家訓に込めた思い

今回お話頂いた五月女(そうとめ)明会長の株式会社真田ジャパンさんは、メディアにも取り上げられるほどの企業で、特にどの業界でも人手不足に苦しむ中にあって募集をかけずとも人が集まってくる会社として注目されています。

五月女会長は冒頭に「五月女家の家訓」を見せてくださいました。
ただ、五月女会長はこの家訓を会社のものとして社員さんに伝えているのではなく、社員さんのそれぞれの家でも家訓を持ったほうが良いからと家訓推奨し、その見本としてこれを見てもらっているということが印象的でした。
創業家として家訓は企業理念にも通ずると考えて大事にしてきたということですが、家訓とは生き方でありそれぞれの家、家族の在り方であり、将来の家族の指針になるものだと考えて社員さんにも勧められています。

メディアに取り上げられたときのビデオも見せて頂きました。
メディアの取材の中で紹介されていたのは、毎日クリーニングされたものを支給する制服と社員さんの家族に出される賞与、さらに親子が一緒に社員さんの存在、そして募集をしていないのにドンドン集まってくる入社希望。
これら取り組みのきっかけは、ある社員さんが孫から「今の仕事を辞めて欲しい」と言われたというのを知ったことでした。社員さんだけでなく、その家族も辛い思いをするような仕事であることを痛感されました。俗に言う「3K(きつい、きたない、きけん)」の仕事であること、周りの人達が持つこのイメージを何とか払拭したいという思いから、この思い切った改革をされました。
さらに、一般家庭を対象にした「便利屋」のような事業「ご家庭応援隊」に至っては、一般消費者相手にも関わらず営業マンがいない、つまり営業活動をせずとも仕事がひっきりなしに舞い込み、現在は全国展開するに至っています。五月女会長はビデオの中でその理由を「清潔でキビキビと誠実に働く社員さんが宣伝になっている」と説明されていました。

働いても利益の出ない事業からの脱皮

真田ジャパンさんは創業して50年になる会社で、五月女会長は二代目ですがご自身も46年勤められています。
現在の廃棄物事業は五月女会長が始められたもので、元々は空き瓶のリサイクル業(酒屋さんから空き瓶を買い付けてメーカーに販売)でした。
昭和57年の経済が上向いている頃、五月女会長は父である社長の反対を押し切って福島県に新規出店することを決めますが、失敗に終わります。経済も上向き、仕事も順調で別の地域にも顧客がいるということから出店をしたわけですが、仕事を任せた人の管理ができずに回らなくなった。五月女会長はこの時に「商売の肝は人」であることを学んだと言います。

その後は昼夜を問わずに仕事をすることに決め働き詰めでしたが、売上が上がっていても会社の状態が思わしくないことを感じ、ある時決算書の存在を知って見せてもらうことにしましたが、そこで愕然とします。売上は上がっていても利益がほとんど出ず、社長の給料も取れないという経営でした。これは、価格決定権を売り先である大手ビールメーカーらに握られていることが原因でした。五月女会長はこの時から今の事業から価格決定権を持てる事業に転換する必要性を感じました。同時に、時代の流れの中で瓶の需要が減少していくことを感じていた五月女会長は、これに代わる事業を模索していました。

そのような中、たまたま瓶の運搬でトラックを運転している時にある新築の家が目に飛び込んできました。恐らく新規事業を模索している時でなければ見過ごしていたであろうその風景とは、建てられている家屋の周りが廃材だらけになっている様子でした。建てている中で出てきたゴミをとりあえず外にドンドン放り出しているということがひと目でわかりました。
これを見た五月女会長はすぐに「(廃棄物処理)業者がいない」ということ気づきました。チャンスだと感じた五月女会長はすぐに会社に連絡を入れて一緒に働いている奥様にその現場に行って名刺を置いてきてもらうように依頼します。この素早い行動が功を奏し、スグにその建設をしていた住宅メーカーから仕事の依頼を受けることができました。これが新たな「産業廃棄物収集業務」の始まりでした。

人の幸せのために働く

真田ジャパンさんの経営理念は「人の幸福」です。これは人の幸福を考える、追求することで自らも幸せになるということですが、その中でも五月女会長がこれまでの経営の中で重視してきたのが「感謝」だということです。自分という存在は多くの人のお陰で生かされているということを社員さんには伝えてこられました。
その結果、今では給料日の翌日に社員さんから「給料を頂き、ありがとうございました」と感謝されるまでになったということです。これは決して言わせているわけではなく、給料というものはお客様から頂いたものを会社を通して頂いている、つまりそこにはお客様を始め自分を含めた多くの人が関わって給料として今自分に与えられているということをしっかり教えることで、感謝する心が生まれてくるということでした。
また、ビデオの中で紹介された毎日クリーニングされた制服や、毎日40分かけて洗車するゴミ収集車といった取り組みは、今では同じ商品であっても指名されるだけのブランド力、オンリーワンとしての価値向上のためにも行われています。五月女会長は「人は美しいものに集まる」という考えから、特に逆のイメージを持たれている業界において清潔さを徹底することでその価値を得られるとして取り組まれ、今日営業がいなくても仕事が舞い込み、主導権を持って仕事ができるようになっています。

現在は募集をしなくても入社希望者が集まってくるという真田ジャパンさんですが、バブル景気の頃の五月女会長の仕事は人集めでした。それぐらい人は集まらないし長続きしないという会社だったわけです。そのような中で感謝すること、これはまず五月女会長自らが改革をして社員さんに対して感謝をするところから始められたそうですが、会社に感謝力をつけることをされ、そこから制服やピカピカで臭わないゴミ収集車など働きやすい環境を整えていくことで会社と社員さんが変わっていった。それが会社の価値となって顧客を呼び待遇面でも社員さんや家族にも喜んでもらえるようになったことで、今や人が集まってくる会社となりました。

今回のテーマであった「真の働き方改革」とは、五月女会長が仰るように、人の幸せのために働くことで自分が幸せになっていくということを理解し、現在の会社や社員さんの働き方を見つめ直すことにあるということを学びました。

五月女明会長、本当にありがとうございました。
また、今年最後の例会にご参加頂いた会員の皆さまにも改めて感謝致します。