3月17日、江東区産業会館において3月例会が開催されました。

狩野刀根男 会長 司会 伊藤智教さん司会は経営戦略委員会の伊藤智教さん、狩野会長の挨拶に続いて、早速今回の講師である橋本明元さんにご登壇頂きました。

今回は橋本さんが専務取締役を務められている株式会社王宮の「道頓堀ホテル」の戦略についてお話頂くもので、テーマは「驚異の客室稼働率を誇る、道頓堀ホテルの戦略を大公開!!」です。

講師 橋本明元さん①橋本さんは父親が中国人で、母親が日本人という家庭で育ち、小さいころは中国人の血が入っていることで日本人から虐げられているのでは思い、劣等感を感じていました。

また、父親が経営している会社を後継するのは良くないと考え、最初は義足や車椅子などを販売する会社に入社します。「人のために尽くすことのできる会社」であったのが入社を決めた理由だったそうです。

でもすぐに転機が訪れます。
1999年、24歳の時に、華僑である祖父の故郷に行き、「華僑」というお金持ちのイメージとはかけ離れた、祖父の極貧から這い上がった壮絶な人生を体感しました。
それまで、祖父の成功は自分とは関係ないと考えていましたが、故郷を初めて見たとき感動し、祖父がつくり、父が守ってきた会社を潰してはいけないと思い、2001年に株式会社王宮に入社されました。

しかし、道頓堀ホテルに入った当初、右も左もわからない中で、社長の息子ということで、周からはチヤホヤされ、先輩・上司が気を遣うという状況に違和感を感じます。
それでも、しばらくするうちに慣れてくる自分があり、ある時、当時の上司から「明ちゃん」と声をかけられた時に敬語を使わないことに腹を立てている自分がいることに気づきます。
これはいけない、ここにいたら自分がおかしくなると思い、会社を辞め、厳しい環境下で修行をしようと考え、中国に向かいます。

講師 橋本明元さん②中国に行った理由は、中国語ができなかったので、より厳しい環境に身を置くべきと思ったことと、いつか中国のお客様が日本に来るのではないかと思ったことでした。
言葉を覚え、現地のホテルで働くことでその人脈を生かし、いつかお客さんを連れてきたいと考えられたのです。
現地で苦労をしながらも、世界的なチェーンホテルで中国でもナンバーワンのシャングリラホテルに入社することができ、多くをここで学ばれました。
ひとつはマーケティングを学び、さらに日本の上場企業の経営者にたくさん会うことができ、経営者の謙虚な姿勢を学びます。
同時に、中小企業の社長からはぞんざいに扱われて、悔しい思いも経験します。
そこで、日本に戻ったなら常に謙虚に接しよう、さらにホテル業界の地位を向上させようと決意されます。

そして2007年、中国から戻って再入社され、中国での経験を活かし、思い切った戦略を展開されます。

道頓堀ホテルの戦略の要諦は「選択と集中」です。
すべてのお客様に100%の満足を与えようとするのではなく、一部のお客様に150%の満足を与えるのが中小企業が行うべきことだと学ばれたからです。
ホテルは普通レストランを持っていますが、道頓堀ホテルはレストランを持たず、完全予約制の宴会のみ。
完全予約制なのでロスがなく、さらに安く良い食材を使って美味しいものを提供するために、宴会では中華しか出さないという徹底ぶり。

道頓堀ホテルの経営理念は『誠実な商売を通じて、心に残る想い出づくり』です。
過去に赤字に転落した時期があったのですが、後を継いだ父親は赤字を一回も出していません。
その理由を聞いたところ、「真面目に商売をしてきたから」ということでした。
お客様、社員、社会に対して、真面目に商売し、ありがちなことですが、ビールの本数をごまかすということも決してありませんでした。
また、非常階段をつけるにも赤字の上に多額の費用がかかるので悩んでいましたが、万が一のために、後回しにせずに取りかかりました。
こういった積み重ねがあって今があるので、「誠実」を商売の価値基準とされています。

講師 橋本明元さん③また、道頓堀ホテルは世界中からお客様がお越しになるのですが、日本人からすれば安くとも、お客様は何カ月も貯金をして楽しみに旅行に来ているということを理解し、私達は「部屋を売っているのではなく、心の想い出を売っている」と考え行動しているということでした。

さらに橋本さんは、働いているスタッフが幸せでなかったら経営している意味がない、という思いから「ともに幸せと誇りを感じる会社をつくる」というビジョンを持ち、この思いが実現したら死んでもいいとさえ思っているということでした。
社員さんに、どういう時に幸せを感じるか尋ねたところ、誰もが「お客様からありがとうと言われたとき」だと言いました。
ですから、圧倒的な顧客満足のホテルをつくろうと思いました。

橋本さんは、業績向上には自分の会社に誇りを持ち積極的に行動する「社風」と業界の固定概念を覆す「戦略」の2つの両輪が働かなければいけないと言われました。
圧倒的な顧客満足を得るには、業界の「固定概念」を覆さなければいけません。

道頓堀ホテル「選択と集中」例えば、道頓堀ホテルでは国際電話を無料にしています。
社員からは「そんなサービスどこもやっていない」と反対されます。
しかし、この固定概念を変えなければ、つまり社風を変え、新しいサービスをつくらない限り、他社にはない圧倒的な顧客満足を得ることはできず、利益も出ないということでした。

どんなに理念が浸透していても、固定概念を変える勇気を持たない会社はうまくいきません。
そこで、道頓堀ホテルで行われているのは「13の徳目朝礼」と「理念と経営勉強会」です。
勉強会の設問は社員が作ることにしているとのことですが、これをやっていくことで部署間の壁が崩れ仲が良くなっていったそうです。
最初は嫌がられましたが、「人が幸せになるためには、勉強する必要がある」と説得されました。
学ぶことで理屈が腑に落ち、固定概念を覆す新しい発想と行動が生まれてくるということでした。

さらに「改善提案制度」など様々な制度で社風を変えることに取り組まれ、次第に人間関係が変わり、以前とはまるで違う会社に生まれ変わったということでした。
ただ、そこに至るまでには社員が辞めるなどのいくつもの障害があり、諦めず時間をかけて取り組まれた成果であるということを、話の中で橋本さんが見せられた涙が物語っていました。

また、ホテルの生命線は「稼働率」にありますが、以前は近くにブランド力のある大手ホテルが進出、そこにお客さんを取られ、さらに閑散期があることで稼働率がどうしても低下していました。
さらにこれまでのビジネスホテルには「出張サラリーマンが安くで泊まれるようサービスを簡略化する」という固定概念がありましたが、限られたマーケットの中で価格を安くするのは意味がないと考えていました。

講師 橋本明元さん④そこで、「異なるお客様」に「異なる商品」を「異なる売り方」で提供することにしました。
まずは海外の、特に東アジア各国の日本とは異なる観光需要のピークに目をつけました。
日本の閑散期が他の国ではちょうど長期休暇にあたり日本に観光に訪れるというわけです。
海外からの観光客もこういう安いホテルに泊まるのに、海外のお客様向けに徹底的にサービスをしているビジネスホテルは他にありませんでした。
そこで「海外のお客様に徹底的にサービスをするホテル」をやることにしました。

大手旅行社の契約もやめ、ターゲットは香港、台湾、韓国など東アジアの個人客、そして20代女性が多いので、彼女らが喜ぶことを徹底的にやろうと考えました。
具体的サービスとしては、国際電話の24時間無料通話、パソコンの無料使用、さらにロビーは24時間開放で飲食可能にしました。
また、シャンプーなどを持って帰られても、問題視しませんでした。
一部のクレーム客から会社を守ろうとすると、かえって大半のお客様の満足を失ってしまうからです。

また、売り方も変えました。
普通海外旅行者は現地の旅行会社と日本のホテルとを結ぶ「仲介旅行会社」があるので費用がどうしても割高になってしまうのですが、橋本さんの海外で培った経験とネットワークを活かして直接現地の旅行会社に売りに行くことにしました。

ロビーで日本の文化・おもてなしを体験できるイベントもしています。
日本のビジネスホテルでこのようなイベントは嫌がられるのでどこもしませんが、そこまで海外旅行者に絞ったということです。
いずれ真似をするところが現れるかもしれませんが、これらはいずれも「面倒くさいこと」なので真似されにくく、結果的に差別化になるということでした。
そしてこれが何より「心に残る想い出づくり」という道頓堀ホテルの理念に基いており、現在の道頓堀ホテルの使命だということでした。

「世界中のお客様に日本のおもてなし、文化を体験・体感して頂き心に残る想い出づくりのお手伝いをしていきます。そして、一人でも多くの方に日本を好きになっていただけるよう努力いたします」
何のために経営をするのかが大事だと橋本さんは力説されました。
震災の時に、世界中のメディアが混乱の中でも整然と助け合い、分かち合い、励まし合う日本人の行動を称賛しました。
橋本さんはその姿を見て、この日本人の持つ美しい心やおもてなしの精神を世界に発信し伝えていくことが道頓堀ホテルの使命だと確信されました。
閉会宣言 森裕之さん謝辞 進藤耕一 副会長そして、人のために働くことこそが社員の満足をも生み、最高の結果を得られるのだということを教えていただきました。

講演後は同じTT仲間だったという進藤耕一副会長から謝辞が贈られ、担当委員会の森裕之さんの閉会宣言で終了しました。

講師の橋本明元さん、貴重なお話をありがとうございました。

また、参加頂いた会員の皆様にも感謝申し上げます。

【出席数】

会 員   :53名

オブザーブ :34名

合 計   :87名

4月は「経営計画書の活用で未来を創ろう!」です。
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