今回の例会講師を務めて頂くのは、ベストセラー「日本でいちばん大切にしたい会社」の著者であり、法政大学大学院の教授である坂本光司先生です。
坂本先生は「人を大切にする経営学会」の会長を務められていて、毎年「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞というかたちで表彰をされています。
坂本先生は講義冒頭に、良い会社というのは社員さんを大切にしているのは当たり前であり、社員さん、顧客、地域住民など会社に関わる人達が「自分は大切にされている」という認識がある、実感しているというほうが大切である、ということをおっしゃいました。
そして、坂本先生のその学会での表彰には厳しい応募資格があり、これが今回のお話の結論にもなるということでした。
その応募資格とは次の5つです。
1.人員整理を目的とした解雇や退職勧奨をしていないこと
(東日本大震災等の自然災害の場合を除く)
2.外注企業・協力企業等、仕入先企業へのコストダウンを強制していないこと
3.障がい者雇用率は法定雇用率以上であること
(常勤雇用50人以下の企業で障がい者を雇用していない場合は、障がい者就労施設等からの物品やサービスの購入等、雇用に準ずる取り組みがあること)
4.黒字経営(経常利益)であること(一過性の赤字を除く)
5.重大な労働災害がないこと
(東日本大震災等の自然災害の場合を除く)
これはあくまで応募資格であり、審査基準ではありません。
つまりこの5つに該当しなければ応募することすらできません。
これまでも有名な大手企業から応募があった時に、その会社はリストラをしていたのですが、これは1つ目の資格に当てはまらないものなので、門前払いされたということでした。
今の時期はこちら(第6回大賞)に応募してきた企業の審査をしていて、各企業の調査をしているとのことでした。その中のある会社のことを例にしてお話をして頂きましたが、とても厳しいお話でした。
愛知県にあるその会社は自己資本比率が80%の無借金経営をしており、安定的に利益を5%出しているという、言わば「不沈艦」高収益企業であり、とても優良な企業です。
しかし坂本先生はその会社の社長さんから平均年齢が39歳であること、さらに平均年収が350万ということを聞き一言「低すぎる」と伝えられたそうです。
高収益であるならばもっと社員さんに分配しなければならない、今の経営は誰かの犠牲の上に成り立っているものだと指摘されました。
さらにその会社では決算書を一部の幹部社員にしか公開しておらず、社員さんが自分たちの給料やボーナスがなぜその額なのかがわからない状態にあることを指摘されました。
その社長さんはその指摘に対して、公開をしても社員さんは見方がわからないから、と言うと、では見方を教えれば良い、決算書の見方はそれほど難しいものではないし、会社の現状がわかれば社員さんはちゃんと現在の給料やボーナスが多いか少ないかを理解・納得してくれるのだと指摘されました。
続けて坂本先生は応募資格の一番目にあげられているリストラについての意見を述べられました。「企業経営の目的は社員さんを幸せにすることであり、業績は神様がくれたご褒美である。業績を目的とした会社で安定的に業績の高い会社は歴史上存在しない。なぜなら、業績は結果論だからである。業績は正しい会社にのみ与えられた神様のご褒美であり、言い換えれば現象であり手段でしかなく、目的にするのは間違っている。」
また、2つ目の応募資格は下請け企業に対するコストダウンを強制していないことですが、ここについても調査した別の会社のことを例にしてお話して頂きました。
その会社に仕入先への支払いのことを尋ねたところ、金額の大小に関わらず現金であることを聞き、それは正しいことをしていると伝えられました。
しかし、締め後の支払いについて尋ねたところ、「月末締めの翌々月5日払い」ということだったので、それは「締め後30日、納品後60日での支払い」が法律で定められているから違反であることを伝えられました。
その会社はそのことを単に知らなかったので、すぐに経理に変更させることにし、指摘をされた坂本先生に対し「このことがわかっただけでも有り難い」と感謝されたそうです。
坂本先生はこの表彰や活動の目的は世直しだとおっしゃいました。
「大切にしたい会社」とは社員さんや関わる人を幸せにすることを真の目的として実際に経営している会社であり、社員さんや関わる人が幸せを感じている会社です。
業績を志向し、目的として経営している会社が増え、それによって苦しむ人が増えてしまった社会を、正しく経営している会社を大切にしていく、広く知らせていくことで、変えていきたいと考えて取り組みをされています。
「大切にしたい会社」とは具体的にどのような会社なのかを教えて頂きました。
①業績や勝ち負けではなく、人をトコトン大切にしている会社
②社員や関係者が自分たちはトコトン大切にされていると実感している会社
大切にすべき人というのは具体的に
①社員とその家族
②仕入先の社員とその家族
③現在顧客と未来顧客
④地域住民、とりわけ障がい者等社会的弱者
⑤出資者・関係者
さらに、その「大切にしているか否かの指標」として見るべき点は、わかりやすいものを教えて頂きました。
(1)社員とその家族
①社員満足度調査
②社員との面談
③人員整理
④サービス残業
⑤長時間労働
⑥有給休暇の取得率
⑦社員間の過度な競争
⑧経営の透明性
⑨社員からの取締役
⑩離職率
⑪育児休暇取得後の復帰率
⑫正社員比率
⑬社員への教育
⑭年収
⑮社員数の維持・増加
⑯社員や家族のメモリアルデイへの配慮
⑰本人や家族の出生や病気等への配慮
⑱社員の親族の勤務
⑲メンタルヘルス不調者
⑳その他
この中で坂本先生が強調されたのが、「大切にしたい会社」②の通り働いている社員さんや関係者の方が「実感」しているということでした。
社員さんは弱い立場であり、嫌だと感じていても中々それを口にだすことはできません。
ですから、それを確認したいのであれば必ず自分が社員さんの立場に立って考える、あるいは調べなければならないということでした。
社員満足度調査も当然無記名で行うべきであり、また「サービス残業」にしても、例えば朝礼のために決められた就業時間より前に出勤させているのであれば、それは必ずサービス残業として残業代を出してあげなければならないということでした。
なぜなら会社の取り組み、決まり事として朝礼をやっている以上、あくまで社員さんの立場になって考えれば、社員さんはそれに従わざるを得ないということがわかるからだと教えて頂きました。
同様に「長時間労働」についても、週50時間を超えるところについては「残業時間の長い会社で安定的に業績が高い会社は歴史上存在しない、社員さんを幸せにする責任はあっても社員さんを殺してはいけない」と冗談ぽく伝えるとのことでしたが、経営者にとってはとても厳しい意見を述べられていました。
さらに、坂本先生が表彰されている会社はほとんどが残業時間が月10時間以下で、多くは月5時間で、月20日の場合だと一日30分以下であることを述べられ、お話されていることが単なる理想ではないということを伝えられました。
また、基本の賃金が低いために残業をしなければならないような環境や残業が評価の対象になっていないか、定時で帰る人よりも残業をしてくれる人の方が昇級昇格しやすいような環境にありながら、残業は社員さんの意思であるかのような働き方であってはならないと指摘されました。
続けて⑦の「社員間の過度な競争」について述べられ、社員さんの間に業績によって差をつけることの誤りを指摘されました。
坂本先生曰く、社員さんの間に業績による差をつけようとするのは、経営者が社員さんを「業績軸」で捉えているからであり「幸福軸」で考えていないからやってしまうことだというご指摘でした。
特にこれは社員さんの家族のことまで考えていないから、業績だけでしか考えていないからやってしまうことだということでした。例えば家族の世話をしなければならなくなったという社員さんがいて、これまでのように働けなくなったから給料を落とす、などということをすることが社員さんの幸せになるのか、ということを問いかけられました。
さらに、⑭の「年収」のところで、ある会社から現在営業利益が安定的に30%あるが、目標にしている会社は50%なのでそこまでにすべきかという相談を受けられたということです。
30%でも十分優秀なので、その目標にしている会社の社員さんの年収はいくらなのかと聞くと、1200万円だという。これは正しく社員さんにも分配をしているわけなので、一面では正しいことではあるが、それなら営業利益を上げることを考えるのではなく、売価を下げるなどして社会に還元すべきだと答えられたそうです。
社員さんの犠牲の上に会社が成り立つようなことはしてはいけない、業績は正しく社員さんに分配されるべきですが、それができているのであればさらに関係のある社会へ還元することが正しい経営だと教えて頂きました。
また、同時に1年間の人件費の5年分の内部留保をしておくべきだとも教えて頂きました。
坂本先生がこの中でも一番強調されたのが⑱の「社員の親族の勤務」でした。
社員さんが一番幸せを願うのは自分の家族であり、自分の子どもや孫に幸せになって欲しいと願うのが普通です。もし自分の今の仕事が、会社が厳しくて辛いものであるとするなら、その会社に入社を勧めるでしょうか。実際に親子三代にわたって働いてる社員さんがいる会社があることを教えて下さいました。
それだけでなく、若くして癌で亡くなった社員さんで、会社の制服を棺に入れ、火葬場へ向かう時に通い慣れた出勤路を通って欲しい、と遺言でお願いをされた方もいたということでした。
「社員の親族の勤務」というのは単に家族で一緒に働いているということではなく、社員さんがその会社で働くことで幸せになれることを実感しているからこそ、幸せを願う家族にも入社させている、という冒頭の「大切にしたい会社」そのものを表しているということでした。
以上は「社員とその家族」についての指標のお話でしたが、それ以外の仕入先さんや地域住民に対しての指標についても説明を頂きました。
対象は違いますが、その指標の本質は同じで、対象に対して「業績軸」つまり利害関係で捉えるのではなく、あくまで「幸福軸」で考え大切にしているか、そして対象が家族のように「大切にされている」と実感できるレベルのことができているか、ということをお聴きしました。
後半は坂本先生の著書「日本でいちばん大切にしたい会社5」の中で紹介された会社についてお話をお聴きしました。いずれの会社も確かに社員さんを、仕入先さんを、社会的弱者に対して「トコトン大切にしている」会社であり、お聞きした指標以上のことを実践されている会社でした。
詳しくは坂本先生の著書「日本でいちばん大切にしたい会社」(あさ出版)を是非お読み下さい。
今回のお話を詳しくお聴きになりたい方は以下へご連絡ください。
今回の講義の模様を撮影したビデオをお送りします(東京経営研究会 会員限定)。
新年1回目の例会でしたが、大変身の引き締まる、とても良い例会でした。
坂本光司先生、ありがとうございました。
また、ご参加頂いた会員の皆様にも感謝申し上げます。
本例会のビデオ(動画データ)をご希望の方は下記よりご連絡下さい(会員限定)。
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次回2月例会は
日 付:2月17日(水)
時 間:18:30~20:35(受付18:00)
場 所:バイタリティ・セミナールーム
是非ご参加下さい!