大激動の時代の生き方

令和4年1月例会の講師はお馴染みの芳村思風先生の感性論哲学の講義でした。
冒頭現在のコロナ禍について触れられ、心配事ではあるけれどもこれもこれからの新しい時代を迎えるために乗り越えなければならない問題として現れていると述べられました。
感性論哲学では、問題とは人間の潜在能力を引き出すために現れるものであり必要なものであると説いています。そして問題を乗り越えることでしか人間性は成長・進化・発展しないといいます。
これからも問題、悩み、災害が襲ってきますが、それを乗り越える努力を通してでしかこれからの新しい時代はやって来ない。そういう信念を持って、問題に立ち向かい乗り越えていこうと先生は言います。

その意味では現在の大激動、大動乱の時代はあらゆるものを変化させる、古いものを断ち切って新しいものを次々とクリエイトしていく、その努力が私たちに求められています。
経営能力を成長させ、これまでとは違うまったく新しい経営スタイルを創っていくことを考えた場合、今私たちが生きているこの時代がどのように進もうとしているのかを「哲学的に」理解し、先見性を養っていくことが求められています。
経済界では「変化対応能力が必要」だと言われますが、思風先生はそれを「中途半端な力」だとし、変化が起きてから対応するという「後追いの生き方」ではダメだと言います。
私たちが志すべきは変化の後からついていくのではなく、「時の流れを自ら創る(時流独創)」という、誰もやったことのないものを創り出していくという生き方だということです。

その上で、これからの時代の先行きを考えた時、文明の中心が西洋から東洋へと移っていくと思風先生は言います。
これは感性論哲学の歴史観からのものですが、理性の時代と言われる近代、つまり西洋ー欧米が中心となって発展してきた時代が終わりを告げようとしている大転換機にあり、これからの感性の時代の中心は東洋ーアジアになるということです。
しかし、まだ9割の人が理性的で合理的に考えた旧態然とした精神に縛られた経営をしており、新しい経営のスタイルに飛び込んでいこうという勇気を持てないでいる。
つまり、時代は変化を求めているのにまだほとんどの人が理性に支配され「時流独創」に至らないということです。

原理的な大転換

過去に引きずられ、コロナが終息したらコロナ前の「あの懐かしい時代に帰れる」という淡い期待を持って生きている人が多いが、コロナが終息しても過去には戻らず完全に変わってしまう。
だからこそ、どう変わるのかを考え未来を見つめていかなければならないのだということです。
変化の時代というのは不安になるとは思うが、新しいものは現在のような激動激変の中から生まれてくるものであり、「夢多き時代」がようやく到来したと考え、その中で自分がすべきことは何か「時代に求められていること」「使命」を探すべきだと思風先生は言います。

文明の中心が西洋から東洋へ、時代は近代から新しい時代へ変わろうとしている中、私たちが生きている社会構造も激しく変わろうとしています。
これまでは人間が人間を支配する「縦型社会」が当たり前とされ、少数の人間が多くの人間を支配するということで社会秩序が作られていくと考えられてきました。
しかし、20世紀に入ってからこの当たり前とされてきた縦型の社会構造は終わり、これからは支配関係のないフラットな「横型社会」を創っていかなければならない。
これまでの人間が人間を支配するのは悪だという「原理的な大転換」を自らの生き方や経営、仕事の仕方に取り入れ、あらゆるものを変えていかないといけないと思風先生は指摘します。

これは人間の本質を問う「人間観」にも表れ、これまでの人間の本質は理性だとされてきたものが、人間の本質は感性であり心だというように激変しています。
欲しいのは理屈ではなく心であり、心を理解して欲しいというのが現代社会の声であるのに、理屈が通ればうまくいくという古い考え方の人が社会を混乱させていると思風先生は言います。
これまでのように競争ではなく、心や感性を満たす「愛の原理」で生きるというまったく新しい生き方を作っていかなければならない。
このような時代における経営のあり方が今回のテーマである「感性経営の10原則」なのです。

相手を思いやれる愛

これからの時代における経営のあり方の一つ目は「愛と対話とパートナーシップによる経営」です。
これまでの「愛」とは男女の愛や親子の愛など原始的で自然発生的なものと捉えられてきましたが、これからの時代に求められる愛とはそれとはまったくことなるものだと思風先生は言います。
これからの時代に求めれられる愛とは、考え方が違う人とも共に生きていける、あるいは価値観が異なる人とも一緒に仕事ができる、異なる宗教の人とも仲良く生きていける、といったこれまでとは全く違う「愛の精神」です。
これは、他者の悩みや苦しみ、悲しみや怒りなど「他人の心をわかってあげる」という愛が求められるということです。
この変化を如実に表したものとして思風先生は昨今の「ハラスメント」という言葉で弱い立場の人への攻撃を指摘する行動を挙げました。

これまでの人間が人間を支配する縦型社会というのは上に立つ者に絶対的な真理があり、一方的に命令(支配)することで職場や家庭などそれぞれの関係が成立していました。
しかし、社会が成熟していくに従って性差や年齢差による区別に違和感を感じるようになり、それがこれまでの縦型の社会構造の歪みとして捉えられるようになったのがこの「ハラスメント」という言葉とその取り組みです。
つまり、思風先生が言うこれからの時代に求められる愛とは、これまでの縦型あるいは区別された関係性における一方的な愛ではなく、同じ人間として分かり合い、相手を思いやれるという愛ということです。

この愛を実現させるために必要なのが「対話」であり、話し合うことで分かり合える、納得し合えることが求められます。
ただ、これまでの考え方では、話し合う時間が惜しい、能率的ではないとされてきました。
それだけにこれからは短時間で話し合い、理解し合えるという能力が必要になってくるということです。
これまでの能率や効率といった理性的な価値観に求められていたのが「管理」とその能力であるのに対して、これからの短時間の対話で理解し合う上で求められるのは相手への「感謝」と気づきの能力であると思風先生は言います。
このことから、これからの経営も支配と命令と管理の理性的な経営から愛と対話とパートナーシップによる経営に変えていかなければいけないということでした。

心が欲しいものをあげる

二つ目の原則は「心の通ったぬくもりのある経営」です。
これまでの理性的な経営は組織のつながりと役職のつながりで会社の秩序が保たれてきた、つまり「理屈が通ればすべてうまくいく」という考え方に支配されてきました。
しかし、この支配と命令と管理の理性的経営は人の心にストレスを生じさせ、心が死んでいく。
ストレスによる病気や自殺者は増え、誰もが薬を飲んで頑張っている。
理性によって生じるストレス、すなわち仕事のつながりと役職のつながりだけで動かされている会社に生じるストレスによって私たちは殺されようとしていると思風先生は警鐘を鳴らします。

これを打破し、会社を人間が仕事をする場に変えていくためには、これまでに無かった全社員の「心のつながり」をどのようにして作っていくかを考えないといけません。
これからの会社の土台に構築しなければいけないのは全社員の「心のつながり」であり、その上に仕事のつながり、役職のつながりがあるという3次元構造で経営されなければいけないということです。
「心のつながり」とは理屈を超えた団結力であり、これが土台にあればあらゆる理性的対立は乗り越えることができますが、「心のつながり」が無ければ理性的対立は組織の崩壊につながります。

「心のつながり」を作るためには「心が欲しい」とするものに対して「心をあげる」努力をしなければなりません。
「心が欲しい」としているものは、認めてもらいたい、わかってもらいたい、褒めてもらいたい、好きになってもらいたい、信じてもらいたい、許してもらいたい、待ってもらいたい、の7つです。
これは心が求めているものであり、「命の叫び」だと思風先生は言います。
会社内に「心のつながり」を作るためには、この「心が欲しい」とするものに対して「心をあげる」努力、認めてあげる、わかってあげる、褒めてあげる、好きになってあげる、信じてあげる、許してあげる、待ってあげる、具体的なこの7つの実践をすることです。
この努力こそが「愛の実践的原理」であり、経営者が率先してこの努力をする、その姿勢を見せることで社員は心から着いてくるようになるということでした。

逃げずに受けて立つ姿勢

三つ目は「問題を恐れない経営」です。
理性的な人は問題が起こることを恐れ、問題が出てこないことを願っています。
理性的な人は問題が起こると、自分の判断が間違っていたからだと考えるため、問題が起こるたびに考え直そうとして「後戻り」してしまいます。
理性的な経営者ほど問題が起こることを嫌いますが、これは問題から逃げようとする経営だと思風先生は言います。
人間は不完全ですから問題が起こらないはずがない、だから問題を恐れるのは「逃げの経営」だということです。

これはこれまでの理性的な経営ですから、「問題を恐れない経営」こそが新しい経営です。
感性論哲学では、問題はその人を成長させるために現れるものと考えますから、経営上の問題は「我が社の発展の時がきた」と喜んで受け入れます。
問題が起きてはじめて「何とかしないと」として積極的努力をするのであり、問題が無ければ人は努力しません。
問題の無い完全を求める理性的経営は成長発展しないだけでなく、問題から目を逸らし堕落していく経営なのです。

四つ目は「変化をつくりだす経営」です。
理性的な人は恒常普遍(変わらないこと)の真理を求め保守的です。
一方感性は変化が無ければ退屈なので、変化を求め変化に喜びを感じます。
これは生きているということは変化することであり、変化しないということは死んでいることなので感性とは「命の本質」であり、だからこそ感性は変化を求めます。
このことから、感性経営とはその変化を自らつくりだす経営でなければならないということです。

プロとしての仕事の仕方

五つ目は「仕事に死ねる愛の経営」です。
経営者とはその仕事のプロであり、その仕事の本当の意味や価値、値打ちや素晴らしさや凄さを知っている人間がその業界のトップに立ちます。
人間の感性は意味を感じればやる気になり、価値や素晴らしさを感じれば命に火がつく、燃えることができます。
命は「生きたい」と思っているものですが、命が一番輝く時というのは、生きたいと思っている命が「このためなら死んでもいい」と思えるほどのものに出会った時です。
死んでもいいとおもうほどのものに出会わないと命は完全燃焼しないのです。

経営者はその仕事のプロだからこそ、その仕事の価値や本当の素晴らしさを一番よく知っていなければいけない。
その仕事のために死ねる、という思いで仕事をしないと誰も着いてこない。
経営者は毎日の朝礼で仕事の意味や価値や素晴らしさ、凄さを熱く語ることができないといけない。
経営者はその仕事のために死ねるという思いを持てるようになるまで、その仕事の意味や価値や素晴らしさをわかる必要がある。
命は「このためなら死ねる」というものとの出会いを求めています。
そのためには理性で仕事の意味や価値や素晴らしさを深く追求し、そして感性でそれを心から感じ取らなければいけない。
感性が意味や価値を感じることができれば、「死ねる」という思いが湧いてくるということです。

六つ目は「最高の満足を与え、最大の信頼を得る経営」です。
すべての仕事はお客様を満足させるためにあり、そしてすべての仕事はお客様から最大の信頼を獲得するためにある、これこそ経営の究極の目標だと思風先生は言います。
そしてそれを全社で共有し、会社全体でそれが成し遂げられるようにならないといけません。

七つ目は「不可能を可能にする経営」です。
会社を発展させるということは、今現在不可能とされることを可能にすることにあります。
理性的に考えて無理だと考えることをやってしまうことが経営の本当の精神だということです。
経営者は先頭に立って限界への挑戦、不可能を可能にする経営というのをやって見せなければいけないのです。

経営を永続させるために

八つ目は「利益が出る仕組みをつくり続ける経営」です。
会社を作るというのは、利益が出る仕組みをつくるということです。
経営者の仕事は、社員さんが働いてくれたら利益が出るという仕組みをつくり続けることです。
利益が出なくなったら、それは会社ではなく、人々から求められていないという証である。
赤字は経営能力の未熟さを物語る現象であるということを経営者は徹底して肝に銘じなければいけないということでした。

九つ目は「結果が出るまでやめない経営」です。
これだけ頑張っても結果が出ない、もうダメだ、と思うようなだらし無い経営者であってはいけないと思風先生は言います。
経営者は結果が出るまでやめない、うまくいくまでやめない、成功するまでやめないという不撓不屈の意志をもってはじめて経営は達成できる。
問題には必ず答えがある、答えのない問題などないのだから、どんな問題でも乗り越えられる、だから結果が出るまでやめないという信念を経営者は持っていないといけないということです。

最後は「仕事を通して人格をつくる角熟経営」です。
仕事は金儲けの手段ではなく、仕事を通して自分の人間性や人格を成長させていくというのが、あらゆる仕事の究極の目標だということです。
仕事の目標を資本主義経済のようにお金を増やすということにしてはならず、仕事をするということは自分自身を人間として成長させて本物の人間に成長する、そのために仕事をするという信念が感性経営には必要です。
仕事の目的は金だと思ってはならず、仕事の目的は自分自身の人間的成長にあると思風先生は言います。

理性と感性の相乗効果を発揮する

講義後のディスカッションを通して、質疑応答が行われました。
質問として多かったのが如何にして「理性と感性を使い分けるのか」ということでした。
人の心は理性だけでもないし感性だけでもない。二つが心をつくっているのであって、「考えてはいけない」のではなく、また「感性だけでは問題は解決しない」から、二つを如何に上手く使えるようになるか、それを仕事を通して鍛えていくことが大事であるということを思風先生は教えてくれました。
その始点は問題を感じること違和感に気づくこと、これは感性がなせることなので、まずはその気づきの能力を鍛えること。次に理性を発揮して深く考え問題の本質や意味を理解し、最後に感性がその答えに納得する、感性が納得するまで問い続けることだということでした。

今回のお話は思風先生が書かれた書籍『感性経営の10原則』(思風庵哲学研究所 編)を元にお話ししていただきました。
時間の関係上、かなり端折られていますので、ぜひ書籍を読み直していただくことをお勧めします。

芳村思風先生、貴重なお話をありがとうございました。
ご参加いただいた会員の皆様にも改めて感謝申し上げます。