2026年6月24日(水)に開催された東京経営研究会6月例会では、Cloud9株式会社 代表取締役・髙野健⼀郎氏をお招きし、「感謝が会社を強くする 〜ありがとう経営の実践〜」をテーマにご講演いただきました。
静岡県西部で個別指導学院Hero’sを運営される髙野代表は、ご自身の壮絶な生い立ちから説き起こし、「共感」「教育」「可能思考」「感謝力」という4つの軸が「ありがとう経営」へと結実していく道筋を、具体的なエピソードとともに語ってくださいました。
終盤には参加者を「15歳の生徒」に見立てた特別授業も展開され、会場全体が感謝の本質に向き合う時間となりました。
「思いの熱」で人は動く ― 共感の出発点
髙野代表がまず強調されたのは、人は「正しさ」ではなく「思いの熱」によって動かされる、という考え方です。理念経営やありがとう経営を社員に伝えるためには、いかに共感してもらえるかにフォーカスしなければ、相手には届かないと述べられました。
その原点として語られたのが、創業期のエピソードです。2011年に1校舎目を開校した直後、震災の影響もあって問い合わせも売上もない苦しい状況が続きました。しかし髙野代表は「全然辛くなかった」と振り返ります。毎日子供たちに会えることが楽しく、むしろ子供たちから元気をもらっていたことに気づいたのだといいます。
道の向こう側に来たかった子供たち
共感の本質を象徴するのが、教室の近くに溜まっていた地元のヤンチャな少年たちとの出会いでした。授業の妨げになる彼らに対し、髙野代表は怒鳴るのではなく、コンビニでアイスを奢りながら話を聞きます。そのうちの一人が漏らした「いいな」という一言。家庭の事情を理由に塾に通えないと話す彼に、髙野代表は翌朝の早朝授業へ誘いました。
すると当日、その子たちは誰よりも早く教室に現れたのです。
「結局その子供たちは勉強したくなかったわけじゃない。勉強したかったんですよ」
道を挟んだ向こう側で学ぶ仲間のもとへ、本当は来たかったのではないか ― 髙野代表はかつての自分自身を重ね、深く心を動かされたと語られました。普段テストすら受けなかった彼らが真剣に受験し、点数を取ったことが学校中で話題になります。一方で担任から心ない言葉をかけられ、母親が涙ながらに訴えてきたとき、髙野代表はこう伝えたといいます。
「この子たちは可能性がないわけじゃない。可能性があるんです。ただそれに気づかない大人がたくさんいるんです」
結果がどうであれ、頑張った過程を応援してほしい ― その言葉に、母子は涙を流したそうです。やがて彼らは温かく成長し、ある日の授業ではサプライズで髙野代表の誕生日を祝うほどになり、その評判が新たな生徒を呼び込んでいきました。
ここから髙野代表は、共感を2つに整理されました。
• 感情的共感:相手の悲しみや喜びを一緒に感じる力
• 認知的共感:相手の立場や考えを理解する力
すなわち共感とは、相手の感情や立場を「自分ごと」として感じ取り、理解しようとする力なのだと締めくくられました。
思いは「強さ」ではなく「純度」で伝わる
髙野代表が繰り返し語られたのが、「思いは純度で伝わる」というメッセージです。家庭では、売上に苦しんでいた時期も玄関の前で深呼吸し、笑顔で「今日も仕事最高に楽しかった!」と帰宅していたといいます。食卓で親が仕事を楽しそうに語るか、愚痴をこぼすかで、子供が将来に抱くイメージは大きく変わる ― そう考えてのことでした。
「純度」とは何か。髙野代表は3つの比喩で説明されました。
• 熱意は「火の大きさ」、純度は「火種の質」
• 熱意は「アクセル」、純度は「進む方向」
• 熱意は「水の量」、純度は「水の透明度」
火は大きくても消えるが、良い火種は燃え続ける。アクセルを踏んでも方向が間違っていれば目的地には着かない。水が濁れば、そこで暮らす魚は逃げ出したくなる ― だからこそ経営者は、社風という水を常に純度の高い綺麗な状態に保たねばならない、と説かれました。
教育とは「再現性のある判断軸」を渡すこと
第一章のもう一つの柱が「教育」です。髙野代表は教育を「その人が自分の人生を自分で生きていく力を育てること」と定義されました。知識や技能は道具であって目的ではなく、本当の目的は自分で考え、判断し、その結果を引き受ける力を育てることだといいます。
経営者にとっての教育については、特に印象的な言葉が並びました。
• 教育とは、人を使えるようにすることではなく、自ら考え行動し結果に責任を持てる状態を作ること
• 教育とは、理念を行動基準へと変換し、日常の意思決定で使える状態にする仕組み
• 教育とは、再現性のある判断軸を渡すこと(ノウハウは陳腐化するが、判断基準は一生使える)
• 教育とは、経営者の分身を育て、自分がいなくても回る組織を作ること
教育は「教える人の生き方が滲み出る」ものであり、子供は何を言っているかより、どう生きているかを見ている ― だからこそ姿勢で伝えなければならない、という言葉に、会場は深く頷いていました。
経営研究会との出会いが人生を180度変えた
第二章では、髙野代表と日創研・経営研究会との出会いが語られました。御前崎校の成功を機に多店舗展開へ踏み出したものの、任せた教室長たちとの間で運営がうまくいかず、髙野代表自身の体現してきたものが再現できないという壁にぶつかります。
そんなとき、ある先輩から「君が勉強しなきゃダメだ」と言われ、研修への参加を勧められました。最初の研修について、髙野代表は「この研修で僕の人生が180度変わりました」と振り返ります。
ここで改めて共有されたのが「可能思考能力」です。時間・お金・人・経験といった制約があっても可能性の余地を探す思考であり、現状を限界ではなく出発点として捉える姿勢だと説明されました。物価高や人口減少といった外部要因の中で、「できない理由」を探すのではなく「この状態で何ができるか」を考え続ける力こそが、これからの時代を生き抜く鍵だと語られました。
髙野代表はまた、自社で日々リアルタイムに情報を共有していることも紹介されました。社員だけでなく全従業員が参加し、売上・生徒数・その日の出来事まで毎日共有することで、経営者自身が学ぶ姿勢を率先垂範し、共通の価値観を育んでいるといいます。前日には毎月恒例の理念と経営の勉強会を実施したばかりで、若手社員が創業期の思い出の品を大切に取っておいてくれたという心温まるエピソードも披露されました。
特別授業「15歳の君たちへ」― 当たり前は奇跡だった
第三章は、髙野代表が「先生」となり、参加者を15歳の生徒に見立てた特別授業として展開されました。会場とのやり取りを交えながら、「ありがとう」の語源へと話は進みます。
「ありがとう」は「有り難し」、すなわち「あることが難しい」「めったにないことに巡り合う」こと ― つまりは奇跡を意味します。その反対は「当たり前」。私たちは、歩けること、目が見え耳が聞こえること、毎朝目が覚めること、食事ができること、生きていることさえ、無意識に当たり前だと思って過ごしている、と髙野代表は問いかけました。
「毎日が奇跡だと思ってやってます」
授業の中では、重い障害を持つ少年が母への感謝を時間をかけて伝えた実話を綴った映像が上映され、会場は静まり返りました。この実話は、髙野代表が紹介された書籍『心に響く小さな5つの物語』(藤尾秀昭・著/致知出版社)にも収められているものです。髙野代表は「日々起きている現象は奇跡の連続」であり、一瞬一瞬を大切にしてほしいと、生徒役の参加者に語りかけました。
総括 ― 共感・感謝力・可能思考はすべて繋がっている
講演の結びとして、髙野代表は3つの軸を一つに束ねられました。
「共感は純度から生まれ、感謝力は今あるものに気づく力から生まれる。そして可能思考はまだ見ぬ未来を信じ切る力から生まれます。これら3つはバラバラではなく、すべてに繋がっている」
思いが人を動かし、行動が信頼を生み、姿勢が文化を作る ― だからこそ熱く語り、泥臭く動き、学び続ける存在でありたい、と。下を向いてスマホを眺める人が増えた今だからこそ、空を見上げ、星空に将来を想像する時間の大切さにも触れられました。座右の銘「Catch the Moment(この瞬間を掴め)」に込めた思いとともに、これからも経営に邁進していきたいと講演を締めくくられました。
参加者の声と質疑応答
質疑応答では、塾を始めた理由や仲間への声掛け、「当たり前」を当たり前にしないための心がけ、コロナ禍をどう乗り越えたかなど、多くの質問が寄せられました。
髙野代表は、勉強そのものは教えられなくとも「お前らに指導はできる」と正直に伝え続けたことが、後に振り返れば「純度」だったのかもしれないと語られました。また、この仕事には「お金では得ることができない価値がある」ことを面接時から伝え、社員一人ひとりが自ら作り出した価値を大切にできるよう導いてきたといいます。コロナ禍においては、周囲がオンラインへ舵を切る中で「リアルにこだわる」決断を社員全員で共有し、結果として保護者からの信頼を集めて業績を伸ばした経緯が紹介されました。
謝辞に立った担当副会長は、障害を持つお子さんを育てるご自身の状況と重ね合わせ、「一つ一つの出来事に感謝できることがこんなに幸せなことなのだと改めて教えていただいた」と、涙ながらに語られました。
髙野代表の生き様そのものから滲み出る「純度」と「感謝」に、会場全体が深く心を動かされた、忘れがたい例会となりました。髙野健⼀郎代表、本当に貴重なお話を、誠にありがとうございました。


