チャットワークが働き方を変える

今回の講師はChatWork株式会社の創業者でCEOである山本敏行さん。
社名でもある「チャットワーク」とは主力製品であるビジネスチャットツールです。販売当初のことを振り返って言われるのは「当時はまったく理解されなかった」。今年代問わず多くの人に利用されている「LINE」よりも早くに出たのですが、当時「チャット」は遊びに使われるもの、特に今で言う「出会い系」の男女が交流するためのものという認識でした。
「チャットワーク」の一番の特徴は過去のやり取りが検索できるところにあります。機能的には他のSNSツールと変わりませんが、この過去のやり取りが検索できるという機能がビジネスにおいては力を発揮し、プロジェクトの引き継ぎが簡単に行うことができ、またメンバー間のタスクを指示と管理ができることによって、時間と場所を取らずに仕事ができるというものです。

現在行政からしきりに出てくる「働き方改革」というワードですが、山本さんはこのチャットワークの販売する上で10年前からそれを訴えてきました。つまり、世の中がようやく山本さんに追いつき、国が掲げる旗印のもとにチャットワークは追い風を受けて広がっているということでした。

シリコンバレーでの挑戦の軌跡

山本さんは1996年、高校生の頃にインターネットビジネスを始められましたが、元々は格闘技の主将をつとめるほどのバリバリの「体育会系」でした。弟さんは真逆の「ゲームオタク」で、山本さんはそんな弟さんを引っ張り出しては格闘技の練習台にしていたところ、父親から弟さんのほうが偉いんだと叱られ、弟さんが熱心にやっているゲームに興味を持ちます。
その後、当時動き出したインターネットビジネス、当時は「電子掲示板」と言われたツールで売買をするという程度でしたが、山本さんの今につながるビジネスが始まりました。さらに、大学3年生の時、当時付き合っていた彼女がアメリカに留学するということになったために追いかけていって山本さんもLAに留学することになり、ちょうど全盛期だった「ドットコムバブル」に乗って起業されました。

2004年に帰国後に法人化しますが、その頃はまだ「体育会系」が山本さんにあったために、社員さんにかなり厳しい労働環境を強いたことから次々に辞められました。初めは辞める社員は「根性が無い」からだと考えていましたが、ある講演会で「自分原因論」ということを聴き反省、経営者として学ぶ必要性を痛感して日創研の門を叩きました。
日創研では基本の可能思考研修修了後に「起業家養成スクール」に行くことを勧められ、学ぶことになりました。ここでシリコンバレーに初めて行く機会を得て運命的な出会いをしました。
その後2010年までの間に経営者としての学びを通して順調に業績を上げ、「社員満足度日本一」の企業に選ばれるまでに成長をします。しかし振り返ってみると、起業した2000年からの10年間でメインで取り組んでいるITサービスが日本においてほとんど成長しておらず、世界に取り残されている現実に気づきます。「自分原因論」で目覚めた熱血漢である山本さんは「自分の仕事」だと使命感にかられ、2011年に満を持して生み出されたのが「チャットワーク」でした。

山本さんはこれを当初からグローバル展開のために生み出したものだったので、サンフランシスコで開催された「SF NEW TECH」という新商品発表の場で多くのアメリカ人の前でプレゼンサれました。ところが、多くの投資家から資金提供の声が上がる一方で肝心のユーザーがつかないという結果に見舞われ、これは「アメリカ人の働き方」に違いがあると考えた山本さんはアメリカのIT企業に2ヶ月間インターンとして勤めることにしました。そこで、アメリカ人の働き方、考え方を学んだ後に再度展開しようと考えた山本さんでしたが、現地で働いてみるとアメリカ人と日本人のマネジメント、マーケティングがまるで違うことを知りました。あまりの違いに衝撃を受けた山本さんは「日本から」ではなく、現地アメリカに移住して法人設立することを決め、シリコンバレーでの挑戦が始まりました。

アメリカ人と日本人の働き方の違い

では、アメリカ人と日本人の働き方はどのように違うのでしょうか。
山本さんも初めは「働き方」に違いがあると考えていましたがどうしてもピンとこなかったと言います。そこで行き着いた答えが「仕事の考え方が真逆」という根底の考え、捉え方に違いがあるということでした。

わかり易い例として「名刺交換」が挙げられ、日本では出会ったら「まずは名刺交換」するところをアメリカ人は最後にするというもの。これは意見や価値観がわからない相手に個人情報を渡すというビジネス上の非合理性を突いた考え方からくるもの。
また「セールス・マーケティング(営業)」においても、日本では「飛び込み」や「テレアポ」というかなり積極的な取り組み方が一般的ですが、これは「3回通えば会ってもらえる」というビジネスとは関係の無い情緒的な考え方からくるものだと言えます。この二つに共通するのは「プッシュ型」だということであり、アメリカで同じようなことをすると「ビジネスマナーがわかってない」とされるのです。
これは、国土の広いアメリカではこの方法がそもそも取れないことに起因しており、それだけにDMやホームページといったマーケティングツールが発展し、如何に「来てもらうか(プル型)」というやり方になっています。一方で日本は東京一極集中にあるので分析している前に山手線一周して来たほうが早い(良い)という考えが根付いており、だからこそマーケティングツールがなかなか発展していかなかった。

さらにアメリカでは「雇用を守る」ということに対して反発します。その理由は「できない人のために自分たちの給料が減らされる」という非常に合理的な考えから。ここには正に「仕事の考え方」が起因しているものがあり、それが「業務」における違いで、日本では「人に仕事をつける(割り振る)」アメリカでは「仕事に人をつける(割り当てる)」というもの。山本さんは会社の仕事を野球に例えて教えてくれました。
ピッチャーが打たれだしたら別のピッチャーに交代させ、そこに「引き継ぎ」というのはありません。つまりこれは仕事に応じたスペシャリスト(専門家)が行っているからですが、同時に全く別のポジションに就かせることもしません。これは一見すると非情で働く側に不利なように思えますが、働く側も「自由に辞める」ことができる、つまりとても強いピッチャーが居てもより多く給料がもらえるところにすぐに移れるというのがあり、労使がフェアな関係にあるということなのです。ですから、アメリカでは「どこに勤めているか」よりも「どのような仕事ができる人(個人)」なのかが重視されているわけです。

日本が現在「働き方改革」と言ってアメリカの考えや取り組みを取り入れては失敗していますが、それはこの「文化の違い」を無視して「やり方」だけを取り入れているからだと山本さんは言います。例えば「時短」についても日本はなぜか「早く帰るだけ」の改革になってしまっていて、情緒的な「付き合い」や「建て前」といった日本の文化的背景による非生産性を考慮しての解決策になっていない。「リモートワーク」や「副業」というのも最近はよく聴きますが、これも同様で日本における仕事の考え方、文化が個人の働きを尊重した「成果主義」に変わらない限りうまくいくことはないということでした。

なぜ日本人はなかなか変われないのか?

その上で山本さんは日本の働き方の問題を提起してくれました。
一つは「時間泥棒」を辞めるということ。山本さんは最近よく聴く「ダイバーシティ(多様性)」ということについて、なぜ単一民族で全体主義的な日本においてそれが必要なのかと疑問をなげかけ、そもそも全く違うことをしようとするのではなく同質性を活かす取り組みをしていくべきだと言います。
この「時間泥棒」というのもこの日本特有の文化、特質から来ているもので、ビジネスにおけるコミュニケーションの手段である「電話」「メール」さらに「会議」「飲み会」というのがその代表例として挙げられました。「会議」や「飲み会」というのは特にこの同質性や全体主義的な文化が反映されたものと言えます。「電話」や「メール」というコミュニケーションの手段のなぜ「時間泥棒」なのか、それは日本人の何事も「キチっと」やるところに起因していて、相手に「失礼の無いように」しようとしてかえって相手の時間を奪ったり、その人の時間を無意味に減らしてしまっているというものです。例えばお礼の挨拶のつもりで電話をかけたとしても、相手にとっては突然かかってきてその時の時間を失ってしまうことになります。メールも手紙の代わりのように捉えられてやたらと丁寧に長々と書かれたものは、書くだけでも時間がかかりますし、読む側も読む時間がかかります。
丁寧にやることは良いことですが、ビジネスとして考えた場合成果に無関係な物事は失くしていかなければなりません。

ここで山本さんは、だからといって文化として定着しているものをいきなり変えようとしても難しいので、ルールや仕組みで少しずつ変えていくべきだと言います。
例えば、出勤時間や昼休みの時間を少しずらすだけで楽に動くことができますし、休暇もGWや夏休みを全体が一斉に同じ時期に取るのではなくずらすことで楽に割安に取ることができる。また、会議も必ずしも全員が出なければならないわけではないので、出られる人が出るようにする。ルールや仕組みを少しずつ変えることで全体の環境を変え、意識を変えていくことが重要だということでした。
その中でも今からどの企業でも実践できる「禁止のルール」を教えてもらいました。
一つは「社内資料の印刷の禁止」で、これは「探す時間」を減らすために行うもの(データ化、オンライン化することで検索がたやすくなる)、二つ目が「社内会議のパワポ(での作成)」で、これは社内の人に対して格好良くする必要が無く、そこに時間をかけないようにするためのもの。三つ目が「社内メール、内線電話」で、これも無駄を無くすというものです。

日本の働き方の問題についてのまとめとして山本さんは「日本はそもそも働き方がガラパゴス化しているのでグローバル化が難しい」ということでした。同時に、文化が違うのでアメリカのやり方を部分的でもそのまま取り入れると歪みが起こるということ。だからこそ、日本人の特質から考えて日本人に合った取り組みに見直していく必要があるということでした。

中小企業に求められるイノベーション

残りの時間で現在のシリコンバレーで起こっていること、山本さんが現在考えている「SV構想」について教えてもらいました。
こちらは山本さんから提供して頂いた実際の講演動画を御覧ください。

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その後の質疑応答の中で今回のテーマである「中小企業に求められるイノベーション」について語られた印象的な話がありました。
それは働き方のところでも出されたことでもありますが、物事を変えるためにはいきなり大きな変化をしようとするのではなく、「小さな変化を繰り返す」ことが必要だということでした。日本人はどうしても「完璧」を求める傾向があり、時間をかけて完成されるまで世に出さないというところがありますが、それが正解であるかがわからない中でやることが多いので「とりあえずやってみる」そして答えに近づけていくということが大事だということでした。つまり、良くなるために変化をしているということが根付く(裏付けができる)ことで初めて大きな変化を受け入れられるということです。また、変化をするには大きな夢や希望を持ちチャレンジし続けることだということでした。

山本講師ありがとうございました。
また、ご参加頂いた会員の皆さまにも改めて感謝申し上げます。