リピートされる最大の理由

2017年最初の例会は、有限会社加賀屋感動ストアーマネージメント 代表取締役の加賀屋克美さんの講演です。

加賀屋講師は日本とアメリカのディズニーランドで接客サービス・おもてなしの仕事をしてこられて、その教えと経験を活かして現在の会社でコンサルティングをされています。
今回はそのディズニーの人財教育についてお話いただきました。

最初にディズニーランドのリピート率の高さについてお話がありましたが、「常連客の割合」は驚異の97.5%ということでした。
加賀屋講師ご自身もその内の一人だということでしたが、浦安に住まわれ、週に一回行かれているそうです。

ディズニーランドが他の遊園地と比較にならない程リピートされる第一の理由は「満足」ではなく「幸せ」になって帰ってもらうところにあります。
わかりやすく言うと、ディズニーランドにはたくさんの有名な「乗り物」「食べ物」「お土産」がありますが、それらはすべて「モノ」であり、それだけの提供ならば「満足」で終わってしまい二度と来ることはないということです。

では、どうすれば人は「幸せ」を感じることができるのか。
それは「働く人との関わりがあると人は幸せになる」と加賀屋講師は言います。
ディズニーランドの最強の武器はこの「働く人のおもてなし」にあるということです。

ディズニーランドを説明する上で様々な指標となる数字がありますが、加賀屋講師は独自にディズニーランドのその「働く人のおもてなし」の高さを表す数字を確認されました。
それは、園内で働く人(キャスト)と1日何人に声をかけられたか、というものです。
入園の際にはまず「いってらっしゃーい」と声をかけられますが、そこからカウントしていくとその平均は60人だということです。

ディズニーランドでの仕事は、乗り物やレストラン、土産物売り場などその種類は600種類あり、それだけ園内にはたくさんの人が働いています。
その大半はアルバイトですが、彼らはなぜここまで明るく元気に働き、お客様を幸せにすることができるのでしょうか?

働く仲間の環境

明るく元気に、そしてお客様を幸せにするような仕事を可能にするために必要なのは、働く環境が「チーム」なのか「グループ」なのか、にかかっていると加賀屋講師は言います。

ディズニーランドの従業員は2万人いますが、すべてが「チーム」であり、仕事の種類が600種類もあってもお互いが協力しあい、助けあう「仲間意識」が高いということです。

社訓や経営理念を「使命」と言ってこれが「働く目的」と教えています。
これは「子どもでもわかる」ような教育を徹底しているからであり、年齢・性別・学歴を問わず「誰でもわかる」ように教えているからです。

また、教育の中でよく「本気」という言葉も出てくるそうですが、それも一般的な意味ではなく「本当の気持ち」という意味で使います。
加賀屋講師はディズニーランドの面接の時にもこんな会話があったそうです。

「加賀屋さんはどんな仕事がしたいですか?」

「乗り物の仕事がしたいです!」

「加賀屋さんが今仰っているのは”仕事の内容”ですね。私達にはお客様を大切に思いやり、幸せになって頂くという”使命”があり、お客様が笑顔になって最高の思い出を持って帰ってもらうのが”働く目的”です。そのためには、加賀屋さんが現場に立つ時に、仕事の内容よりもお客様を自分から本気になって思いやる、自分の気持ちに嘘無くお客様と関わりたい、接客したい、その気持を持てるかどうか、その覚悟を持てるかどうかをまず確認したいのです」

加賀屋講師がやりたかった乗り物の仕事は空いていました。
会社側も猫の手も借りたいほどではあったのですが、その前に仕事の内容よりも「お役立ちの覚悟」を決めてもらうことが必要だったわけです。

ディズニーランドのお客さんが本当に幸せになって帰っているかは、ゲートを出て帰る人の様子を見るとすぐわかるそうで、それは大半の人が帰り際に後ろを振り返る、あるいは舞浜駅から帰る人の大半はディズニーランド側に立って遠のくお城を見ながら余韻に浸っている姿からわかるということでした。

ディズニーランドには「ゲストにハピネスを」というMISSION(使命)があります。
ゲストとは「大切な特別なお客様」という意味です。
言葉の意味はわかりますが、「大切な特別なお客様」の接客というのはどうすればいいのでしょうか。
自分が教育係だとしたらどのように教えれば良いのでしょうか。

加賀屋講師もそう考えていると教育担当者は言いました。

「加賀屋君、想像してみて」

ディズニーランドの教育においてはよく「想像してみて」という言葉が出てきます。
考えが無い人に「考えて」と言っても何の答えも出てきませんから、決して言ってはいけないそうです。

「もし、加賀屋君のご両親が加賀屋君がいるアトラクションにやって来たらどう対応する?」

「それは嬉しいので、おすすめの場所や食べ物や乗り物など持っている情報を相手の予定に合わせてできるだけ多く教えて楽しんでもらいます」

「いいね、ご両親にそんな素敵なことができるんだから、それを他のお客様にも同じようにできるよね?」

続けてこのようにも言います。

「このアトラクションの入り口は君の家の玄関と同じなんだよ。想像してみて。例えば加賀谷君の家でパーティーをやることにしたとして親しい友達を呼びました。決まった時間にその親しい友達がやって来てチャイムを鳴らしました。どんなふうに迎えるかな?」

「嬉しくて喜んで友達を迎え入れます」

「その時の嬉しい気持ちは”本当の気持ち=本気”だよね。自分の家族や友達に対するのと同じ”本当の気持=本気”で喜んで接してくれたらお客様は嬉しいよね」

ディズニーランドの教育の特徴は、マニュアルに則ったものもありますが、必ずこのように本人に「想像させて答えさせる」というところです。
人の成長のために、「自発的」に行動できるようにするには、ヒントは与えても答えを与えてはいけないということでした。
「自発的」というのは自分で閃いた発想を自分で行動に移すことであり、想像させて「自分ならああしたい、こうしたい」と答えさせることによってそれが磨かれていくわけです。

そして、強制されたことと違って、人は自分が言ったことや自分で気づいたことは一生懸命頑張ります。
働く場所で心からの思いやりや優しさを出すことが出来る、その心の「スイッチ」が入れられるかどうか。
「チーム」には協力し合ったり助け合ったりすることも大事ですが、それぞれが「成長していける」関わりが必要だということです。
そして「ハピネス」とは「喜び、幸せ」ですが、「満足」との違いは、モノだけで終わってしまうのではなく、このような心からの思いやりや優しさを与えられる働く人と関わり「幸せになってもらうこと」だと加賀屋講師は言います。

では、「グループ」とはどういうものなのでしょうか。
加賀屋講師曰く「働く環境がバラバラで、自分以外に関心が無い」状態だということです。

働く目的を訊かれても「私は商品の陳列係」「私はネジを回す係」などと自分の仕事の内容が大事で、会社から言われたことしかやらない。
一緒に働いていても協力することもなければ助け合うこともない、つまり「周りの働く仲間が見えない=関心が無い」状態です。
仲間が困っていても関心が無い、お客様が困っていても関心が無い。
納品の車が遅れていても関心が無い、荷物が届かずにお客様が困っていても関心が無い、目的は「届けること」でしかない。
人との交流や関わりが無いので、「ありがとう」という仲間の言葉がまったく無い、これが「グループ」の仲間だということです。

「ありがとう」という言葉は自分が自ら何かしら行動をしなければもらうことはできません。
誰かに言われなくても困っている仲間がいれば自分の仕事があってもフォローに入る、そういった働く環境になればなるほど、お客様にもっとサービス、おもてなしを「したくなる」ということに繋がっていきます。

スタッフの行動基準

お客様に「感動」してもらおうと頑張るところが多いのですが、大半は空回りしていると加賀屋講師は言います。お客様の心情は「当り前のことをキチンとやってくれ、感動はそれから」というもの。
一生懸命やっているように見えるけれども、「当り前」のことができていないところが多いということでした。

「良いな、良いサービスだな」と思われるところというのは、まず他社に負けないくらい「当り前」のことを徹底的にやっているところが多い。
ディズニーランドの凄さはこの「当り前」のレベルが非常に高いことだということです。

そのディズニーランドの「当り前」は4項目に分かれています。

Safty(安全性)

「全てに優先すべきもの。ゲストの安全、キャストの安全」

どのような仕事であっても安全性は第一優先の項目ですが、ディズニーランドにおいても600種類の仕事すべてにおいて安全が一番優先されます。
加賀屋講師はディズニーランドにおいてこの安全性の最も大切なことを教わりました。

「働く人たち全員が同じ情報を持ち、同じことが言えること、同じことがやれること」

クレームで一番多いのは「ミスインフォメーション」だということで、つまり「間違った情報をお客様に伝えてしまう」こと、あるいは「AさんとBさんで言ってることやってることが違う」ことだいうことです。

これは情報が共有されないことによって、現場に間違った色んな情報が流れ、接客している人が間違ったことをしているわけです。
働く人すべてが同じ情報を持っていればお客様に同じこと伝えられて、同じサービスを受けることができる、これが「一番当り前のサービス」でありディズニーランドにおける安全性の担保だということです。

では、ディズニーランドはどのようにして2万人もの従業員全員が「同じこと」をやれるのでしょうか。
それは「共通言語」を持つことだということでした。

テレビCMなどで繰り返し聞くフレーズは頭に残り、例えば「元気ハツラツ」と言われれば「●●●●●C」という言葉が出てくると思いますが、ディズニーランドでも同じように毎日繰り返し同じ言葉を確認し合うことで誰もが覚えて同じようにできるようになるということでした。

それを行うのが「朝礼」で、ディズニーランドでは1日5回朝礼が行われ、朝礼に参加してからでなければ現場に立つことはできず、どの時間で出勤してきてもその朝礼を受けて情報を共有し、毎日やるべきことを「連呼」するわけです。

また、入社してから現場に立つまでにトレーナーと1対1の教育訓練を5日間40時間行うということですが、その時間の中でも覚えるまで徹底してやるべきことを繰り返し教わります。
一つの例として「迷子対応」についてお聞きしました。
年齢によって対応が異なり、幼稚園までの子どもの場合は「迷子センター」へ、小学生以上は「総合案内所」へ連れて行くことになっているのですが、その説明を一度したら、後は時間をおいて例えば休憩時間の時に「迷子対応はどうする」という質問がされる。これが覚えるまで事あるごとに質問されては答えるということを繰り返します。

ここまでなら他でも行われていることかもしれませんが、ディズニーランドの場合は例え覚えの悪い相手でも叱ったりはせず「君が覚えるまで言い続けるから」と延々本当に覚えるまで繰り返されるということでした。
いつまでも繰り返されるので本人が嫌になって必死になって覚える、と加賀屋講師は笑いながら教えて下さいました。
ディズニーランドのスタッフは「ディズニーファミリー」と言い、トレーナーと新人は親子の関係に匹敵するほどの関わりを持ち、実際にトレーナーのことを「お父さん、お母さん」と呼ぶそうです。
それほど親身になって、親が子の成長を願って愛情を持って教えるように、トレーナーは覚えの悪い新人に対しても愛情を持って根気強く面倒を見るということでした。

注意すべきこととして、「共通言語」は必ず「定量的」でなければいけないということも教えて下さいました。
「定量的」というのは具体的な数字で表すということで、これはスタッフに対してもお客様に対しても「定量的」に語らなければいけないということでした。
時間や数量などの感覚は人によってマチマチなため、例えば「チャチャッとやって」と言っても指示した人は5分なのに対して受けた方は10分だと捉えてしまうからです。

Courtesy(礼儀正しさ)

「全てのゲストがVIP、Disney Smile、明るい挨拶」

加賀屋講師は「笑顔」と「微笑み」の違いを教わりました。

「笑顔というのは作ることもできるし、そこに心が無いこともすぐにわかる。でも本当の気持ち=本気で相手をお世話したい、おもてなししたいと思っている時はそれがとても自然で、逆に声をかけたくなる。ディズニーランドで働く人は皆笑顔ではなく心から微笑んでいる」

さらに、ディズニーランドは案内看板がほとんどありませんが、これも意図的にお客様がスタッフに声をかけられるようにしているのです。
他の遊園地はできるだけ少ない人数でやろうとするために案内看板にたより、文字だらけになってしまっていますが、だからこそ事故・トラブルが多いのだということでした。
事故・トラブルを無くすため、安全そしておもてなしは人がやらなければいけないので、園内をそのような作りにした上で、働く人も自ら「本気でおもてなししたい」という気持ちなので自然と関わりが増えるようになっているのです。

さらに、ディズニーランドと他の遊園地の違いは挨拶にもあります。
それはほとんど「謝らない」ということでした。

混み合って乗り物に乗るのに長い行列に並ばないといけなかったり、お土産ショップなどでもレジが行列で待たされることがありますが、他の遊園地ではスタッフがまず発するのが「すいません」「申し訳ありません」という謝罪の言葉です。
ディズニーランドでそういった場合、恐らくディズニーランドの方が多いのですが、謝ることはせず、まず「ありがとうございます」の言葉で感謝を伝えるということです。

謝られても長い行列が解消するわけではなく、ただでさえイライラしているところに二言目には「すいません」「申し訳ありません」と謝られるばかりだと人は感情を逆撫でされてしまいます。お客様はサービスに期待をしてきているはずなのに、遊園地に限らず大半のところで「すいません」「申し訳ありません」の言葉が先に出てきます。

「明るい挨拶」というのは元気にということだけではなく、ポジティブな挨拶をするということで、謝罪よりもまず感謝を伝えようというものなのです。

Show(ショー)

「オンステージ、身だしなみ(Disney Lock)、キャスト/コスチューム」

ディズニーランドの強みに「環境整備」があります。
これは営業後に行われる清掃作業のことで、消防活動で使われるものと同じ高圧の散水機で毎晩すべての建物を洗い流すそうです。
清掃作業をしている人たちはこれを清掃とは言わず「毎日開園の日の姿に戻している」と言っています。

東京ディズニーランドは1983年4月15日に開園しましたが、加賀屋講師は開園初日に行ったそうで、そこから毎年開園日にはお城の前で記念写真を撮ってきたということですが、面白いことにお城は開園日からまったく色褪せず変わらないのに、加賀屋講師だけが34年分の歳をとっていく写真になっているそうです。

加賀屋講師は毎週ディズニーランドに行っているそうですが、飽きることがないと言います。
いつ行っても34年前の子どもの頃に戻れる、毎日が新鮮だからです。
アメリカの場合は60年ですから、開園当時の人が今はもう歳を取りお孫さんと一緒に楽しんでいる、3世代に渡って愛されているわけです。
それを可能にしているのがこの「開園の日にもどす仕事」であり、「こだわり」なのです。

そのディズニーランドの最も有名な「こだわり」が、2万人いる従業員・スタッフのことを「キャスト(役者)」と呼んでいることです。
役者は演者、歌手など種類はありますが、いずれも毎日ステージに立って全力で観客に演技をしたり、歌います。
喉の調子が悪いからと言って「今日は舞台に上がりません」などと言う人はいません。
「毎日が初舞台」と考えて毎日新鮮な気持ちで本気で演じます。
ディズニーランドでも働く人たちは皆「毎日が初舞台」と考え、働く現場に立つとお客様を楽しませる「役者」としてそれぞれの仕事(舞台)に応じた「役作り」をしているということでした。

ここで加賀屋講師がアトラクションの船長さんをやっていた時の実際の「演技」を見せて頂きました。
驚いたのはその「演技」だけでなく、このアトラクションの船長として1日55周(当時)もやっていたということであり、最初から最後まで同じ「本気の演技」を見せていたということです。

一般の仕事でも同じことですが、お客様と一日に一度しか会わないとは限りません。
午前中に会った時は元気だったのに、夕方に会うと人が違ったように元気が無い接客をする、お客様がそう感じてしまったら二度と戻ってこなくなるかもしれません。

冒頭にディズニーランドの「常連率」を97.5%と紹介しましたが、つまり何度もディズニーランドを訪れる方が大半で、乗り物についても働いている人と同じぐらいどのようなものかがわかっているのに何度も繰り返し乗りにくるのはなぜなのか。
加賀屋講師は、いつ行っても本気で楽しませてくれる「キャスト」がいるからだと断言しました。人ではなく自動音声だけで案内されたとしたら恐らく二度とは乗らない。

加賀屋講師はディズニーランドでこのような仕事を週5回13年されたわけですが、同じような「演技」を一日50回も繰り返し、そのすべてを本気で演じられるのはなぜでしょうか。
飽きないのか、疲れないのか、とよく訊かれるそうです。
加賀屋講師も最初から出来たわけではなかったそうで、やはりそこにもリーダーのきめ細やかな指導があったからだそうです。

職場において表裏のない尊敬されるリーダーというのは、いかなる環境においても自分を鼓舞できる存在であると加賀屋講師は言います。
会社を辞める理由の多くは「上司について行きたくない」「働く仲間とうまくいかない」というもので、いかに辛い環境でも辞めないのはそんな表裏がなく尊敬できるリーダーがいて、自分の「スイッチ」を入れてくれるからなのです。

加賀屋講師がされた話をその先輩リーダーは他の人にも同じようにしていますが、気づくべきは、そのリーダーがそれを自分の役割・ポジションから義務的にやっているのではなく、自分の休憩時間を潰して自主的にやっているということでした。
自分の時間を潰してでも部下の成長のために務める姿を知った時、一層リーダーを尊敬することになるのです。

Efficiency(効率)

「リピーター確保、売上げアップ」

ディズニーランドでは目的を「ロマン」、売上目標のことを「ソロバン」、「ロマンとソロバン」と言うそうです。

さらに加賀屋講師が言うには、ディズニーランドでは現場の人に「数字」を語らないのに数字が上がっていくということです。

ディズニーランドの乗り物は、1時間にどれだけのお客様を乗せられるかという計算上の数字があり、例えば毎回空席を作らないように乗せる、あるいは決まった出発間隔を守らないと乗せる人数が減っていき、ひいては「待ち時間」が生じてしまいます。

しかし、常に空席を作らないようにすることは難しく、乗船人数が減る原因はやはり「人」にあると加賀屋講師は言います。
現場の人のヤル気や集中力が低下することによって徐々に「遅れ」が生じてくるということでした。

ディズニーランドでは1時間毎に乗船人数の確認をしているということですが、そこで「遅れ」が生じていた場合のリーダーの伝え方・指導法を教えてもらいました。
普通なら「なんで人数が少ないんだよ!」と叱るリーダーが多いと思いますが、ディズニーランドでは「今待ち時間が20分になってるんだけど、これを5分縮めることができたらどうなると思う?この後のパレードに間に合うんだよ!20分待ちで諦めていたお客様がパレード見ることができて喜んでもらえるんだよ!」というように、「喜んでもらえるお客様の数」を目標として伝えます。

今待っているお客様が100人いて、その人の楽しめる時間を自分たちの頑張りで作り出し、100人に喜んでもらった、それに対して直接的に感謝はされないだろうけれども、より多く楽しめたことで満足度が高まってリピートしてもらえればいいわけです。

リーダーは数字の管理をし、数字を現場に伝えなければいけませんが、そのまま伝えるのではなくお客様の喜びを得るためのストーリーとして、「ロマン」として語るべきだと言うことでした。

機能的サービスと情緒的サービス

次に、4つの行動基準(Safety、Courtesy、Show、Efficiency)を元にどのように行動するのかを教えて頂きました。

行動(サービス)には2種類あり、一つは「機能的サービス」であり、これは「安全性」の中で言われたように、誰もが決まった「マニュアル(共通なルール・マナー・言語)」通りに動くというものです。

もう一つが「情緒的サービス」で、これがディズニーランドの強さの本質「思いやり」だということでした。
これは加賀屋講師がアメリカのディズニーランドの教育について学んだことだということでした。

日本のディズニーランドにおける教育の対象は日本人のみですが、アメリカの場合は白人、黒人、アジア系、イスラム系など様々な人種の人が対象です。
人種によって考え方も価値観も異なる中で一つに集約するにはどうすれば良いのか、実は日本人だけの中でも働く人の年齢の幅=人生経験の幅が広いディズニーランドにおいては同じことが言えました。
それが「思いやり」だったのです。

わかりやすい例として加賀屋講師は実際によくある「パレード」における接客を通して教えてくれました。
パレードは通りの両側に集まって観るので、その観客整理をする人がいます。
その人に慌てて声をかけてくるお客様がたくさんいます。

「3時のパレードは何時ですか?」

この時「機能的」に反応した場合は「3時のパレードは3時です」となりますが、ディズニーランドの場合はまずこの問いかけから入ります「お客様、パレード観ますか?」。

訊いてきたお客様は慌てているので、もしかすると目的はパレードではないのかもしれないからです。
まずそれを確認した上でパレードを観ると答えたなら次はこのように答えます。

「パレードは3時からなのであと5分で始まります。でも出発地点は少し離れたところからスタートするのでここだと3時5分ぐらいになります。お客様はパレードの後どちらに行かれますか?」

パレードを観てから帰るという方も多いので、慌てている人というのは帰りの時間を気にしている人であることが多いので、焦らずに済むように出口に近い観覧場所を教えてあげます。
訊かれたことだけではなく、相手にどうしてあげたいのか、「自分の気持ちを乗せて答える」ことだということでした。

さらに、一般の会社でもそうですが、マニュアルの中にも2種類あり、一つは「変わらない」もの、もう一つはお客様の要望や働く人の意見アイデアによって「変わっていく」もので、ディズニーランドでも特に働く人の「思いやり」によってマニュアルは変化していくそうです。

黄金のメガネ

最後に加賀屋講師がディズニーランドで教わった「視察のコツ」について教えて頂きました。

人は2種類の「心のメガネ」を通してものを視るというもので、一つが「グッドグラス(黄金のメガネ)」で「美点(良いところ)」か「共通点」を視るというもの、もう一つは「バッドグラス(暗黒のメガネ)」で「欠点」か「相違点」を視るというものです。

「黄金のメガネ」の場合は「美点でしか視ない」と決めているので、「ありがとう」「いいね」「最高」「嬉しいよ」といったプラスの言葉しか出てきません。
あるいは「共通点」で視ると「大丈夫?」「手伝おうか」といった色々な行動が生まれます。

逆に「暗黒のメガネ」で視ていると否定、批判、すべてマイナスの言葉になって出てきます。
マイナスの言葉を出していると当然表情にも表れますから、負のオーラが出ていて誰も近づきません。
このような人が働く場に一人でもいるとその環境は最悪です。

相手を認めてあげる、信じてあげることが大事です。
ディズニーランドは常にお客様のためであれば、新人であっても言ってくれることに対してチャレンジしてみる、変化進化する、そうあり続けることで、お客様が喜んで何度でも来て頂けるのです。

13年もディズニーランドで働き、その教えを身につけられた加賀屋講師の講義はまるで現役の「キャスト」であり、情熱的なリーダーそのものでした。

本当にありがとうございました。

新年第1回目の例会にご参加頂いた会員の皆様にも改めて感謝申し上げます。