2025年12月18日、東京経営研究会12月例会にて、アイ・ケイ・ケイホールディングス株式会社の金子和斗志代表取締役会長兼社長CEOにご講演いただきました。
「未来を創るビジョンと行動~未来に光り輝ける企業になる為に~」というテーマのもと、九州を代表するウェディング企業を東京証券取引所プライム市場上場企業へと成長させた実体験を通じて、理念経営の本質と、真の組織活性化について貴重なお話を伺いました。
二代目経営者として歩んだ波乱の半生
金子会長は佐賀県伊万里市の実業家の家に次男として生まれました。大学受験のため大阪の予備校へ進学するも、ディスコに明け暮れる日々を送り、結局大学受験を断念。業を煮やした両親により、ホテルの専門学校に通わされることになります。
伊万里に呼び戻された金子会長を待っていたのは、オープン間近にもかかわらず予約がほとんど入っていないホテルでした。追い詰められた状況の中で浮かんだのが「ダメもと」という言葉。他のホテルがやっていなかった企業への飛び込み営業を敢行し、訪れた企業の半分以上から予約を獲得することに成功します。「やって失敗すれば納得できる。やらずに『やっておけばよかった』ということだけは聞きたくない」という信念が、その後の経営者人生の礎となりました。
社長就任後、酒屋を回り結婚情報を収集する足で稼ぐ営業スタイルで、初年度から多くの結婚式を手がけます。しかし、朝から晩まで自ら動き続ける「暑苦しい」仕事ぶりについていけず、開業数年後にはオープニングスタッフ全員が退職するという痛恨の事態に直面しました。
「従業員はお客様だ」という考え方への転換。この苦い経験が、金子会長の経営哲学の根幹を形成することになります。
2度の交通事故が教えた「生かされている」という真理
金子会長の人生観を決定づけたのが、2度の交通事故体験でした。若き日、2度の居眠り運転による事故。特に2度目の事故後、入院を経て退院した金子会長を待っていたのは、両親からの衝撃的な言葉でした。
「このホテル計画をやめようか」
大規模な投資と競合施設の進出が予定される中での、この決断。目の前が真っ暗になり、すべての責任を負わされた金子会長は、そこから「アクセル踏みっぱなし」の経営人生をスタートさせます。
「今生きているのは『サムシング・グレート』の存在を感じる。神様に会ったことはないが、何かの偉大な力があって、今、生かされている。この生かされている『今』をどのように生きるかということが、非常に大事」
毎日の食事前には「ご先祖様に感謝、家族に感謝、スタッフに感謝、お客様に感謝、友人知人に感謝、取引先様に感謝、地域社会・社会に感謝、親父・おふくろ・兄貴に感謝」と唱え、「謙虚にして驕らず、さらに努力をする人となる」という言葉で締めくくる習慣を今も続けています。
両親から受け継いだ5つの教えと経営の原点
金子会長が大切にしているのは、父親と母親から受けた5つの教えです。
第一に「育てる環境」。やりたいことを止めることはなく、「やりたいようにやりなさい」と言いながらも、「お金は出さない。自分のチップで遊ばせろ」という教え。失敗しても会社への被害がないため、自由に挑戦できる環境が整っていました。
第二に「悪口は天に向かってツバを吐くようなもの」。父親は一度も人の悪口を言ったことがなく、その背中が何よりの教育となりました。
第三に「ホラ吹き」。売上3億円の時から「上場する」と吹き続けたことで、ビジネスモデルのアンテナが立ち、数年後のゲストハウスウェディング事業への展開につながりました。
第四に「経営者は大きな仕事をしなさい」。スケールの大きなことを常に考えながら事業を展開してきました。
そして母親からは「地域のためになる、人のためになることをやりなさい」という教え。盛岡への進出時、知り合いも親戚もいない土地でビジネスを展開することについて、「そこに雇用を生んで、地域社会のためになるのだ」と背中を押してくれました。
金子会長の仕事の原点は明確です。「父親のため、母親のため、そして兄貴のため。これが僕のビジネスの原点。お客様に対して、本当によかったなと思ってもらえることをやることが、僕のビジネス」
プライム市場上場への軌跡と「今ここから本番」の精神
アイ・ケイ・ケイホールディングスは東京証券取引所二部への上場準備を開始し、二部上場を果たした後、一部上場、そして東京証券取引所プライム市場への上場を実現しました。
現在、従業員は1,000名を超え、約7割が女性という組織です。特筆すべきは、長期勤続者が多数在籍し、社内結婚も多く、そのお子様も多数いるという事実。「これが一番の社会貢献」と金子会長は断言します。
株主も多数を擁し、東京経営研究会の会員の中にも株主がいるとのこと。
しかし金子会長が最も大切にしているのは、上場そのものではなく、「今ここから本番だ」という姿勢です。上場の節目ごとに、そして「今日、東京経営研究会で講演している今ここから本番だ」。マインドイノベーションとマインドセットを繰り返し、考え方を限りなくプラスにして、判断力・決断力を高め続けています。
「自分に言わなければ、人間は安きに流れる。やっぱり自分に言い聞かせてやるということが大事」
組織活性化に不可欠な4つの共有要素
講演の中で、金子会長は参加者にグループワークを実施しました。テーマは「組織を活性化するために共有しなければならない4つの物は何か?」
参加者からは「心理的安全性」「挨拶」「感謝の気持ち」「コミュニケーション」「経営理念」「ビジョン」「ミッション」「パーパス」「価値観」「目標」など、様々な意見が出されました。
金子会長が示した答えは、イオンを創った小島千鶴子氏の教えに基づくものでした。
第一に「情報の共有」。トップが持っている情報、幹部が持っている情報、スタッフが持っている情報。良い情報も悪い情報も含めて、情報の共有は意外となされていません。
第二に「理念とビジョンの共有」。
第三に「目的の共有」。理念やビジョンよりもう一つ掘り下げた、「何のためにやるのか」という目的の共有。
第四に「結果の共有」。途中経過や結果について、どうしてこうなったのかを明確に共有すること。
「我が社が上場できたのは、『ゲストハウスウェディング』という情報をゲットして、それを活かしたから。どれほど情報が大事かということを、身にしみて感じています」
小島千鶴子氏がこの4つをルーチンワークとしてやり続けたことが、世界のイオンの活性化につながったと、金子会長は強調します。
マンダラチャートで実践する「自分・お客様・人間」の三位一体経営
金子会長が日々実践しているのが、マンダラチャートを活用した経営です。中心に据えるのは「自分作り」「お客様作り」「人間作り」の3つの軸。To Be(どうなりたいのか)、To Do(何を成し遂げたいのか)を明確にし、そのために勉強し続けることを何より重視しています。
仕事は「ワークハード・スタディハード」。「ハードワーク」は働きすぎ、「ハードスタディ」は勉強しすぎを意味しますが、「ワークハード、スタディハード」は一生懸命やることを意味します。
自分作りの要素として重視しているのは、生涯現役、生涯勉強、体力・英知・心の器、考え方・理念、使命感、仕事観、人間観です。そして「良き師を持つ、良き仲間を持つ」ことの重要性を説きます。
「日本全国に素晴らしい仲間がいる、この経営研究会は素晴らしい」
理念冊子の実践実行、良い習慣をつくること、そして「素直」であることも重視します。ただし金子会長の考える「素直」は、パナソニック四代目社長の谷井昭雄氏が示した松下幸之助氏の教えに基づいています。
「数多くの人たちがいろんな助言・アドバイスをする。その中から何が正しいのかを理解し、納得した上で実践実行することが『素直』。誰かから言われてすぐ動くというのは素直ではなく、自主性がないということ」
人間の普遍の4つの真理も大切にしています。「必ず死ぬ」「たった一回の人生」「たった一人の自分」、そして「自分は自分の人生だけを生きるしかない」。若くして亡くなった兄を長年支え続けた母親の姿を見てきた金子会長は、「人生は絶対に諦めきれない」というネバーギブアップの精神を貫いています。
お客様を社外営業マンに変える「本音と建前の一致」
マンダラチャートの2つ目の軸は「お客様作り」です。顧客情報の収集・分析・活用、理念・考え方・コンセプトの磨き・徹底、そして顧客の顔と名前を覚えることを重視しています。最近は従業員の顔と名前を覚えることに集中しており、「反省ですね」と率直に語ります。
金子会長が特に強調したのが「本音と建前の一致」です。
「お客様のことを一生懸命やる。スタッフのことを一生懸命やる。これは建前ではなく、本音も一緒。ウェディングで新郎新婦に接する時、本音と建前が一致していたからこそ、お客様が信頼してくれた」
同社が実践しているのは、「お客様を好きになる」「お客様の嫌なことに気づく」「お客様との約束を守る」という3つのシンプルな原則です。これをきちんとやり抜いた結果、お客様が「無料の社外営業マン」となり、新たな顧客を紹介してくれます。
「これは宝物。中小企業の経営者だったら、必ずこれをやり抜きたい」
「育てる人間」を採用し、愛情・理念・時間・お金で育成
マンダラチャートの3つ目の軸は「人間作り」、すなわちスタッフ・仲間に関してです。
金子会長が最も重視するのは「育てる人間を採用する」こと。同じ価値観を持っている人、人財教育を一生懸命やろうという意欲のある人を見極めて採用します。
採用時に最も注意するのは「人のせいにする人は採用しない」こと。面接で何かあった時に会社や上司のせいにする人は、なかなか成長しません。一方、自分の自己責任だと考える「自責の人」は、「こうしたからこうなった。じゃあ今回はこうしよう」と自己設定するため、成長していきます。
「いろんな質疑応答のパターンを考えて、その中で精度を高めていく。過去の失敗談や困ったことを聞いた時に、他責の人はすぐわかる。学んだことがないような方は、他責にする人が多い」
人を育てるには4つの要素が必要だと金子会長は説きます。第一に「愛情」。「お前のことを一生懸命見る」という気合が通じれば、人はやろうとなります。第二に「理念」。何のためにやるのかを明確にすること。第三に「時間」。人はすぐには成長せず、長い年月がかかります。そして第四に「お金」。生活の基盤であり、教育資金としても必要です。
同社では、観光・冠婚葬祭部門の就職人気ランキングで長年全国トップクラスを維持していますが、金子会長は「来年はトップから落ちるかもしれない」と冷静に分析します。大手企業の初任給上昇に対して、この課題にどう取り組むかが今後の焦点です。
次世代への事業承継と海外人財事業への挑戦
金子会長は次世代への事業承継を進めており、若い後継者がアイ・ケイ・ケイホールディングスの代表取締役社長に就任する予定です。金子会長自身は代表取締役会長兼最高経営責任者(CEO)として、グループ全体の経営を継続します。
「非常に努力家で、誠実で、仕事のスピードが速く、成果をきちんと出す素晴らしい人間」と後継者を評価する金子会長。高卒という学歴ながら、自分の能力を限定せず、できる方法を常に考え、トレーニングを重ねる姿勢を高く評価しています。
「経験だけだよ。その積み重ねで素晴らしいものになっていく」
新会社では、海外人財紹介事業を展開する計画です。特定のアジア地域では、優秀でありながら仕事に就けない若者が多数存在しています。そうした優秀な人材を日本の中小企業に紹介する事業です。
「優秀だけども仕事がない国から、優秀な人を日本に連れてきて、なかなか良い日本人が採れない中小企業に紹介する。働く人もウィン、いい人を見つけられる企業もウィン、我々もウィン。ウィン・ウィン・ウィンの事業会社を作りたい」
日本の労働人口は今後大きく減少すると予測されています。この労働人口の補填が急務であり、外国人就労者の市場は継続的に拡大していくと見込んでいます。
「質素倹約」と「背中で教育」する経営者像
金子会長が経営者として重視する4つの要素があります。
第一に「コミュニケーション能力」。共感力、ティーチング力、コーチング力、ユーモア、親しみやすさ。「まだまだ修行中。日々、勉強だ」と謙虚に語ります。
第二に「事実を把握」すること。現場、現実、現物を見る三現主義と洞察力。「表面に出ていない後ろの後ろを考えることが経営では非常に大事。それができない経営は、成長発展が難しい」
第三に「判断力・決断力」。間違いであればストップして変えればいい。その決断ができるかどうかが重要です。
第四に「経営者は注目されている」という自覚。どんな車に乗っているか、どんなネクタイをしているか、どんな時計をしているか、どんな服を着ているか。社員とかけ離れたものを身につけるのは望ましくありません。
「トップが何を身につけているか、どんな車に乗っているか、どんな振る舞いをしているか、それは注目されている。質素倹約が良い」
金子会長のネクタイは同じタイプが4、5本、シャツも同様です。靴も手入れをして使い続け、時計はアップルウォッチで健康管理をしています。
人財育成については「自分史」が全てだと断言します。
「僕を誰かが教育したんじゃなくて、やっぱり背中を見せられるような人間になりたい。後継者を教育したっていう記憶はない。彼は僕の背中とか、いろんな人の背中を見て成長している」
食中毒とコロナ、2度のピンチを乗り越えた誠実さ
「人生で一番のピンチは何でしたか」という質問に対し、金子会長は2つのエピソードを挙げました。
1つ目は過去の食中毒事件。多数のお客様に被害が出た際、金子会長は海外出張中でした。社員から電話がかかってきた時、「大丈夫か?」と聞いてしまったため「大丈夫です」と言うので任せていたため、対応の遅れにつながり、帰国後翌日の新聞に掲載される事態となりました。
「これは全て僕の責任。対応に数ヶ月かかり、警察の方も来られた。でも誠心誠意対応した」
2つ目はコロナ禍。数ヶ月間にわたり売上がほとんどゼロとなり、決算で大幅な赤字を計上。上場以来、経験したことのない数字でした。
しかし緊急事態宣言の直前に社内で「非常事態宣言」を出し、短期間で各金融機関から大規模な資金調達を実現。従業員のリストラは一切せず、給料は満額支払い、賞与もほぼ通常通り支払いを続けました。
「大半のスタッフが残った。それが力だった」
現在は実質無借金経営に近い状態です。
「これまでピンチはあったが苦労はしていない」
「父親・母親・兄貴を見ていたら、僕の苦労は苦労のうちに入らない」
考え方×努力・熱意・情熱×能力、そして仲間と共に未来を創る
講演の最後、金子会長は人生の成功の方程式を示しました。
「考え方×努力・熱意・情熱×能力」
能力は後からついてくる。最も大事なのは「考え方」だと強調します。リーダーシップとは、自己の能力を限定せず、自分の可能性の限界に挑戦し続けること。明日は今日よりも良く、生涯現役を貫くことが大切です。
組織活性化に不可欠な4つの共有要素「情報」「理念・ビジョン」「目的」「結果」を改めて強調し、こう締めくくりました。
「皆さんは素晴らしい能力を持っているし、素晴らしいことができる。チームでやれば、できないことはない。そのチーム選びというのは、自分を磨いて、優秀な仲間と一緒にビジネスをやるということが大事」
阿部副会長は謝辞の中で、マンダラチャートの順番(自分作り→お客様作り→社員作り)の重要性と、情報の共有の深い意味について触れ、「日本を代表する企業、すなわち世界を代表する企業になっていただきたい」と期待を述べました。
体調不良の中、約2時間にわたって熱のこもった講演をいただいた金子会長。「今ここから本番だ」というマインドセットを繰り返し、73歳にして若き後継者に経営を託しながらも、自らも生涯現役を貫く姿勢は、参加者一同に大きな感銘を与えました。
参加者からは「両親からの教えが経営の原点になっていることに感動した」「組織活性化の4つの共有要素は明日から実践したい」「自責の人を採用する視点が参考になった」「背中で教育するという言葉が心に残った」といった声が多数寄せられました。
金子会長には、波乱万丈の半生と、理念経営の本質について、貴重な実体験をお話しいただき、誠にありがとうございました。
参加者一同、大きな学びと勇気をいただくことができました。


