今回は全国のほとんどのスーパーで売られているもやしやカット野菜を中心に製造販売している株式会社サラダコスモの代表取締役 中田 智洋さんから「いい会社になる為の条件」というテーマで講演いただきました。

高品質と低価格を工場生産で実現

中田講師のサラダコスモさんは簡単に言えば野菜工場。
それも野菜を生産から加工して出荷するまでを行う工場です。
日本の農業は高齢化で、畑で働く人は減少の一途を辿っています。
野菜の一大生産地である四国でも、あと5年経つと農業をやる人が半分になってしまうと言います。
例えば高知県の農地は現在300坪で50万円、1坪がわずか1500円ほどで、たくさんあるみかん畑はタダでくれるというところも。
やる人がいないため「あげるからやってください」という状態で、土地の価値が無くなってしまっている。

農業する人が居なくなっても野菜は絶対必要なため輸入するしかないわけですが、日本の国民は不思議と外国産の野菜を嫌がると中田講師は言います。
その理由は、国産の方が安全安心だという「思い込み」があるからです。
しかし日本は高温多湿な気候であるため、大量の農薬を使わないと農作物はできません。
米などはアメリカで作る米の8倍ぐらい農薬を使わないとこの国では米ができないのだが、ほとんどの人が国産が良いという。
中国の場合は、ニラやネギ、シイタケ、ニンニク、その他色々なのを売ってますが、値段は日本産の半分。
あまりにも人気がないので、少々可哀そうだと中田講師は言います。

このように日本における農作物はとにかく国産であることが一番に求められるわけですが、一方で日本人は農薬嫌いでもあるということ。
でも、夏は高温多湿で、虫が湧き、草が生えるという日本の環境で無農薬でやるのは大変難しい。
意外かもしれませんが、カビも生えないし虫もいない、草も生えない砂漠の方がオーガニックは簡単だと中田講師は言います。
農薬には大きく3種類しかなく、草を殺すか、虫を殺すか、カビを殺すか、この3つしかない。
野菜工場は環境管理できるので、工場の中は草は生えない上に、空調管理ができるので虫も来ないし湿度も管理できるからカビも生えない。
だから農業するのに難しい環境の日本でも、効率的な農業が実現できます。

取引もない人や社会に対する優しさ

今年(2024年)、サラダコスモさんは「第14回 日本で1番大切にしたい会社大賞」を受賞されました。
この受賞の採点基準は60項目以上あり、売上高の大きさではなく伸びてるか、採用はできているか、途中で辞めていく人の状況、さらに社員に対する接し方、あるいはお客様とのお付き合い、そして従業員や取引先に関わらずその町とどう関わり、どんな具体的な活動してるのかなど、多岐にわたるチェックがあります。
その厳しい基準をクリアして、今回の受賞となったわけですが、中田講師は会社をそういう基準で見てこなかっただけに、今回の受賞で自社が「できている」ことがわかったと言います。
中田講師は受賞した時に主催者に受賞の対象となる会社について尋ねると、規模の大きさや儲けているといったことではなく、一言で言えばこの会社が「人に優しいか」ということだということでした。

これは、社員さんやお客様に優しいのは当たり前ですが、その先の取引もない、買ってもくれてないという地元の方、あるいは大袈裟に言えば国民に優しいか、周りの人すべてに対して優しいことをやっているかということ。
民間企業で営利目的でやっていますから、社員大事にしなければやっていけない、人様を大事にしないと買ってくれなくなる。
ここまでは当然考えますが、買ってもくれない人、取引もなく関係のないと思う人にまで、どういう思いでお付き合いしているのかが実は大事なんだと中田講師は言います。
民間企業が自分の会社 1つを赤字にならないよう頑張っているという中で、取引もない人や社会に対してそこまでできるのかと思いますが、今回受賞された賞や経営研究会の理念や目的、誓いを達成するには、そこまでやらないと実現できないということです。

儲けが先走るようじゃ商売の新米

中田講師は最近見たテレビドラマの中のあるセリフにドキッとしたと言います。
「儲けが先走るようじゃ商売の新米や」
企業は利益を出さなければならない、赤字を出してはいけないという強いプレッシャーの中で経営をしており、赤字になり資金繰りが苦しくなると命を絶ってしまおうとするほどですから、「儲けには先走る」のは当然だと考えます。

中田講師は20歳代に儒学者の佐藤一斎に出会い、町一番の納税者になろうと考えましたが、一方で業績が好調で大きな利益を得られるようになると、町一番の納税者が馬鹿らしく感じてもいました。
税金は「半分取られた」という自分が被害者のように考えていたということです。
50歳代のころは付き合いの会計事務所やコンサルタントにお願いしてかなり大きな節税対策を行い、税務署と激しくやり合うということもありました。

そういった経験を経て、現在では佐藤一斎の教えが身に染みるように理解でき、税金に対しても考え方が大きく変わったと中田講師は言います。
以前は「半分取られた」という感覚だったものが、現在は「半分残っている」という考え方に変わった。
その残った利益に対しても、若い頃は自分の贅沢のために使っていたが、現在はそのすべてを世の中のために使おうというのが当たり前になったということです。
個人の満足感よりも、世の中のために使うことに対する嬉しい気持ちの方が贅沢に感じられると中田講師は言います。

最近、人口8万人の中津川市にも「子供食堂」ができたということですが、当初中田講師はその食堂の存在が街の恥だと考えていました。
一人親の子供が対象ですが、都会と違い田舎であれば祖父母がいるから、子供食堂行かないとご飯が食べられない人はいないと考えていたからです。
一人親の子供、小学生であればその親はまだ5、60歳、女性が多いと思われるが女性の両親もいるはずで、この両親がこの一人親家族の子供を当然世話するだろうと考えていた。
自分の町で子供食堂にたくさん子供たちが来るということは、どういう国になってしまったんだと考え、自分の町に子ども食堂ができること自体が恥だと思っていました。

その子供の親と親戚は何をしているんだと思っていましたが、中田講師の知らぬ間に社会が断絶してしまっており、親子の縁が少なくなり一人親も自分の両親を頼ることができなくなっていた。
子供食堂を応援したら、ますます怠け者を作るだけだと考えていましたが、もうこの国はそうではないことを知り、子供食堂のスポンサーを始めたということでした。

究極の利益還元

コロナを経て、さらにウクライナ戦争などによって電気も原料も人件費も交通費も全てが高騰し、同業他社は値上げに走りましたが、サラダコスモさんは一切値上げしなかった。
これは逆張りではなく、「国民の可処分所得が下がってく中で、値上げしたらお客様はどうなるんだ、困るだろう」という中田講師の強い思いからのことでした。
中田講師がしたことは、当時年収160億円でしたが160億円借金して新しい工場を建てました。

この工場は従来の工場に比べて人件費が半分以下、3分の1ぐらいになっています。
かつてこの規模の工場を回すには400人ぐらいが必要でしたが、現在は200人になり、中田講師はさらに100人にしました。
また、以前は8時間労働でしたが、それが16時間になり、さらに24時間回す、つまりほぼ無人で稼動する工場になっています。

工場の償却は1個作っても100万個作っても同じ。
1年の償却を1個に全部乗せるのか、100万個に乗せるのか、300万個に乗せるのか、という計算であるため中田講師は工場の稼働率をとにかく上げようと考えました。
原材料が高騰しても値上げせずとも利益が出るようにしました。

良いもの安く作り、利益を最大にする。
「昔は人がいっぱいいたけれど、今どんどん機械化してもう無人工場みたいになっちゃってるんで、もうますます強くなっちゃう」
4、5年前までサラダコスモさんは日本で3番、4番の会社でしたが、値上げをしなかったことで気がつけば同業他社が脱落してトップを走っていた。

「年商の3倍までの借金は大丈夫」と豪語する中田講師、サラダコスモさんが値上げをすることはありません。
中田講師は、例えば今年10パーセント儲けが出たら、この10パーセントは全て来年の値引きや設備投資に全部使えと言います。
儲けた金を来年の値下げ資金にする、つまり利益を顧客に還元しているということです。

種の自前生産で利益率を高める

サラダコスモさんの安さの理由はそれだけではありません。
サラダコスモさんは南米アルゼンチンに山手線の内側の1.2倍、7700ヘクタールの農場を7年前に購入し野菜の種を作っています。
購入額は約30億円、1坪がおよそ100円強、購入時は不良資産と言われましたが、購入時のレートが1ドル100円でしたから、 150円の現在は資産価値が5割も上がりました。

土地の値段は人口に比例するため、日本のように人口が減っていくと先述の四国のように土地の価値はタダ同然のようになります。
ところが世界は100億に迫る勢いで人口は増えていますからこのアルゼンチンの土地の価値もどんどん上がっている。
20年も経てば3倍か4倍ぐらいになるだろうと中田講師は言います。

野菜の種は非常に高価で、ましてオーガニックだととんでもない値段になる。
当然それが利益を押し下げ値段に反映するため、中田講師はそれを自前で作ることを考えました。
中田講師は24年前、50歳の時にアラスカからカナダ、アメリカ、メキシコを通りブラジルからボリビア、ペルー、チリ、アルゼンチンまで2ヶ月、1人で車を運転して2万5000キロ走り抜きました。
帰国した時は15kg痩せてしまったほど。
ただ、このような無茶は若く体力がある時にしかできないので、50歳代であれば心技体、精神状態と技術、体力が揃ってるうちやるべきだと中田講師は言います。

現地ではタイヤの直径が180センチ、総重量20トン以上でエンジンが370馬力という日本ではまず無いお化けみたいなトラクターで仕事をします。
それが直線で15キロある広い農場をどこまでも走り続ける。
でも、GPSで自動操縦ですから人は一応乗っていますが運転手は音楽聞きながらエアコンの効いた中で運転席に座っているだけ。
トラクターはまっすぐ走って、終点に行くとくるっと向きを変えてまた耕し続ける。
その生産性は凄まじく、1日200ヘクタール、1反、2反のサイズで言うとその10倍、1日2000反。
その農業は超合理化されており、山手線の内側の1.2倍広い農地をわずか10人で耕しています。

南米はスペイン語圏ですが、中田講師はスペイン語が話せませんでした。
それでも、良い土地を購入することができたのは、戦後に南米に移民として渡った日本人の方達がまるでゴルフのキャディーさんのように応援してくれたため、言葉で苦労することはなかったということです。
言葉だけでなく、どこの土地が良いのか、どのようなところが畑に適しているのかを教えてくれました。

良く見えるけどあそこは毎年雹が降る、あそこの農場は牛が喜んで草食べて走り回ってるから買ってはいけないなど。
牛は満腹になるまで食べ続けるので食べ続ける畑は栄養がない、満腹になれないから夜でも食べている。
豊かな土地はすぐに満腹になるから、牛はみんな寝てる。
だから放牧してる牛がみんな寝そべってるところが良い土地だ。
そういうことを教えてもらい、とても価値ある土地を購入することができました。
そして種代を半額にし、競争力を高め利益率を上げることができました。

ちこり村の使命

ちこりは15センチぐらいの白い、 手を合わせて合唱してるような可愛い形の野菜で、フランス料理やイタリア料理によく出る野菜です。
その野菜の名前を冠した「ちこり村」は野菜の販売をはじめ、その新鮮な野菜がふんだんに使われている料理が食べられるブッフェや、その他たくさんの商品とイベントが楽しめる地域の憩いの場。
連日たくさんのお客様がちこり村を訪れますが、実はそのほとんどの方が買っていく商品があります。
それは中津川市の名物である「栗きんとん」が7粒も入った食パン。
そのお値段は1800円で、食パンとしては非常に高額ですが、それが毎日飛ぶように売れています。

そんな高価な食パンがなぜ飛ぶように売れるかというと、「栗きんとん」は小さな和菓子ですが1個300円し、それが7個も入っているのに1800円だからです。
お客様はみんな「安い安い」と言って喜んで買っていき、中には1人で3本も5本、10本も買っていく人もいます。
スーパーで食パン10本も買う人はいませんし、10本買うと1万8000円する。
高価なパンにそんなにお金を出してくれるなら20円のもやしにもうあと10円出して、と言いたいけどもやしは高くしてはダメ、ちょっと商売わかりませんけどと中田講師は言います。
これも良いものを安く提供したいと言う中田講師の思いが詰まった商品なのです。

ちこり村には中田講師が学び感銘を受けた佐藤一斎の「言志四録の小径」というスペースがあり、全1133条より厳選した30条がパネルになって並んでいます。
このスペースは無料で座ってゆっくり鑑賞できるようになっており、このパネルを見ながら30分でも1時間でも親しい人と向き合って生き方について語り合って欲しいという中田講師の思いから作られました。
金にもならないことだけれど、こんなにもたくさんのお客様が来てくださるなら、私が良いと思うことを提案できる場所を用意し、国民やその町やふるさとの人たちに伝えていくことが大事だと思ってやっていると中田講師は言います。

ただ、自分は良いと思っていたとしても、例えば特別な宗教や政治というと、それは違う。
社員やお客様にはあまり宗教や政治のことは人それぞれですからやはり言わない方がいい。
でも、儒学は学問であり哲学ですから、これはお客様にとっても違和感無く受け入れてもらえます。
こういった教えや学びに気づいてください、学んでくださいというのがこのちこり村の使命だと中田講師は言います。

夢、その先の志

夢とは、小さいものだと良い車が欲しい、良い家が欲しい、美味しいもの食べたい、海外旅行行きたい、家族で幸福になりたいなどがあります。
これらは夢であり志とは言いません。
では、夢と志の違いは何なのか。

夢は自分のことであり、幸せになりたい、美味しいもの食べたい、いいもの欲しい、あれやりたいといった自分に向けられたもの。
夢はなければいけませんが、自分や会社の幸せを求めるだけで人生を終えてしまってはいけない。
ここで終わろうとすると幸せになれない、この先まで行かなければ会社経営も自分の人生もうまくいかないと中田講師は言います。

50歳代のころ、ちょうど現在の中田講師の年齢の方がいて、亡くなる3年前に中田講師に言った最後の言葉が今でも耳鳴りのように聞こえてくると言います。
「人生とは一言で言うと志だ、人生は志、人生は夢じゃない。人生は志」
「志」この言葉がきっと皆さんの人生や会社やこの国を良くする言葉でありキーワードだということです。

志というのは、仕事など活動の対象が自分ではない。
ふるさとのため、買ってもくれないお客様のため、あるいは日本のため、といったことを夢と言えるのは日本だったら総理大臣ぐらいでしょう。
「私の夢は日本の繁栄」などと言ったら、総理でもないのに偉そうな言い方するなと言われるかもしれない。
でも、自分事ではない、見返りを求めない「志」で生きる人と生きない人は全然違う。
先述した「利益に走ったら商売新米」、つまり志で生きてる人は夢に生きている人と全然レベルが違うということを覚えておいて欲しいと中田講師は言います。

最後に中田講師は大好きな吉村思風先生の言葉を紹介してくれました。

人間において生きるとは、ただ単に生き永らえる事ではない。
人間において生きるとは、何のためにこの命を使うか、
この命をどう生かすかということである。

命を生かすとは、何かに命をかけるということである。
だから生きるとは命をかけるという事だ。
命の最高のよろこびは、命をかけても惜しくない程の対象と出会うことにある。
その時こそ、命は最も充実した生のよろこびを味わい、激しくも美しく燃え上がるのである。

君は何に命をかけるか。
君は何のためになら死ぬことができるか。
この問いに答えることが、生きるということであり、この問いに答えることが、人生である

人どうせ死ぬんだから、生きてる間が勝負。
その一番大事な命を何に使うと言った時、命の最高の喜びは、命をかけても惜しくない程、死んでも惜しくない程の対象、目的、テーマと出会うことにある、と吉村思風先生は言っている。
「あんな安いもやしだけど、やっぱり毎日何十年もやってて命がけになる」と中田講師は言い、問いかけます「命をかけても惜しくないほどの対象と出会ってますか?」

「ここで勉強しようという人は既に人生の成功者の切符を持っている。
ぜひこの調子で活躍してくださいね」
最後に中田講師は私たちに温かいエールを贈ってくれました。

中田智洋講師、貴重なお話ありがとうございました。
また、ご参加いただいた皆様にも改めて感謝申し上げます。