東京経営研究会4月例会では、大正12年創業・愛媛県の飲食企業・株式会社マルブン 代表取締役会長 眞鍋 明氏にご講演いただきました。「100年企業への道〜共感される経営理念の再認識〜」をテーマに、100年続く経営の本質、理念をどう浸透させるか、そして正解なき時代を明るさと仲間の力で乗り越えるヒントを、豊富な実体験とともに熱く語っていただきました。
百年企業の真実と「八箇条」の教え
「100年企業にしようと思ったことは、一回もありません」——眞鍋氏は冒頭、会場の予想を鮮やかに裏切る言葉でスタートしました。
取材で「100年続いた秘訣は?」と問われた際の答えは「今日来てくださった一組一組のお客様に喜んでもらおうと、毎日真剣に仕事してきただけです」というシンプルなもの。100年はあくまで結果であり、「今日のお客様に喜んでいただく」という変わらぬ姿勢の積み重ねだったと語ります。
5代目に事業を引き継ぐ際に伝えた「八箇条」は、先人から受け継いだ知恵と自身の経営哲学を凝縮したものです。
①人を喜ばせること
②受けた恩は決して忘れないこと
③分相応に世を渡ること
④家族・兄弟・親戚と仲良くすること
⑤小さなお金を大事にすること
⑥お金を使う時は金離れをよくすること
⑦人の育成に時間とお金を惜しまないこと
⑧当社に関わるすべての人に幸せを感じてもらえること
経営理念も業態も変えていい、しかしこの八箇条だけは守れ——世代を超えた経営の軸がここにあります。
「社長」と「経営者」の本質的な違い
「社長は1円あれば誰でもなれる。でも経営者は違います」と眞鍋氏は語ります。
参加者がディスカッションした後に示されたのは「時代がどう変わろうとも、経営をやり続けて会社をよくしていける人が経営者だ」という定義でした。登記さえすれば誰でも「社長」を名乗れますが、「経営は変化対応業」であり、何が起きようとも会社を前に進め続ける覚悟こそが経営者の本質だと断言しました。
「社長」という肩書きに安住するのではなく、変化対応業としての「経営者」であり続ける——この問いかけが参加者に強く刺さった場面でした。
アンテナの正体は「理想と現状のギャップ」
「感性のアンテナを立てなければいけない」——経営の場でよく耳にするこのフレーズ。しかし「アンテナとは具体的に何か?」と突き詰めて考えたことのある経営者は少ないのではないでしょうか。
眞鍋氏の答えは明快です。「アンテナとは、理想の姿と現状のギャップのことです。」こんな会社にしたい、こんな社風にしたいという理想を持っているからこそ、目の前を通り過ぎる情報が「引っかかる」のです。理想の姿がなければ、どんなにいい情報が目の前を通り過ぎても、素通りしてしまいます。
また、松下幸之助氏の教えとして伝わる「経営の3条件」も紹介されました。絶対条件(50%)は「経営理念の確立」、必要条件(30%)は「企業文化・社風づくり」、付帯条件(20%)が「戦略・戦術」。この順番に取り組むことが成功への王道だと力を込めました。理念(アンテナの先端)を明確にすることが、すべての起点なのです。
理念浸透の鍵は「価値観の共有」から始まる
「理念がなかなか職場に浸透しない」——多くの経営者が抱えるこの悩みに、眞鍋氏は「7つの共有化」の理論で答えます。理念の浸透がうまくいかないのは、その前段階の「価値観の共有」ができていないからだというのです。
眞鍋氏が実践したのは、自分の価値観を社員に語り続けること。「なぜこの理念になったのか」「お金に対してどういう価値観を持っているか」「なぜ利益を上げなければならないのか」——そうした経営者の価値観が伝わってこそ、理念は血肉になっていきます。
また、あるアルバイトスタッフが「個客満足の向上って、どういう意味ですか?私にもできるんですか?」と質問してきた体験談も紹介されました。難しいカタカナ用語ではなく、現場で働く一人ひとりに届く言葉で理念を語ることの大切さを説いた言葉——「理念は誰のためにあるのか。現場の皆のためにある」は会場に大きな共感を生みました。
経営者の仕事は学びと健全な危機感を伝えること
「社長は幹部の10倍、幹部は社員の10倍勉強しなさい。つまり社長は社員の100倍勉強しなさい」——学びの場で得たこの言葉を、眞鍋氏は今も実践し続けています。
「頭が空っぽでは考えることができない。正解が分からない時代だからこそ、知識と知見を蓄えた人だけが正しい意思決定ができる」と語ります。経営者の仕事の本質は「意思決定」であり、そのための学びを怠れば時代の変化に乗り遅れてしまいます。
さらに「経営者のもう一つの仕事は、健全な危機感を伝え続けること」とも語りました。「うちは一番業績がいい」と口にした途端、その年の業績が大きく落ちた実例を挙げながら、安心感が組織の緊張感を奪う怖さを説明。危機感と方針(突破口)をセットで伝えてこそ、社員は萎縮せず前を向けるのだと強調しました。
明るさと仲間の力が正解なき時代を切り開く
講演の締めくくりで眞鍋氏が繰り返し強調したのは「明るさ」の重要性です。「明るさは最も尊い徳だ」という学びを実践し、本気で仕事をしている人は例外なく明るいと語ります。難しい顔でうつむいていても何も変わらない——この言葉は会場全体に温かな空気をもたらしました。
もう一つのキーワードは「仲間」。「友達は少なくてもいい。必要なのは仲間だ」という言葉を引用しながら、経営研究会という場が「自分の夢を一緒に叶えてくれる仲間がいる場所」だと語りました。一人では見えない景色も、仲間と共に学び続けることで開けてくると力強く伝えました。
「成功の階段は、上に行くほど空いている」——この最後の言葉が講演全体を象徴していました。正解が分からない時代だからこそ、一段踏み出すことに意味がある。「エラー・アンド・ラーン」の精神で、明るく仲間と歩んでいけば必ず道は開ける——参加者一同、深い学びと勇気をいただいた例会となりました。
参加者の声
「理念浸透は価値観の共有から始まるという気づきがありました」「アンテナの正体がわかった」「明るさの重要性を改めて実感した」「100年続く経営の秘訣は、シンプルな誠実さにあると感じた」など、多くの感想をいただきました。
眞鍋会長には、大正12年創業から続く経営の真髄と、実践に直結する深い学びをお話しいただきました。誠にありがとうございました。


