2026年3月25日(水)、日創研東京経営研究会3月例会にて、(株)王宮 ブリッジホテルグループ専務取締役・橋本明元氏にご講演いただきました。入社当初は赤字だった道頓堀ホテルを20年にわたる学びと実践で黒字へと転換させた実体験をもとに、「良い組織風土」と「業界の固定概念を覆す戦略」という二つの車輪による経営の本質をお話しいただきました。超難関といわれる入社倍率を誇るまでに至った採用力の軌跡と、理念に共感する人材を育てる独自の仕組みについて、笑いあり涙ありの熱い講演をいただきました。
赤字から黒字へ〜経営者としての原点
橋本専務は、兄と共に道頓堀ホテルとパチンコ事業を後継しましたが、入社当時のホテルは赤字経営でした。もともと「社長の息子が能力もないのに後継することへの抵抗感」から、社会人になる際は全く異なる業界へ進みました。しかし社会人2年目のとき、祖父の故郷である中国・揚州を訪問したことが転機となります。
土間の床、窓のない家、砂埃舞う貧しい農村——その光景に「14歳で日本に渡り、散髪の丁稚から一から会社を作り上げた祖父の思い」を感じ、「この会社を絶対に守りたい」という気持ちが芽生えました。中国での5年間の修業を経て入社後、日創研のTT研修で「赤字企業」として厳しく指摘された悔しさをバネに学び続け、現在は赤字だったホテルを大きく成長させました。
「目先の損得ではなく、人として正しいかどうかで判断する」——これが社是「誠実な商売を通して心に残る思い出づくり」の核心であり、コロナ禍でも全社員の雇用と給与を守り続けた経営判断の礎となりました。
会社が成長する「二つの車輪」とは何か
橋本専務は「会社が良くなるには二つの車輪が必要だ」と語ります。一つは「良い組織風土」、もう一つは「業界の固定概念を覆す戦略」です。どちらか一方では前に進めない——手押し車に例えたこの考え方が、今日の経営の軸になっています。
ホテル業界の常識を打ち破る取り組み——チェックイン後のお酒飲み放題、着付け体験・抹茶イベントなど——を導入しようとした際、反対したのはお客様ではなく、自社の社員でした。「どこもやっていないことをなぜやるんですか」という声が繰り返されたのは、「自分の会社を良くしたい」という気持ちが社員に育っていなかったからです。
「めんどくさいことを社員が自発的にやることが、最大の参入障壁になる。そのためには良い社風が土台として不可欠だ」
しかし同時に「社風さえ良ければいい、というわけでもない。利益が出なければ給料も上げられず、社員に報いることができない」とも強調。事業性・独自性・社会性の三つを兼ね備えた経営の重要性を丁寧に説いていただきました。
社員のやりがいを高める4つのポイント
ネッツトヨタ南国への研修参加を機に、橋本専務は「社員一人ひとりがどうしたらやりがいを持って働けるか」を真剣に考えるようになりました。「やりがいが大切」と口に出して言うほど社員が引いていった苦い経験から、経営者として知っておくべき4つの視点をご紹介いただきました。
① 自分の意見を聞いてもらえる土壌があるか
新入社員のアイデアを頭ごなしに否定せず、受け止める文化があるかどうか。「意見を聞かなければ、やりがいは一瞬でなくなる。なぜそれが言えるか、自分がそうしてきたから」と橋本専務は振り返ります。
② 自分の成長が実感できるか
「去年の自分より成長できた」という実感が持てれば意欲は続く。優秀な人ほど成長実感がなければ去っていく、という現実を自社の体験から語っていただきました。
③ 会社・経営者に大切にされているという実感があるか
伊那食品工業の事例を挙げながら、「社員が自発的に動く組織は、経営者が社員を我が子のように大切にしているから。まず自分が社員をどれだけ大切にしているかを問い直すべきだ」と話されました。
④ 自分の仕事が社会に役立っているという実感があるか
「売り上げのため」ではなく「日本と世界の架け橋になる」という明確な使命があるからこそ、社員が誇りを持って働ける。社会性のある使命を持つことの大切さを、田舞代表の言葉とともに伝えていただきました。
福利厚生と仕組みで「大切にされる実感」を
「会社から大切にされている実感」を持ってもらうために、橋本専務は多彩な福利厚生と仕組みを整えてきました。社員本人だけでなく家族の医療費も全額会社負担、書籍代全額支給、語学学校費用7割補助、5年に1回の海外留学支援など「社員の家族ごと大切にする」姿勢を体現しています。また、配偶者の誕生日にも会社から手紙とプレゼントを贈るなど、社員の家族に対しても感謝を伝える取り組みを続けています。
また、改善提案制度の導入と一定額以内の決済権の付与によって、社員が「どうすればお客様に喜んでもらえるか」を自ら考える経営感覚が生まれました。着付け体験・たこ焼きイベント・流しそうめんなど、ユニークな顧客接点はすべて社員自身のアイデアから生まれたものです。
毎月複数回開催する「理念と経営」の社内勉強会は、部署間の壁を取り除き「勉強する会社」として組織を一体化させる大きな力になっています。赤ペン先生方式のフィードバックは、社員との交換日記にもなり、悩みの発見や経営のヒント収集にもつながっているとのことです。
理念に共感できる人材だけを採用する仕組み
「採用の失敗は、人材育成では挽回できない」——橋本専務はそう断言し、5年かけて新卒採用の仕組みを構築してきました。採用の切り口は「日本と世界の架け橋になりたい人募集」。仕事内容ではなく会社の使命で人を集めます。
説明会では橋本専務自らが登壇し、会社の考え方を熱く語ります。「本当に共感してくれた人だけが来ればいい」というスタンスで、最終面接では「日本と世界の架け橋になりたい」という言葉を自分の口で語れない学生は、どれだけ優秀でも採用しないと徹底しています。
職場体験も必須で、現場スタッフ全員が「合格」と言わなければ採用しない仕組みを導入。内定者合宿を2回(社風体感・理念研修)行い、入社前に理念研修を終わらせます。さらに採用した全社員の自宅には経営者自ら家庭訪問——ネパールまで足を運んだ経験から「会社として親代わりになる覚悟を伝えることが最大の動機づけになる」と話されました。
コロナ禍が証明した理念経営の底力
コロナ禍では、インバウンド需要の消滅によりホテル事業が前例のない危機に見舞われました。それでも橋本専務は「目先の損得ではなく、人として正しい判断を」という社是に従い、社員・アルバイト一人も解雇せず、給与も全額支払い続ける決断をしました。多額のキャッシュアウトが続く中、兄と二人で銀行を奔走しながら経営を守り続けました。
この期間に実践した4つの柱が、のちの急回復を生み出しました。①攻めの姿勢を忘れない(お弁当販売など1円でも売上を追う)、②将来を見据えた行動(新卒採用継続・改装工事)、③全社での研修(行動指針フィロソフィー15か条の制作)、④地域貢献活動(近隣飲食店のメニュー多言語翻訳・バザー開催)。
インバウンド需要が回復した際、多くのホテルが人員不足で稼働率を大幅に落とす中、人材が揃っていた同社はいち早く高い稼働率を取り戻し、コロナ前を上回る業績を短期間で実現しました。
「明けない夜はない。でも夜にしかできないことがある。今は上に伸びるのではなく、根を深く張る時だ」
理念経営が試練の場でこそ輝くことを、自らの実体験で証明した力強いメッセージでした。
参加者からは「社風と戦略の両輪という視点が腑に落ちた」「採用の仕組みをすぐ参考にしたい」「理念経営がコロナの試練で証明された事例に勇気をもらった」などの声が寄せられました。「共に幸せと誇りを感じる会社」というビジョンと「日本と世界の架け橋になる使命」に向かって愚直に学び続ける橋本専務の姿は、参加者一同に大きな気づきと行動への勇気を与えてくれました。橋本専務、貴重なご講演を誠にありがとうございました。


