◆医療サービスは究極のサービス

kameda1今回の講師は、千葉県鴨川市を中心に医療サービスを展開している「亀田総合病院」の院長である亀田信介氏です。

亀田総合病院グループは医療施設だけでなく、社会福祉施設、学校、そして施設の中で必要とされてくる食堂や理美容関連の事業を行うために亀田産業という会社があり、亀田講師は会社の代表取締役でもあります。

亀田講師は2014年11月号の「理念と経営」の中で「医療サービスは究極のサービス」と紹介されていましたが、それはなぜなのでしょうか?
講演の前半は、亀田講師から医療サービスについてその本質と亀田総合病院の方針についてお話いただきました。

まず医療サービスの役割とは「人々の健康をサポートすることにより、人生の質の向上に貢献する事を目的とした社会基盤としてのサービスである」ということです。では、健康とはどういうものなのでしょうか?

WHOでは「肉体の健康」「心の健康」「社会的な健康」「魂の健康(宗教、死生観)」の4つの健康を併せ持ったものが「真の健康」と定義され、亀田総合病院ではこの「4つの健康」を常に念頭に置き、これが満たされるために事業を行っています。

医療サービスの価値とは「肉体の健康」をメインにしながらも、その他の3つの健康に対する各患者さんが持つ「見えない係数(満足度)」をバランスよく高め、その総和をいかに高めるかというところにあるということです。
ただし、この係数は目に見えない上に、人によって男女や年齢、社会的な立場や宗教と、それによって価値観が異なるので係数が一人一人違うわけです。
そこで大事になってくるのが、いかに患者さんとコミュニケーションを取り、それぞれの持つ係数を測ることで「価値の高い」サービスの提供が可能になるということです。

医療サービスがなぜ「究極のサービス」と言われるのか、それは医療サービスが「サービスの特性」というものを網羅的かつ非常に深く持っているからだと亀田講師は言います。


【医療サービスの特性】

・商品は患者様との協働により創られる

・知識や情報の偏在が大きい

・相互の信頼関係がサービス提供の基盤である

・患者様の社会的背景が多様であり、それに伴ってニーズや価値観が大きく異る

・基本的には、診療を拒否することは許されない(ターゲットは絞れない)

・結果が生命にかかわり、且つ不確実である

kameda2病気や怪我を治すには医師と患者様とその家族が一緒になって理解をして取り組まなければ治りません。なおかつ、診療を拒否することはもちろん、治療に差別することはできません。つまりあらゆる社会的背景の方を対象にし、満足のいくサービスを「フレキシブル」に提供しなければなりません。

ですから、この「価値の高い」サービスを提供するには、従事するスタッフの高いスキルとフレキシビリティにかかっているわけであり、「究極のサービス業」と言われる所以なのです。

さらに、医療はサービスを受けて気に入らなかった場合その費用の支払いを拒否されることもあります(亀田講師のところでも年間1億円ほどある)。

加えて結果が「死」につながることがあります。ミスではなくても事故というのは必ず起こりますから、それに対応できるようになっていないといけません。事故というのは「知識や情報の偏在」が大きいからこそ起きるのであり、だからこそ患者様とのコミュニケーションが最も重要で、一緒に取り組んでいくことが実は最大のリスクマネジメントであるわけです。

亀田講師のところでは早くから患者様の「情報の共有」というものに力を入れ、1999年ごろには患者様のカルテが共有、患者様自体が自分のカルテを高いセキュリティーの下に見ることができるようにしました。

サービスの二重円

サービスには「コアサービス」と「フリンジサービス(提供方法などで本体の価値を高めて満足以上の感動を提供する手段)」があります。

医療サービスにおいてもフリンジの部分で差別化を図ろうとすることは簡単ですが、フリンジはしっかりとしたコアが確立していることで成り立つものです。

高級ホテル並みのアメニティを持った病院であっても、患者様が皆亡くなってしまう、というところには何の価値もありません。

ですから、どんな事業であっても「これがコアサービスだ」としたことについては絶対に妥協せず、向上心をもって進化し続けさせるという意識が必要です。同じフリンジサービスをやっていても、コアサービスがしっかりしてくれば余計に光ってくるのです。逆にコアサービスがしっかりしていなければ、どんなフリンジサービスをやっても意味はありません。

顧客満足から顧客感動へ

1980年代に提唱された4つの価値

・基本価値(不可欠、これがなければクレームにつながる)

・期待価値(あって当然、あればグッド)

・願望価値(あればいいな、あればエクセレント)

・予想外価値(喜び、感動)

kameda4予想外価値というのは1回やってしまえば予想外ではなくなり、それ以降は願望価値や期待価値に下がってしまいますから、いつも予想外価値を提供することは不可能です。

逆に言えば、予想外価値は常に新しいものを創りだすチャレンジをしない限りは絶対にできないということです。

今行っていることに予想外価値はない、絶対的に今まで無かったものを創らなければなりません。そこにはリスクも伴います。

でも、そのチャレンジ精神が無い限り予想外価値はできませんから、亀田講師のところではこれを大事にしています。

鴨川市という地方で会社を守っていくには「ナンバーワン(比較して良い悪い)」よりも「オンリーワン(そこにしかない)」の方がサービスを受ける側がわかりやすくて大事な概念です。このオンリーワンを創りつづけない限り、地方で生き残っていくことは難しい。ですから、亀田講師のところでは、この予想外価値を創り続けるという行動を「風土」としてしているのです。

亀田総合病院の医療サービス基本コンセプト

医療サービスにおける最大のリスクマネジメントである「患者様参加型医療の提供(人間性の尊重、個別性の尊重、知る権利の尊重)」が亀田総合病院の基本コンセプトです。

さらに、病院というのはホテルやリゾートにおける「非日常のニーズ」とは逆で「日常を感じる」ことがニーズです。日常を感じながら日常に戻ろうとすることが医師と患者様が一緒に取り組むモチベーションにもなりますし、実際に病気を治す力にもなるのです。これが二つ目のコンセプトである「Home Like」です。

さらに、医療というのはそれぞれのプロフェッショナルがダイレクトにサービスを行いますから、正に「ES(職員満足)=CS(患者様満足)」なのです。医療というのは瞬間、瞬間が「モーメントオブトルゥース(真実の瞬間)」です。ですから、それぞれの職員がそれを意識してやっていく、これが「究極のサービス業」の所以です。

亀田講師は病院のデザインや建築が大好きで、図面は全部ご自身で引かれる、さらに部材もすべてご自身が調達してくるとのこと。病院で使っている絨毯はアメリカの工場まで行って手配しているほどの凝りようです。

これは「患者様やご家族の参加」におけるサポーター制度(安らぎの環境におけるコア)について考えてのことです。

kameda3病院における「安らぎ」とは何なのか、そのコアとは何なのかを考えた時、真の安らぎとは一番信頼できる愛する人が側にいて不安を聴いてくれる、手を握っていてくれる、これが環境のコアですが、病院はその反対のことをしています。明日手術だからと言って、ご家族を早々に帰らせて患者様に不安で眠れない一夜を過ごさせている。これではサービス提供者として何の価値も与えられていないということなので、このような制度を作りました。

その他にもITを使った電子カルテによる情報の共有サービスや出産後の赤ちゃんを沿革で見守ることができるシステムなど、様々な先進的なサービスを提供しています。

さらに、亀田講師は「病院は地場産業である」とし、それは病院というものが地域のインフラの一部であり、文化であるからだと言います。特に地方における病院というのは、そこで行うサービスが「当り前」のものとして捉えられ、さらに上のサービスを求められます。これは病院にしてみれば大変なことではあるのですが、その要望、ニーズを満たそうと「素直に」努力することで病院は成長し続けることができると亀田講師は言います。

◆病院づくりと街創り

講演の後半は亀田講師の持つ「社会的使命」についてお話して下さいました。

日本の課題は大きく3つ

・長寿高齢化(社会保障費の急増)

・低出生率(生産人口の激減、GDP減少)

・大都市、特に東京圏への一極集中(大都市の混乱、地方の衰退、消滅)

政治的な問題は色々ありますが、日本のこの現実問題の一番の課題は、労働人口が減少し続け、加えて介護のために働けなくなることなどから、日本の経済が成り立たなくなることにあります。人口はドンドン東京に集中するのですが、子育てできる環境にはほど遠いため出生率は伸びません。

また、日本は「やり直しのきかない社会=一方通行型社会」と言われ、高等共育や職能訓練に対する家計負担率が先進国の中で圧倒的に高い(約53%)ため、やり直して資格を取ろうにも生活できなくなってしまうのです。

亀田講師はこの「労働人口の確保」のための取り組みとして、まずはこの「一方通行型社会」から「交差点社会」モデルへ変化させるため、今後必要とされる医療・介護のための人材養成の学校を運営しています。そこでは特に社会人入学者を推進させるために様々な奨学金や生活をサポートする制度を設けています。

kameda5さらに、子育て支援のために「日本一子育てしやすい街造り」を安房鴨川で推進し、フルタイム夫婦共働きでも2人以上の子育てを安心してできるサポートサービス「OURS(複合型子育て支援センター)」を運営しています。この施設はこれまでの「保育にかける」という概念を撤廃し、福祉ではなく「働いてもらうために用意された施設」という目的で作られ、子育て世代に寄り添った施設サービスになっています。

最後に膨らみ続ける東京圏を補完する機能の実現を目指して「南東京市構想」について話され、特に急増する高齢者に対応するために日本版CCRC(Continuing Care Retirement Community)モデルとして、新たな労働力化の取り組みを示されました。これからは年齢による制度を撤廃し、健康であればいつまでも「生きがい」を持って働き続けられる社会を作ろうというものです。ですから同じCCRCでも亀田講師が提唱されるものRはRetirementではなく「Restarting(再スタート)」とされています。

また、国際競争力を高めるために富津に国際空港を作るという計画もあります。東京一極集中で世界的大都市でありながら、国際空港が羽田と成田の2つしか無い上に国際線での使用が全体の4分の1しかないからです(ほとんどが国内線利用)。

亀田講師の計画は、国際競争力のある病院およびインフラを作ることで地域社会に貢献し、将来の日本に貢献することを目的に考えられています。

◆求められている「パラダイムシフト」

講演後の質疑応答の中でも、今後の日本社会の政治的な見解を問われていましたが、それに対しては

「これからは”お上(行政)”が決めてサービスを提供する、などという時代ではありません。生産性の高い行政機関にし、日本人が持つ”互助の精神”を伸ばし活かす制度にしていくべき」

「社会の仕組みを変えるために政治家は必要かもしれませんが、政治家だけが社会を変えられるわけではないし、むしろやれることは少ないし遅い」

kameda6と答えられ、むしろ私たちの意識の変革、「パラダイムシフト」の必要性を聴いている私たちに求められていました。


さらに、一緒に参加されていた会員のお子様(中学生)からの「小児科医を目指しているが、将来子どもが減っていく中での小児科医の将来性と目指すべき方向性を教えてほしい」という質問に対しても真摯に答えられました。

kameda7「子供がさらに大切にされる時代に向けて小児科医を目指すというのは素晴らしいことです。これからの医療は様々な専門家がチームで取り組む”チーム医療”が求められてきます。その上で必要なのはリーダーシップとコミュニケーション能力なので、これから色んな勉強をしなければいけませんが、その中でもたくさんの人と付き合ってコミュニ
ケーションとリーダーシップとは何かを考えなら過ごして下さい。嫌なことや大変なことがあってもリーダーシップにおいて大切なことが2つあって、一つは ”いつも明るいこと” もう一つは ”公平なこと” 。嫌なことを言われても明るく返してあげられなければリーダーとして失格です。これらのことを一緒に勉強していけば必ず良い医者になれるので頑張ってください。」

kameda8最後のの桝本幸典副会長からの謝辞にもありましたが、今回のお話はとてもスケールの大きな話で未来を自分たちでどのように創っていくのか、というものだったので聴いていた全員が恐らくワクワクして聴けましたし、自分たちも高い志を持って未来を関係する人達に向けて語っていく大切さを感じました。

亀田先生、本当に貴重なお話をありがとうございました。

ご参加頂いた会員の皆様にも改めて感謝申し上げます。

次回6月例会は経営戦略委員会

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