今回はこれまで何度もコーチング、人財育成についてお話をしてくださったコミュニケーションエナジー株式会社の会長 湯ノ口弘二さんにお越しいただき、近年重視されている1on1について教えてもらいました。
相手の人を知る
湯ノ口講師はまだ母親のお腹の中にいた時に父親を交通事故で亡くされています。
父親の名前は「孔一」であったことから、長男である湯ノ口講師に「弘二」とつけられました。自分の名を見るたびに亡くなった父親のことを思って名付け、必死の思いで育ててくれたことを思い出すということでした。
このような一人一人の名前の由来を知ることは関係を深める上でとても重要だということです。
普段社員さんを呼ぶ時、苗字で呼ぶことがほとんどです。
でも、本人にとっては名前こそが自分のアイデンティティ表していると考えており、そこにそれぞれの由来があるからです。
このように業績を上げるための即効性のあるチャネルが身近にいくつもあると湯ノ口講師は言います。
1on1とは、「上司と部下が定期的にマンツーマンでミーティングを行い、部下の成長を促すマネジメント手法のこと」ですが、1on1によるコミュニケーションを取ることで離職率が下がる、各店舗のモチベーションが上がる、といったことが起こります。
湯ノ口講師がコンサルティングの依頼を受けるのは社員さんが300人以上もいるような大きな会社ですが、そのような大人数の会社のコミュニケーションは劣化していると言います。それに加えてZ世代との意識のギャップに苦しむ人がたくさんいます。
こういった会社でコミュニケーションの質を上げると業績が上がっていくということです。
相手の人を知るということは非常に重要で、これからの経営において重要とされる「共感」がそこから生まれると湯ノ口講師は言います。
会社にとって大切な理念に共感されるためには、自社がいかに社会に貢献しているのか、役立っているのかという魅力を寝ても覚めても伝えていくのが経営者・経営幹部の仕事です。
「人間にとって最も愚かなことは途中で目的を見失うこと」だと湯ノ口講師は言います。
社員さんと共に商品を作っていくというのなら、立派な理念を作っても額に入れて飾ってあるだけでは何の意味もありません。
経営者が「こういう事業がしたい」「こう言うふうに世の中を変えたい」と思いを熱く語るからこそ、その思いに共感した人が入社してくれます。
そしてその思いを毎日浴びるように聞いた経営者幹部や社員さんが、同じように関わる人に思いを熱く語ることでその共感の輪が広がり、業績も上がっていくということです。
コミュニケーションは企業文化
今をときめく大手IT企業では、しっかりしたエビデンスを元にプレゼンテーションすれば、入社3年目の社員でも1億円の予算を取ることができると言います。
その上、その大きなプロジェクトのメンバーを社内で公募やヘッドハンティングで決めていくのですから、会社の推進力は凄まじく大きく早い。
つまり、こういった会社ではすべての社員さんが熱い思いを語っているということです。
新入社員の中にはついていけないといって1日で辞めていく人がいるそうですが、会社側も「お互いが不幸になるから」といって引き止めることはないとのこと。
これが現在の勢いのある会社のカルチャーであると湯ノ口講師は言います。
こういった会社では経営理念とは言わず「ミッション・ビジョン・バリュー」と言い、社員さんだけでなく顧客にも理解し共感してもらえるような言葉で表しています。
会社説明会などでも同様の違いがあります。
これまでは多くの企業が自社のPR動画を費用をかけて作成し、学生に向けて自社の良さをアピールしていました。
しかしその動画を見る学生は、インスタグラムやTikTokのように非常に短い動画を短時間で費用をかけずに作成し、驚くほどのフォロワーを獲得する、という世代です。
会社のことが伝わるどころか、違和感だけを与えてしまい呆れられていると言います。
つまり、これほどのギャップがあることを認めた上で、彼らに伝わる手段を用いなければならないということです。
必要なのは、一方的に自社のアピールや説明するのではなく、その場でワークを通して自社のコミュニケーションを体験してもらうことだと湯ノ口講師は言います。
動画などの媒体を通すのではなく、自分の言葉で語る、実体験で語ることが重要です。
例えばアルバイトさんやお客様に来てもらって、語ってもらうことで自社のことが伝わるということです。
社長が気に入った動画を作って見せるというのは、自社が学生からどのように見られているのかがわかっていないからだと言います。
製造業で平均年齢が55歳以上という会社には、いくら高い技術を持っているといっても学生は入ろうとしません。
なぜなら、あと10年もすればみんな退職していなくなってしまうことがわかっているからです。
このような事態を回避し、今の時代に合った企業文化を創り出すためにも社内のコミュニケーションの質を向上させなければならないということです。
コミュニケーションから才能を引き出す
生成AIが登場して以来ネット空間にはフェイク、いわゆる偽情報があふれ、その見極めが日に日に困難になっています。
そのような中で求められているのはライブ、つまり直接的な関係性やコミュニケーションだと湯ノ口講師は言います。
先ほどの会社説明会のように多くの企業で「動画の方が伝わるだろう」と考えていますが、デジタルネイティブのうちやはりZ世代においてはもはや動画ではないと言います。
自分たちでも動画を作る彼らはそれが「作られたもの」であることがわかっており、会社の一般的な情報は伝わっても、会社の雰囲気や価値観までは伝わらない。
だからこそ、動画である程度のことを伝えた上でお客様など関わる人の生の声を聞かせる、ワークで直接コミュニケーションをはかることが必要なのだということです。
このことから、相手のことを深く知り、知ることで先にこちらが相手に共感することができる1on1コミュニケーションが求められているということです。
名前の由来を知って「そういう意味があるのか、良いね」という、この事実の確認こそが「承認」であり、彼らはこの承認を求めているわけです。
自分のことを認めて、共感してくれたからモチベーションが上がり、こちらに対しても共感してくれるのです。
1対1のコミュニケーションで深く、実像で、実体験で、血の通った、社員とか上司とかではなく、一人の人間として関わっていく、共感し合っていく。
そういう関係性があるからこそ、社員さんはこの会社で頑張ってみようと思うのです。
会社の業績を上げる、生産性を上げる、離職率を下げる、そして未来に新しい希望を持つのであれば、本来私たちが持っている才能に光を当て、才能を引き出して、社会やお客様や周りに役立つ「強み」に変える。
いくら自分には才能があると言っていても、それが周りの役に立っていなければ、それは井の中の蛙に過ぎない。
だからこそ、1on1を通して社員さんのこと、部下のことをよく見て、よく知って、その人の悪いところばかり見るのではなく、注意することも大事だけども、叱ることも大事だけども、その上でその人の良いところ、その人の才能とは何か、ということに意識を向けて引き出していく。
これが1on1の人財教育なのだと湯ノ口講師は言います。
経営者が1on1に向き合って、社員さんや部下の才能を見極めることができるようにトレーニングしてもらいたいということでした。
DNAの進化と才能の表出
では、強みや才能とは何なのでしょうか。
『感性論哲学』の吉村思風先生によると、才能とはDNAだと言います。
「生命は絶え間なく進化している。DNAはより優秀なDNAを生み出している」
夫婦から半分ずつDNAがその子供に引き継がれ、さらにその子のDNAが孫へ引き継がれていく。
つまり、生命とは次の時代を創り出していくように進化しているということ。
このことに気づいた湯ノ口講師は、新しい人、新しい時代のため早々に社長を息子さんと交代しました。
そしてDNAとは潜在能力で才能につながるものであると思風先生は述べています。
このことから以下のような時に才能は顕在化するということです。
1.興味・関心があるもの、楽しくワクワクするもの
2.やってみて、人より少しでも上手くやれるもの(これが自分の仕事になる)
3.仕事を持てば行き詰まる時がくる。
この時にこそDNAにスイッチが入り、次のステージに上がる。
仕事で行き詰まった時こそ次のステージに上がるチャンスであるので、自分で興味を持って入った会社であるならば、少なくとも10年続ける必要があると湯ノ口講師は言います。
限界を感じてもそれを乗り越えていくことが必要であり、これを限界目標と言います。
1on1でそれぞれのこの限界目標を立ててあげることが大事だということです。
不得意なものを治すことも必要ですが、それよりも自分の強み、才能を知って、それを出し切る、生かし切ること。
しかし、それを生かし切ることで必ず壁に当たるのが道理、使われたエネルギーは失われていくという物理学の「エントロピー増大の法則」という宇宙の大原則が働いているためです。
そこで必要になってくるのが、1対1で話ができる「心理的安全性の場」です。
社員さんが壁に当たって会社を辞めようか、あるいは未来が見えず行き詰まっている、仕事だけでなく家庭環境もうまくいっていないなど、そんな辛い時にこそ自分の限界点に達しています。
その時に支えてくれる上司や仲間、先輩がいるかどうかで違ってきます。
DNAはそれぞれを定義する基本的な情報、外見や健康、それに能力や適性を持っているわけですから、それぞれの独自の才能や長所を表現する根底的な要因です。
その引き継がれた基本情報であるDNAが新しい時代や、新しい世代のDNAとぶつかり合うことでDNAは進化してくと湯ノ口講師は言います。
この時重要になってくるのがアクナレッジメント、相手の存在を認める働きかけだということです。
これまでは相手を指導する場において「ほめる」か「叱る」のいずれかで行い、「ほめる」方が良いとされてきました。
しかし、「ほめる」というのは「ほめる」側に主体があり、相手は「ほめられる」という受け身の立場になってしまいます。
またこの場合、ほめられた側は自分の成果や行動に対して評価してもらっただけなので、成長につながりません。
これに対して「承認」とは相手が行った事実の確認をすることなので、事実を認めてもらうことによる自信と次の成長課題を意識することができます。
相互主観から生まれる新しい価値
相互主観とは、個の主観を超えて互いの主観をぶつけ合って、新たな価値を生み出すこと。
どこまでいってもわたし達は自分で見て聞いて感じるもので意味づけ、価値づけします。
人や物の好き嫌いは自分の体感を通して価値づけをしているので、どこまでいっても「思い込み」「先入観」「偏見」という個人のバイアス、枠組みが存在し、その「主観」で物事を見ています。
その主観の枠を超えるようにコミュニケーション取ることが1on1であり、そこに新しい発見や新しい価値が生まれてくると湯ノ口講師は言います。
人は共感すると、なぜ利他行動をとるのか。
これは進化の過程で、利他主義が生まれる集団は、より多くの成果をあげることができるので繁栄し、利他主義の希薄な集団は淘汰されてきました。
これが進化の法則であるとすれば、経営における共感の重要性も説得力を持つということ。
だからこそ、常日頃から会社の良いところ、素晴らしいところ、社員さんのできているところ、頑張っているところ、事実の確認をすることが大事だということです。
コミュニケーションが大事だと言いながら、忙しいからコミュニケーション取れないという人がいますが、忙しいからこそコミュニケーションを取る、1on1で承認することでクレームやミスが少なくなり、業績が上がってくるということです。
わたし達はどこまでいっても主観ですから、心を開いてコミュニケーションを取ることによって、お互いがお互いのことを理解することができるようになり人間性が上がっていく。
人間性が上がった状態、視座が上がった状態でさらに相互主観を立ち上げていくので、さらに自分の枠を超えた会社ならではの強みを、お客様や世の中の人に言葉に体重を乗せて伝えることができるようになります。
このコミュニケーションを企業文化にしていくことだと湯ノ口講師は言います。
朝礼から挨拶、言葉遣いなど丁寧にコミュニケーションを取る文化を作ること。
否定的な言葉を使わないだとか、「でも」「しかし」といったコミュニケーションを遮る接続詞を「なので」「その上で」に変える。
話を前に進めていくためにはネガティブな表現は使わずポジティブな表現を使うことであり、それを繰り返し行うことで全員の思考が前向きなものになっていきます。
「やり方」に走ると関係性は終わる、と湯ノ口講師は言います。
「あり方」があって「やり方」があって、それを両輪で回していくことが大事。
特に一般社員さんはまず「やり方」があって、それが上手くできるようになったら「あり方」を説明してあげると腑に落ちるということです。
経営者・経営幹部はマクロ的に物事を捉えないといけないので、それをキャッチした上でどういう「あり方」で企業経営を作っていくのかを概念化し、それを仕組み化して社員さんに落としていくのです。
コミュニケーションには型があります。
まずは出来事を丁寧に聞くことから始まります。
質問を重ねて出来事を深く掘り下げ、承認を入れ労いの言葉を伝えた上で、これからどうしていくのか目指す方向や到達点を引き出す。
目標やゴールを出してもらう上で重要なのが数値化することです。
人は誰でも自分の中の様々な状態を自分独自の「ものさし」を持ち、見る角度が違いますから、まずは社員さんが自分をどのように捉えているのかを数字で表してあげることです。
ゴールを10とした時に自分は今どのレベルなのかを確認します。
その時例え高い数値を指しても否定せず、自己評価の根拠、何ができて何ができていないからその数値であるという事実を確認する(承認)こと。
業績が上がらない要因の一つが、自己評価が低く「できていないから今ここ」で止まって先へ進めなくなっている社員さんが多いということがあります。
このような社員さんに対しては、現在レベルの数字を確認した上で、そこから1つレベルを上げるには何が必要か、何ができるかを確認することで社員さんの中のレベルが積み上がっていきます。
これを毎月行っていくと、社員さんはどんどん前に進むようになり成長していき、業績が向上していくと言うことです。
湯ノ口弘二講師、貴重なお話と楽しいワークをありがとうございました。
参加いただいた皆様にも改めて感謝申し上げます。