中小企業で活用すべきデザインシンキング

今回の講師である髙橋明希さんは、武蔵境自動車教習所の社長であり東京経営研究会の会員です。昨年11月の例会で講師をされた髙橋勇会長同様に非常に勉強熱心な方で、自動車教習所の将来のことを考えてアメリカのスタンフォード大学へ留学されました。そこで、現在日本でも盛んに取り上げられている「デザインシンキング(デザイン思考)」を学ばれました。

ただ、髙橋講師が学んで後に帰国した時に感じたのは「デザインシンキングが流行っているようだけど、ちゃんと活用できているのだろうか」ということでした。特に、大企業に対してのみ活用するための取り組みがあるようですが、中小企業こそ「デザインシンキング」を取り入れるべきだと考えられました。そこで今回はその「デザインシンキング」とはどういうものなのかを実際に体験してもらおうというのが一番の目的でした。

最初に、そのデザイン思考を経営に取り入れているシリコンバレーの有名企業を挙げられました。ただ、そこで髙橋講師が伝えたかったのは、確かにそれら勢いのある有名企業がデザイン思考で事業を成功させているけれども、決して「一夜にして」成功したわけではないということでした。
ほとんどの企業が10年〜20年かけて現在のポジションを獲得したということ、つまりデザイン思考のワークショップを1度やったら素晴らしいアイデアやイノベーションが生まれるわけではない。繰り返し取り組み、呼吸をするがごとくできるようになればイノベーションが生まれるだろうということでした。

自由な発想は自由な思考から

デザイン思考のプロセスは次のようになります。

Empathize  問題を抱えている顧客や人に共感する
Define    コアな問題を理解する
Ideate    問題解決のためのアイデアを出す
Prototype  試作品を作成する
Test     現実の世界で試作品を試す

髙橋講師はデザイン思考について見聞きする度に、最近の傾向としてその「テクニック」のことばかり注目されているように感じて、アメリカの「IDEO」というデザインコンサルタント会社の代表者の一人であるトム・ケリー氏にデザイン思考の目的は何なのかを直接問いかけました。日本ではデザイン思考と共によく言われる「イノベーション」という言葉は彼の口からは出てきませんでした。
彼が言うには、デザイン思考を企業内に取り入れる目的というのは、第一に組織の中にGreat Thinkerを育てる=知識を統合できる人を育てること。これは「よく考える」ことに加えて、様々な考え方や知識を取り入れて統合することができる人を育てるということ。次に実際に行動できる人を育てること。ひいてはその組織のマインドセットにさせることがデザイン思考の目的、つまりデザイン思考が事業を考える上での「考え方の基本」にさせるということでした。

今例会の目的は体験することなので、早速ワークショップが始められました。
今回は、参加者全員が持っている「財布」の新しいアイデアを見つけることを目的にしました。
2人一組になって、それぞれから自分の財布に関することを聞き出してもらい、そこから問題課題を読み解き、それを形にしていくという作業です。
特徴的なのが、相手の本心あるいは深層心理を引き出すために、相手がリラックスして感情をうまく出せるような状態で話を聴くということ。つまり、セミナー会場の着席したその場でする必要はなく、むしろ机を挟んで対面した状態では表面的な会話にしかならないので、別の場所に移動する、あるいは立ち話にする、会場から出ていっても構わない、というものでした。その上で、聴き出したことだけをメモするのではなく、その時の感情や身振り手振りまでを書き出しました。

さらに、話を聴く相手との「共感」を生み出すために、「財布」のことだけではなく、相手の生活スタイルや考え方など様々な話をしてもらうことを求められました。髙橋講師からはしきりに「自由だ」ということが伝えられました。
日本人は遠慮がちで、何事にも枠を作りすぎる傾向があり、「これ」と指定されるとそこからはみ出ることを嫌う傾向があると髙橋講師は言います。それだと中々問題の核心に迫ることができず、これまでと同じ結果しか生まれない。ですから、今回のワークショップについては、手順は決められた通りに進行していきますが、ワークの中身については自由に発想し自分で考えて行動をするようにと髙橋講師は参加者に伝えていました。
また、わからないことや知らないことにぶつかるとどうしても立ち止まってしまうことがありますが、これはスグに正解を求めるからであり、「とりあえずやってみること、一度でイノベーションは生まれない」ということも髙橋講師は繰り返し伝えていました。同時に体を動かして、実際にモノを創る作業を求められました。

失敗は成功のためのプロセス

ワークショップ後の講義では、これまで数々のヒット商品を生み出してきたトップクリエイターや経営者の話から成功要因を考えるものでした。そこでも、彼らが伝えていることは「一つの成功の裏には数え切れないほどのトライアンドエラーと捨てられたプロトタイプの山がある」ということ。髙橋講師は今回体験したデザイン思考によるワークショップも、これで新しいアイデアが生まれるわけではない、むしろ今からがスタートであり、組織(の考え方)を変えるまで繰り返しやり続けることだと言います。
そしてやり続けるためにも、成功の裏にある数々の失敗について、「失敗=間違い」という捉え方を変え、うまくいかなかったこともプロセスの一つ、一つの結果だと捉えられるようになること。眼の前に現れたことから次につながる何かを学び取ればいい。だからこそ、何かをやってみたことにおいては失敗は無い、失敗とは何もしないことだと髙橋講師は教えてくれました。

そして、このデザイン思考による成功例として、スタンフォード大学の「dスクール」の学生が生み出したアイデアを元に企業した「エンブレイス社」の紹介をしてもらいました。
詳しくは、こちらの記事を参照してください(日経新聞)。
https://www.nikkei.com/article/DGXBZO58831640T20C13A8000000/

ここでも髙橋講師からは、決してスタンフォード大学の学生だからできたことだと考えないことと成功までにはかなりの時間がかかるということを理解して欲しいということでした。

最後に、髙橋講師がシリコンバレーで起業した「ブリリアントホープ社(明希)」での事業の紹介と、武蔵境自動車教習所さんの取り組みについて紹介してもらいました。

2030年のあるべき姿
1,理念経営を通じ、社会の問題解決をする。
2,世界に貢献するグローバル企業になる
3,社員の半数を外国人にし、ダイバーシティ経営を行う。
4,社内スタートアップの仕組みを確立し、支援する
5,年商1,000億円
このビジョンを現実のものにするために、髙橋講師もデザイン思考を社内に取り入れ浸透させている、そして必ずイノベーションを起こしてみせると力強く話してくれました。

また、質疑応答の中で「既存事業と新規事業のバランス」についての質問に対して、具体的に社長を含めた全体の2割から3割を新規事業に向けるという答えでしたが、大前提として既存事業で利益を出している上でのことだということでした。別の言い方をすれば、既存事業で利益が出ている間に新規事業に取り組んでいかないといけないということでした。何度も言われていた通り、デザイン思考ですぐにアイデアが生まれるわけではないし、仮に出来上がってもそれが利益を生むまでには時間がかかるからです。

先程かかげたビジョンにしても、まだ12年あると考えずに、新しいアイデアが事業として成り立つまでには10年かかることを考えれば余裕はまったくなく、急いで取り掛からなければいけないことだということです。今回の「動き回る」ワークショップは体感するだけでなく、時間や身近にある資源を如何に無駄にせず有効活用すべきかということも考えさせられました。

髙橋明希講師、本当にありがとうございました。

ご参加くださいました皆様にも改めて感謝申し上げます。

このエントリーをはてなブックマークに追加