今回は東京経営研究会で第2代会長を務められた武蔵境自動車教習所 代表取締役会長の高橋勇さんにお話をして頂きました。

誰のために経営するのか

「今後世界の全産業の47%が無くなると言われて、教習所も当然無くなります」と冒頭からいきなり切り込まれた高橋会長。
「明確に無くなるとわかっているところは良いですよ、無くなるかどうかわからないところが怖い」とも。
無くならなければ良いな、と思ってやっていって無くなった時が怖いし、そこで何とかしようとしても遅い。無くなるとわかっていると手を打たざるを得ない。だから無くなるのがわかっている教習所は有難いと高橋会長は話されます。

そこで高橋会長が今回の例会で一番訴えたかったことは「誰のために経営をするのか」ということ。これは広く言えば「何のために生きているか」ということであり、「使命は何か」を問うています。食べるだけに経営をするなら苦労はしないが何の意味もない。たった一度きりの人生である以上、意義ある人生にしたい。意義ある人生にするためには自分以外の仲間とともに学び、経営をしていかなければならない。社員さんを一人でも雇えば、その社員さんを守っていかなければならないので苦労はしますが、「使命」が明確になってさえいれば、打ち手ははドンドン出てくる。

良い会社には人が集まる

武蔵境自動車教習所は1960年8月1日に創立されました。当時の社員は11名でした。当時は戦後の高度経済成長を成し遂げ、モータリゼーション華々しい頃、人々の運転免許への意識は高く、教習所があればお客様が集まってくるという時代でした。
高橋会長は三代目として平成元年に会社を引き継がれますが、社員さんへは「自動車教習所は廃業します、これからはサービス業を中心に経営をしていきます」と宣言されています。お客様の目的は免許を取ることだけではなく、その後の人生が車を利用してより豊になることであり、それを自分たちが考えて仕事をしなければ発展はないということを訴えられました。
しかし、高橋会長の事業承継は決して順調というものではありませんでした。社長就任前年の昭和63年に労働組合が発足、組合と経営陣との激しい闘争が繰り広げられました。その最中の平成元年に初代の吉野七郎氏が勇退され、二代目として高橋会長の叔父であり専務だった高橋力男氏が4月1日社長に就任されます。ところがその翌日に高橋力男氏は亡くなります。労使の闘争に思い詰めての自殺でした。そして急遽高橋会長が社長に就任することになりました(詳しくは『月刊理念と経営』を参照ください)。
その激しい組合との闘争の中で、より社員さんへの思いを強くし「和」をもって絆を築かれた高橋会長は創立35周年の平成7年に「共尊共栄」という理念を発表します。この時高橋会長は「会社は社員さんのためにある」という思いを強く持ち、経営者は社員さんのため、社員さんはお客様のために良い会社にしていくという経営をしていくことを考え、先程の「教育業からサービス業への転換」を打ち出されました。
今ではお客様へのサービスの充実はもちろん、地域の方たちにもイベントや行事を通じてふれあい、貢献されています。平成21年には、さらなるお客様ニーズに応えるべく次世代のリーダーとして高橋明希氏に社長を託し会長へ退かれました。

現在自動車教習所の客数はピーク時の4割しかいません。しかし、武蔵境自動車教習所では創立35周年の時に「(創立40周年までに)東京No.1宣言」をして、平成12年に2位にまで上り詰め、現在もそれをキープされています。確かに現在は少子高齢化だから、人口が減っているから教習所の客数も減っているのは当然だと言いますが、そんな中で武蔵境自動車教習所は「今がピーク」であり、つまり良い会社には自然とお客様が集まってくるという証だと高橋会長は言います。そしてそれを可能にしているのが「理念」であり、理念の浸透した社員さんの存在だということです。
さらにそれを証明するものとして5年前にグループの一つになった香川県の坂出自動車学校の改革が紹介されました。こちらへは高橋会長の右腕とされる社員さんが派遣されますが、その際に「とにかく『共尊共栄』の理念だけを伝えてきてくれ」ということを託されました。その結果2年で業績は急回復、現在は昔からの社員さん、以前は一教員だった方が校長を務め業績を伸ばしているということでした。さらに高橋会長はその会社へ10年先のビジョンも伝えてあり、自動車教習所を廃業した後は広大な土地を利用して「日本一の倉庫」にしようと1億円の投資をされています。

シリコンバレーで感じた危機感

高橋会長はこれまでに何度もシリコンバレーを訪れているそうです。それは最先端のAI技術とそれによる「自動運転」の技術を自分の目で確認するためです。最初に訪れた時、街で自動運転の車を見たそうですが、トヨタのプリウスの天井にアンテナを取り付けた車がたったの2台しか見当たらなかったそうです。それを見て「なんだ、まだこんなものか、自動運転などと言ってまだ先の話だな」と思いました。ところが翌年に改めて訪れると、グーグルのオリジナルの小型車が街中”ウジャウジャ”走っていて驚いたそうです。多い時は一つの交差点に3台もこのグーグルの自動運転の車が止まっていました。止まっている車の運転席を覗くと足を組んで座る人が「これ見よがしに」いたそうです。
でも高橋会長がそれ以上に驚いたのが、信号が青に変わって走り出したその車がとても自然な動きで「左折」をしたことでした。アメリカは右側通行なので左折は日本では右折にあたります。走行している反対側に曲がる際にはかなり多くの情報を処理しなければいけません。対向車の存在はもちろんのこと、曲がった先の道の車や歩行者の存在など神経を使って運転をします。高橋会長は想像以上にスムーズに左折していった様子を見て自動運転の技術の進歩のスピードを実感しました。帰国後、高橋会長は社員さんに向けて2030年には自動車教習所をやめることを宣言されました。
ところが、さらに驚いたのが、今年渡米した際にはもうそのグーグルの小型車は1台も走っていなかったことです。訳を聞くと、その車の役目が終わったから、必要な情報は得られたので次のステージに進んでいる、というのです。つまり、1年単位で先に向けて変化、進化していることを実感し、その反面いかに日本が遅れているかを実感したそうです。

先月の例会でも紹介されていたグーグルの40カ国同時通訳ができるイヤホンも再度紹介されました。驚くべきはその価格で、たったの160ドル(約18,000円)で買えるということ。続けて完全自動運転を実現する「DRIVE PX PEGASUS」というAIコンピュータが紹介されましたが、この命令処理能力は1秒間に320兆回だということ、この2つのニュースからでも自動運転がそう遠くない日に身近な物になることを物語っています。
また、高橋会長は中国へも何度か訪れているそうで、孔子の墓がある山東省曲阜も10年前に訪れたことがあるのですが、当時は田舎町だったのが、10年後に訪れると500万人の都市になっていたそうです。これはこの10年の間で全世界が大きく変化をしていることを表し、現在が「世紀の大転換期」にある、私達日本の中小企業もその只中にいることを理解しなければいけないと高橋会長は言います。

2030年に自動車教習所をやめると宣言された高橋会長は、その先に向けて動き出しました。会社を武蔵境自動車教習所を中心としたグループ会社化し、様々な事業に取り組み始められています。先述の坂出自動車学校の将来の倉庫業に向けて投資もその一つ。保育事業や福祉事業など、社員さんに新規事業の開発を推奨し、ドンドン予算を注ぎ込んでいるということです。
高橋会長は何度もご自身の使命が「社員さんとその家族を守ること」だと言われ、だからこそ2030年以降も社員さんを守るためにはそれまでに新しい事業を立ち上げ柱にしないといけない、だから惜しまずお金をつぎ込んで社員さんに取り組んでもらっているということでした。これは、その原資は現在の教習所のお客様であり、地域の人たちだということ、つまり「今」やるべきは社員さんとその家族を守ってくれるお客様へのサービスの向上、地域に貢献できる事業の開発と取り組みだということです。今の会社を強くし、将来のために地域社会に貢献する新しい事業を開発しているということでした。

第2部 パネルディスカッション

金三津 喜作(株式会社ケムコレクション 代表取締役)
藤野 隆司(株式会社太陽運輸 代表取締役)
高橋 勇(株式会社武蔵境自動車教習所 代表取締役会長)
太田 和隆(ダイヤ冷ケース株式会社 代表取締役)

高橋会長に大転換期における10年後のあるべき姿に向けた具体的な取り組みとその覚悟についてお話していただきましたが、第2部ではその他の会員企業の取り組みを紹介してもらいながら10年後に向けた変化、取り組みのヒントを探っていきました。

金三津さんはアパレルの仕事をされていますが、その事業領域を「生活支援業」とし、洋服だけではなく、お客様の年齢層に合わせた様々な商品も一緒に提供をされています。

藤野さんは運送業ではありますが、物を運ぶだけでなく、川上へドンドン入っていって製造のお手伝いから原材料の配送までを幅広くカバーしています。さらに一般消費者向けの農産物生産も手掛けられています。

それぞれ中心顧客層の高齢化や制度の変化、さらに今回の話にあったAI技術の進化によって市場が縮小傾向にある中、視点を変え、もしくは視野を広げて10年後に向けた新たなサービスを開発し、取り組まれていることをお聴きしました。
その後、参加者でのディスカッションを行い、代表者による発表をしてもらいましたが、いずれもこれからの変化に対してとても前向きに、柔軟に対応していこうとする意見が出されました。
特に印象深かったのが、それぞれの発表に対して高橋会長にコメントして頂いた中で、人口減少とAIに進歩によって仕事が取って代わられることになることは間違いないけれども、サービスの根本が「誰かのためにしてあげる」ことである以上は人によるサービスというのは無くならないし、その本質さえ守っていれば人によるサービスを機械が真似することはできないだろう、ということでした。

高橋会長からは世紀の大転換期の真っ只中に生きている以上は少なくとも危機感を持って10年後のあるべき姿に向けて仕事をしていかなければいけないが、悲観したり恐れるのではなく、今の仕事をとにかく「誰にも負けない」ぐらい頑張ること、社会に貢献すること、そして何よりも自分は「何のために経営しているのか」という明確な使命を持つことだということを教えて頂きました。

高橋勇会長、本当にありがとうございました。
また、参加して頂いた会員の皆さまにも改めて感謝申し上げます。

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