今回は西東京経営研究会との合同で、東京・西東京で理念経営を実践している企業1社ずつ発表してもらいました。
大地とともに未来へつなぐー株式会社マルタ
まずは東京経営研究会の株式会社マルタ 代表取締役の鶴田諭一郎さんの発表です。
マルタさんは全国の農業経営者が出資して作られた会社で、全国からの農産物をスーパーをはじめとする小売企業や学校給食にも提供する農産物の卸売事業をしています。
1975年75名の農業経営者で設立、「有機農業を農業の主流に」というのが創業時の志であり、それは今も変わっていません。
設立の目的は
①有機農業で持続可能な農業経営を確立
②農業社の社会的地位の向上をはかる
③健康で美味しい農産物の供給を通じて増え続ける医療費の抑制を目指す
当時はまだ有機農業への理解がなく、どちらかと言えば否定的でした。
現在はカーボンニュートラル等の環境負荷軽減の側面から国も全面的に協力し、2050年までに取り組み面積を現在の1%から25%に拡大しようとしています。
マルタを承継した鶴田さんは日創研の経営理念塾を受講、昨年45周年を迎えるに当たり記念誌作りのための作成委員会において「大地とともに未来へつなぐ」という経営理念を立てました。
経営ビジョンは「日本の農業を元気にする会社になる」、ミッションは「日本国民に向けて、将来にわたって安全で美味しい健康に役立つ農産物の安定供給を実現」としています。
農業者の組織であるマルタさんの仕事は「価値づくり」を目的とした「流通コーディネート」だと鶴田さんは言います。
全国にいる農業経営者と共に、情報と知恵をつなぎあわせ、商品企画を主導することで単なる卸売業との差別化を図っています。
具体的には、一般的な農産物の周年リレー(産地を分散することで年間通じて同じものを供給する体制)に対して、例えば同じ玉ねぎでもマルタさんでは産地によってさまざまな品種を栽培することで、年間を通して色々な品種を提供することで差別化を図っています。
また、あるメーカーが作った人気のブランド農産物の生産情報を各地の農業者に提供することで、災害等のリスクヘッジにも繋げ、年間を通して安定して流通させることで小売会社から条件の良い販売枠を確保しています。
この農産物の価値づくりのために、産地や販売先、種苗会社、パッケージ業社、加工物流業社、それに社員さんが一堂に集まり農産物の試食から商品企画の会議を行い情報共有する、垣根のないオープンな環境からのイノベーションを心がけています。
さらに、生産物の価値づくりのためには品質管理が欠かせませんが、マルタさんでは営業とは独立した形で品質管理部が設置、ITを活用して全国にある農場をデジタルで管理しています。
この厳密できめ細かい管理が安全に対するエビデンスとなり生産物の絶対的価値となっているのです。
この取り組みによって「グローバルGAP(国際的な生産工程管理基準)」の認証を受けるに至り、グローバルに展開する企業とも優先的に取引ができるようにもなっています。
農業生産者へのサポートもマルタさんの大きな仕事です。
近年では肥料価格の高騰が大きな問題になっていますが、マルタさんは肥料の工場を持っているので価格を上げずに安定供給できています。
また、農場経営や技術について「共に学び合う」ことを目的に、年に1回全国の生産者を集めて研修会を開催、さらに生産者の視野を広げることを目的とした海外の大規模農場の視察なども行なっています。
生産者の高齢化対策のため、これから有機農業を始めようとする新規参入農家に対する勉強会や現地での検討会などのサポートも行なっています。
クライアントに対して農場での体験会、例えばスーパーのお客様イベントとしての収穫祭などを積極的に受け入れるなど、ファンづくりにつなげる取り組みも行っています。学校給食の事業者に対しては給食で出すみかんの木を植えて、将来の子供たちに食べてもらう、というストーリーを作って提供するなど、関係づくりも積極的に行なっています。
マルタの社員さんは会社の思いを繋いでいくために、1年に1回1週間かけて産地研修を行なっています。
農業が好きな人が集まっていますから、畑を借りて会社の農場「マルタファーム」を作り、実際に農業も行なっています。農作業を通じて社員さん同士、それぞれの家族を含めたコミュニケーションの場になっているということです。
鶴田さんは昨年経営理念を新しく設定したことで、2つの大きな糧を得たと言います。
一つは理念を設定する段階で、創業の精神やこれまでの歴史を社員さん全員で学ぶことができ、自社が大切にしてきたことを全員が理解できたこと。
もう一つは、経営理念を設定したことで自分達の働く目的や意義を確認し、やるべきことがシンプルに整理できたことです。
トップである鶴田さんも常に「つなぐ」というキーワードを元に考えることができることで、ブレない戦略・戦術を立てられるようになり、「つなぐ」を軸にすることで事業のアイデアも広がっていくことになったということでした。
安心への創造ー株式会社エイム
2社目は西東京経営研究会から、株式会社エイムの代表取締役 小山慎吾さんのお話です。
エイムさんは金属加工メーカーとして板金事業をはじめ、レーザー事業やメンテナンス事業、近年は強みから生まれた独自の水素カプセルの製造販売も手がけています。
エイム(AIM)という社名は、社是である「Act Intelligently More(より以上を目指して知恵を出して行動しよう)」から生まれています。
経営理念は『安心への創造』で「私たちは互いに協力し合い創造性を持って行動し、お客様に安心と満足を提供することにより、社員一人ひとりとその家族の安心と幸福を創ります。その為に謙虚に学び、より以上を求め日々努力します。私たちは会社の繁栄を通して社会に貢献します」と定めています。
エイムさんは小山さんの祖父が勤められていた昭和飛行機工業(昭島)から昭和37年に独立し「多摩板金小山」を設立されたところから始まります。
当初は昭和飛行機から仕事をもらってアルミ加工の仕事から始まり、時代の需要に応じて鉄やステンレス部品の加工、機械設計・製作というように領域を広げていきました。
その後、半導体需要の高まりから半導体製造に必要な真空装置の設計・製作に進出、さらに装置のメンテナンスも手掛けることになりました。
現在はこの真空装置製作の技術を活かした自社製品の製造販売も手掛けています。
エイムさんの強みは創業から培ってきた「溶接技術」にあるということですが、それが強みだと認識したのは真逆の体験からでした。
2003年ごろ、エイムさんは大幅な「納期遅れ」という課題を抱えていました。
板金加工というのは簡単に言うと、金属の板を切って、曲げて、溶接して、塗装して、組み立てて出荷する、というものです。
この工程の中で溶接が手作業であるために時間がかかり、ここに仕事が貯まることで納期遅れの原因「ボトルネック」になっていました。
このことから当時は溶接が「弱み」だと考えていましたが、納期遅れが出ているにも関わらず新しい仕事がいただけることから、「溶接の仕上げ」を評価してもらっていることに気づきました。
このことから溶接技術を強みとして捉えるようになったわけですが、さらにここから進化が始まりました。
エイムさんには「メーカーになる」という目標があり、さまざまな工作機械を作ってきましたが、どれもうまくいきませんでした。
そこで吉村思風先生に相談したところ「自分達が困っているものを作ってはどうか」とアドバイスをもらい、当時困っていた納期遅れの原因になっていた溶接機を作ることにしました。
そこで開発されたのが自動溶接治具とYAGレーザー溶接機です。
開発当初は「溶接屋が作った溶接機」ということで注目され、仕事も変わっていきました。
それまでは「板金屋だからこれ」というのが「溶接屋だからこの仕事できないか」という依頼に変わっていきました。
ただ、YAGレーザー溶接機は後発だったことからそれほど売れませんでした。
その後新たに「ファイバーレーザー技術」が出てきたことでいち早く開発に着手し「ファイバーレーザー溶接機」の開発に成功、今では収益の柱となる製品になっています。
さらに今度は思いがけないところから新しい製品が生まれました。
2012年にあるところから1本の電話が入りました。
加圧による健康器具の「酸素カプセル」が作れないか、という問い合わせでした。
ことの発端は、この酸素カプセルのメーカーさんが九州にある同名の製造会社に連絡しようと検索した際に「溶接が強い」というエイムさんを見て連絡してきたということでした。
それまでの酸素カプセルは鉄で作られていましたが重いため軽いアルミで作ろうとしました。
しかし、アルミは鉄よりも溶接が難しく、圧力をかけるとカプセル内部の空気が漏れて困っているということでした。
エイムさんは溶接が強いだけでなく半導体の真空装置の技術もあったことから依頼を受け、アルミによる酸素カプセルを製造することができました。
これは年間70代も売れる大ヒット商品となりました。
その3年後この話が日創研の田舞塾で取り上げられ、酸素カプセルを収益の柱にするにはどうすれば良いかという議論の中、結論として出たのが「酸素カプセルはもう古い」というものでした。
実はこの田舞塾の中に健康志向の高い方が参加しており、その方から「酸素カプセルに水素を入れたら買う」という意見をもらいました。
その方は普段から健康のために水素水を飲んでいたことから水素に注目しており、水素カプセルの開発を勧めてくれました。
そこでエイムさんは展示会等を周り、「水素発生器」からヒントを得て、さらに大学の先生にも協力を仰いで水素カプセルの開発に成功しました。
2017年から販売を開始したこの水素カプセルは、個人だけでなく施設やスポーツ関係の使用者から様々な声が集まりました。
スポーツ関係からは成績が良くなった、あるいは医療関係からはがん患者の抗がん剤治療の副作用の軽減についてなど、様々なシーンでの使用データが届いています。
現在は「酸素水素浴システム」ということで特許を取得し、「AirPod」という商品名で販売しています。
エイムさんでは「理念があるから入社した」という社員さんが何人もいたり、辞めようとしたけど「理念があるから踏みとどまった」という社員さんもいました。
また、戦略立案にあたっても理念を中心にして計画を立てているということです。
創業時からお客様のための技術開発をする中で、必要とされるものに挑戦し社会貢献してきたのがエイムさんであり、その取り組み姿勢は全社員の「安心を創造する」という理念への理解と思いの表れであるということでした。
発表していただいた鶴田諭一郎さん、小山慎吾さん、貴重なお話ありがとうございました。
また、ご参加いただいた東京・西東京の会員の皆様にも改めて感謝申し上げます。