今回の例会は経営戦略委員会の委員長 木幡直人さんによる講演で「ブランド経営で顧客をリピーターからファンの領域へ導け!」というテーマでお話しして頂きました。

ブランドとは何か

よく耳にする「ブランド」ですが、そもそもブランドとは何かを教えてもらいました。

「ある特定の商品やサービスが消費者・顧客によって識別されているとき、その商品やサービスをブランドと呼ぶ」(ブランドマネージャー認定協会の消費者顧客からみた定義)

商品やサービス、あるいはロゴマークやタグライン(企業やブランドを端的な言葉で表現したもの)を見たり聞いたりした時、すぐにその企業や商品・サービスを思い起こすほど記憶に刻まれているものであれば、それをブランドとされるということです。

ただしこのブランドの思い起こし方には2種類あり、ひとつが「ブランド再認」もうひとつが「ブランド再生」と言います。

ブランド再認とは「ブランド・ネームやロゴなどブランド要素の選択肢を与えられ、その助けを借りて記憶の中のブランドの存在を認識できること」、つまりブランドを表すものや商品・サービスそのものを見たり聞いたりすることでブランドを思い起こすというもの。

ブランド再生とは「消費者が名前など記憶の手がかりとなるブランド要素を選択肢として示されないで、製品カテゴリーなど限られた手がかりのみから当該ブランドの記憶を再生できること」、こちらはブランドを表す具体的なものがなくてもブランドを思い起こすというものです。

例えば「開放的でお洒落なお店で、コンセントが使えてWiFiもあり、ノートPCで仕事もできるお店」といった環境や雰囲気あるいは質感などだけでお店の名前や企業名、ブランド名が思い起こされるほど記憶に刻まれているものを指します。

このことからブランド再認よりもブランド再生の方が認知のレベルが高いことがわかります。

商品やサービスは消費者のニーズを満たすものですから、ブランドもニーズとセットで思い起こされなければいけませんが、ニーズが多様化している現在においてそれを満たすことは容易ではなく、ブランド再生にはなかなか至りません。

ニーズの多様化について木幡講師はマズローの「欲求五段階説」から説明してくれました。

人の欲求が、置かれた環境において求めるものが段階的に変わっていく(生理的欲求→安全欲求→社会的欲求→承認欲求→自己実現欲求)というのが欲求の段階説ですが、ニーズも社会環境や技術的進歩によって段階的に変化していきます。

物が不足している段階では商品そのものを求める「商品ニーズ」が、それが進むと物を所有するだけでなく何かしらの体験や経験といった行為を求めるいわば「生活ニーズ」になり、さらに進むと「なりたい」「ありたい」といった自己実現欲求と同じ「人生ニーズ」というものになる。

つまり「ニーズの多様化」とは同じ物を求める一様的なニーズから、人それぞれにニーズが細分化したと言うことです。

ニーズとセットで思い起こされる「ブランド再生」を目指すには多様化したニーズに対応しなければいけませんが、このことからもわかるように人それぞれに細分化したニーズに対応することは不可能であり、ブランドの確立をいかに戦略的に取り組んでいくかが求められます。

ブランド戦略

ブランド戦略というとどうしてもマーケティングやコミュニケーションの戦略の一つと考えられがちですが、顧客の視点で企業を捉えた場合、ビジョンやミッションといった経営理念、つまり「何故それをやるのか」というところからメッセージが一貫していなければ「ブランド再生」までの確立には至りません。

これは消費者にとってブランドが利益となる点を考えればわかります。

①購買時の意思決定が容易になる・・・あれこれ検討する必要がなくなる
②情緒的な価値を手に入れることができる・・・それを使うことで得られる心理的な価値(安心感)
③ブランドのイメージを自分自身と重ねることができる・・・ブランドが持つ価値観への共感
④信頼できるブランドを購入することで、リスク回避できる。・・・安全の担保

単なる販売戦略の一環としてメッセージやマークを打ち出して印象付けようとしても、企業が持つビジョンやミッションに合致したものでなければ消費者がそれ理解をし、共感し、受け入れることはありません。

ブランド戦略とは、まず経営理念(ビジョン・ミッション)=なぜ(その事業を)やるのか?ということが確立させるところから始まります。

①経営戦略・・・リソース(企業の持つ資産)の活用により経営理念を実現するための事業の展開
②マーケティング戦略・・・事業展開にあたり顧客にフォーカス(誰に何を売るのか)
③コミュニケーション戦略・・・顧客に対して提供する価値を伝えるための取り組み

ブランド戦略とは、この経営理念から始まってコミュニケーション戦略までの「一貫した取り組み(何故やるのか=提供価値=メッセージ)」を指します。

ブランディングは、ただ単に知られるだけではダメ、知られ方が大事、自社が提供する価値が顧客のどのようなニーズと直結しているかを考えなければいけない、と木幡講師は教えてくれました。

ブランディングは経営

経営において重要な指標となる「貸借対照表(BS)」、そこには会社が保有している財産とその元手となる資本(自己資本、他人資本)のバランスが記されており、会社経営の健全度や体力をそこから読み取ることができます。

表の左側に財産が記され、上から流動資産、固定資産が明記され、表の右側にはその資産を得るための資本(他人資本・自己資本)が明記されています。
そこには経営活動を行なった結果が記されているのですが、いずれも目に見えるものをお金という指標で表したものです。
仮にこれらを有形資産とするならば、ブランド価値や企業価値、あるいは優良顧客層といった目には見えず表に表すことはできませんが、利益を生んでいる無形の価値、資産があります。

無形であるがゆえに決算書に明記されることはありませんが、現在のように先行きが不透明な時代においては、現在の利益や資産も大事ですがこれから利益を生み出す源泉となりうる資産の方が重要になってきます。
それだけに、ブランディングは企業活動において「無形の資産づくり」と言え、ブランディングとは「経営」であると木幡講師は言います。

では、そのブランドはどのようにつくられるのでしょうか?
企業はあるニーズに対するその企業が持つ「独自の価値」による商品・サービスを「これは〇〇なニーズを満たす商品・サービス」として消費者に提供します。
このニーズに対応した商品・サービスに付与する旗印、消費者から思われたいと考えることを「ブランド・アイデンティティ」と言います。

一方消費者がそれに対して商品・サービスに対して抱くイメージを「ブランド・イメージ」と言い、これが必ずしも一致していない。
企業側が考える「ブランド・アイデンティティ」と消費者が描く「ブランド・イメージ」を一致させる活動がブランディングだということです。
ブランド・イメージというのは消費者の心の中で思い描くものであり、様々な記憶の連鎖によって描かれるものです。
記憶してもらうためには伝える回数あるいはインパクトが必要ですが、消費者が企業が意図するように記憶してくれるかは企業側がコントロールできるものではありません(受け取り方は人それぞれ)。

しかし、ブランド・アイデンティティをそのまま思い描いてくれるようコントロールできなくても、意図した反応を得るための刺激を与えることはできます。
この企業の意図した反応を得るための刺激には「ブランド要素」と「ブランド体験」があります。
ブランド要素とは、ブランドネーム・ロゴマーク(タイプ)・色・パッケージ・空間デザイン・キャラクター・タグライン・ジングル・匂い・ドメイン(URL)など。
ブランド体験とは、ブランドとの出会いから付き合い方までのシナリオのこと。
さらにこの2つの刺激を与える上で重要になってくるのが「一貫性」「意図的」「継続性」です。

ブランド要素にしてもブランド体験にしても、まるで一貫性が無く、何の意図も感じられない物事を単発で与えられたら記憶に残りようがありません。
要素も体験もまずは明確な意図、消費者に「こう思われたい」というアイデンティティを明確にし、それを一貫性を持っていろいろな形で刺激を与え続けることが必要です。

ブランド価値とコンセプト

ブランドには3つの価値があります。

①機能的価値:その機能をそのブランドが取ってしまったら成り立たなくなる価値
例)時計の機能的価値=時間の正確性、掃除機の機能的価値=吸引力

②情緒的価値:そのブランドの機能的価値以外の心で感じる、心理的な価値
例)時計の情緒的価値=デザイン性、掃除機の情緒的価値=カラーバリエーション

③社会的価値:そのブランドが世の中のある問題課題の解決に役立っているということの価値
例)SDGs (持続可能な開発目標)

これらブランドが持つ価値についてまとめたものが「コンセプト」と呼ばれるもので、有名なものをいくつか挙げてみます。

「吸引力が落ちない掃除機」
「夢と魔法の国」
「サードプレイス」
「第2の我が家」

いずれもコンセプトを聞いただけでどのブランドのことなのかがすぐに頭に思い出されます。
それはそのブランドが持つ価値をわかりやすくまとめているからに他なりません。
さらにこのブランド価値はまったく別の価値や意味づけをすることで新しい価値を生み出す、一つのイノベーションを起こすこともできます。

代表的なものがジュエリーの世界的企業であるデビアスが打ち出した戦略です。

「ダイヤモンドは永遠の輝き」

宝石といえばダイヤモンド、婚約・結婚指輪の憧れとしてその価値を不動のものとなっているダイヤモンドですが、そのきっかけがこのキャッチコピーでした。
生産量が豊富だったため20世紀の初頭まで実はそれほど市場価値の高くない宝石だったダイヤモンドですが、宝飾という情緒的価値に「永遠の輝き」、つまり何十億年という生成過程からくる希少性と結婚に抱く「永遠の愛」というイメージを重ねることで新しいコンセプトを生み出しました。

ブランド価値をコンセプトとしてまとめる上での4つのチェックを教えてもらいました。

①在り方:一時的な「やり方」ではなく「在り方」になっているか?
②方向性を指示する:企業の向かいたい方向のコンパスとして機能しているか?
③価値の最大化:コンセプトだけでどのような価値を提供しようとしているかの期待を感じられるか?
④力を束ねる:全社一丸となってコンセプトを具現化させる基準となっているか?

また、ブランド価値もコンセプトも自社だけで考えられるものではなく、顧客となる消費者、さらに今の時代(社会)に求められているもの、という3つの要素に関わるもの、木幡講師はそれを「ブランドミッション共感コンセプトの種」という名称をつけ、ここの分析が必要であることを教えてくれました。

ファン化計画

今回のテーマである顧客をリピーターからファンにする「ファン化」について教えてもらいました。
まず大事なのがブランド価値を提供する相手、顧客は誰かということです。
それを明確にしたいわゆる顧客像が「ペルソナ」です。

例えばある有名雑貨店のペルソナは

「都会で一人暮らしをする25歳の独身OL A子さん、給料は20万円台で部屋はワンルーム」

としています。
顧客設定については「ターゲット」もよく耳にしますが、ペルソナとの違いはどこにあるのでしょうか。
ペルソナの目的は顧客インサイトの理解、つまりその顧客の満足について知ることであり、その顧客の目線に立とうとすること。

一方ターゲットの目的は販売促進のため、つまり誰に販売するのかを決めることです。
ターゲットの設定とは販売する先の的を絞ることですから、その根拠は自社の現状分析や統計データからいかに確率の高いところを見つけることになります。
その点ペルソナは、その顧客の立場に立った時に考えられる問題や悩みが設定の根拠となります。

ペルソナを設定することで、チーム全員の顧客に対する認識のズレが少なくなり、ピンポイントで顧客に響くメッセージや商品・サービスを考えることが可能になる、と木幡講師は言います。
そして顧客視点で意思決定できるようになるということでした。
ペルソナ、つまり「貢献したい、ファンにしたい人」が明確になると、ペルソナの抱える問題や悩みに対して自社が解決できること、自社が「得意な事、頑張れる事、貢献できる事」が出て来ます。

さらに「社会性や経済性がある」こと、つまりボランティアではなくビジネスとして同じような問題や悩みを繰り返し解決していく場(マーケット)が存在していれば、そこに「ブランドミッション」が生じます。
ブランドミッションを明確にすれば、商品やサービスなど、何をどう改善していくのかが明確になり、商品やサービスの品質は向上していきます。
ブランドミッションによって品質が向上すれば、それは顧客に価値が伝わりやすく、共感から信頼や尊敬を集めることになり、リピート、口コミ、紹介が起きてくるということです。

このことから木幡講師はファンを以下のように定義しました。

「自社(ブランド)の価値に共感し、成長(次)を応援してくれる人」

そして、この定義からファン化にむけてまず顧客のランク分けを行います。

例)
お問い合わせ客(ランク外)
→新規顧客(ランク1)  :一度商品を購入
→リピート顧客(ランク2):再来店、繰り返し商品購入
→絆顧客(ランク3)   :一年に●回の利用、新商品の度に利用
→ファン顧客(ランク4) :半年に●回の利用、且つ紹介がある

※ランクは会社ごとで変わります
※利用回数や頻度は商品・サービスによって変わります(基準は会社ごとに変わります)

自社の事業、商品・サービス、さらにブランドミッションによってランクを定め、このランクに沿って、それぞれの事業の購入プロセスに応じてゴールイメージ(目標)を持たせます。それを満たす様に商品・サービスだけでなく購入プロセスにおいてランクアップのための改善を施していき、顧客のファン化を目指していきます。

また、ファン化促進のための施策を認知の段階(ブランド再認→ブランド再生)から始まり、販売促進→共感促進→愛着促進→絆促進というようにランクを上げる、顧客との「つながりの深さ」を深めるための取り組みも考えていきます。

ここで事例として2つの会社を紹介してもらいました。

一つは自動車のコーティング(車体表面の磨き)をメインにエンジンなど内部の機械のコーティング、そのほか内外装のカスタマイズを施してくれる会社。
コーティングの技術は他では見られない独自のもので、自動車を細部までピカピカにしてまるで新車のような、それ以上の「他とは違う車」にしてくれます。
それだけに高級車ほど人気が高い。
これまでこの会社が認知されてきたのは、WEBでコツコツと情報発信を続けてきたことにあり、WEBサイトなどは強力なツールとなっていました。

この会社におけるブランディングは、経営者で高級車が好きで、こだわりを持った人、というペルソナを設定するところから始まりました。
顧客を増やす事以上に顧客のファン化が目的ですから、顧客に共感してもらう価値観を打ち出していくことが必要です。
会社全体として高級志向のイメージを持たせるためにロゴマークとタグライン(キャッチフレーズ)を新設。
さらに工場も新しくし、営業プロセスでもいきなり販売するのではなく、まずは工場見学に来てもらい自社の価値観に共感してもらうことを前提としました。
また、顧客には美しくなった自動車を撮影し、まるでカタログのような特別な写真集を作成してプレゼントするなど、心に響くサービスを提供しています。

木幡講師による企業訪問しながらの解説動画

もう一社は千葉県の人口の少ない地域にある自動車販売および整備などを行う会社。
人口が少ないなかで、その地域以外への営業が難しい業種という大きなハンデがあるように思える会社ですが、この会社も顧客数ではなく、顧客生涯価値(顧客が生涯を通じて企業にもたらす利益)を最大化させることにしています。
この会社の最大の特徴は「一見客お断り」と「顧客のえこひいき」です。

人口の少ない地域だから顧客数は少ないのですが、誰でもいいというわけではなく、自分たちの価値観に共感してくれる人だけを顧客とし、手厚いサービスを提供する。
新規顧客の開拓や販売促進活動は一切しない、ホームページすら無いに等しい状態。
扱っているのは自動車であり、人の命がかかっているわけですから、顧客に対して行う事は販売促進や営業活動ではなく「安全に対する啓蒙活動」です。
会社の価値観の最上位に安全を置いて、社内で徹底しています。
自社で自動車に関する事でつながり(タイヤ交換やオイル交換など)ができた時から啓蒙活動は始まり、顧客はその思いに共感し信頼を寄せる。

さらに、その活動は地域の顧客にのみ向けられており、例えば自動車購入の支払いなども地域の農家の方に無理のないローン(一年払いローン)や年金で生活されている高齢者向けのローン、さらにファン顧客に対しては24時間のレッカーサービスなど優良顧客に対するサービスは手厚い。

最後に木幡講師は「顧客をファンにする6つのステップ WEEST(ウィースト)」を教えてくれました。

W(ウォンツ)    顧客が求める像
E(エンパシー)  共感
E(エモーション) 感動
S(スプレッド)  広げたい
T(テル)     伝えたい
ST(ストーリー)  物語

人が求めるものを作る、そして求められる存在になること、そして競い合うのではなく共感し助け合う関係を考えること。
そこに感動が生まれ、それを広げたい、伝えたいと思ってもらえる様になること、そしてそれは物語にすればより伝わりやすい。
この顧客との間にこの流れが生じる事で顧客はファンとなり、会社を支えてくれる存在となるということでした。

 

木幡直人講師、貴重なお話をありがとうございました。
また、ご参加された皆様にも改めて感謝申し上げます。