【社会保険労務士/大谷さん⑥】
厚生労働省は、労働環境が劣悪な「ブラック企業」に関して、9月1日に実施した無料電話での特別相談の結果を公表しました。1042件の相談があり、その内訳は「賃金不払い残業」が全体の53.4%を占めて最も多く、次いで「長時間労働・過重労働」(39.7%)、「パワーハラスメント」(15.6%)と続きました。「賃金不払い残業」の対策となる「定額残業代の運用」と「パワーハラスメント(職場のいじめ・嫌がらせ)」については既にこのfacebookでも取り上げましたので、今回は「長時間労働のリスク」について取り上げます。
長時間労働には様々なリスクが伴いますが、中でも怖いのが「過労死」です。過労死が業務上の災害(以下「労災」)として認定されるケースとして、仕事の疲れが原因となり脳卒中や心筋梗塞などで死亡するケースや、ストレスにより精神疾患となった結果の自殺などがあります。
過労死(脳卒中や心筋梗塞)の労災の認定基準は、「発症前1か月間に概ね100時間または発症前2か月間ないし6か月間にわたって、1か月当たり概ね80時間を超える時間外労働が認められる場合には業務と発症との関連性が強い」ということです。つまり1か月の時間外労働が80時間を超えることが常態となっている人がいたら、要注意ということです。
従業員の過労死が労災として認定され、国から労災給付が受けられたとしても、会社が遺族から追及される損害賠償責任から逃れられるわけではありません。ただし、労災給付が受けられる範囲において減額されます。
会社には安全配慮義務があります。労働契約法第5条に「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」と規定されています。
労災が発生した場合、会社に安全配慮義務違反があれば、会社が責任を問われることになります。時間外労働時間が多くなればなるほど、会社が安全配慮義務を果たしていないと判断される可能性が高まります。その場合には、遺族は会社に対して民事上の損害賠償請求が可能です。この場合の損害賠償額は実損額全額であり、慰謝料も請求できます。
判例を見ますと損害賠償額は様々ですが、長時間労働で過労死となった場合は、1億円程度の損害賠償が発生する可能性があると考えてください。さらに「ブラック企業」という汚名を背負うことにもなりますので「泣きっ面に蜂」です。
長時間労働の削減は重要な経営課題の一つと考え、早急に対応してください。
社会保険労務士大谷事務所
所長 大谷雄二
http://www.ohtani-group.com/