年に父親である先代からバトンを受け取りました。
2010年に創業100年を迎え、そのタイミングで社長となった石渡講師ですが、その直前に同じ赤坂に本社がある企業で大先輩にあたる虎屋の当時の社長から事業承継にあたってこんなお話を聞きました。
石渡講師からの「400年、500年、600年はどうお考えですか」という問いに対して虎屋の社長は、
「100年後、僕は絶対に生きていられないから100年後のことを無責任には書かれないし、100年先のことはわからない。だから、100年先の虎屋は僕は語れない。
社是に従って、今目の前の1分1秒を一生懸命やりそれが正しければ、それが積み重なっていって、振り返ったら虎屋の500年、600年という歴史が刻まれてると思う」

当時ちょうど100周年を迎えるタイミングであり、石渡講師には多くのマスコミや講演の場で100年を経て次の100年をどう思うか、という問い合わせが寄せられました。
石渡講師も100年先のことなんかわからない、と思いつつ、尋ねられたら答えなければいけないと考え適当に答えていました。
そのような時に、それではいけないというように答えてくださったのが虎屋の当時の社長でした。
それ以来、石渡講師は100年後のホッピービバレッジについて語ることは封印しました。

事業承継の究極のテーマは永続性。
来年で祖父である石渡秀さんが創業して120年を迎えるホッピービバレッジも、100年の間には色々なことがありました。
関東大震災、戦争、そういった患難を乗り越えて石渡講師のところまで 伝わってきたバトンを、自分の代で火を消す訳にはいかない。
今後4代目、5代目とバトンが繋がっていくように、その思いを常に最も大切なものとして持っておくべきという自負があると石渡講師は言います。
その永続性を支える概念が「継承」と「革新」、変わらないものと変わるもの。
何が変わらないもので何を変えていくべきかということを、1分、1秒で変わるこの複雑な社会の中で常に意識しながら取捨選択をしていかなければいけない。

そこでしっかりと理解しておかなければいけないのが「承継」と「継承」の違いだと石渡講師は言います。
これは石渡講師が副社長をしながら通った早稲田大学修士課程(WBS)時代にゼミで研究発表したことであり、その恩師である寺本義也先生からその違いを尋ねられました。
色々調べてみたけれども意味は同じとあったので、石渡講師は何が違うのかを教えてもらいました。
「石渡さん、あなたは来年お父様の後を継がれますが、それはあなたの副社長時代の頑張りを見て、お父様が継がせてもいいかなとお決めになったから。
お父様、社長が決めたことを社員の方が受け入れた。
社員だけじゃない、ビジネスパートナー様であって仕入れ先様であったり、お取引先様、お客様が受け入れて、あなたは来年3代目の社長の椅子に座れるけれども、社長の椅子に座ったからといって、その人は社長になれるわけではない」とばっさり言われました。

先生が伝えたかったのは、その事業を「承継させていただく」立場として継承の心ではダメだ、 「継ぐ」が先に来たらダメだということ。
「慎んで承らせていただいて継がせていただく」という謙虚さがなければ事業承継は絶対うまくいかないということを教えてもらいました。
継承ではなく承継だと教えてもらった時、100年先について適当なことは言わないと虎屋の社長に教えもらった時と同じぐらい顔から火が出る思いがしたと石渡講師は振り返ります。
以来、全体の文脈の中で継承という言葉を使う時はあっても、基本の心は「承継」、承らせていただいて継がせていただいているという気持ちであるということでした。
これは永続性、次に渡すものであり、今この時お預かりしている、自分がこの時代はお預かりしてるものであって私物ではなく、このバトンは次に必ず渡していくものだという思いで日々を過ごしていると石渡講師は言います。

人財育成と企業文化

石渡講師は社長になる前、経営や社長とは何かを学ぶために外部に教えを乞いました。
その時に学んだことは、「中小企業の社長が良い会社を作りたかったら、社長が社員教育の手を抜いてはいけない」ということでした。
これはスキルの問題ではなく、心の問題でした。
中小企業にとっては、社員1人1人がもう人財、宝であり、子供が生まれた時から親が一つ一つ躾けることで、「ありがとう」や「ごめんなさい」という心を身につけさせるのと同じようにしないといけない。
なぜなら、その躾はそれぞれの家庭、親御さんによってやり方や考え方が異なるからであり、いわば生まれたばかりの新卒の社員をその会社の社長が親の気持ちになって一から手ほどきをし、一から躾けていくべきである。
そうすることで、いつの日か社長の思いを具現化してくれる「同志」に育っていく。
新卒採用をしても育てられないと言って尻込みをする中小企業が少なくないが、人材1人1人の大きさや重さが何千、何百人もいる大企業とは桁違いであることを理解すれば、中小企業の社長こそ人財育成に力を入れなければいけない。
中小企業の社長は新卒採用をして0から育てることで、それが良い企業文化の創生、造成に繋がっていくということを石渡講師は教わりました。

また、先述のWBSに入学するきっかけとなった、寺本義也先生の講演では
「経営には時代、国と地域、業種、業態、企業規模を超えた原理原則がある。
その原理原則を愚直なまでにやり続けられるかどうか、これが企業の永続性にかかってる」
ということを聴き、その原理原則を学ぶためにWBSで学ぶことにしました。
さらに、3代目を継がせていただく直前には、業務用酒屋の社長からはこんな花向けの言葉をもらいました。
「結局企業というのは戦略や戦術ではないし、商品力じゃない。ホッピーがロングセラーの理由は商品の人柄がいいからだ。僕はあなたのおじいさんは知らないけれど、そもそも創業者の人柄が良くなければ人柄の良い企業文化なんか生まれないから、おじいさんがまず人柄が素晴らしかったんだろう。
あなたのお父さんはよく知ってるけれども、本当に人柄のいい方だ。やはり人柄のいいトップがマネジメントしてる会社は当然類は友を呼ぶ、なので社員の人柄も良い。その人柄の良い人たちから生まれる製品は人柄が良いはずだから、ホッピーが ロングセラーなんだ」
「もしドラ」の後からは、とにかく会社には戦略、戦術だが必須だと言われ、それがない会社は会社にあらず、ぐらいの空気の中でもらった言葉でした。
「あなたが3代目を継いだ後やっていくべきことはただ1つで、おじいさんやお父さんが育ったこの人柄の良い企業文を作っていくこと、つまりあなた自身が自身の人柄を磨き続けるわけだ」

人の心に棲む

日本における飲料・酒類業界は、大手ビールメーカー4社の中に中小メーカーが存在し、日々様々な脅威に晒されながら必死に存続を図っていると石渡講師は言います。
類似製品をどんどん出される中、会社の永続性を担保するには真似されないものを作っていくしかないと考えるのですが、技術や製品は真似をされてしまうので「絶対真似されないもの」を作る必要がある。
オンリーワンを目指した独自価値の提供をどうすればいいのか、社長になる直前あたりはこのことばかり考えていたと言います。
先述の通り色々な人と話をする中でたどり着いた結論は、「真似されないものは企業文化」、人が作る企業文化だということでした。
同じ中小企業の経営者の知り合いでも皆似たような企業文化を持ち、企業方針、マネジメント方針を持っていますが、全く同じという企業は1人もいない。
社長筆頭に、我々社員が作っていく企業文化こそ真似されないものであり、それを作れる社員を育てていくことだということでした。

このことから石渡講師が社長として力を入れるのは社員教育以外にないと考え社内に言い始めたところ、特に工場で働く社員から「自分たちは物作りのために入社したので、社員教育と言われても困る」などと強く反発されました。
現場からのそんな反発を受けて悩んでいた時、石渡講師はある偉大な経営者の言葉を目にしました。
それはホンダの創業者である本田宗一郎です。
「人の心に棲むことによって、人もこう思うだろう、そうすればこういうものをつくれば喜んでくれるだろうし、売れるだろうと言うことが出てくる。それを作るために技術が要る。すべて人間が優先している」
お客様はどのような製品が欲しいのか、お客様の心に、澄んだ気持ちになって頭が痛くなるくらい考え、きっとこういうバイクだろう、こういう車だろうと思いついたら、それを形にするためにはどうすればいいかを考え、そこで初めて技術が出てきてる。
つまり、技術ファーストのエンジニアはエンジニアではなく、やはり「人間が優先」であるということを本田宗一郎の言葉は教えてくれました。
以来、私たちは人の心に棲む、お客様の心に棲む、ビジネスパートナー様の心に棲む、 お互いの同僚の心に棲む、その人の心に棲めるような「ホッピーピープル」になっていこうと決めました。
石渡講師は社員のことをホッピーピープルと呼び、関わる人たちに「ホッピーファミリー」という概念を提供し伝えていくことにしました。
「我々は人の心に棲めるホッピーピープルを常日頃目指しています」として、3代目としての主戦略を新卒採用と人財教育に重きを置いていこうと決め、新卒採用に挑戦することにしました。

2019年に父親である先代が亡くなられていますが、新卒採用を始めることを先代に言った時に「できるのか?」と言われたこと今でも覚えていると石渡講師は言います。
先代は高度経済成長を作った世代で、当時は作れば売れる時代ではあったのですが、中小企業に就職したいという若者はいなかったため、まさに「猫でもいいから採用したい」ぐらい人手不足だったと先代から聞かされていました。
先代にとっては、新卒採用をしたところで自社で働きたいと思ってくれる、未来の可能性しかない若い新卒の方が来てくれるなんて夢のまた夢だと考えていました。
結果として2007年から1期生が入社してくれました。
目を輝かした若者がたくさん来てくれて、先代は晩年そういった「ホッピーが好きだ」と言ってくれる若い社員たちに囲まれて幸せそうだったということです。

そして、先代は2010年3月6日に社長を代わり、代表権を持った会長として石渡講師に伴奏することになりましたが、ホッピービバレッジの事業よりも、赤坂氷川神社に眠る山車の復活など、生まれ育った赤坂の町を元気にするということに軸足置きました。
でも、そういった町と会社の歴史など大切なことを若い社員たちに伝えてくれていたということを、石渡講師は先代が亡くなった後に知りました。
石渡講師も知らないようなことを社員が知っていたりすることから、若い社員たちに置き土産のようにいろいろなことを伝えていくことを喜んでくれていたのではないかと言います。

心と心の約束

人様に喜ばれる企業になるために、「人の心に棲む」ことを何よりも大事にできるホッピーピープルを目指せる、そういう人材が育つ会社を作ることをテーマに掲げて17年間取り組んできた石渡講師ですが、 ホッピービバレッジの人財教育の肝は「心磨き」と言います。
これは、自分を知る、他人を知ることで心を磨いていくということ。
石渡講師は2014年から16年にかけて慶応のシステムのデザインマネジメント研究科に在籍し、 システムエンジニアリングをベースにしたゼミの中で「幸福学」を学びました。
人の手がほとんど入っていない原生林、昼間活動する分には危険がないその森林の中で、「内省と対話が自己観と他者観を上げ、それが幸福度を上げる」という研究をしていました。
内省つまり自分と向き合うこと、そしてそれを信頼できる仲間うちで、ここで話したことは絶対に外に漏らさないという確実な約束がある、その安心感のある場所で対話をする。
そこに情報開示の法則というのがあり、人が開示してくれると「そんなに話してくれるのであれば自分も」というまた開示がしやすくなる、そういう場で正しく導いてもらえると、内省と対話が毎晩繰り返されて自分をより深く知ることができる。
さらに、対話によって他者をより知ることができ、そのことが幸福度を上がるということが証明されているということです。

社員が働きがい、生きがいを見つけてくれて、この会社に入って本当に良かったと思ってもらいたい。
そんな社員を見る家族が、自分の子が、奥さんが、夫が、お母さんが、お父さんが、ホッピービバレッジの社員で良かった。
さらにお子さんが、私も僕もホッピーの社員になりたいと思ってもらいたいというのが石渡講師の欲望だということですが、そのためにも社員の幸福度がいかに上がるかということが一番大切だと考えています。
この慶應での研究を経て石渡講師は、自分を知る、他人を知るという「心磨き」という人財教育の肝は間違っていないことを確信しました。

さらに、もう一つ学術的に証明されているものに、「一流になるための1万時間という時間と10年間という期間」があります。
これは、1万時間におよぶ厳しい練習を積むと、誰しも自分の才能を発揮できるというもの。
音楽家でもスポーツ選手でもおよそ5歳、6歳ぐらいから始めて、音楽家だと15歳、16歳で例えばピアノであれば「ショパンコンクール」といった世界で名だたるコンクールで入賞する、優勝し、音楽家としての道が開けていくというような事例が多々あります。
これらの事例からも「一流になるための10年間」というのは実証されてると言えます。
(『天才! 成功する人々の法則』マルコム・グラッドウェル著)

ホッピービバレッジにはその10年間という時間軸にさらにもう1つ、石渡講師と社員の約束事で「 心と心の約束」というのがあります。
石渡講師が新卒採用を始めて数年経った頃、一方的な企業の内定取り消しが大きな社会問題になりました。
大きな理由もないのに企業の都合で勝手に内定を取り消される、という理不尽なもので、石渡講師は憤りを感じていました。
一度内定を取り消されると、その時には採用活動がほとんど終わっていることから、いくら新卒であっても第二新卒で入るしかない。
新卒と第二新卒では価値が全く変わってしまう。
生まれたての輝く新卒時代にしか持ち得ない宝を、大人の都合によってみすみす潰すようなことであり、その人の人生を潰すのと同じだと石渡講師は強い言葉で非難しました。
石渡講師は新卒採用で4月に入社してくる前の2月、3月に必ずその親御さんに挨拶に行くことにしています。
地元まで挨拶に行くと、確かに喜んでもらえますが、理由はそれだけではありません。
石渡講師は早稲田で研究してる時、自分が社長を継いだ後どうやってこの会社を伸ばしていくかということを研究していましたが、やはり人財育成というのが1つの肝でした。
その時に教えてもらったことは、「原因は今にない」ということでした。
その人が生まれ育った環境、どういう町でどういう家に住み、どういう家族なのか。
どういう親で、どういう学校で、どういう先生で、どういうお友達がいたか。

今の時代は心の問題というのは社員教育に絶対欠かせません。
何かが起こった時、なぜこの子にこれが今来たかということを考える時、今起こっていることだけではなく、どういう環境で育ってきたのかということその文脈、その子の20数年の人生の文脈から、なぜ今ここに起こってるのかということをいくつも考えることができます。
また、入社前に親御さんに会っているので、いざという時はコンタクトも取れて、 例えば1人暮らしをしている女性社員に何かあった時、しばらくは様子を見ていよいよと思う時にはもう会っているということです。
そこで初めてではないので家族とも連絡取れるので、 ケースバイケースですが家族と会社と本人の三角形がチームを組んで社員の成長に挑むことができる。
「心を育てる」ということを人財教育の肝にしているホッピービバレッジとしては、親御さんに会うということは必要不可欠であると石渡講師は言います。
親御さんに直接会って、息子さん、お嬢さんを預からせてください、大切にお育てしますというまるでプロポーズのような約束をしているということです。

同時に、社員1人1人とも会社都合の内定切りなどということは絶対しないと約束します。
我が社にどうぞと一度手を差し出したなら、社長から手を離すことは絶対しない。
ただ、この手を出すまで、つまり採用プロセスが長いと石渡講師は言います。
それは、一度手を出したら社員とその家族に至るまでが石渡講師のホッピーファミリーだという覚悟をするため、もし何か事件があって自分の命と引き換えにということだったらば喜んでいける、それくらいの覚悟をするためだということ。
そのために何度も対話した上で手を出す。
手を出すまでは長いが、一旦手を出したら絶対手を離すことはしない。
その代わり何があっても10年間は歯を食いしばって頑張れば、10年の間になんとかプロにするからという約束。

石渡講師はある女性の新卒入社の話をしてくれました。
彼女に合格の電話をし、合格通知書、いわゆる一般的に内定通知書というのを渡すために会社に来てもらうことにしました。
その時彼女は「入社宣誓書」を持ってきてくれました。
大抵は合格通知書を渡してから考える期間があり、その後に入社宣誓書が出てくるのですが、彼女はその日に持ってきて、合格通知書と交換になった。
握手をする時彼女は少し考えるように間を取りました。
社長を前にしてここで考えるのかと思ったら握手した。
聞くと、実は握手では足りないから腕を掴もうと思いました、と言う。
でも、いきなり腕を掴んだらびっくりすると思って握手しましたと言われました。
そうやって入社した彼女の成長を日々見ている中で本当にありがたいと思うのは、節目節目の意識の変化をお互いに共有していると、何かあった時帰るところができるということだと石渡講師は言います。
社会人になってからこんなはずじゃなかった、といういろいろな壁にたくさんぶつかる。
成長意欲が高ければ高いほど、壁が手ごわくやってくる。
でもその時自分に誓った、あの時腕を掴みたいと思ってまで誓ったあの時の自分を信じて頑張ってみようというその戻る場所、自分の原点思い出す場所。
いろいろなことをやってもなかなか社員から評価がもらえない社長だけど、この心と心の約束を交わすシーンは喜んでもらって、どこか支えになってるようなので、導入してよかったと石渡講師は言います。

共に育つ

これまで人財育成においては「教え育てる」を使っていましたが、実際は「共に育つ」。
社長の成長と共に社員の成長があり、社長と社員の成長とともに会社の成長があり、会社の成長とともにお客様の成長、そして会社とお客様の成長と共に地域の成長がある、というマトリックスの構図、だから基本的には「共に育つ」だということです。
社長のエネルギーが全社に流れているので、社長の成長が止まったら社員の成長が立ちどころに止まる。
だからこそ、社長は石にかじりついてでも全ての面で成長をを求め続けなければいけないと考えているので、学ぶのをやめないのだと石渡講師は言います。

ただ、基本は「共に育つ」ですが、PE(内定者)時代から4年目までの計5年は「教え育てる」だということです。
この5年間は基礎教育期間であり、この間は決定的な「しつけの時間」として育てる期間だと捉えています。
ホッピービバレッジではなぜ「PE」と言うのか、それは先述の会社都合の内定切りがきっかけです。
「内定」という合格か不合格かわからない、曖昧な言葉を使うから簡単に切れてしまうと石渡講師は考えました。
つまり「内定」は会社の都合、内々に定めてる、内々に定めてるから内々の事情で切ってもいいとなってしまっていると考えました。
以来ホッピービバレッジでは「内定者」という言葉を使わず、PE=プロスペクティブエンプロイ「未来の可能性ある社員」としました。
まだ学生ですが来年入社予定の存在としてくる時はもう「未来の社員」であり、研修中トレーニングでお客様のとこに行くと「来年入ってくるホッピーの社員さんだよね」という言われ、学生であっても社員として見られるため、PEという言葉を使っています。

学生と社会人の違いは何か。
学生は「学生気分」という言葉で語られ、社会人は「社会人意識」という言葉で語られる。
学生意識や社会人気分という言葉はない。
石渡講師は今でも学生と社会人の2足わらじ履いてるので、学校に行く時は「気分」であるということが実感としてわかると言います。
授業があってもお客様と会う予定があれば、その日は学校に行かないと決めている。
平日の授業はその後仕事なので、仕事を意識した格好で行くけれども、そうでなければ自由に自分の着たいものを着て学校に行く。
社会人として、ホッピーの3代目として、その日によって、会う人のことを考えて洋服も選び、持ち物も選ぶ。
たとえ社長であっても、気分で約束をキャンセルすることは当然できない。
社会人というのは意識で存在してるもの、学生は気分で存在しているというのが非常に分かりやすい学生と社会人の違いだということです。
そうなると、社会人として置かれた場所で自分の使命を果たす、責任を果たしてもらうには「学生気分」を撤廃して「社会人意識」を1日も早く身につけてもらうことが必要だと石渡講師は考えました。
でも、生まれてから大学卒業までなら20年間ずっとその「気分」で生きてきたわけですから、それをいきなり今日明日に撤廃しろと言っても無理な話です。
だから、入社前PEからの最初の5年をかけてじっくり「気分」を撤廃して「意識」を持たせる。
この時にホッピービバレッジで行われるのが「手取り足取り1001本ノック」です。
本当にバットで叩いて教えるわけではありませんが、時にはバットで叩くかのように厳しく教える時もあると言います。
じっくり向き合って対話をすることもあるれば、一緒に歩く時もあるし、一緒に走る時もあるる、ノックの形はケースバイケースです。
ありとあらゆるやり方をその場その場で、その時の文脈において選んで「手取り足取り」教え込むということです。
さらにこの中に「現行犯逮捕」という物騒な言葉で呼ばれる指導法があります。
これは「言うべきことは必ずその場で言う」ということ。
昨日あーだったと言われても、昨日のことは覚えていないし指導に何の効き目もない。
ただ、自分を含めて社員たちも人の子なので、その場で耳の痛いこというのはやっぱり気が重たいし嫌われたくないので言いにくい。
でも、自分たちは成長したくてこの会社を選んだ、ここだったら成長できると思って。
これはホッピービバレッジでは入社を決めた理由の1番に掲げらられているのです。
石渡講師もそれを社員に約束した以上は「後から」ということはしない、つまり成長の目を摘むようなことはしないと言います。

ただ、1000本ノックの1000というのはあくまで目安・手段であり、目的は社会人としての言動、行動に変わることなので、ホッピービバレッジでは言動、行動が変わって初めて理解したとするスケールを持っているということです。
「わかりました」とは言いますが、言われたことができていない、つまり言動、行動が変わっていないことが多く、やはりそれは学校で学ぶ時はそうであることが多い。
石渡講師も大学に行った時には今でも教授に対して「わかりました」と言いながらやっていないことがたくさんあると言います。
先行研究を探している時、面白い資料が出てきて「こんなにいい資料があるんだ」と思って感動していたら、実は先生に去年1年間ずっと言われ続けていたものでした。
このことから、やはり言動が変わらないとわかったうちには入らない。
1000本はコップに例えると、コップの表面に水がひたひたに入ってこぼれない状態。
つまりこれは言動が変わってないということ。
そこから1滴垂らして、もう1滴垂らして、水がわずかでもこの状態からこぼれた時、これがわかった、わかり始めた瞬間だとしています。
もしかしたら、1000から1001になるまでにさらに1000本必要かもしれない。
だから、リーダーは1000本で止めるのではなく、本人が気づいて言動、行動が変わる1001まで伝え続けなければいけないということでした。

5年目以降は競争と共創の共創の時代、共育の時代に入り、ここからは守破離になっていくという「10年構想」で社員教育に行っていると石渡講師は言います。
このように石渡講師は人財教育を主戦略にしていますが、社員が同じであることが1日もないとも言います。
今日元気で見送っても、明日具合悪くなっていたり、今日のさよならが一生涯のさよなならになってしまったことも。
社会のことを何も知らない、生まれたての新卒の社員たちが入ってきてくれて、死に物狂いで自分の課題と向き合いながら一歩一歩、0.1ミリずつの成長を遂げてそれを積み重ねていき、ある瞬間「ふわっ」と伸びる時、目が開く時がある。
大人になる時、社会人の会話ができるようになる時、目の輝きが変わり「働き甲斐」というのがわかったなと思える瞬間、これが石渡講師にとって至極の幸せであり、人財教育はやめられないと言います。
飽きっぽい性格の自分が飽きることなく、だからこそ途中で匙を投げることなく今があるのは若い社員たちのおかげだと石渡講師は言います。

未来の地球のために

コロナ禍、東京はさながら禁酒法のようになり、ホッピーが売れないという事態に陥りました。
でも、石渡講師はこの状況に対してそれほど恐怖することはなかったと言います。
それは、自分たちだけが被っているわけではなく、とにかく社員が元気であること、さらにホッピーは唯一無二の製品であることに変わりないからです。
ホッピーは特殊免許の元で作られているため、調布にある工場1箇所だけで製造が許されています。
エリアが限られているのですが、それだけに調布の工場が元気であれば、コロナが収まった後にまた一生懸命頑張ればいいだけだと考えていました。

ただ、それ以上に怖かったのが「価値観の変化」。
全世界で共通の経験するのは戦争でもないことであり、それが3年と長期にわたった地球史上初めての出来事なので価値観は必ず変わる。
価値観が変わった時、その価値観についていけなかったら我々は存続は許されないだろうと石渡講師は考えました。
経営者としても、会社としても存続を許されないだろうが、ではそれは何なのか。
それをこのコロナ騒動が落ち着くまでに見つけておかないと、その後が無いだろうというのが一番の焦りだったと石渡講師は言います。
結果的に3年間たっぷり時間があったので、その間に色々なものを読み、色々な方と話をすることができました。
そして石渡講師が考えたのが、「これからは地球のためだろう」ということでした。

そして、2022年2月26日土曜日10時13分に「ホッピーアースプロジェクト」が開始されました。
その第1弾の活動として、地球温暖化防止に関する情報や知識、それを個人や家庭で簡単にできる取り組みとして紹介しています。
その中で、自社の取り組みを46項目紹介し、現在ウェブ版は英語、スペイン語、中国語など4か国語に訳して展開しています。
実はそれよりも前、2019年に岡山県犬島に古民家バー「犬島ホッピーバー」を作っているのですが、これもやはり地球温暖化に関係がありました。
この犬島のすぐ近くにある香川県の豊島(てしま)では、30年前に日本最大、最悪の産業違法投棄事件「豊島事件」が発生し、犬島でも同じような違法投棄の事件がありました。
この事件のことを知ったことが、地球の環境を守っていく、真に幸せのコミュニティを作っていくということに舵が向いていくきっかけだった石渡講師は言います。

多くの人がSDGsのバッチをつけ始め、地球温暖化の問題が言われ出した時、地球環境問題とは何かということを体系的に学びたいと考えた石渡講師は昨年から、立教、早稲田に続く3つ目の大学院、上智大学の地球環境研究科で学ぶことにしました。
研究テーマは、循環型社会と地球温暖化防止のためにガラスビンが果たせる役割、ガラスビンが絶対役に立つということを学術的に証明していきたいと考えました。
ホッピービバレッジの製品は9割がガラスビン、リターナブルボトル製品です。
リターナブルボトルというのはリユースされるボトルで、店舗向けのくり返し使えるリターナブル瓶(リユース瓶)が7割、家庭向けの使いきりワンウェイ瓶(リサイクル瓶)が約3割です。
ところが、日本ではこの ガラス瓶が絶滅危惧種扱いだと石渡講師は言います。
ガラス瓶をリユースするシステムも絶滅危惧状態になっており、これは恐らく世界で日本だけではないかと石渡講師は言います。
実際やってはいるが簡便な方に走り、結局言ってることとやってることがチグハグになっているようだと言います。
これはペットボトルやアルミを批判するものではなく、ケースバイケースで容器を選んでいこうということであり、そして心身ともに健康で地球の状態も安定したものに持っていけるようなことを1人1人でやっていこう、ということを伝えていきたいということです。

そして最後に石渡講師は言いました。
未来永劫にわたる安全、安泰な地球の承継を目指し、ホッピービバレッジグループとして地球環境問題に挑み、改善に尽くし続ける環境に優しい循環型社会、脱温暖化社会の実現を目指し、ホッピーの製造、販売を通じてガラスビン復権に貢献し続けることを今後取り組んでいき、微力ながら、この地球が本当に未来永劫安全安泰に、私たちの子孫たるまでこの地球で豊かで本当に真に豊かな人生を送れるように、これから私があの世においでというまで頑張ろうと思います。

石渡美奈講師、貴重なお話をありがとうございました。
参加いただいた皆様にも改めて感謝申し上げます。