morisita今回の講師は厨房機器販売の株式会社テンポスバスターズの創業者で、「ステーキのあさくま」を展開する株式会社あさくまの代表取締役である森下篤史さんです。

ですが、いきなり講演冒頭に
「実はあさくまをクビになりまして現在は無職です」
と驚きのお話がありました。

森下さんのお話によると、あさくまを上場させるにあたって森下さんが社長を辞めることが条件とされ(テンポスバスターズの社長でもなかったが、テレビ番組の紹介から実態を疑われたため)、今年の6月にあさくまの社長を退任したとのことでした。

今回の例会の打ち合わせ段階ではこうなることを予想していなかったので、会場の横断幕や案内チラシにはあさくまの社長となっていますが、「そういうわけで今はただの人ですが、お付き合い下さい」と事実とは言え、冒頭から参加者を釘付けにするお話から始まりました。

テンポスバスターズは創業から5年で上場をしたのですが、森下さんいわく「創業した今から15年前当時は上場しやすかったし、リサイクルという仕事が時代の流れにあったものだったから」ということです。

10年前には月商350万円ほどのインターネットの会社を引き継がれますが、5年ほどで月商2000万円にまで引き上げます。

でも、森下さんはインターネットのことはほとんどよくわからないままで社長を引き受け、そこまでにしたと言います。

ホームページもカタログも同じで、ただ作っただけでは会社も顧客もどうなるわけでもないし、ましてやインターネットについては扱い方がわからない人が多い。

だから、森下さんはわからない人が多いというものを専門家が専門家の観点で作っても駄目で、自分のような素人でもわかるものを素人の目線で作るということだけを大事にして取り組まれました。

その結果、5年で月商350万円だったところが月商2000万円にまでなりました。

ところが、月商2000万円になったところで頭打ちになり、アクセスも売上も1年間ほとんど増えないという状態に陥ります。

morisita1ここまでは森下さんともう一人の社員、こちらも専門家というわけでもなかったので、現状からさらに伸ばすには専門家を入れようということになります。

最初はアメリカに8年いたという方を面接したところ、月給50万円という。

今まで一緒にやってきた社員さんが30万円だったので高いなと思ったが、アメリカに8年もいてネットにも相当詳しいというので採用することにしました。

でも、半年ほどで力量不足で減給することに。

次に東北大学出身でリクルートのシステムを担当しているという人を面接します。

月給70万円もらっているということを聞き、学歴とリクルートで70万円の給料をもらっているという実績から信用をして採用することにしました。

でも、最初から70万円ではなく成果を見ながら半年間で70万円にする、ということにしました。

ところが、蓋を開けてみると、システムエンジニアという仕事柄か、あるいはこれまでそれで問題視されない職場だったからなのか、自分一人だけで仕事をし、部下の管理を一切しない。

その上、社長から言われたことを先延ばしにするなどという仕事ぶりがいくつも見られ、それでも給料を上げるよう要求してきたために、そこで話が合わずに辞めてしまった。

そうした、入社しても1年もたないという人が多い中で3年間リーダーとしてやってくれている女性が出てきました。

この女性は特に専門家というわけではないのですが、リーダーとして皆をまとめ、全員で仕事をするのが好きでした。

会社としては彼女のそのリーダーシップでまとまりはしたのですが、専門家ではないために、1年目は売上が下がってしまいます。

morisita2でも、そこから専門分野はコンサルタントを頼み、やるべきことはこのコンサルタントに決めてもらって、彼女がリーダーとなって全員で取り組むという体制をつくりました。

結果として、この10年で年商が17億円ほどにまで成長することができました。

「あさくま」も同じように最初の5年は利益が出ずに苦しんだとのことですが、今では10億円の利益が出せるまでになりました。

経営再建を引き受けた当時の「あさくま」は「やる気のない集団」だったと森下さんは述懐します。

社長が顧客や売上を上げるために色々と指示を出しても、現場の長である店長が言うことを聞かず、まったく取り組もうとしない。

メール会員を増やすために、声のかけ方から獲得できた場合のやり方から教えても一向にやらない。また、新しい商品をお店で追加注文取るように指示をしても売らない。挙句には、売れなかった場合には給料が下がる、というような取り組みをしても売らない。

森下さんいわく、なぜ売ろうとしないのかその理由は、これまでの「あさくま」がそういったエネルギーの低い人、つまり「やる気のない人」ばかりを採用してきたからだと言います。

「あさくま」は今年の春に「女性活躍パワーアップ大賞」で奨励賞として表彰されています。

http://www.powerup-w.jp/powerup/2016.php

この中で女性が働きやすい環境を作って、女性を活躍させようという取り組みをしていることに対して評価されています。

morisita3しかし、森下さんは「こういう制度や環境をいくら作っても、やらない人はやらない」と言います。

森下さんは直接現場に行ってパートの女性に話を聴き、働く本人たちが積極的に仕事に取り組みやすくなる仕組みを説明して下さいました。

それは「やり方」ではあるのですが、根本はお客様とのコミュニケーションを高め、お客様と従業員の間に共感を生み出すための「やり取り」についてであり、これこそが人の「やる気」を引き出すのだということを教えて下さいました。

ただし、再建を引き受けて5年は赤字から抜け出せず、変えることができなかったわけですが、こういった現場への「変化」に対する働きかけを諦めずにやってきたことで変わることができました。最後に森下さんからは「皆さんも諦めずに取り組めば、少しずつでも変わることはできますから、あきらめないで頑張ってください」とエールを贈って頂きました。

講演後の質疑応答の時には「イテテの法則」について教えて頂きました。

お店でお客様を迎える度に「いらっしゃいませ」と言って頭を下げる。

これを毎日何年か続けたとして、頭と一緒に下げた手が地面に着くようになるかというと着かない。

でも、挨拶とは関係なく、ストレッチとして毎日手が地面に着くように前屈をして「イテテ」というところまで身体を曲げ続けていたら、いずれ手が地面につくようになる。

あるいは、腕立て伏せを、やれるところで終わるのではなく、毎日手が震えて「もう限界」というところで「もう一回」とやっていくと、毎日一回ずつ回数を増やしていける。

つまり、限界のところまでやることで能力はアップしていきます。

これは身体のことで、筋肉が震えたり「イテテ」となることでその限界を知り、能力アップすることは可能ですが、ビジネスにおいて能力をアップさせる限界点はどこなのか。

それは、高い目標を設定し、これまで経験したことのない仕事を任された人が、やってはみたもののどうして良いかわからず「もう無理だ、辞めさせて下さい」と言ってきた時だと森下さんはおっしゃいます。

morisita4自分が「もう無理だ」と思った時こそが、神様がその人に「今がお前の能力アップのチャンス」と教えてくれているのだということです。

ただ、これはそのタイミングをうまく捉えないと、そのまま辞めてしまったり、本当に身体をこわしてしまう可能性があるから上司や管理者がしっかりと見ていてあげないといけないということも教えて下さいました。

とても波乱万丈の人生、経営者としての経験をユーモアたっぷりにお話してくださり、会場は何度も爆笑に湧き、講演はあっという間に終わってしまいました。

森下篤史講師、本当に貴重なお話をありがとうございました。

また、今回ご参加頂いた方は、熊本震災の支援もあわせてお願いをして、快くご参加頂きました。

心より感謝申し上げます。