問題は何か?

インターネットの普及、SNSによって個人の情報発信やコミュニケーションの幅が広がったことで、これまで大手企業中心だった広告やマーケティングが中小企業でも比較的容易に行うことができるようになりました。

しかし一方で

    • 他と同じようにブログやSNSで情報発信をしているのに、ほとんど反応、反響がない
    • SNSでの情報発信で顧客が増えた会社もあれば、友達しか増えない会社がある

といったこと、つまり成果が出ているところと出ていないところがあります。
成果が出ていないところの多くは中小企業で、この時よく耳にするのが「使っているツールが悪い」あるいは「この事業はネットでは伝わらない」ということですが、果たしてそうなのでしょうか?

実はこの問題の根本原因はインターネットの普及とSNSによって多種多様なツールが現れ、手軽に情報発信ができるようになったことにあります。
これまで中小企業の多くは費用がかかることから広告やマーケティングに手をつけず、もっぱら「人間力」に依った対面営業が主だったため、マーケティングで最も重要な「価値訴求」がよく理解されていませんでした。
このことから、先述の問題の原因は使用しているツール(メールやLINEなど)にあると考え、より伝わるツールを求める傾向があるわけです。

しかし、問題はツールではなく情報の受け取り手が企業が発信する情報に「価値」を感じないからであり、このことに気づかずにいくら情報発信をしても伝わらず、まして費用をかけたりすると大変な無駄遣いになってしまうのです。
では、情報の受け手であるそれぞれの事業のユーザー(あるいは顧客)がどのような情報に対して価値を感じ、反応(リアクション)してくれるのでしょうか。
マーケティングで最も重要である「価値訴求」というのは一体どういうことなのかを詳しく見ていくことにします。

価値ある情報の“正体”

現在私たちの周りにはさまざまな情報が飛び交い、その情報をいろいろな形(スマホ、PC、テレビ、新聞など)で受け取っています。
また、ネット上の情報・コミュニケーションツール(メール、SNSアプリ)も数多く生み出され、毎日溢れるほどの情報に接しています。
近年、この情報過多によるストレスが問題になっていますが、人の脳は情報過多から自らを守るために情報の取捨選択を無意識的に行なっているという報告があります。
日常を振り返って考えてもらえればわかりますが、自分の元に届く情報すべてに反応することはありません。
では、私たちが無意識的行なっている情報の取捨選択、つまり自分にとって価値ある情報だと考える基準はどこにあるのでしょうか?

毎日届く情報のうち反応(返信、フォローなど)する情報の特徴には大まかに以下の4つが挙げられます。

  1. 仕事で関わる人からのもの
  2. 家族からのもの
  3. 友人・知人からのもの
  4. 自分に関わるもの(気になるもの)

実際はこれだけでもすべてに反応していては時間も労力もかかりすぎるので、例えば「今日ここに来ました」などの情報はいくら親しい友人からのものでもスルーしています。
つまり、自分にとって価値ある情報だと考える基準は以下の2つにあると言えます。

  1. 相手=誰から or 誰に
  2. 内容=自分にとっての緊急度・重要度

このことから、価値ある情報とは「伝える相手」と「伝える内容」ということになります。

価値の“正体”

価値ある情報が「伝える相手」と「伝える内容」だとすると、一体「価値」とは何なのかという疑問が出てきます。
「商品・サービスの価値」や「付加価値」などと言いますが、一般的に価値とは商品・サービスそのものだと考えられています。
しかし、ことわざにも「豚に真珠、猫に小判」とあるように、いくら高価なものでも興味関心のない人にとってはまったく無意味なものでしかなく、価値とは商品・サービスそのもののことではないのです。

辞典で価値について見てみると「価値とはそれを感得した人によって決まる」とあり、つまり価値とはそれを受け取った「相手」によって決まるものなのです。
このことから、先程の「価値ある情報」すなわち「伝える相手」と「伝える内容(伝え方)」もいずれを間違ってもまったく意味のない行為になってしまうのです。
「頻繁に情報発信しているのにほとんど反応がない」「広告を出しても反響がない」といったことは、商品・サービスに価値がないのではなく「伝える相手」と「伝える内容(伝え方)」に間違いがあるからかもしれないのです。

伝える相手と伝え方を確認する

「伝える相手」とは「ペルソナ」のことだとすぐに気づかれる方もいるかと思いますが、ここであえて「伝える相手」としたのには理由があります。
これまで多くの企業でこの「ペルソナ」を自社の中心顧客のイメージとして、顧客情報から年齢や性別、職業、家族構成などの項目でカテゴライズし、多くに当てはまる人を「ターゲット像」としてきました。
この取り組み自体に問題はありませんが、実は顧客そのものに問題があるかもしれません。

顧客の中には自社の商品・サービスの価値を求めて自ら購入、契約をしてくれた人もいれば、そうでない人もいます。
例えば、「社長の知り合い」や「頼まれたから」あるいは「上司から一番安いところで買え」と指示された場合などは、必ずしも自社の商品・サービスの価値を求めてきたわけではありません。
つまり、顧客をすべて同じ「自社の価値を求めてきた人」だとするのは企業側の決めつけであり、年齢や職業などの表面上のデータだけでペルソナを「設定」するのは間違いのもとになるということです。

このことからもわかるように、「伝える相手」であるかの判断は顧客となった経緯(プロセス)を正確に把握することが大事です。
プロセスとは商品・サービスを求めた理由や背景から自社にたどり着くまでの流れであり「購入プロセス」のことです。
この購入プロセスがわかれば、“営業力”といった属人的なことでなく、誰でも商品・サービスを売ることができますから、購入プロセスこそ最も重要な顧客情報と言えるのです。

顧客の声を聴く

マーケティングに不慣れな中小企業の多くが犯している間違いは、このように自分たちで「決めつけている」ところにあります。
分析の原則は主観を排除して如何に客観的な答えをだすことにあるので、自分達のターゲットユーザー(ペルソナ)を自分達で考えて決めるのではなく、現在の顧客から購入プロセスを聴くことが重要です。
購入プロセス、すなわち理由や背景から「伝える相手」と「伝え方(内容)」の素になる「ニーズ」が明らかになります。

ここで重要なのは「ニーズ」と「ウォンツ」を間違えないようにすることです。

  • ニーズとは「人の抱く欲求が不足している状態」
  • ウォンツは「文化や個人の人格を通して具体化されたニーズ」

と定義されていますが、わかりやすく言うと

  • ニーズは「人が抱えている問題、悩み、欲求」
  • ウォンツは「商品・サービスそのもの(ニーズから生み出すもの)」

のことです。
把握しなければならないのは「ニーズ」であり、「欲しいものは何か」ではなく、「どうなりたいのか・したいのか(そのために自社の商品・サービスを求めた)」を知ることです。
その方法は直接聴く(インタビュー)、もしくは間接的に聴く(アンケート、レビュー、書籍等関連情報など)ことになります。
確認することは購入プロセスであり、分析すべきは「ニーズ(理由・背景から)」と「思い込み・気持ち(ウォンツに対して抱いている感情)」です。

ここでも大切なのが、ニーズは様々であり環境によって変化するので、自社の商品・サービスのニーズを「決めつけない」ことです。
これまで気付いてなかったニーズを見つけることができれば独自の価値につながります。
また、その後の結果にも影響します(間違えると無意味になる)から、主観(思い込み)を排除した分析をすべきです。
客観性が担保された分析を得るためには、外部の視点による質問や分析の導入、あるいは調査を依頼した方が良いでしょう。

商品・サービスの“本当”の価値

商品・サービスには2つの価値があります。
一つは「機能的価値」で、これは商品・サービスそのものに備わった価値(機能、性能、スペックなど)です。
もう一つは「情緒的価値」で、商品・サービスを受け取った人が感じる価値です。
前者は問題に対する具体的な解決策であり、これを「ソリューション」と言います。
後者は問題が解決されることによって(特定の人が)得られる恩恵であり、これを「ベネフィット」と言います。

前段で説明した通り「価値は感得する人によって決まる」わけですから、商品・サービスの“本当”の価値、すなわち「伝える相手」が価値と感じるのは「ベネフィット」だということです。
ユーザーが価値と感じるのは事業や商品・サービスの機能的なところ(サイズ、機能など)ではなく、それによって得られる恩恵(それによって自分がやれるようになること)なのです。

多くの中小企業はこの機能的なソリューションばかり伝えようとするので、誰も意味が伝わらず反応しないわけです。
「伝える相手」に向けてこのベネフィット(できるようになること)を伝えることで反応してもらえるわけですから、正しく伝わるように機能的なソリューションをベネフィットに変換させなければいけません。

機能的価値というのは言い換えれば「特徴」のことであり、ベネフィットはその特徴に対する「効能」のことです。
例えば「このサプリにはDHAが含まれています。これを毎日飲めばあなたの認知機能が高まり、物忘れが改善されます」というコピーには、「DHAが含まれる」「毎日飲めば認知機能が高まる」という2つの特徴を持ち、その結果として「物忘れが改善される」というベネフィットが示されています。

実はこれをテンプレートとして活用すれば自社の商品・サービスだけでなく会社やお店、事業についても特徴からベネフィットを導き出せるのです。
「この(商品・サービス・事業・会社・店舗)には(特徴)があります。だから(ベネフィット)できます。」
このテンプレートにそれぞれの特徴を明記して、すべてベネフィットに変換しておきましょう。

あなたからのメッセージを選ぶ理由

さらに、たくさんの情報の中から自社のメッセージを選択してもらうためには、他社にはないところを出さないと選ばれません。
この差別化やUSPも実は先述の顧客の声(購入プロセス)の中にあり、それが「思い込み・気持ち」のところです。
これは、例えば「中高年からの英会話は難しい」といった半ば常識とされているようなもので、事業や商品・サービスに対して大半の人が抱いている感情のことです。
つまり、このユーザーの頭の中にある「思い込み」を覆すことができれば、他との差別化・USPになるというわけです。

先程の例「中高年からの英会話は難しい」という思い込みに対して、「聴いているだけで英会話が身に付く方法があります 」というコピーで大ヒットした商品がありました。
それ以外にも「一度のレッスンで上達するのはほんの僅か」だという思い込みに対して、「本番前にこれをやるだけで驚くほど結果が変わります」という言わばプロのみが知っているコツのようなものを示すことができれば、それに悩んでいる人は惹きつけられるでしょう。

ここで重要なのは顧客の声を聴き「思い込み・気持ち」を知ることです。
繰り返しますが、客観的な分析が大事であって、「こう考えているだろう」という決めつけはいけません。
つまり、主観的に考えてしまうと必ず自分達が「思い込み」や業界の常識に囚われてしまい、結果として他と何ら変わらないメッセージを与えてしまうのです。

だからと言って、いきなり他社には無い新しい商品・サービスを作ろうとしないことも重要です。
これまでに無かったものを作るのは当然難しい上に、そうこうしている間に他社に「してやられる」かもしれません。
まずは「視点を変える」ことから始めること、そして一発正解を求めずに実験を繰り返してより多くの知見や機会を得ることを目的に取り組むことが大切です。
それができるのがネットマーケティングの強みであり、中小企業は積極的に取り組むべきです。

ところで、中小企業でよく言われる「我が社の強み」とは、先述の「特徴」のことであることがほとんで、それぞれが自社で“考えた”ものであることが多いように思われます。
本来「強み」と言えるのは、ユーザーが価値とする「ベネフィット」と、ここでお伝えした差別化・USPが組み合わされたものです。
「強み」も自社が考え出すものではなく、ユーザーにとっての価値と選ばれるためのUSP、つまり「強み」とは自社に対するユーザーの評価であるはずなのです。

あなたの事業を必要としている人に見つけてもらう

今回のテーマである「あなたの事業を必要としている人に見つけてもらえる会社になる」ためには、

商品・サービスの本当の価値(ベネフィット)を
他社にない独自の価値(普遍的感情を覆す新しい視点)に重ねて
伝える相手(ニーズのある人=ベネフィットを求めている人)へ伝える(発信する)

ことで繋がることができるということです。
つまり、「伝える相手」に求められている「伝え方(内容)」で伝え、さらに他とは違う「独自の価値」を出すことで発信した情報を受け取って(選択して)もらえるようになるということなのです。

重要なのは「伝える相手」と「伝え方(内容)」を間違えないこと。
このいずれを間違っても伝わりませんし、どんなツールを使っても成果は得られないということです。
言い換えれば、「伝える相手」と「伝え方(内容)」さえ間違えなければ確実に成果は出ます。
そのためには顧客やユーザーの声を聴き、客観的にニーズを把握すること、それだけです。

事例紹介

事例ではこのマーケティングを長年の取り組みの中から分析し、見つけ出した自社の価値をネットを使って発信し着実に成果を上げている2社(株式会社共同フレイターズ、SP忠男)を紹介しました。
共同フレイターズさんは通関業務という輸出入の手続きと手配を行う、B to Bがメインの会社。SP忠男さんはオートバイのカスタムパーツ、主にマフラーの開発製造から販売を手掛けるB to Cの会社。
いずれも10年近く前からネットマーケティングに力を入れてきました。
創業時から自社の価値を探してきましたが、ネットマーケティングによってそれがより明確になり、「伝える相手」に正しく価値を伝えることで成果が出ているということでした。

株式会社共同フレイターズの飯塚俊一さん、有限会社スペシャルパーツ忠男の大泉善稔さん、貴重なお話、ありがとうございました。
また、今回2年ぶりの集合形式の例会にご参加いただいた皆様にも改めて感謝申し上げます。