今回の講師は南大阪経営研究会所属の南美春さんです。
南講師は南大阪は関西空港のお膝元、泉南地域で自然派チーズケーキの専門店、お祝いイベントのためのお店を全5店舗展開されている株式会社SEEDの代表取締役です。
理念なき営業の果てに
スタートは2002年9月で、現在専務をされている妹さんが当時仕事で携わっていたカフェの業態開発がきっかけでした。当時はまだカフェという業態が少なく、南大阪ではほぼ皆無だった頃で、その楽しさを妹さんから伝えられ一緒にやろうという誘いを軽い気持ちで受けたのが始まりでした。
当初は表通りから外れた一方通行の路地に面したお店で、その立地の悪さと業態の認知度の低さからお客さんは中々集まりませんでした。それでも様々な宣伝活動をしていく中、1年ほどしたところで徐々にお客さんが集まりだし、カフェの珍しさ、目新しさから口コミでさらにお客さんが増えていくこととなりました。
お客さんが増えてくると同時に様々な要望が舞い込むようになり、その頃の要望であった「カフェウェディング」が現在のイタリアンダイニングのお祝い空間として結実しています。
繁盛店となって3年目に2号店オープンの誘いを受け、当時の繁盛ぶりから自信を持って1号店の倍の広さ(40坪)のお店を立地も申し分ない場所にオープンしました。
2号店オープンから1年は2店舗とも順調にお客さんが増えていきました。
ただ、同時に従業員も増えたことで、気がつくと統率できない状態になっていました。マネジメントもわからない、理念もない、ただ営業さえしていればお客さんは来てくれる、お客さんが来てくれれば大丈夫と考えていました。
ところが、徐々に従業員の間での揉め事が起こり始め、終いには会社に対する反発も起こるようになっていきました。会社の空気が悪くなってくると、その空気感がお客さんに伝わるかのように3ヶ月後にはお店の売上も2店舗ともに下がっていきました。
お客さんは離れていき売上は下がる一方、従業員からは反発される、とにかく会社をコントロール出来ない状態に陥り、南講師は「何のためにやっているのか」と悩む日々でした。お店に行くことすら怖いと感じるほどになっていました。
足らずを知り学び続ける
4年目が終わる時に妹さんとも相談をし、自分たちの実力では1店舗運営が限界だということに気づき1号店を閉店、自分たちと思いを共有できる仲間だけで再スタートすることにしました。
この時から南講師は経営者として勉強を強く感じ、貪欲に学び始めます。
そして2008年に同業者の先輩の方から日創研を紹介してもらいSA研修を受講、3日間の研修の中で自分の経営者としての覚悟の無さを痛感しました。その後、研修を受ける度に自分の足らずを知ることとなり、ありとあらゆる研修を受講して学び続けました。学んだことを実践していくことで業績はV字回復させることができました。
お店は持ち直しましたが、現在はどの業界であっても縮小傾向にあり、特に飲食業界はバブル崩壊以降低迷し続けています。また、飲食は比較的始めやすいということもあって、入れ替わりの激しい市場で、10年続く店は1割しかないと言われています。
外食産業の課題は4つ、1.市場規模の縮小 2.コンビニ・スーパー・デパ地下の惣菜(中食)3.人材不足 4.食材の価格上昇 が挙げられます。これらの課題を克服するためのキーワードとして上げられるのが「健康」「利便性」「高付加価値」です。南講師は日創研での学びを通して、これらの課題克服のための高付加価値というのは「ありがとう経営」から生まれてくると考えました。
ありがとう経営には実現のための10か条があります。
1.お客様から「心からありがとう」を言われている
2.上司、部下、同僚からお互いに「心からありがとう」を言い合えている
3.社員さんの定着が良く、組織へのロイヤリティが高い
4.絶えずイノベーションをして商品、サービス、技術の差別化ができている
5.社員さんが自主的に改善提案をしている
6.社員さんが理念・ビジョン達成に向けて自主的に行動している
7.社長・幹部・現場の力が三位一体になっている
8.商品、会社に対しお客様から大きな期待をされている
9.お客様の数が増え売り上げがアップし増益している
10.安定的で継続的な適正利益をあげている
ありがとう経営は競合に対する強力な差別化戦力ではありますが、そう簡単に実現できるものではありません。しかし、日創研ではありがとう経営を実現させるためのツールを用意し、それを継続的に活用すれば実現できると指導しています。
南講師もこれら教えられたことを愚直なまでに実践したことで、ご自身の経営者としての力がつき、業績を向上させることができました。ツールの中でも特に「コーチング型13の徳目朝礼」は、今ではこれなしでは人財育成できないと思えるほどに活用しています。
チーム力の向上
しかし、最初からすんなり「13の徳目朝礼」が導入できたわけではありませんでした。南講師はTT研修中に「13の徳目朝礼」を知り、すぐに導入しようとしましたが、まだ勉強中であった南講師は社員さんにその10分の朝礼を定着させることはできませんでした。
ところが、その2年後に今度は経営研究会で毎年開催されている「13の徳目朝礼大会」に所属していた南大阪経営研究会から選手としてに出場することになりました。そこで何とブロック大会で準優勝し、全国大会に出場することになりました。慌てた南講師は会社へ強い決意を持って再度お願いをし、導入することになり現在に至ります。南講師も全国大会出場という機会がなければ「もう失敗はできない」一度ならず二度も途中でやめるということになれば社員さんに示しがつかない、という背水の思いで決意できたことで導入し定着させることができました。
そして社風改善に努めていた南講師にとってこの「13の徳目朝礼」が拍車をかけ、人財育成に弾みをつけて社風は以前とは比べ物にならないものになっていきました。
「13の徳目朝礼」は経営理念の浸透やコミュニケーションの活性化がその効果として挙げらていますが、南講師は朝礼を導入したことによって「チーム力」がついていくことを実感しています。飲食業界においてチームワークは不可欠で、チームワークの質がサービスの質につながっているため、正にこの「チーム力」が高まっていったことでサービス力も向上しお客さんからも再び支持されることになりました。
株式会社SEEDさんの経営理念は「美味しい笑顔 一人一人の幸せを創造します」。
南講師は学ぶ中で理念の大切さを知り、また過去の理念なき会社運営の失敗を通じて、理念の浸透が経営の根幹であることを理解し、理念浸透のための取り組みに力を入れています。
新入社員研修をはじめ、アルバイトの方にも理念について教え、しっかり理解した上で現場に立ってもらうようにしています。さらに、理念浸透のための勉強会を通じて全社的に「学ぶ」ことの大切さを理解してもらい、勉強会や研修も自発的に取り組むようにしています。
南講師自身も経営理念の実践のために、戦略と戦術について学び、実践のために「誰に売るのか」を明確にしました。ペルソナ(企業が提供する製品・サービスのもっとも重要で象徴的なユーザモデル)を定めて、それ以外のことはしない(捨てる)ことも決めました。そこから生まれたのが「自然派チーズケーキ」であり、「お祝い空間」です。
経営理念が浸透し、「美味しい笑顔 一人一人の幸せを創造します」の理念のために全員で考えることが出来るようになった今、お客様をはじめ関わる人のためのアイデアや知恵がドンドン出てくるようになっています。注目すべきは、それらアイデアや知恵がキチンと形になるよう「仕組み化」されるようにしていることです。具体的には商品開発やイベントのプランナー、さらには独自基準のサービスとそれを習得するための研修体制および指導者の存在です。また、社員さんの女性比率が88%ということから、女性が働きやすい環境づくりや家族を大切にした取り組みにも力を入れています。
最後に南講師は倒産の危機からここまで著しい成長発展を遂げることができた理由について教えてくれました。それは南講師が幼いころに父親が会社を倒産させたことでした。その時に周りからドンドン人がいなくなっていく寂しさと恐怖を覚え、自分がいざ同じ立場になった時にその思い出が蘇り、同じような目に会いたくないという恐怖と同時に父親の無念を晴らしたいという思いが強い決意となって表れたということでした。
また、妊娠した時に創業という経験も、子供に安心して口にできるものを与えたいという母としての強い思いを原動力に変えることになりました。
コアバリューである「幸せの種まき力」とは今回のテーマであった「お客様、スタッフの思いが叶う会社」の原動力であり、南講師が会社の苦難と成長と共に培ってきたものであることがよくわかりました。
南美春講師、ありがとうございました。
また、ご参加頂いた会員の皆様にも感謝申し上げます。