テレビのレンタルからスーツケースのレンタルへ

shigemichi3今回の講師は広島で保育園事業をされている株式会社アイグラン(http://www.aigran.co.jp/)代表取締役の重道泰造さんです。

重道講師は二代目で、創業は昭和41(1966)年に父親が始めた入院患者向けのテレビレンタル事業で社名も当時は「アイ貸テレビ」でした。

「アイ貸テレビ」に入社後、平成8年に31歳で社長に就任をされたのですが、テレビレンタル事業一本での経営に危うさを感じていました。

重道講師は入社前に食品商社に勤めていて海外出張も多かったので、その経験から旅行用スーツケースのレンタル事業も始めました。

この時に社名も「アイレンタル」に改められました。

当初50個で始めたスーツケースのレンタルも、今では常時在庫5000個取り扱っており、宅配レンタルの業界でもトップになっています。

しかし始めた当初は苦戦します。当時すでに同業が広島市内に7社ほどあり最後発だったので、顧客の獲得に苦労しました。

転機はJTBの、当時中四国営業本部という大手と取引ができたことでした。
でも、本当の転機はその後にあります。

旅行業界の伸び悩みからJTBは中四国営業本部を西日本全体の中にまとめ、その拠点を大阪に移したのです。

広島からより大きな市場の大阪に移動したということになれば競争が激しくなり、大阪の競合会社にかなわないと諦めてしまいがちです。

しかし、重道講師は可能性を信じて大阪へ赴き改めて取引を成立させました。

これがきっかけで、結果的に全国のJTBとの取引をすることにもなり、スーツケースレンタル事業の躍進につながりました。

この時に重道講師が考えられたのは「やってみないとわからない」「駄目でも損になるのは大阪までの電車賃だけ」ということでした。

ピンチでも積極的に行動することで飛躍

shigemichi6第二の転機は現在の保育園事業に取り組むきっかけです。

ある時、東京で病院の中にそこで働く職員向けの保育施設を作った会社があるという雑誌の記事を目にします。

当時まだ病院のテレビレンタル事業をやっていたので、何か関係があるのではないかと考え、その会社(神奈川)を訪れます。

話を聞くうちに興味が湧き、無理を言ってその会社のフランチャイズにしてもらい、レンタル事業の傍ら広島市内でベビーシッター業務に取り組み始めました。

とは言え、当時はまだレンタル事業が順調であったため、ほとんど放置された状態にあったのですが、きっかけとなった大事件が起こります。

2001年のアメリカ同時多発テロが勃発。

この時の主力は海外旅行向けのスーツケースのレンタル事業だったので、このテロによって海外旅行がほとんど無くなり、売上がゼロに。

これは一時的なものではありましたが、重道講師は「次に同じようなことが起こったら必ず会社は潰れる」と考え、現主力事業の「危うさ」を痛感しました。

経営者の一番の使命は「社員さんの雇用を守ること」だと考える重道講師はスーツケースレンタル事業とは異なる事業に取り組む決意をしました。

そこで出てきたのが放置されていた「保育事業」でした。

今でこそ「待機児童」という言葉もあって保育事業は「ニーズに合った事業」と捉えられがちですが、重道講師が始められたのは「待機児童」という言葉すらない16年も前のこと。

当然、周囲からは「うまくいくはずがない」と猛反対されました。

さらに当時はまだ認可保育園に民間会社の参入が許されていませんでしたから、重道講師自身も容易に成功するとは思ってはいませんでした。

shigemichi4それでも取り組みを決意したのは「雇用を守る」という経営者としての使命、信念からでした。

決意をしての取り組みでしたが、当時は今とはまるで違う環境ですから上手くいくはずもなく、始めてから3年は売上がほとんど立たない状態でした。

4年目にようやく事業所内保育園運営を受託し、認可保育園の開園はさらにその4年後の2008年でした。

民間会社が認可保育園を運営することなど「あり得ない」という状況において、重道講師はやはりここでも「やってみないとわからない」という思いから広島市のベッドタウンであった廿日市市の市役所を訪れ、初めての認可保育園の開園に漕ぎ着くことができたのです。

「ピンチはチャンスと言いますが、当時はただただ必死だった」と重道講師は言います。

アメリカ同時多発テロによって海外旅行者がいなくなったのはおよそ1ヶ月間ほどであり、息を潜めて待っていればいずれ元の日常が戻ってきたことでしょう。

恐らく大半の同業他社にとってこの事件は「大変だった」という思い出でしか無いかもしれませんが、重道講師にとっては「飛躍するきっかけ」になったのです。

同じ経験をしても捉え方によって行動が変わる、「やってみないとわからない」として実際に行動をすることが大事。
だからこそ「行動こそ真実」というのが重道講師の信条だということでした。

「やってみよう」と思ったらとりあえずやってみて「駄目だったらやめればいいし、良かったら続ければいいし、まずかったら変えればいいだけ」のこと、一歩踏み出さないと何も変わらない。
やってみても損をするのは交通費程度のお金と固定観念、自分のちっぽけなプライドだけ。

そう考えれば何も恥ずかしいことはないし、何でもできるはずだ、だからこれからも「行動こそ真実」を信条にして頑張っていく、と重道講師は力強くお話して下さいました。

頑張るお母さんたちの一番の応援団になる

shigemichi2次に重道講師が保育園事業を行っていく上で大事にしていることについて教えて下さいました。

現在アイグランが運営している200以上の企業内保育園のうち、大半は病院です。

その理由は、他の企業や学校などと違って病院は24時間体制なので一般の保育園に預けて働くというのが難しいことが挙げられます。

さらに、看護師の大半は女性であり、医師も女性が増えてきて、女性の割合が非常に高い職場だからなのです。

また、病院というのは、同じ患者数に対する看護師や医師といった有資格者の数によって収入(診療報酬)が異なるので、「院内保育園」というのは単なる福利厚生なのではなく、「職員の確保」という経営上の死活問題に対する取り組みなのです。

特にこれは地方において深刻で、入院設備の整った病院が地域に一つしかないというところがたくさんあり、この場合病院の存続はその地域の死活問題にまでなってしまいます。

ですから、重道講師は自分たちの仕事は地域医療と生活を支えているのだという責任感と誇りを持って取り組み、特にそういった地方での取り組みに力を入れているということでした。

もう一つの課題は最近問題となっている「待機児童」についてです。

国も「待機児童」解消に向けて保育園を増やすよう取り組んではいますが、中々減っていきません。

これは「待機児童」のカウントの仕方に原因があり、預けようとしたけど預けられなかった児童の数以上に、預けられるなら働きたいという「潜在的待機児童」がその10倍はいるからだと言われています。

公式発表でも「待機児童」は毎年2万数千人で推移していますが、「潜在的待機児童」は50万人とも60万人とも言われています。

これに対して保育園は全国で2万3千ヶ所ほどありますが、そのうち民間会社が運営している保育園は600ヶ所、それ以外は公立もしくは社会福祉法人が運営しています。

これは民間会社が保育園を運営できるようになったのが小泉内閣時の規制緩和策によって始まったことで日が浅く、なおかつそれまでは既得権の塊のような許認可事業なので中々増えていかないということでした。

shigemichi5さらに、民間会社が運営する600ヶ所の保育園の殆どがニーズの多い東京と神奈川に集中しており、アイグランのように地方で運営する民間会社は極めて稀です。

重道講師はこの事業は「国策」であると捉えて取り組んでいるということでした。

その一方で、民間会社が運営する以上は他の産業同様に利用する方を「顧客」と捉え、顧客満足を追求していかなければならないとも考えています。

つまりそれが理念でもある「正確性と相手の立場に立って思いやる心」を持ってきめ細やかなサービスを提供していくということなのです。

そのサービスは特に働きながら子供を育てているお母さんたちを応援する気持ちから生み出されており、食事は園内で天然素材を使って手作りされたものを提供するなど、忙しい中どうしても子供にしてあげられないところを一緒になって育児に取り組むという姿勢で行われています。

特に病院では24時間体制の中で、普通なら家で休んでいるはずのところを仕事のために子供を保育園に預けています。

こういったお母さんたちの子供に対して後ろめたい気持ちや不安を無くすためにも、睡眠時の呼吸のチェックなど決められていること以上のこと、つまり家にいる以上に安全な体制をとることで、頑張るお母さんたちが心の負担を減らし「自己承認」できるような取り組みをしているのです。

重道講師は以前あるお母さんから聞いた話が未だに忘れられず、それが今の保育園の運営姿勢に影響を与えたと言います。

それは、そのお母さんが保育園に子供を預けていた頃は謝ってばかりだった、というのです。

預けている子供の調子が悪くなって急に迎えにいかなければならなかった時には職場の人たちに謝りながら早退をし、また仕事で迎えに行くのが遅くなった時には子供や保育士さんに謝る。

人に対して申し訳ないと思う気持ちは大切ですが、お母さんたちは一生懸命頑張っているだけで何も悪いことをしていないので何一つ謝ることはありません。

重道講師は「謝ってばかりだった」という話を聴いた時に、そんな保育ではあってはならないと思われました。

だからこそ頑張るお母さんたちに寄り添いながら、例え急な仕事で迎えが遅くなった場合でも子供を預かるのはもちろんですが、子供に対しても「お母さんは人のためにこんな仕事を頑張っているから、一緒に頑張ろう」といって励ましながらも頑張る自分の母親を誇りに思えるような指導をしているのです。

大好きなお母さんが笑顔でいれば子供は笑顔になる、だから頑張るお母さんたちの一番の応援団になることがアイグランの保育事業の使命であるということでした。

国の未来のための仕事

shigemichi経営者としての重道講師のこれからの課題についてもお話下さいました。

現在は全国で6000名の児童を預かり、民間会社の運営とは言え保育事業というのは公共性の高い事業なので、最も気をつけなければいけないのは「経営破綻」です。

では、会社が存続し続けるためには何が必要なのか。

重道講師はここまで事業に対する思いを熱く語ってきましたが、思いだけで経営が成り立たなくなるようではそれは「遊びごと」だと指摘されます。

だからこそ、重道講師は「理念と算盤」を両立させることが経営の根幹であると言います。

その思いを現実化させるのが経営計画であり、経営の羅針盤になるのが経営計画書なのです。

経営計画書は文字にするので誤魔化しがきかない、できているかできていないかは一目瞭然ですから、言い換えれば経営計画を口先だけで言う人は誤魔化そうとしている人であり、本気で思いを実現させようとは考えていないからだと言えます。

ただし、会社を存続し続けるためには、そこで働く社員さんや資金を出してくれる銀行など関わる人達に動機づけが必要です。

それには「理念と算盤」の両立、経営計画書に経営者の思い、魂を込めることであり、それが言い換えれば「志」なのだということでした。

また、社員さんには今の会社で働くことにした自分の「人生の選択」が間違いだったと思って欲しくありません。

日本には380万社もの会社がある中で、社員さんは380万分の1の確率で今の会社で働いてくれている。

経営者にはそんな「奇跡的」な確率で今の会社を選んでくれた社員さんを幸せにする責任がある。

そのためには経営者は学ばなければならない、経営者は馬鹿では駄目なんだ、と重道講師は力説されました。

事業や事業領域を決めたのは自分、社長になることを決めたのも自分、だから一度決断をしたのであれば調子が悪くなった時に景気や境遇のせいにしてはいけない。

一度きりの人生なのだから、悔やんだり、愚痴を言っている時間は勿体無い。

だからこそ、事業を決める時には儲かりそうだからといったことで決めるのではなく、自分の一生をかけてやりたい仕事なのか、本気になれる仕事なのかを考えることが必要だということを教えて下さいました。

保育事業も保育士の不足や地域住民の反対など、順調に見えて様々な問題を抱えています。

そんな中で重道講師はこれからの保育事業において「何のためにアイグランが存在しているのか」という「存在理由にこだわった経営」をしていきたいと言います。

特に広島の企業として、一極集中の日本において地方の企業でも1番になれるということを示していきたいとのことでした。

その上で必要なこととして、過去のことを振り返るばかりではなく、「今何が一番最善か」を考えていかなければならないということです。

時代は常に変化していくので、時代にあった形に自分たちも変化していかなければならない、そうでなければ会社が存在する理由が時代の変化とともに薄らいでいく、ということを教えて下さいました。

「アイグラン」という社名は2011年に変更されました。

グランは「グランママ」そして「グランプリ:1番」という2つの意味が込められています。

つまり、アイグランは保育業界において1番を目指すという意味なのです。

ただこれも会社の規模を目指しているのではなく、アイグランが保育において掲げる理念「正確性と相手の立場に立って思いやる心」による運営が広まり1番になれば、現在の少子化問題を抱える社会の役に立てる、という使命感からだと重道講師は言います。

このまま少子高齢化が進むと確実に国力が衰退する、それを防ぐためには少子化に歯止めをかけながら労働力を持続しなければならない。

子育てしながら働く家族を支え応援してくれる人が必要なのです。

だから、アイグランがそこで役に立ち、わずかでも出生率が上がったとすれば、未来の日本に役立つ会社だということなのです。

重道講師には夢があり、このことによって「天皇陛下から褒めて頂く」ということでした。

国が公表している出生率を高めよう(1.8%)という政策は恐らく大半の人が懐疑の目を向けていて、不可能だろうと誰もが考えています。

つまりアイグランがやろうとしているのは「不可能を可能にする」ことであり、実現は奇跡に近いことです。

重道講師は諦めたらそこで終わり、でもだからこそこれを志として持ち続けることが現場で働く社員さんを勇気づけ引っ張っていける唯一の「錦の御旗」だと力強くお話下さいました。

最後に重道講師から社員さんを含め働くすべての人に向けた熱いメッセージを語って頂きました。

講演後は参加者全員でグループディスカッションと発表を行いましたが、重道講師の熱い講演に参加者全員が感動し大いに盛り上がりました。

重道講師、本当にありがとうございました。

また、ご参加頂いた会員の皆様にも改めて感謝申し上げます。

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