神聖な場所に入るためのスイッチ
松下政経塾の入口には楠木がたくさん植えられています。
葉がたくさん落ちるので掃除しないと落ち葉が山積みになります。
金子講師は卒業後スタッフとして松下政経塾に入られた時、メンテナンスに費用がかかると考え手入れをする職人さんに確認したところ、わざわざ楠木を植えているのには意味があると思うと言われました。
楠木を植えている場所は他にどこがあるかというと、お寺とか神社だと言われました。
松下政経塾は神社と同じ植生であることを知った金子講師は、松下電器の本社とPHP本社にも行ってみました。
どちらにも楠木が植えられていました。
この事実を知った金子講師は、松下幸之助翁は自分のいるところ、仕事をするところは神社仏閣以上の聖なる場所であるということを、その場所に入る時に意識できるスイッチとして楠木を植えていたのではないかと考えました。
また、世界中で一番掃除機を作った松下幸之助翁なのに松下政経塾に掃除機を置かなかったのは、神社仏閣でも掃除機を使っているところはなく、箒を使って「掃き清める」ことと同じだと金子講師は言います。
これは、経営理念が大事だということを環境の中でも教えようとされていたのではないかということです。
お寺や神社と同じ、聖なるところで聖なる仕事をしてるんだということを、そこに入る時にスイッチが押されるように環境整備されたのではないかと金子講師は言います。
世界に先んじて提唱
松下幸之助翁は、企業というのはプライベートカンパニーだと言われてる時代に「企業は社会のためにある」ということを一番最初に宣言をされます。
つまり松下幸之助翁は経営理念をつくったと同時に、電気器具の製造メーカーから「幸せを作っている会社」に変えたということです。
このことは、1960年代にセヨドラレビットというハーバードの教授が「ドメイン」ということを提唱していますが、これは「会社の定義を変えていく」というもので、物が売れなくなったのは景気のせいではなく「考え方」に原因があるということです。
自分の会社をどう定義付けるかによって、成長の度合いが変わってくるということですが、これが提唱されたのが1960年代。
松下幸之助翁はこのことを20年以上も前の1937年に提唱されたということです。
松下幸之助翁が作った組織には松下電器(現パナソニック)、PHP研究所そして松下政経塾がありますが、そのすべての経営理念に入っているのが「物心一如での人類の繁栄」です。
つまりこれが松下幸之助翁が生涯追いかけたことだということです。
企業の社会的責任、ESG投資、環境、社会、ガバナンスなどが今でこそ言われていますが、経営理念にはそれを明示してあるということを松下幸之助翁は1933年にはすでに出していたいうことです。
天地自然の理を究める
「理想的な経営はどうすればできるのですか」と塾生が聞いたところ、「雨が降ったら傘さすようなこと」と答えられました。
塾訓に「事の本質を究め」とありますが、実はこの文章になる前は「天地自然の理を究める」となっていました。
つまり「事の本質」とは「天地自然の理」のことであるということ。
「雨が降ったら傘さすようなこと」とはまさに「天地自然の理を究める」ということです。
松下幸之助翁は同じ質問に対して別の答え方もされています。
「どうにかして2階に登ろうとする者だけが橋を作ることができるんや」
2階とは経営理念のことであり、2階すなわち経営理念に「従業員よりも社長である自分が熱心に熱意持ってやったから応援者が増えたんや」。
番頭さんも出来たし従業員もみんなついてきたんや、と答えられました。
経営者は経営理念を作ったなら、それを誰よりも欲しがることができれば必ず事業は成功する、それが「経営理念に魂を入れる」ということです。
みんな松下幸之助翁にノウハウを聞こうとするのですが、ノウハウではなくて「経営理念に魂を込めろ」と言い、従業員よりも経営者の方が経営理念の実現化に熱心、熱意を持つことができれば、これだけで成功すると答えられました。
宇宙根源の見えない力は成功するようにさせてもらっているのにうまくいかないのは素直さが足りない、感謝が足りないともおっしゃいました。
繰り返し語られた3つの言葉
塾是は会社なら社是ですが、これは我が社、我が組織はどんな社会を作ろうとしてるのかが書かれています。
塾訓は会社なら社訓ですが、ではそのために我が社、我が組織は「どんな人を作らないといけないか」の言葉が入ってきます。
五誓は現場の方針です。
経営者の仕事は経営理念を作ることだとおっしゃって、それは人作りの言葉に集約されていますが、そこには何度も出てくる言葉が3つあると金子講師は言います。
素直とは「なお良し」で受け入れる
ひとつが「素直」です。
これは辞書にある一般的な意味の素直ではなく、大きなくくりで5つの意味があります。
・物事の実相をあるがままに見る心
・とらわれない心
・自然随順で融通無碍
・全てを受け入れて、全て活かす
・どんな人にも良いところを見つけ出すことができる、あるいはやることを見つけることができる
これらの特性を持った人はリーダーになりやすいということでした。
塾生が松下幸之助翁に聞いた有名な質問と回答があります。
信長、秀吉、家康の鳴かないホトトギスを用いた人物像を持ち出し、ご自身はどのタイプなのかを聞いたという話です。
多くの人が大阪で非常に苦労をして成功したことから秀吉ではないかと思っていましたが、その答えは意外なものでした。
「殺してしまえ」「鳴かせてみせよう」「鳴くまで待とう」の3つではなく4つ目だとし、それは「それもなお良し」だと答えられました。
鳴かないホトトギスとは状況が悪い、短所あるいは欠点のことを指しているわけですが、松下幸之助翁は「それも受け入れたら良い」という言い方をされたということです。
「世の中は鳴かないホトトギスばっかりやで。欠陥だらけの組織やで。良いと思ってもな、欠陥だらけなんや。その結果、気がついたら100個ある。1個でも直せばあんたの手柄や」
物の見方、考え方は全てこの「なお良し」で受け入れるということであり、「素直」というのをこの「なお良し」という言葉での生活習慣に置き換えると非常によくわかります。