今回は岡山経営研究会、本部レクチャラーの森脇浩之さんによる会社が活性化する会議についての講演でした。
森脇講師は元岡山市議会議員ということもあり、国会でも適用されている「ロバート議事法」に精通されています。

講義に入るにあたって、講師からまず質問が出されました。
「あなたがサッカーチームの監督として、強いチームに育てるために何に手をつけますか?」
試合中走り続けられる体力、ボールをコントロールする技術、ゲームに勝つための戦術、相手よりも優れたチームワーク、などが挙げられるでしょう。
その中でも実は根本的なだけに忘れがちですが、強いチームにするために必要不可欠なことがあります。それは全員が「ゲームのルールを正しく理解している」ことだと森脇講師は言います。

なぜなら、プレイヤーの中に一人でもルールを理解しておらず、ルールを破る者がいれば勝つことはできないからです。
これは仕事においても同じで、いくら社内外の研修で技術やチームワーク、あるいは戦術を学んでもルール(社会的責任や義務)を理解していなければ退場させられます。
このように考えると普段行なっている「会議」にもルールがあり、参加者がそれを理解していなければより良い成果、意思決定ができないということがわかります。

リーダーシップ

会議自体を一つのチームとして捉えると、強いチームとはより良い成果、つまり時間内にキチンと意思決定ができる会議であり、それを左右するのは会議の参加者がルールを理解していることが不可欠であるということ。
そのルールについて話をする前に森脇講師は「リーダーシップ」についての話をしました。

リーダーシップとは組織の中で「理念・ビジョンを定め(V:ビジョン機能)」、「チームを作り(M:メンテナンス機能)」、「成果を出す(T:タスク機能)」という3つの能力を発揮することだと森脇講師は言います。
つまり、その能力を発揮するのがリーダーではなく、それぞれがこの3つの能力を持って発揮するものだということであり、例えば経営者であれば会社や社員さんのためにリーダーとしての自覚を持って3つの能力を磨いていかなければいけないのです。

では、会議でリーダーシップを発揮すべきは誰なのか、例えば経営研究会の理事会におけるリーダーシップとは何か。
トップである会長がリーダーであり、理事会では会長のリーダーシップが成果を左右するのでしょうか、それとも司会進行を務める事務局長でしょうか。
経営研究会は経営者の集まりであり、理事会はリーダーの集まりですから、理事全員がリーダーシップを発揮しなければより良い成果は得られません。

これは経営研究会が経営者の集まりだからということではなく、それぞれの会社における会議においてもその会議の参加者一人一人のリーダーシップが会議の質、成果を左右するということです。
リーダーシップとは先頭に立って我を張る、我を通すということではなく、あくまで3つの能力を発揮することで組織や場を推進させる働きであり、一方でそれを補佐し支えることでより良い成果に結びつけようとする働き「フォロワーシップ」も求められます。
つまり、リーダーシップとフォロワーシップとは立場や役割(リーダー、フォロワー)のことではなく会議の質、成果をより良いものにするために参加者一人ひとりが発揮すべき能力のことなのです。

そのリーダーシップには様々なタイプがあり、有名な経営者でもそれぞれ異なったタイプのリーダーシップを発揮して経営しています。
1、カリスマ
2、イノベーション
3、サージェント
4、メンテナンス
5、コーチング
6、サーバント
7、その他
経営研究会はそれぞれ異なったリーダーシップを持った経営者の集まりですから、会議などに積極的に参加しコミュニケーションをはかることでそれぞれのリーダーシップを磨いていくことができます。

自分のリーダーシップを磨く具体的な実践行動は、会議における「必ず挙手して発言もしくは質問をする」など積極的に議論に参加して意見を述べる、まとめる、発表をすることだということでした。
それ以外にも、その年度に目指すリーダーシップの目標を決めてメンバーと共有すること、所属委員会の運営に積極的に関わり進めていく、などがあります。
一方でフォロワーシップも委員会のリーダーである委員長の補佐を積極的に行う、資料作成や例会運営について手伝うだけではなく積極的に関わって意見や提案を行い、より良い成果に結びつけようとすることで磨くことができるということでした。

自律・自走への組織運営

会議が好きだという人は稀であり、ほとんどの人は会議が苦手か嫌いだと考えています。
その理由は主催者・参加者という立場によって違います。

ただ、双方の理由を見比べてみると、相互で相手に求めていることができていないことを理由として挙げており、会議が正しく機能していないことが主な原因で、その根本は双方に共通した理由であり冒頭で森脇講師から出された「会議のルール(共通認識)が不明確」なことのようです。
それゆえ、いくら会議をやろうと自律・自走ができず(誰が何をやれば良いのかわからないので)、業績も上がらないのだということでした。

「理想の会議」とは物事がスピーディに意思決定され、その決定事項が会議の翌日から各部署で具体的に実行されていくというものですが、そのような会議にするため、会議の質を上げるには次の6つのことが正しく行われているかだと森脇講師は言います。
1、会議の目的(を明確にする)
2、会議の役割(を明確にする)
3、進行のルール(全員が理解する)
4、時間管理
5、参加者の意見を引き出す(全員が一度は意見を述べる“癖”をつける)
6、会議の決定を各行動に繋げ、自律・自走する組織にする

この中でも特に重要なのは6であり、これが実現できてはじめて会議で得たい成果、つまり業績を上げることにつながっていきます。
ただ、これは会議後の取り組みなので、会議の決定事項をいかに全体で共有し、目的を果たすために全体が自律的に動ける体制、仕組みを作っておく必要があります。
極端なことを言えば、これができるのであれば「ロバート議事法」にこだわる必要は無いと森脇講師は言います。
でも「ロバート議事法」は会議を効率的・効果的に進める基本なので、まずはこれに則った会議を運営し、それぞれの環境に応じて目的を果たすための工夫をこらしていくことだということでした。

「ロバート議事法」に則った会議の進め方の基本は「審議」「協議」「報告」を正しく分けて行うことにあります(審議のための会議であり、審議のための協議がある)。
審議の目的は意思決定であり、会議に上程された議事に対して最終決定を行います。
協議の目的は周知の集積であり、会議に上程された議事に対して不備や疑問点、より良くなるための意見などを出し合い、より良い成果が得られるよう参加者全員が働きかけます。
報告・確認・依頼の目的は情報共有であり、会社や団体に参加している人たちの活動がスムーズに行えるよう情報の共有と伝達を行います。
これは研修の中で学んだチェスター・バーナードの「組織の3要素」であると森脇講師は言います。
すなわち、審議は「共通の目的(の確立)」、協議は「協働の自発性」、報告・確認・依頼は「コミュニケーション」であり、「ロバート議事法」に則った会議を行うことで組織は活性化され業績が上がっていくということでした。

会議の時間管理については会議にかかるコストのことを念頭におくことだということです。
平均年収が1,000万円の経営者が8名で月1回2時間の会議を行った場合、年間にかかるコストはいくらになるでしょうか?
10分間で6,410円、2時間で76,920円もかかり、年12回行えば約100万円ものコストがかかっていることになります。
ただ、これは参加者の人件費だけなので、これ以上にサポートメンバーの人件費や会場代、光熱費や資料代などがさらにかかってきます。
つまり、これだけの費用をかけて何の成果も意思決定も無かったとしたら、これほど無駄なものはありません。
会議には決められた時間内で確実に成果を出すことが求められているのであり、このことは会議の参加者全員が理解して臨まなければならないということでした。

ロバート議事法の概観と進め方

米国陸軍のヘンリー・M・ロバート少佐(1837-1923)が、議会や会議での公平、平等のために一定のルール・手順を定めたものが「ロバート議事法」です。
その目的は、組織や会合を民主的にかつ効率的に運営するためであり、一つは多様な意見を活発に出させながらも混乱や感情的な対立は回避させること、もう一つは少数意見を含めすべての意見を整理し一つの意思を形成していくプロセスを明確にすることを求めて定められました。

ロバート議事法で会議を進めるにあたって必ず守らないといけないのが「4つの権利」と「4つの原則」です。
4つの権利
①多数者の権利・・・民主主義の基本原則である多数決(過半数の賛成・反対で可否を決める)
同数の場合のみ議長の票で採決(基本的に議長は議決権を持たない)
②少数者の権利・・・会議の中で挙手による発言は3つ(動議、質問、意見)、会議の参加者はいつでも挙手をして動議を出すことができ、動議が出された場合議長は必ず指名しなければいけない。動議を採用するか否かは2名のセコンド(賛成の意思表示)を確認した上で、その動議を取り上げるか否かの採決(3分の2以上の多数決)を取る。また、少数者の権利を守るために、多数決後に少数意見(賛成多数の場合は反対と棄権の意見)を必ず述べてもらう。
③個人の権利・・・名指しでの攻撃やプライバシーの侵害は厳禁。
④不在者の権利・・・出席できない人にも委任状による票決が認められる。

4つの基本原則
①一事一件の原則・・・一時に一つの議題しか討議できないこと。例えば、時間・場所・方法を、一度に討議して決議する事はできない(但し会議の円滑化のために一括審議することもある)。この原則の目的は後々問題が発生した場合に原因となった採決を見つけやすくするため。
②一時不再議の原則・・・一度決定した議題は、蒸し返して討議することはできない。但し、異常な状況を前提とした特別な場合(つまり蒸し返したいがための理由)を除き、3分の2以上の賛成を得れば再審議が可能となる。
③多数決の原則・・・定足数を満たした会議における票決で、その過半数の承認がなければならない。「過半数の決議」とは「白票・棄権を除く賛成者が半数を越える」ことであり、例えば、賛成7・反対5・棄権3の場合は、賛成が15分の7で過半数とならず否決される(棄権は反対とみなす)。
④定足数順守の原則・・・その会議における出席者が出席義務者(投票権を持つ者)の3分の2未満(経営研究会での会議)の場合、その会議は成立せず決議は無効となる。

会議の進め方

以上のことを踏まえた成果に向かう会議のポイントを教えてもらいました。
1、時間厳守
2、資料は事前配布・事前熟読
3、全員発言で90分に集中
4、発言は「質問です」「意見です」から
5、目的・得たい成果をクリアに
6、判断に迷ったら(創業の精神・経営理念・社長方針にかざす)

まず、とにかく会議の効率性を高め、引いては生産性を向上させるための進行を工夫することだと森脇講師は言います。
効率よく会議を進行させることで必要なことだけに集中することができ、より良い成果、意思決定ができるということです。
定時に始まり定時に終わることはもちろんですが、会議前から事前準備として参加者がその会議の審議・協議の内容を理解し、必要であれば事前に誤字脱字等の指摘や質問をしておくことで、当日の進行がスムーズになり絞られたポイントに集中した質の高い討議や意思決定ができます。
また、この事前準備によって昨今の環境保全のためやコスト削減のための「ペーパーレス会議」にすることが可能になります。

議長は会議上で特にこの時間管理と共に意識しなければいけないのが、時間内に参加者全員が発言できるよう意図的に運営する必要があると言います。
当日の出席者のリストを手元に置いて発言した人と回数を管理し、発言する人に偏りがないようにして時間内に参加者全員が発言できるように意図的な運営をすべきということです。
発言をしない人に光をあて、「あなたの発言を待っている」ということを暗に伝えることを心がける、こういった配慮が議長には求められています。

具体的な議長の権限については以下のとおりです。
1)会議の招集
2)開会・休会・閉会宣言
3)議事録署名人の指名
4)議題の宣言
5)採決(可否同数の場合の決裁)
6)会議事務の監督
7)発言の許可・制止
8)不穏な発言の取り消し命令
9)暴力行為者に対する退場命令

また、参加者の発言は「質問」「意見」「動議」の3つですが、「動議」については取り扱いにルールがあります。
動議とは当日の会議で審議することになっていない議題に対して意思決定を求める提案をすることで、動議が出されると議長はセコンド(賛成者)をとり正式な審議の対象なれば、それまでの議題は一時中断され、その会議にこの新しく出された議題を審議あるいは採決する義務が生じます。
理事会においては「時間延長」の動議が出されることがありますが、誰にも時間延長する権限がないため議長以外の参加者が自主的に動議を出してその場で採決をとっています。
ただし本来は動議が出された場合、セコンドをとって正式な審議の対象なればそれまでの議題は一時中断した上で、出された新しい議事を審議するか否かの採決をとった上で、採決されればその議事の審議(質問・意見)をし採決をしなければいけません。
つまり「動議」は新しく出された議事であるので、その場で取り扱っていた議事と同じ扱いをしなければならず、会議の進行に大きな影響をあたえることから動議を出す側にも慎重さが求められます。
会議の進行を妨げるような動議の連発などの行為は先述の議長の権限によって退場を命じられることになります。

これらのことを踏まえて森脇講師から議長に求められるスキルを挙げてもらいました。
1)規則・会議運営など諸会則に精通
2)会議への集中力を高める
3)事態に対応できる処理能力
4)時間厳守し、有効な使い分け
5)ユーモアに富み、自己中心でない

また、大変な作業でもあるので嫌われがちな「議事録」ですが、記録というのは問題が生じた時にその原因をさぐる上で不可欠なものですから、必ず書面に残して保管をしておく必要があります。
できればこのように議事録を問題があった時のためだけにとるのではなく、会議で採決された議事については結果成果に対して確認をし、予定通りにならなかったことについて毎回その時の採決に立ち戻って反省して次に活かす積極的な取り組み姿勢が求められます。

最後に森脇講師から自律・自走する組織にするための会議の質の高め方について改めて教えてもらいました。
まずは6つの基本ポイント(時間厳守〜)を押さえた会議ができるように取り組み、会議の目的である「より良い成果(業績向上など)を得るための意思決定」が明確になります。
それが確実にできるようになったら、さらに効率よく行うための事前準備のレベルを上げて会議前にあらかた協議を済ましているようにします。
そうなると会議は情報共有と意思決定に集中特化したものとなり、意思決定後に組織の各部門がそれぞれどのように取り組むべきかを考えられるようになります。
例えばサッカーなどのチームプレーにおいて、全員が基本ルールを理解した上でゲームをすることでゴール(への手順)が明確になり、ゲーム進行上の各プレーがより効果的なものに研ぎ澄まされていき、各プレイヤーのプレーが自律的なものになっていくということでした。

自律・自走する組織へ変革するための会議とはいかなるものかということでしたが、効率的効果的=生産性の高い意思決定ができる基本原則(ルール+プロセス)を全員が理解し、それぞれが持つリーダーシップを発揮することで取り組み方が変わり、結果成果も変わってくるということでした。

森脇浩之講師、貴重なお話ありがとうございました。
ご参加の皆様にも改めて感謝申し上げます。