衆知を集めるために経営者を育てる
何度も出てくる言葉3つ目は「衆知を集める」です。
衆知を集めるということについて、金子講師は松下幸之助翁のエピソードを教えてくれました。
松下政経塾の施設の中にお茶室があり、日本文化の研修として茶道を学ぶためにあるのですが、松下幸之助翁が来られた時はこのお茶室に宿泊されました。
その際は施設スタッフがお世話係をしていましたが、松下幸之助翁からそれを塾生に変えるよう指示がありました。
その理由は、まだ何もわからない若い人が自分のような年寄りをもてなしてくれるのが一番の勉強になるから、というものでした。
お世話係を塾生に変更して松下幸之助翁が何をされたかというと、新聞を持ってこさせて「目が悪いから新聞読んでくれへんか」と言って新聞3紙から記事を読ませました。
その上で何をするかというと、「あんたはこの記事に対してどう思うんや」と言って塾生の意見を聞く。
これは松下政経塾だけだったのかと思った金子講師は、松下電器とPHPなど関係先の方に聞いてみたところ、すべてでそれをやっていたというでした。
町工場の関係者でもこれをやっていたということです。
スタッフがなぜこんなことをされるのかをたずねたところ、身近な人に新聞の大事な記事を読ませて、自分がここの責任者だったらどうするかという意見を聞くことが一番の人材育成方法だとおっしゃった。
普通であれば22、3歳の社員に対しては、俺の言うこと聞けという社長が多いと思いますが、松下幸之助翁は違った。
社長やトップが、あなたが社長だったらどうするのかということを22、3歳の新入社員にも聞いている。
ただ、松下幸之助翁はこのことに対して次のようにもおっしゃった。
「実は苦行や。自分の方がね、いろんな経験値もあって、知り合いもあってね、いろんな経験してるから良い手は打てる。いい考えできる。22、3歳の若さで生きても稚拙なことがある。だけど、稚拙だからバカモンってやったら人は育たん」
「社長何しましょうとメモを持ってくる人よりも、社長こうしましょうって提案してくれる人作るんだな。社員の言うことを聞くのが一番、社員の話を素直な心で聞いてあげて、受け入れて承認して褒める。受け入れて承認して褒めるしか社員は育たんのや。しかもそれをわしがやってきたからタダや」
経営理念を浸透させて何をしようしているのか、それは経営者を育てようとしてるわけです。
そのためには経営者としての目線、自分がトップだったらどうするのか、ということを考えさせ、常にトップが次のトップを作っていく。
経営理念を浸透させながら人材育成していく、これが一番のトップの仕事だというのが松下幸之助翁の言葉でした。
素直の原点はどんな時、どんな人、どんなものでも良いところを見つけていく、そして全てを受け入れる体制が「なお良し」ということ。
心を開いて、素直な心で衆知を集めてきた、そのことを若者に伝えたかったんだろうと金子講師は言います。
その原点は経営理念、松下幸之助翁は経営理念と言わずに「志」とも言い、自分は志を持って250年かけて世界から貧乏をなくすという、プライベートカンパニーではない「理念の共同体」を作った。
聖なる場所で聖なる仕事をし、自分たちの仕事は寺社仏閣に負けないほど幸せを作っている会社なんだよ、という昭和7年5月5日に宣明したものを現代に合わせた形でどのように塾生や今の人たちにお伝えしていくのか、この「志の伝承」をどのようにするのかが今問われてると金子講師は言います。
金子一也講師、山中伸一様、貴重なお話ありがとうございました。
ご参加いただいた皆様にも改めて感謝申し上げます。