第1部 講義「感性経営の10原則」

時代は理性から感性へ

今回は感性論哲学の第一人者である芳村思風先生をお招きして「感性経営の真髄を学ぶ」というテーマでお話をして頂きました。

激動激変している現代社会において、どのような経営姿勢で臨むのかということが大きなテーマとしてあるわけですが、動き続ける中で大転換期を迎えた時代が我々にどのような変化を求めているのかということです。
山口県萩にある吉田松陰のお墓のそばに、吉井勇という詩人が松蔭を思って書かれた詩が刻まれている歌碑があります。
「萩に来て ふと おもへらく いまの世を 救はむと起つ 松蔭は誰」
今こそ勇気ある大変革の人物を求めたものです。

では、なぜこれまでの理性経営ではなく「感性経営」に変わっていかなければいけないのでしょうか。その根拠を考えると、まず20世紀から21世紀にかけて「人間とは何か」という「人間観」が劇的に変化している事実があります。
これまでは「人間の本質は理性である」と言われ、理性的になることが重んじられていました。すべての物事を考えて合理的に処理する能力が求めれ、理屈が通れば全て上手くいくと考えられてきました。理性を中心に仕事をし、人と関わってきたわけです。
ところが、理性で生きてきた結果、自然破壊、環境破壊、人間性の破壊を招き、多くの人が苦しめられるということになりました。特に人間性の破壊は科学技術によって回復させることは難しく、戦争などの対立し傷つけ合うというのは理性で乗り越えることはできない。つまり、理性が成長すれば成長するほど心は見失われ、人間性が無くなっていくのです。
理性で仕事をするというのは、義務と責任で仕事をするということです。義務や責任を「果たさなければならない」ということから仕事をしていくと「理性的ストレス」が生じ、心や肉体を病み、果ては自殺するところまで追い込まれてしまいます。

一方、理性的な経営というのは支配と命令と管理の経営です。理性で組織を支配する「支配力」というのが理性的な経営においては能力として求められます。命令して人を動かす力が無ければ組織を率いていくことはできず、ある決められたことに対して従わせるという「管理力」も求められます。このように人の心や感情、状況を無視した思いやりや心遣いの無い、只々理性的に従わしめようとする経営を理性的な経営と言います。
この支配と命令と管理による理性的経営は昨今「パワーハラスメント」という形で問われることになっています。これは、多くの人が理性的経営ではいけない、理屈よりも心が欲しいと願っている現れなのです。このことが、理性の時代であった近代の終焉を宣言し、理性ではない新しい時代を作っていこうとする思いが起こっていることを意味しています。

感性による新しい経済システム

そしてこのことは、人間の本質は理性ではない、人間の本質は心であり感性だとする「人間観」の変化を起こしています。理性で自分の欲求や欲望、感情、本音や実感というのものを抑えつけ、決められたことに従うという生き方から脱却しなければならない。理性の抑圧から解放されなければ、本当の喜びのある幸せな人生は生きられないということを多くの人が考える状況になっているわけです。
これが経済界においても資本の奴隷となるような経済システムである資本主義を根本的に変革しようとする「脱資本主義」がテーマになっています。自分を苦しめるような経済活動ではなく、経済活動をすることで自分が解放され喜びを感じることで人間として成長できるという新たな経済システムが求められているのです。
これは、一つの考え方で全体を縛り、個性を奪うという統一した秩序の作り方、考え方や価値観を統一することによって団結力を高めるというやり方は終わったことを意味しています。理性的に統一するという考え方から、様々な考え方や価値観、個性を「統合」させ、その相乗効果によって成長発展するという考え方に変わっていっているのです。

現在は、これまでの理性経営=統一経営から感性経営=統合経営へといったように、あらゆるものを原理から変えていこうとする大転換の時代(原理的創造の時代)であるわけです。
原理的創造の時代というのは、「自由独創」時の流れを自分が創るという生き方が求められています。時の流れに遅れないように「ついて行く」という消極的な生き方ではいけません。
自分が創った道に皆がついて来る、という高いリーダーシップを発揮するのがこれからのリーダーの役割です。つまり、これまでの常識を覆す「非常識」な人でなければ時代を変えることはできないということであり、アメリカのトランプ大統領も時代から求められた人物だと言えます。彼が新しい時代を創れるかどうかはまだわかりませんが、少なくとも新しい時代を創るためには古い時代を壊さなければいけないからです。

感性経営10原則

しかし、現在はこの人類史上初めての大転換期の入り口であるということ。思風先生はこの大転換は人類史上初めてのものだけに今後100年かけて行われるものであるから、これからもっともっと悪くなっていくことが予想されると言います。悪くなることによって「我こそは」という大人物が現れこれまでとは全く異なる社会、システムが起こってくる。
それだけに、我々はこれからの未来を見据えて今何をするかを考えなければならない。それだけに未来とは、夢とは、理想とは今を生きる原動力なのです。だからこそ、今を全力で生きるためには未来や夢から考えた行動計画、経営計画が必要なのです。

理性による支配の経営から「愛の経営」へ、愛の経営とは思いやりや心遣いを全面に出して社員さんに接し、理屈は後回しにする経営。さらに命令の経営から「対話の経営」へ、対話してお互い納得ずくで行われるような経営。そして管理の経営から相互に助け合う「パートナーシップの経営(ありがとう経営)」へ、お互い足らない部分を補い合い感謝し合う経営。これはリーダーとそれを補うフォロワーがいてはじめて団結力が生まれてくる。このような感性経営でなければこれからの社会においてはすぐに淘汰されてしまいます。この将来的な感性経営を見据えて今を変えていかなければいけませんし、今から取り組んでいかないと間に合いません。感性経営10原則の一つ目はこの「愛と対話とパートナーシップによる経営」です。

また、これまで仕事と役職のつながりによって合理的に作られたシステム、理性によって動いていましたが、これからは人間の本質である心のつながりが企業の土台に据えなければならない。心のつながりの上に仕事のつながり、役職のつながりがある三次元構造による経営が求めらます。感性経営二つ目の原則は「心の通ったぬくもりのある経営」です。これは働く人が持つ、認めてられたい、わかってもらいたい、褒めてもらいたい、好きになってもらいたい、信じてもらいたい、許してもらいたい、待ってもらいたい、という7つ心の叫びを満たしてあげることです。これらを満たしてあげる努力をすること、相手のための努力とは愛があってできることであり、努力を見せることで相手に愛を感じさせることができるわけです。心のつながりさえあればどんな壁でも乗り越えられます。これからは全人類が心のつながりを持つ努力をしていくことなのです。

そして、問題が無ければ成長はしませんから、これから求められる感性経営の3つ目は「問題を恐れない経営」です。ほとんどの人が問題が出てこないことを望み、問題が出ないように取り組みますが、これは理性がそうさせるです。問題を恐れず、問題は自分を成長させるために与えられたものだと感じ取るようにならなければいけません。つまり、理性によって成長を止めようとしているからこそ行き詰まって死に至るわけですから、感性によって問題を受け入れることで変化を促し成長していくことが必要なのです。

4つ目は変化によってマンネリ化を打破し、より良い未来を創り出すための「変化をつくりだす経営」。5つ目は「仕事に死ねる愛の経営」。「これで死ねる」というのは究極の愛の現れであり、この仕事のためなら死ねるというのは最高の取組姿勢だと言えます。同時にそれほど打ち込んだ仕事でなければプロではありません。このことから6つ目は「最高の満足を与え、最大の信頼を得る経営」です。これはどの職業においても共通する経営理念です。7つ目は「不可能を可能にする経営」。プロの仕事とは限界への挑戦が無ければなりません。8つ目は「利益が出る仕組みをつくり続ける経営」。経営者は社員さんが働いてくれれば利益が出る、という仕組みをつくるのが仕事です。9つ目は「結果が出るまでやめない経営」。やり始めたら結果が出るまでやり続けることが成功の秘訣です。感性経営10原則の10番目は「仕事を通して人格をつくる角熟経営」です。人には長所も短所もあり、どちらも活かさなければ成長しません。長所を伸ばすと短所はその人の「味」になります。長所短所があってこその人の個性ですから、短所が削られていっての円熟というのは個性を失った面白みのないことを指します。長所短所があってこその個性ならば、短所はその人の「味」としてそのまま熟成されていく「角熟」であるべきなのです。個性を殺さずそのまま活かして伸ばしていく角熟経営が求められています。

第2部 東京 白熱教室

感性による社員さんとの関わりとは

第2部は感性経営について学びを深めるために「東京 白熱教室」として様々な形式でのディスカッションに取り組みました。
テーマは、会員企業からとった「業績アンケート」の中にあった自社の問題点、経営課題で多かった項目を取り上げました。「人材育成」「人の定着」「人の育て方」にスポットを当ててディスカッションしていきました。
最初に芳村思風先生、藤野隆司室長、太田監事によるパネルディスカッションで、テーマは「社風と定着率の向上、人財教育の課題は何か」です。
まずは太田監事から自社ついて語って頂きました。
最近新卒で入社し10年という社歴の方が辞められたそうですが、これからだと考えていたところ不意をつかれた形で辞められたので、どこに反省すべきところがあるのかと、今回の感性経営の学びから探っていたとのことでした。

これを受けて思風先生は、大事なのは辞める理由がそれぞれありますから、それをしっかりと聞いた上でこれからの会社の改善に活かさせてもらうという姿勢、そしてこれまで働いてくれた労いと感謝を相手に伝えて送り出してあげるという「終わり方」が大事だということでした。同時に、辞めていく人からも感謝の言葉が出てくるかどうかで日常の関わり方に課題を見つけることができるということでした。
普段から社内全体として関わり合う社風、一人にすることなく、常に気にかけ声を掛けあえることが大事。声を掛けるというのは「心の架け橋をかける」ことなので、挨拶やちょっとした声掛け、心遣いができる社風づくりが大切だということでした。

さらに太田監事からは、相手に共感できるリーダーが求められているが、下手をすると相手を甘やかすことになるので、その加減について訊きました。
思風先生は答えました。過ぎたるは及ばざるが如しで、何事もやり過ぎはいけないので、共感しつつも相手に言うべきことは伝えなければいけない。この時重要になってくるのが「目」だと思風先生は教えてくれました。相手をどのように見るのか、叱っていても愛があればそれは目に表れると思風先生は言います。相手は言葉だけでなく、目つきや表情、態度からその本心を感じ取りますから、対応の仕方を身に着けなければいけません。本質は心ですから、そのためには心を磨かなければならない。心を磨くためには「気づく」ということが大切で、色んなものを見聞きし感性を養わなければいけないということでした。

感性経営の具体的実践例

この後、グループディスカッションを挟んで、会場の参加者からもテーマに沿った質問があがり、近年事業承継をしたという経営者の方から「角熟経営」についての質問がありました。
特に会社では自分よりも年上の社員さんが多い中で、どうしても言われるがままに聞き入れてしまいがちなので、相手の個性を伸ばすというよりは単に甘やかしているに過ぎないのではないかということでした。

これに対して思風先生は、こう答えました。角熟とは長所も短所もそのまま活かして成長することであり、角熟経営とは社員さんそれぞれの個性=長所短所を活かす経営のこと。この場合、短所を直そうとせず、長所を伸ばすことで短所をその人の「味」つまり個性として活かそうとすることが大事になってくる。ただし、質問者が心配する通り、何もかもを聞き入れるだけでは個性が活かされることはない。特に自分よりも年上の人に対しては自分から「質問」していくことが良いということでした。自分よりも経験者である人に対して言いたいことを言わせるのではなく、自分から質問をして「引き出す」ことで、参考になったところは素直に褒めてあげて自分なりに活かしていくことでその人が活きてくるようにするということでした。

人は皆それぞれその人だけの能力や可能性を持っており、それは長所と短所を合わせ持ったその人の個性にある。だからこそ、経営者はそれぞれの能力や可能性を開花させるよう「活かす」ことを考えなければならないと思風先生は言います。それだけに経営者には社員さんの能力や可能性を見出してあげようとする愛の力と、引き出してそれに気づく力を持たなければいけないということを教わりました。

次に、感性だけの会議を開くと賛成反対色んな意見がでて、それをすべて聞いているといつまでたってもまとまらず前に進まないのではないか、という質問が出ました。

思風先生は最初に、経営者になるというのは最後には決断をする人になるということ、だから他人の言動に惑わされず自分が進むべき方向を決められなければならないと伝えました。その上で、会議の場とは経営者が決めたことに対して意見を聴く場であり、経営者が決めたことに対して問題点を指摘する人がいてもそれは問題点を教えてくれたものとして受け入れ、その人に問題の対処を任して考えてもらうようにすることだということです。
ここで重要なのは、単に人の意見は聴くけれども自分の意見を押し通す、ということではなく、反対意見を聴いた上でその解決策をその人に任せるということ。講義の中でも問題というのはその人を成長させるために与えられるものであり、問題に気づいた人だけがそれを解決し成長することはできない。つまり、反対意見を持っている人は問題に気づいている人なのだから、それを解決して成長させる機会にしてあげる、受け入れて任せるというのはその人を活かすことになる。これは経営者が持つべき感性だということでした。
同時に、会議は意見を聞く場ではあるが、その意見よる結論をその場で出してはいけないということでした。意見を聴いた上でその場で結論を出してしまうと、賛成反対意見がある中で一方の意見だけを取り入れたということになり派閥を生むきっかけとなってしまうからです。経営者が決断したことは一切ぶらすことなく、意見を取り入れ、それぞれに対処を任していく、これが感性経営だということでした。

理性と感性の構造と命を燃やす生き方

上場を目指している経営者からは、上場を目指す上では理性経営が求められるが、この時の理性経営と感性経営のバランスをどう捉えれば良いか、という質問が出ました。

上場つまり株式を公開するということは「量」を追うことでありこれはそのまま理性であり、対する感性は「質」を追うことだと思風先生は言います。量を追うということには限界がありリスクもある。下手をすれば株式を買い占められることもある。だからこそ、上場を目指す上では量を追うと同時に質も高めることが重要だということでした。つまり上場(量)のためだけに理性経営をするのではなく、理性的な活動をする中で感性(質)を高める取り組みをすべきだということでした。

このことについて別の方から、感性経営10原則のうちの「利益が出る仕組みをつくり続ける経営」に対して「利益が出る仕組み」が理性だと思われるが、これをどのように捉えればいいのかという質問が上がりました。

思風先生は、会社を作るということが利益が出る仕組みを作ることであり、利益が出る仕組みが出来てから社員さんを雇う、これが根本だと言います。社員さんというのは経営者が作った「利益が出る仕組み」の中で働く。経営者が利益を出すのは社員さんの生活を守り幸せにするためであり、経営者は社員さんのために働く。経営者が社員さんのために働き(利益が出る仕組みづくり)、社員さんはその仕組みの中で消費者のために働く。
「利益が出る」というのはその事業が社会から求められている仕事だからこそであり、利益が出ない赤字になるというのは社会に求められていないことであるからやってはいけない。つまり利益を出すという経済活動が理性ではなく、求められていない事業なのに量を追うといった活動が理性経営だということです。

理性と感性についてはバランスが大事だという人がいるがそれは間違いで、二性をどのように協力して働かせるかその「構造」が大事なのだと思風先生は言います。理性が成長しなければ問題が起こっても解決させられない。だから人間が生きていく上で理性は必要。
ただし、あくまで主体は感性であり、その感性を理性で支配してしまうと感性は死に、つまり己自身が死ぬことになる。感性とは欲求や欲望、本音と実感であり、これは命から湧いてくるもの、生きる原動力であるから、これを理性で抑えつけてしまうと生きることができない。
だからこそ理性と感性を同等のものとしてそのバランスを取ろうというのは、それ自体が理性で感性をコントロールしようとしていることである。主体はあくまで感性であり、理性は生きていく上での「手段能力」として使わなければいけない。

職業とは自分の欲求や欲望、本音と実感を実現させること、つまり自分がやりたいことで人を喜ばせることだと思風先生は言います。したくもないことをやっていても人は喜ばないしお金も儲からない。だからこそ、今やっている仕事の意味や価値、値打ちや素晴らしさを理解し、自分の仕事は凄いことで命をもかけられるというほどにならなければいけない。それではじめて人を喜ばすことができる。命を燃やして人を喜ばせる、これこそが人生。だから経営者もどんな経営者になりたいのか、なりたい経営者像を確立しなければいけないということでした。
さらに、現在のグローバル化社会とその先の社会のことを考えると、命を燃やしてやるからには本気で「世界一」を目指して経営することだと思風先生は熱弁されました。

後半は「白熱教室」として全体で感性経営についてディスカッションをし、疑問を思風先生にぶつけるというものでしたが、参加された皆さんがそれぞれの感性を発揮してとてもエネルギーの高い素晴らしい場となりました。
芳村思風先生ありございました。
また、参加された皆様にも改めて感謝申し上げます。