すでに起こった未来

ピータードラッカー曰く
「われわれは未来について二つのことしか知らない。一つは、未来は知りえないこと。もう一つは、未来は今日存在するものとも今日予測するものとも違うということ」
未来は誰も知ることができないし、予測することもできないものだと言っています。一方でこうも言っています。
「それでも未来を知る方法は二つある。一つは自ら創り出すこと。もう一つはすでに起こった未来を確認することである」
この「すでに起こった未来」というのは、すでに起こり、もとに戻ることのない変化、しかも重大な影響を持つことになる変化。それでいて、いまだに認識されていないものを知覚し、かつ分析することである。ピータードラッカーはこう教えてくれています。
今回の講師である高畑欽哉氏は、このことから未来を知るためにこの「すでに起こった未来」についていくつか紹介してくれました。

①少子高齢化の影響

少子高齢化の問題は以前から指摘され、様々な業界でその影響が年々大きくなってきています。その状況を各業種ごとに見ていきました。
いずれの業種においても「人手不足」という問題が深刻さを増しています。しかし、これは以前からわかっていたことです。その中でも中小企業を取り巻く環境はそれ以前のところに原因がありました。それは大企業、中堅企業がこのことを見越して以前から採用に力を入れてきました。その結果、中小零細企業に人が集まらず、淘汰されていきました。つまり現在の中小零細企業における人材不足は少子高齢化が直接的な原因ではなく、その影響はまだこれから現れてくるものだということでした。

中小零細企業と大企業との決定的な違いはどこにあるのか、それは生産性です。統計に現れているのはリーマンショック後の業績の変化に差は無いのに、生産性には明らかに違いがあること。リーマンショック後の業績は中小と大企業ともにそれほど復調できていないのに対して、生産性に関しては中小零細企業はリーマンショック以前の水準から変わっておらず、一定して低水準にあります。国が打ち出している「働き方改革」は生産性を高めることができない会社は淘汰されるということを暗に伝えているのだと高畑講師は言います。

このことから、これからの経営者は生産性の高い、レベルの高い経営をしていかなければならないのはもちろんですが、少ない労働人口の獲得競争を同業種間だけでなく全業種間で行われることになるため、より魅力的な会社・仕事を創っていくことが求められると高畑講師は予測しています。

②ごく一部の企業が世界を動かす

平成元年の企業の時価総額ランキングを見ると、上位を日本企業が名を連ね、現在のランキングには米国の企業、それもほとんどがIT企業になっています。
ここで注目すべきは時価総額で、平成元年のランキングで1位だった日本のNTTで1,638億ドルだったのに対して現在の1位であるMicrosoftの時価総額は1兆265億ドルでその差は6倍、平成元年の上位10社をまとめても足りないというほど、現在のIT企業は世界から資金を集めています。

さらに、米国における主要産業をひかくするとさらに驚きます。1990年の米国の中心産業は自動車でGM、フォード、クライスラーといった企業が中心でした。その当時の自動車業界の時価総額は360億ドル、収益が2500億ドルで従業員数は120万人でした。現在の中心産業であるITの時価総額は1.09兆ドルで収益が2470億ドル、従業員数は13.7万人。時価総額が30倍、収益はほとんど変わらないのに従業員数は10分の1、その生産性の差は100倍にもなります。

その中心が「GAFA」と呼ばれる企業、Google、Apple、Facebook、amazonの4社です。これらIT企業と以前の自動車会社の違いは、その豊富な資産をすべてキャッシュで抱え、自社の事業の成長のために投資、例えば土地を購入して新しい工場を建てて生産ラインを増やす、といったことはせず、ライバル企業や持っている特許を買収したりして規模を拡大しているところです。

amazonは航空会社や船舶会社を買収することで、自社で流通まで賄えるようにしています。つまり、現在世界の中心になっているIT企業はITだけに留まらず周辺の産業をどんどん飲み込んでいき、顧客との関わり=顧客の依存度を深めることで離れられなくしているのです。さらに深刻なのが、周辺産業を自社で抱えることでその収益のほとんどが日本など利用される国ではなくその限られた企業にしか落ちないということです。日本の消費が活発になったとしても、日本の経済力には何の恩恵も無く、日本企業は淘汰されていってしまうのです。

③中国の台頭とFintech

現在の米国のGAFAに迫る勢いで伸びているのが「NEXT GAFA」と言われる中国の企業群です。Baidu、Alibaba、Tencentのそれぞれ頭文字をとってBATと呼ばれるこれらの企業は中国の国家戦略の下で国を挙げてそのビジネス領域を拡大しています。
最近米国からの指摘を受けたHUAWEIも非常に優秀な企業でありながら、国からの指示で世界の情報を集めているとの疑いから取引に規制がかかっていますが、それだけ世界に影響を与える存在になっていることがわかります。
このような中国企業の台頭はどのようにして起こったのでしょうか。実は現在の中国のIT企業の多くは、米国のGAFAが台頭した頃にシリコンバレーで働いていた人たちが中国に帰国後に立ち上げています。米国で最新の技術とビジネスモデルを学び、それを本国の巨大なマーケットで展開、そこに中国政府の後押しもあって今や米国をも脅かす存在にまでなったのです。

もう一つのFintechとは、Finance(金融)とTechnology、電子決済のことを表しています。2016年の中国のモバイル決済の市場規模は38.5兆元(約616兆円)で、米国の50倍に相当しています。中国の都市部における利用率は98.3%に達しています。これほどまでに電子決済が普及した理由は、一つには中国の紙幣の信頼度、つまり偽札が横行していたためとQRコードを利用した非常に簡単で負担の少ない運用方法にありました。
日本でも漸く国をあげて動き出し、各社がそれぞれの電子決済を発表しその普及に躍起になっています。しかしながら、これも一部のIT企業と金融機関が自社の収益とその効率的な運用のための情報収集のために行っている側面があると高畑講師は指摘します。

④完全自動運転カー

Googleを始めとして今や多くの企業で自動運転の技術が研究され、完全自動運転の車が実用化されるのも時間の問題だということです。このことから自動車メーカーのVOLVOは自動車業界自体が既に破壊されつつあるとして、IT企業で自動配車サービスのUberに自動運転の車を提供することにしました。

⑤AIが起こすイノベーション

囲碁の世界チャンピオンを破ったことで話題となったAI棋士の「AlphaGo」ですが、その後さらに進化を遂げ、「AlphaGo」に100回対戦して一度も負けない「AlphaGoZero」というのが誕生しました。もはや人類が絶対に勝つことができないAI棋士を生み出したと高畑講師は言います。
Googleはこの「AlphaGo」に使われている「DeepMind」という人工知能をビジネスに生かしました。Googleには膨大なデータを動かしているサーバの集まった巨大なデータセンターがあり、そこにはサーバが発する熱を下げるための冷却設備が備わっています。巨大なデータセンター全体を冷却するためには膨大な電力を使うために、莫大な電気代がかかっています。Googleはこの電気代の節約に「DeepMind」を活用しました。
その結果は40%の効率化に成功、消費電力を15%も削減したのです。実はGoogle全体では全世界の消費電力の0.01%を使用していると言われ、この結果から「DeepMind」を活用すれば世界中のエネルギー問題の多くが解決できるのではないかと言われています。

AIに関してはオックスフォード大学のマイケル・A・オズボーン准教授が「10年~20年後には47%の人の仕事がなくなる」ということを発表したことでその脅威的な進化が広く知られるようになりましたが、これまでの技術革新の歴史を辿ればこれまでに多くの仕事がこの世から無くなったことがわかると高畑講師は言います。このことからもAIの進化によって何ができるようになり、同時にどんな仕事がなくなっていくかが予測することができます。ここで重要になってくるのがAI技術を活用した新しい技術「IA(Intelligence Augmentation:知能増幅)」だということです。これはAIにある特定の情報を覚えこませることによって最適な解を導き出し、それを言語化して人に伝えるというものです。これは現在すでに企業に活用されている技術で、例えば銀行に来た問い合わせをAIが読み取り、過去のデータからもっともふさわしい回答をオペレータに示し、オペレータはそれを読むだけでいいというもの。知識や経験の無い人でもAIの力を借りることで高度な仕事ができるようになります。ただ、Googleは既に人と同等レベルの発生発音ができるシステムを完成させていることから、もはや人すらも必要がなく、AIだけで完結するようになるということでした。

これらのことから、ITが今後向かうべきところ、つまりこれまで効率化できなかったところはどこなのかを考えると、それは中小企業のマーケットだと高畑講師は言います。つまり中小企業もこれからは業種関係なく「IT企業」であるという認識が必要であるということでした。これはもはや日本がこれまで得意としてきた「改善」では生き残ることはできない、ということを意味しています。
その上で高畑講師は、これからは「トレンドの中のガラパゴス」を目指すしか無いと提言しました。グローバル企業が苦手なことに特化することがガラパゴス化です。ローカル化、超ホスピタリティ、超ニッチ市場への集中など所謂「固有」のものへの投資はグローバル企業にはできません。
この「すでに起こった未来」というのは世界で起こった一つ一つの変化を「点」でとらえるのではなく、点と点を結びつけて「面」として捉えることで世界で起こった潮流や変化に気づくことができると高畑講師は言います。だからこそリーダーは常に世界で起こっている物事を捉えて分析し潮流をつかまえなければいけない。世界で起こっている変化が脅威になるか機会になるかはリーダーの捉え方次第なのだということでした。

イノベーションと新結合

「新しい価値を創造し、顧客または社会に提供すること」をイノベーションと言い、さらに噛み砕くと「昨日まで叶えられなかったニーズに今日お応えすること」だということです。つまり、目の前のお客さんが持つ誰にも解決できない困りごとを捉えて解決してあげること、これがイノベーションだと高畑講師は言います。
イノベーションを起こす企業の共通項を、近年急成長したIT企業から見てみると、それは「異種なるモノの新しい結合」であるということです。例えばメルカリはフリーマーケットとアプリの結合、Uberはタクシーと(使われていない)自家用車とスマホの結合、airbnbは旅行者と空き家の結合。だからイノベーションとは「新結合」であり、言い換えれば「1を0にして、再び1にする活動」だと高畑講師は言います。

では、何と何を結合すればいいのでしょうか?
高畑講師はそれを「強み」と「機会」であると教えてくれました。これはピータードラッカーが言うように「何事かを成し遂げるのは強みによってである。弱みによって何かを行うことはできない」のであり、目を向けるべきは自社の強みであるということでした。
強みとは「他社よりも上手に顧客を喜ばせることができるノウハウ、スキル」のことであり、それをどう育てて、どう使うかということ。
さらにピータードラッカーは「成長のための戦略は、機会あるところに的を絞らなければならない。自らの強みが、異常なほどに大きな成果を生む分野に集中しなければならない。それが機会である」とも言っています。つまり先ほどの「すでに起こった未来」の中に大きな機会が潜んでいると考え、それを日々探さなければならないということでした。

ここで高畑講師はイノベーションを説いた経済学者のシュンペーターの5つ新結合について事例と共に紹介してくれました。

①新しい財貨の生産

appleはiPhoneを発表した時「タッチスクリーンと革命的携帯電話、そして画期的ネット通信機器、これらは別々ではありません、一つなんです、それがiPhoneなんです」と紹介しました。
appleの強みは「魔力のような魅力を持つ商品開発」であり、その細部にまで拘ったモノづくりと独自の美しさの追求にあると高橋講師は言います。その強みが「すでに起こった未来」つまりデジタル+モバイル通信機器、そして一人に一台という技術革新によって生まれていた「携帯電話」という「機会」に投入されることでこれまでに無い全く新しい「価値」を生み出しました。

②新しい生産方法の導入

鋳造メーカーでクレーン車の油圧部品の製造をしていた「愛知ドビー」は、フランスの同じ鋳造メーカーで日本でもヒットしていた「ル・クルーゼ」という機能的な鍋に触発され、下請けからの脱却のために自社オリジナル商品の開発に取り組みました。試行錯誤の末生まれたのが大ヒット商品の「バーミキュラ」でした。
高畑講師はこの愛知ドビーにおけるイノベーションは、下請け工場でありながら「鋳造工程」と「精密加工工程」を併せ持った技術的な強みを、その当時の「より高性能な調理器具」を求めるニーズ(機会)に投入したところに起こったと言います。

③新しい販売先の開拓

airbnbの創業者は当初から何をするかを決めて始めたわけではありませんでした。ある日、自分の家の近所で大きなイベントが開催されることになったが、ホテルの数が足りず、イベントに参加したくても宿泊場所が無いと嘆く投稿がネット上にあふれていました。これを見たairbnbの創業者は親切のつもりで「うちの空き部屋を貸してあげる」と投稿すると瞬く間に希望者が殺到しました。これはビジネスになると考えた創業者は宿泊先に困っている世界中の旅行者と世界中の空き部屋を結びつけることにしました。
高畑講師はairbnbのイノベーションはこの「世界中にある空き部屋」つまり個人宅の空きスペースの有効活用をネットを使った民泊というシステムの販売先として捉えて開拓していったところにあると言います。

④原料あるいは半製品の新しい供給源の獲得

IKEAは家具販売をしている過程において他社との価格競争から自社での企画から製造・販売までを行う会社に変えました。その際、顧客の持ち帰って自分たちで組み立てたいというDIYのニーズに応えるべく、持ち運びしやすいできるだけコンパクトなパッケージでの販売スタイルを生み出しました。
高畑講師は「お手頃なDIY家具」のニーズ(機会)に対して、自社での企画において完成品と同時に販売時点での半製品とパッケージの状態も考えるというところにイノベーションがあると言います。

⑤新しい組織の実現

weworkはコワーキングスペースを提供する会社ですが、世界15カ国に拠点を持ち、そこに複数のスペースを提供しています。世界にスペースがあることから多くのグローバル企業もオフィスとして活用しています。大手の企業が共同のスペースを活用するメリットは、全く異なる会社や人と出会うことによる新しいコミュニケーション、新しい発見や発想が生まれるところにあります。
高畑講師はこの企業が求める「より開かれたビジネスプラットフォーム」に対してweworkの「オープンなコミュニティ開発力」によってそれまでになかった「場」を作り上げたところにイノベーションがあると言います。
このように全てのイノベーションは機会と強みの組み合わせ、それも今まで組み合わされていなかった組み合わせによって花開いていると高畑講師は言います。イノベーションを起こすには、企業の経営戦略の中にこの「機会と強みをベースとした異種なるモノの新しい結合」が組み込まれていなければならないということです。

イノベーションを生む経営戦略

「世界の経営学者はいま何を考えているのか」(入山章栄 著)にとても興味深いことが書かれていたと高畑講師は紹介してくれました。
一つは「持続的な競争優位など存在するのだろうか?」という疑問から最近の企業経営の動向を調査されたものです。それによると「持続的な競争優位」を実現できている企業はあることはあるが2~5%程度しかなく、競争優位を持続できる期間は短く難しくなっている傾向にあるということがわかりました。それだけに、持続するというよりも競争優位を何度も創り出し、それを鎖のようにつないで結果として長期的に高い業績を獲得するという傾向にあるということでした。

もう一つの問いは「不確実性の時代に事業計画はどう立てるべきか」というものです。これまでは綿密な計画を立て、PDCAを回して改善を繰り返す「計画派」と不確実なのであれば考える前にやってみて学習していこうとする「学習派」に分かれていました。それが近年一つの考え方にまとまってきています。それは当初の計画より小さい規模でとりあえず始めるという計画派と学習派の中間的な考え方で「積極的な競争行動」を生み出そうとするものです。つまり、「一時的な競争優位の連鎖」を生み出すために積極的で小さな競争行動を繰り返そうとするものだと言います。高畑講師はイノベーションを生む経営戦略としてこの小さな「積極的な競争行動」を繰り返すことの重要性を説きました。

ここで、東京経営研究会の会員企業2社の事例発表をしてもらいました。

1社目は栗駒和訓さんの株式会社レーヴ・ド・ヴィスタジオさんです。
恵比寿で「恵比寿 山の上バル」という飲食店、青山で「宅配御膳 釜寅」という宅配釜飯のお店を展開している会社ですが、特に青山のデリバリーのお店が近年急激に増えてきた「Uber Eats」、さらに「働き方改革」による残業の減少の影響で売上が伸び悩みました。青山という立地柄、デリバリーの対象がほぼ法人であることが影響したわけです。

危機感を覚えた栗駒さんは大事している経営指針「命の根源である「食」を中心に置き、人々の活動に豊かさと利便性を追求して行きます」、そして今後10年、20年と永く続けていこうとする時に求められるのは「公益性」であること、さらに今後もシェアリングエコノミー市場は伸びていくことを考え合わせ、『「食」を中心とした場づくりの実践』ということにたどり着きました。そして形となったのが、恵比寿のお店の空きスペースを改良してできたキッチン付きのスペース「Talk Kitchen Studio Ebisu」です。

自社の強みである「食を通じた場(コミュニケーション)の提供」を求められている「公益性およびシェアリングエコノミー」という機会に投入したものです。レンタルスペースですがキッチンが付くことで、使い方次第でこれまでにないコミュニケーションの形が創造されていきます。

2社目は舟木なみさんの有限会社エスタシオさんです。
東京、神奈川、埼玉、山梨に美容院を5店舗、エステティックサロンを1店舗運営している会社です。舟木さんは美容師ではなく、採用や教育に関するコンサルティングの仕事をしていたのですが、経営危機に陥った父親の美容院を引き継ぎ、現在の会社を立ち上げました。このことから、舟木さんは社員さんの人材育成に力を入れて美容院を経営する傍ら、当初より美容院の将来性に危機感を持って新たなビジネスモデルを模索していました。
「私たちは”心の底から美しく”を通して、すべての人に新たな感動と幸せを提供し、社会に貢献し続けるファミリーです」という経営理念にあるように、見た目の美しさのためには体の健康が大事、体の健康のためには心の健康が大事だということを掲げています。これは舟木さん自身が体験したことから出てきたものでもありますが、近年の「心の病」による様々な社会問題を考えた時に、見た目の美しさは心身が健康であってこそ求められるものだということを感じていたからです。また、舟木さんはこれまでに従業員さんを二人も癌で失っています。この体験からも健康というものが如何に大切なもので、経営者にとって社員さんの健康を守るということが大事な使命、仕事であることを感じていました。

そこで立ち上げたプロジェクトが「Beauty×Health=Happiness」です。これは機器を使って健康チェックをし、その結果に応じてアドバイスをするというものです。病院で行う健康診断と違うところは、チェックのレベルが低いこと、つまり健康診断の結果は危険度の高いレベルでの警告ですが、こちらは現在の状況を捉えて傾向と対策を図ろうというもの。いわば「未病」のための体質改善や生活習慣の見直しを促すものです。
この機器とアドバイスという取り組みをパッケージとして同じ美容関係の会社に販売をしていましたが、現在は保険会社や健康に関連、関心のある会社へと販路は広がっています。

2社の事例からもわかるように、これまでの経営の仕方や同じ事業の繰り返しでは続けていくことが困難であるため、視野を広げて柔軟な発想で「異種なるモノを結びつけて積極的で小さな競争行動」を粘り強く取り続けることが大切だと高畑講師は言います。
イノベーションを難しく考えず、小さなことから繰り返し取り組んでいくことがイノベーションとなっていきます。ただし、簡単にイノベーションが起きるわけではないので、粘り強く取り組むことが大事ですが、さらに重要なのがイノベーションを実現するためには「核」となる能力がなければいけないということです。この「核」となる能力のことを「コア・コンピタンス」と言います。

コア・コンピタンスとは「競合他社が真似のできないベネフィット(顧客価値)を創出可能とする中核となる資源」のこと。さらにこのコア・コンピタンスには3つの条件があると高畑講師は言います。

①顧客に何らかの利益をもたらす自社能力
②競合他社に真似されにくい自社能力
③複数の商品・市場に推進できる自社能力

この3つの条件が揃った能力がコア・コンピタンスであり、イノベーションには欠かせないものだということでした。言い換えればイノベーションを実現させるには、まず自社のコア・コンピタンスをしっかりと持つ事だということです。

セールスから真のマーケティングへ

マーケティングはお客様の方から「買います」と言って頂く為の全ての活動のことを言います。
ピータードラッカーは、「私たちは何を売りたいか、ではなく、お客様は何を買いたいかを問わなければならい」と言っています。このことから、マーケティングとは「お客様について考える」ことだと高畑講師は言います。
ここで高畑講師は「プロダクト・マーケット・フィット戦略」という取り組み方を教えてくれました。これはイノベーションを目的に新しく創り出した製品・サービスを市場に浸透させていく上でとても重要な考え方です。
そもそも新しい商品、つまり誰も知らない製品、もしくは得体の知れない製品を買うという人はいるでしょうか。これは、どれだけ優れた製品でも、そしてどれだけ優れたチームであっても同様に売ることはできません。誰も知らない製品、得体の知れない製品というのは言い換えれば「市場が存在しない」からです。つまり、どれだけ優れた製品であっても、そして優れたチームであっても市場が無ければ売ることはできないということです。これについて高畑講師はPayPalの創業者であるピーター・ティール氏の言葉を紹介してくれました。
「差別化されていないプロダクトでも、営業と販売が優れていれば独占を築くことができる。逆のケースはない」

このことから、優れたチームは「製品と市場をフィットさせることだけに集中する人たち」のことだと高畑講師は言います。「プロダクト・マーケット・フィット戦略」は製品を市場に投入する際に市場へ段階的にアプローチし、確実に市場にフィットした製品を投入することで、無駄な費用やリスクを回避し効果的に市場に浸透させようとするものだということです。
市場へのアプローチは「①問題と問題解決手法のマッチ」「②製品と市場ニーズのマッチ」「③販売促進によるシェアの拡大」の3段階に分かれます。

失敗の多くは、①の段階でいきなり製品・サービスを作り、②を飛ばしていきなり販売してしまうことで、全く売れなかったり採算が合わずに撤退せざるを得なくなるということです。
マーケティングはお客様の方から「買います」と言って頂く為の全ての活動のことですから、①②の段階でお客様から「買います」と言ってくるところまでフィットした製品・サービスにしなければいけません。
高畑講師は自社の製品「SONR」を例にして説明をしてくれました。

SONRは「社員さんとのコミュニケーションギャップを埋めるためのシンプルで簡単なコミュニケーションツール」です。高畑講師の株式会社エクストさんはこれまでも様々なツールを開発してきましたが、なかなか上手くいかず、このSONRが20番目のプロダクトでした。
高畑講師はこのSONRについてはこの「プロダクト・マーケット・フィット戦略」に則って販売していくことにしました。それは、①の段階において「イノベーター」と呼ばれる購買層、新しいものを進んで採用する人たち、そのような顧客4社にまず購入してもらって使いながら必要なものやエラーを出してもらって改良を加えていくようにしました。また、要望を出してもらっては機能を追加していくなど、より細かなニーズにも対応し幅広い層にもフィットするようにさらに改良をしました。このことで、自分の要望が聞き入れらた顧客は強力な「ファン」となって周りへ拡散してくれることにもなりました。

このイノベーターの声を聞いた人たちが「何か良いものらしい」ということから興味を持って問い合わせてくるようになりました。これが「アーリーアダプター」と呼ばれる流行に敏感で周りよりも早い段階で製品を使おうとする人たちで、これが②の段階に来たことを示しています。ただ、まだ待っていれば問い合わせが来るという段階ではないので、高畑講師はとにかく自ら足を運んでたくさんの会社にアプローチし、その声をより多く集めるようにしています。
この市場への段階的なアプローチによってSONRは順調に売り上げを伸ばすことができました。現在はまだ②の段階で、自分たちの足で売っていくことで少しずつ増えていっています。

ここから③の段階に向かう上で考えることは、「セールスの分業化」だと高畑講師は言います。つまり見込客の発掘から育成、クロージング、さらに導入支援やサポートまで全てを一人の営業マンに任せるのは無理があります。さらに、たくさん集めたリストでも確度の高い「今すぐ購入」するという顧客は10%ぐらいで、効率的に成果を上げたい営業マンはこの10%にしかアプローチをせず、うまくクロージングができなかったら捨ててしまうので、90%の潜在顧客が眠ったままになっている可能性があります。これを防ぐためにも分業化されたチームで取り組むことが必要です。

一つはまだ関心の低い「潜在顧客」「そのうち客」へのインサイドセールスのチーム。もう一つが関心の高まった「もうすぐ客」「今すぐ客」へクロージングをかけるフィールドセールスのチームです。関心の低い顧客に直接的な営業をかけても非効率ですから、その顧客の関心度に応じた情報(コンテンツ)をメールなどで提供し、反応から関心度の変化を追いかける、これがインサイドセールス。関心度が上がっていたらフィールドセールスのチームへ引き継ぎクロージングしていきます。仮にこの時点でうまくいかなくとも、その顧客は再度インサイドセールスで温め直すことができます。

この一連の取り組み、特にインサイドセールスのためのアプローチと分析をネットのツールを使って行うことができ、このツールを導入するだけでも効率化が図れます。

リーダーに必要な5つの力

①ビジョンを指し示す力

現在は経済的に満たされているのに心が満たされない時代です。今大切なものはビジョンだと高畑講師は言います。自分自身が、仲間が、そして顧客が熱狂するような魅力的なビジョンを描くこと。まだ明確なビジョンが無いのならビジョンを持った人の側にいることで、自分の中の潜在意識が顕在化されていくので、例えば経営研究会のようなビジョンを持った経営者の集まりに参加することだということです。

②自己開示して尚且つ人を惹きつける力

魅力的な経営者は自己を解放し「この人と一緒にいたい」と思わせます。人を惹きつける人物になりたいと思うなら目標となる人生の師匠を見つけることだということです。

③無から有を作り出す力

起業家は信用、人、商品、お金、お客様、サービスなどあらゆるものをゼロから生みださなければなりません。それにはイノベーションが必要で、そのためには「知の探索」と「知の深化」を同時に行い続けること。「知の深化」とは自社の事業分野における専門性、技術、ノウハウを継続して深める活動。効率よく収益につながるため、これに固執してしまいイノベーションを妨げてしまいます。一方「知の探索」は新しいビジネスモデルや成長マーケット、新技術、新商品サービスの情報を継続的に収集する活動。既存の知とこれらの新しい知を組み合わせることによってイノベーションが生まれると高畑講師は言います。

④自分より能力の高い人と協働する力

成果の出ない経営者ほど社員さんと競い自分の優秀さをアピールする。できる経営者は全く異なる方法で成果を掴み取る。一人でできることはたかが知れているので、大きなビジョンを掲げたなら多くの人の助けを得ることが大切。

⑤成功するまでやり続ける力

松下幸之助翁が成功の秘訣を問われて答えたこの言葉は、ビジョンを掲げてそれを実現させようとするリーダーは必ず持つべきもの。

最後に高畑講師は冒頭のピータードラッカーの言葉を好きな言葉として掲げてくれました。

「未来を予測する最良の方法は自ら創り出す事である」

成長を「昨日できなかった事が今日できるようになる事、今日できない事が明日できるようになる事」と定義しているという高畑講師は、未来を切り開くためにこれからも日々成長していくと力強く宣言していました。

高畑欽哉講師、本当にありがとうございました。
ご参加頂いた会員の皆様にも改めて感謝申し上げます。


【講師プロフィール】

株式会社エクスト 代表取締役
⾼畑 欽哉⽒

22 才で⽗親の会社倒産を経験。
町⾦や家の差し押さえなど、数々の貴重な経験を経て23 才で創業。
「IT の⼒で働く⼈を幸せにする」をビジョンに掲げ、社内コミュニケーションツールの提供などを通して、企業の⽣産性向上に取り組んでいる。
残業ゼロ、有給休暇100%取得を実現しながら労働⽣産性900 万円を超える⾼い⽣産性を上げている。
電話受付時間10 時〜16 時、フレックスタイム制度で7 時出勤16 時退社を実現、テレワーク、時短勤務など、新しい働き⽅の実践に取り組んでいる。