社員さんが差別化の源泉

5月の例会は「理念と経営」の勉強会を参加者で行うことで、勉強会の意義や効果を実感してもらうというものでした。
そのコーディネーターとして経営研究会の本部公式教材活用委員会レクチャラーの島幸司さんをお迎えして、最後に「自社の新たな価値を創造する」をテーマに島講師が代表を務める株式会社ミクセルさんを事例にした講演がされました。

株式会社ミクセルさんは2008年に島講師が創業され今年で11年目を迎えるという比較的新しい会社です。事業は「研究支援事業」と「ヘルスケア事業」。
研究支援事業というのは、国家予算で研究をされている方にメーカーから仕入れた研究用の機材を販売するというもので、商社としての役割が中心の仕事です。
販売するものは同様の会社であれば同じ製品ですから、当然差別化が必要になってきます。社員さんのホスピタリティや提案の質、あるいは納品スピードといった「周辺サービス」による差別化です。つまり、これらを提供できる人財、社員さんこそが差別化の源泉であり、その教育が重要な鍵を握っています。
ヘルスケア事業というのは、この研究支援事業を取り巻く環境が変化したことから新たに生まれたものだということです。

ミクセルさんでは、「経営理念が生み出す健全な社風が人を育む」と定義づけをしながら、そこでは「小学校や中学校の道徳で習ったことを素直に実践できる人」が集まることによって生み出されるのが「健全な社風」であるとしています。挨拶をする、仲間を助ける、頑張るといった正しく「小学校で習った」ことがキチンとやれることを大切にしています。
また、教育で重要になってくるのが「スパイラルアップ」していくことだと島講師は言います。健全な価値観を持った経営者が経営理念を打ち立て、それを社員さんに浸透させていくことで「お役立ち」の意識のもとで差別化になり得るサービスを提供できるようになり、成果が上がっていくことで評価が上がり本人のやる気も高まっていく、というスパイラルが出来上がっていくわけですが、途中に「学びによるレベルアップ」という機会が必要だということです。

まず、どのようにして経営理念を浸透させていったのかを教えてもらいました。
社長が自分の価値観を知り、その価値観を経営理念にまで昇華させることから始まります。その後、経営理念を浸透させるための「場づくり」、そして生み出された「健全な社風」に育まれた社員さんからお客様へ間接的に経営理念が伝わることで業績が上がっていくということです。
島講師はこれを日創研さんの研修や勉強会、朝礼といったツールを活用して構築していき、経営計画の策定から方針発表を通じて共有、日々の業務のPDCAを回すことで具体的行動に転嫁していくということでした。
この中で島講師が最も効果があったのが、今回参加者で行った「理念と経営」を使った社内勉強会だということです。

その一つの事例として、講師はある女性社員さんのことを紹介してくれました。
この方は入社してしばらくして産休に入ったので日創研の研修を受ける機会がありませんでした。そんな中でこの社内勉強会がスタートし、彼女も研修未経験のまま参加することになりました。

社会を知るための窓

始めて4ヶ月が経過したころの設問表に書かれた回答には「何のためにやっているのかわからない」「苦手」という言葉が並んでいて、目的意識がないまま、まさに「やらされている」という心情が明らかでした。ただ、その時の事例にあった「勉強会を8年続けたことで結果に表れた」ことに触れ「やり続けることで結果に結びつくのかもしれない」ということも書かれていました。
さらに経過して10ヶ月後の設問表に書かれていることを読んで講師は驚きました。その時の設問は「三位一体論」についてのことでした。彼女はその記事を読んでこのような感想を書いています。
「この記事を読んで、生産性=差別化ということがスッと入ってきました。ここ最近PDCAも差別化をテーマに考え行動しています。他社がやっていないこと、逆に自分達に無く他社がやっていることを客観的に見て考え行動することで差別化を図り、金額だけではないところで勝負していく必要があると思います」
彼女は日創研の研修を一切受けておらず、さらに先述の講師による体系化した人財育成による差別化についての説明も当時はしていなかったにも関わらず、「理念と経営」の勉強会だけで学び取っていました。そして2年近く経過した時の「あなたの会社の働く喜びは何ですか」という設問に対する回答では、2年前とはまるで違う心情が書かれていました。
「学び続ける環境がある点が、今働く喜びに繋がっていると思います。何も考えずに働いて生きるより、何倍も喜びに繋がっていると思います」
上手くいくかどうかわからないという不安を抱えたまま始めた勉強会だっただけに、わずか2年でここまで人が成長したということに驚きと感動を覚えたと講師は言います。
さらに、彼女は「理念と経営」の中四国ブロック大会で200人もの経営者の前で発表する機会を得てこう述べています。
「私は主婦です。他の仲間のように外部に行って勉強する時間がありません。だから私はこの「理念と経営」の勉強会が唯一社会を知るための窓なんです。私が社会において自分の力を高めるための唯一の場所なんです。だから私はこの会が非常に大事だし、大好きです」
彼女は仕事と子育てどちらも一所懸命頑張って取り組んでいます。限られた時間内で仕事をし、現場から家庭へ直帰するという毎日です。外で学ぶ時間はありません。でも、社会人として仕事人として知ること学ぶこと、そして人間として成長したいという欲求を持っている。そんな彼女の口から勉強会が社会と繋がる「唯一の窓」という言葉が出てきたことが講師にとってとても嬉しく、勉強会をやって良かったと思えた瞬間でした。
現在では、社員さんが自主的に休日に集まって勉強会をするほど熱心に取り組まれているということでした。

心が組織を動かす

島講師によると、ミクセルさんの中心事業である研究支援事業を取り巻く環境が近年大きく変化しているということです。国家予算の縮小や「働き方改革」による研究者の働く時間の短縮、さらには特定の情報や知識がインターネットによって広く手に入りやすくなったことでミクセルさんのような会社の存在価値が相対的に下がってきていることなどです。
これらのことはミクセルさんのような会社、業界だけのことではなく、人口問題や世界経済の問題とともに全ての会社、業界において関わりのあることで、この時代環境の変化に対する「新たな価値の創造」というのが待った無しの状態であることを理解しなければいけないと島講師は言います。
様々な分析や自社の技術や価値の棚卸を行なった結果、自社の価値と他社の価値を組み合わせることで新たな価値を生み出すことになりました。近年のイノベーションを見ても、異なるものを融合させることで「これまでに無い」新しい価値、サービスを生み出し成功している例がいくつもあることから、島講師の周辺の会社のサービスと自社の強み(営業力や販売ルートなど)を掛け合わせることにしました。
このような自社だけでなく他社や大学、地方自治体などの異業種がそれぞれの技術や知識などを組み合わせて新しいビジネスやサービスを開発することを「オープンイノベーション」と言いますが、経営研究会はまさにこの土壌に成り立っているものであり、この中での繋がりは財産であると島講師は言います。

ミクセルさんの経営理念は

「人々の健康な日々と大切な人の笑顔の為に、自らの心と力を磨き、新しい価値づくりに挑み続けます。」

ですが、これは創業時にできたものではなく、3年後のある出来事がきっかけでした。
それは島講師の義母の癌による死でした。孫娘の結婚式まで生きたいと願いながらも亡くなった彼女は、会うたびに細くなっていく腕で島講師をハグし「頑張ってね」と創業3年目の島講師を応援し続けてくれました。
島講師はミクセルさんを創業する前、役員として勤めていた会社が倒産をし、残された社員さんを守るために会社を創業したことから、それまでは「自分たちのため」に働いていたと言います。しかし、この義母の死を通して、癌などの病気と闘う患者さんのために医師や研究者は日々努力し、それを支えるのが自分たちの仕事であるということに気づきました。自社の使命に気づいた島講師は改めて経営理念を定め、その中に「新しい価値づくり」という使命を盛り込みました。
ここから、他社の製品を使って直接顧客にサービスを提供する「ヘルスケア事業」を新しく始まりました。これも自分たちの親世代が高齢になり健康を維持するための器具と施設の必要性から生まれた事業で、この「誰かのために」という心に響くストーリーが大事だと島講師は言います。これまでとは違うやり方やまったく新しいこと、つまり「変わる」というのはとても難しいことです。社会環境や会社のためという「ドライ」な戦略的なことだけでは人を動かすのは難しいのですが、特に身近な存在や直接困っている人たちを知ることで生まれる「誰かのため」という心情は人を動かします。研修などを通じて「健全な価値観」を育み、理念が浸透されることによって「社会の役に立ちたい」という思いが組織を動かし、新しい価値が創造されていくことになると島講師は言います。

学ぶ組織にするために

ここで重要になるのが具体的な知識や技術、あるいは社会環境や情勢などを社員さん一人一人が知ること学ぶことです。そのためには「学ぶ」ということが会社の風土として根付いていなければいけません。
先に紹介された女性社員のように最初は社内勉強会を苦手としていながらも、続けることで「社会を知るための窓」だと捉えることができた。そして今では社員さんが自主的に休日を使って勉強会をするまでになっています。「学ぶ組織」にするのは容易なことではありませんが、ミクセルさんの事例は「理念と経営」の社内勉強会がそのスタートアップとしてうってつけであることを表しています。
これからの日本を取り巻く環境はますます厳しく混迷を深めていくことになることがわかっているので、社内の変革、特に組織の「マインドイノベーション」が急務だと最後に島講師は警鐘を鳴らしていました。

島幸司講師、ありがとうございました。
ご参加の皆様にも改めてお礼申し上げます。