今回は毎年恒例の西東京経営研究会との合同例会として、北九州市を中心に美容室「BAGZY」を展開されている株式会社九州壱組の代表 久保華図八氏の講演でした。
久保講師はサロン経営の傍ら、大手企業などで経営についての講演をされていて、東京経営研究会でも二度目となります。

人が幸せを感じる時

冒頭久保講師はなぜコミュニケーションにおいて「ありがとう」が必要なのかを話してくれました。
人の幸せは次の4つだということです。
一つ目は人に愛されること
二つ目は人に褒められること
三つ目は人の役に立つこと
四つ目は人から必要とされること(頼りにされること)
これは日本理化学工業株式会社の前会長である大山泰弘氏が、ある時自社の障がい者雇用についてお寺のご住職に尋ねた際教えられたことだと言います。(大山泰弘著『「働く幸せ」の道』)
これはCS、ESで一番重要なことだと久保講師は言います。(注)
マネジメントで最も重要な顧客満足においても、従業員満足・やりがいということもこの4つが答えであり、この4つを心に持って実践するだけだということです。

久保講師はホンダの創業者である本田宗一郎氏の大変なファンで、著書だけでなく講演会のビデオなどもすべて見たということですが、その中の言葉にこのようなものがあります。
「人間とは見たり、聞いたり、試したりで生きている動物だ。悲しいかな、ほとんどの人は見たり、聞いたりで終わる」
これは学ぶだけで実践しないことに対する警鐘であり、学ぶばかりだと理想ばかりが高くなり現実とのギャップに悩むことになると久保講師は言います。
何かを学んだらやってみる、運が良ければ失敗する、運が悪ければ成功する、とも言います。
なぜなら成功してしまうと、反省して改善して成長するというスパイラルに入らないからであり、失敗した方が良い。
しかし、その失敗もやってみたから得られた経験であり、トライしなかったら成長の種子であるその失敗も得られないということです。
つまづいたことがない人が良いということではなく、動いていないからだということです。
久保講師は、今回学んだ「4つの幸せ」を実践することで従業員満足は格段に向上しますから、聞くだけにとどめずそれぞれの会社で実践することを強く望まれました。

その上で、従業員満足を福利厚生や給料、休日だと考えていたら大間違いだと言います。
日本で一番休みが多くて、給料が良いという会社を見てみると、人が辞めて大変になっていることがわかります。
これは給料が高い、安いという相対的なことではなく、従業員満足の本質、求められる絶対的価値が「4つの幸せ」にあるということです。
久保講師は「4つの幸せ」の具体的な実践について、参考になる書籍を紹介しながら教えてくれました。

なぜ「ありがとう」が必要なのか

まず「愛される」ということについてですが、「愛する」と聞いただけでは漠然としていて少し戸惑ってしまいますが、久保講師はより身近に捉えることと相手がより嬉しく感じることだと言います。
「愛する」というのは気遣ってあげる、寄り添うということであり、例えば社員さんの家族のことを気遣って声かけをするといったことです。
人は自分よりもその人が大事にしていることを良くしてもらう方が嬉しい度合いは大きい。
その人に関心を持って、その人が大事にしていることを知り、それを気遣うことでその相手への愛が伝わるのだということでした。

著書『人を動かす』で有名なデール・カーネギーは、本の中で「人を動かす三原則」について書いていますが、その具体例としてアメリカの鉄鋼王として有名なアンドリュー・カーネギーがU.Sスチール社設立時に社長として迎えたチャールズ・シュワップを取り上げています。
シュワップは人を動かす名人と言われ、その極意を「他人の長所を伸ばすには、褒めること、励ますことが何よりの方法だ」と述べていたことが書かれています。
「伸ばす」ということに色々な考え方がありますが、成長するために行動させる上で「褒める」というのはとても大きな影響を与えるものだということです。

もしあなたが美容師さんで、朝から晩まで目一杯働いてクタクタになっていたとして、最後のお客さんから「今日のこの髪、最高に気に入った、ありがとう!」と言われたとしたら、どうでしょう。
恐らく疲れは吹っ飛び、アドレナリンが出まくって、ヤル気に満ちてくるはずです。
人は役に立ったと感じると、その相手から大変なエネルギーをもらえるのです。
「ありがとう」とともに感謝を伝えることで、人は役に立ったと感じ、幸せになるということです。
だからこそ人の和の中心にいる経営者やリーダーほど、些細なことでも「ありがとう」の言葉をかけてあげないといけないと久保講師は言います。

「頼りにされる」というのは「役に立つ」と似ていますが、「役に立つ」が行動に対して感謝されることに対して、「頼りにされる」というのは存在意義を感じることだということです。
「プロジェクトに君がいてくれるから安心だ」こう声をかけられた人は自分が頑張らないといけないと考えます。
つまり頼りにしているということを伝えることで相手は「当事者意識」を持つことになるということです。
だから、当事者意識を持たせるのは何も責任や立場を与えるだけではないと久保講師は言います。
「ありがとう」と同じで、キチンと言葉にして伝えることが大事だということでした。

このように「ありがとう」という言葉には人を幸せにするとても大きな力を持っているということです。
当事者意識は英語で「sense of ownership」つまり経営者感覚のことであり、自分が経営者として(もの前の事を)捉える、積極的に経営に関わろうとすること。
「ありがとう」の言葉と共に感謝と頼りにしていることを伝えることで、相手の当事者意識が高まり「ここで働きたい」「自分が会社を変えてやろう」という思いが強くなっていきます。
久保講師の会社にまだ入社1年半という社員さんがいます。ある時久保講師はその社員さんから役職者会議に参加させて欲しいという要望を受けました。役職者ではないし役職を与えられないと言うと、その社員さんは役職が欲しいわけではなく、社長や幹部がやりたいと思っている事がわかった方がもっと頑張れるから、ということでした。
断る理由がなかったので役職者会議に参加させたところ、人手不足の問題を話し合っていたところで手を挙げ、SNSを使った人材雇用の斬新なアイデアを話しました。久保講師はすぐにそのアイデアを実行させ、見事に費用をほとんどかけずに4人もの採用を決めました。

久保講師の会社ではほとんどの会社であるような社長をトップにしたピラミッド型の組織ではなく、現場の社員さんが一番上にいる組織になっています。ごく簡単に言えば、権限によって区別し上意下達で運営されるのではなく、現場の社員さんが成果を出すために必要なことを幹部や社長に要望していくというものです。押さえつけるリーダーシップではなく、社員さんの成長を助けながらチームを引っ張るという「サーバント(奉仕)型リーダーシップ」で運営されます。
久保講師の会社もこの形にするのに何年もかかったということですが、特にZ世代と言われるデジタルネイティブの世代には押さえつけるのではなく、自由に任せる形にしないと上手くいかないということです。
そのためにもしっかりと当事者意識を持ってもらう必要があり、「4つの幸せ」を醸成する「ありがとう」が溢れるコミュニケーションが大事なのだということでした。

学ばなければ人はついてこない

久保講師はアメリカのハリウッドで美容師の修行をしたことから、日本で美容室を始めた頃はアメリカ流の成果主義でした。
好評だったお店には求めずとも就職希望者が集まり、どんどんお店は増えていきました。トップの久保講師は高級外車で出勤し、身につけるものはすべて高級品、なんでもやりたいようにやっていました。
そんなある日、右腕としていた幹部が突然独立するため退職を願い出てきました。すると次の日にも幹部が退職した幹部と一緒にお店をやるので辞めると言ってきました。彼らは久保講師のお店の近くに出店し、その行動にショックを受けていたところ、ぞくぞくと退職者が出て結果的に15名が一度に辞めてしまいました。自分一人でやりたいようにやっていたワンマン社長に対するクーデターだったと久保講師は振り返ります。

社員さんがいなくなり経営に行き詰まった久保講師は自殺まで考えたと言います。
そんな久保講師を見かねた友人が、経営者に対して講話をしている竹内日祥(大阪妙見閣寺住職)さんの話を聞いてみたらと勧めてくれました。
そこで久保講師は大阪のセミナーで住職から西郷隆盛の『南州翁遺訓』についての講話を聴きました。
これは西郷に弟子入りした庄内藩士が西郷から聞いたことをまとめたものですが、その中で「私が自分の子孫(自分)のために財を得ようとしたなら私を見限って去ってくれ」という話(第五条)があり、その話を聞いた久保講師は正に自分のことだと知りました。

驚いた久保講師は講話後に住職のもとに行って「先ほどのお話は正に自分のことでした」と伝えました。すると住職は学歴を尋ねられ、中卒であると答えると、「では、本は月に何冊ほど読むのか」と聞いてきた。漫画以外の本を読んだことがなかった久保講師はそのことを正直に伝えると、「ならば、会社は潰した方が良い」と言う。本を読んだら助かるのかと聞くと、助かると断言しなら続けてこう教えてくれました。
「社会に出て学歴はいらないが、学力はいる」つまり「学ぶ人でなければ人はついてこない」ということでした。
久保講師は何冊読めば良いかを尋ねると「100冊読めば人生変わるかもしれない」と言われました。
そこで一念発起した久保講師は1年に200冊の本を読み、そこから22年続けました。これまでに4400冊もの本を読破したという久保講師は「だから今ここにいる」人生が変わったと言います。

この体験を通して目的や目標についてのアドバイスをしてくれました。
それは売上や規模の拡大といった経営者自身の欲望からくる目標には誰もついてこないということ。同じ日本一を目指すなら「日本一お客さんを感動させるお店にする」という目標には人がついてくる。
これは「動機の純粋性」だと言い、事業経営には自分以外の「誰のため、何のため」に行うのかが無いと人を動機付けられず、成功することはないと久保講師は言います。
また、人は理念だけでは動機付けられず、理念を実践した5年後や10年後の姿、つまりビジョンを語ることで人の心は動くということでした。

これからの日本は人口減少が進むことを考えると、数少ないお客さんに高い費用を払ってもらわなければならないので、その費用に見合ったお客さんにとって価値の高いものを提供していかなければいけません。
そこで重要になってくるのが常連客、よく言われる「ファン客」ですが、久保講師の美容室が求めているのは同じファンでも「ファンタスティック(熱狂的な)」のファンだということです。
美容室の利用頻度は一般的に男性の方が多くほぼ毎月来店するのに比べて、ロングヘアが多い女性の利用頻度は平均年3回程度だと言います。その中で毎月来店する女性客はこのファンタスティック客に当たります。

このレベルになると毎月お店に行くのが楽しみになっているそうで、ある店舗のファン客は来店するたびにスタッフ人数分(10人以上)のお弁当を持ってきてくれるのだそうです。
これからはすべての人を満足させようとせず、一部の熱狂的に支持してくれる人を作ることを目指すのが時代に合っている。
このように時代に沿った、時流を考慮した上で「日本一」のような高い目標を持つことだと久保講師は言います。

リーダーに必要な気づく力

また、リーダーは人の「良いところ」を見つける力がないといけないとも久保講師は言います。
「4つの幸せ」にあるように、褒められると人は幸せを感じやる気も出てきますから、「褒めて伸ばす」のが正しい。
例えば子供に野球を教える時、内角は苦手でも外角ならよく打てるという子供に対して、苦手な内角の球を打てるように練習させたらどうなるか。内角の球を打つためにはバットを短く持たないといけないので、結果的に外角の球まで打てなくなる。
これとは逆に、内角が苦手ならそれは捨てて、外角にきた球は全部ホームランできるようになれ、と教えると外角から内寄りに入ってきた球まで打てるようになる。
これは職場において一概に同じとは言えませんが、できることに対して褒めることでさらに良くしようと自ら積極的になることが成長させる上で重要だということでした。
そのためにリーダーは褒めるところ、伸ばすべき長所を見つけてあげないといけないということです。

その上で、リーダーが持っておくべき2つのことを久保講師が教えてくれました。
一つは「人は絶対変わらないし、自分の言葉は届かない」という前提を持っておくこと。
リーダーは常に平常心でいることが求められ、怒る、怖がる、悲しむの3つはリーダーがしてはいけないことだと言われています。(中村天風述『君に成功を贈る』)
3つのネガティブな感情があると心が揺れて人を引っ張っていくことはできません。
部下にアドバイスしても相変わらずだったらどんな人でも少なからず3つの感情が湧き上がります。それが続くと自分の心が耐えられなくなって諦めてしまう。
でも、「人は絶対変わらないし、自分の言葉は届かない」という前提を持っていれば、指導やアドバイスが上手くいかなかったとしても、ダメージは少なくすぐに次に行けるのです。そして困難なコミュニケーションでも継続させることができるということです。

もう一つは「問題は問題ではなく、問題をどう捉えるかが問題」ということ。
問題を問題だと考える人は問題に対処する「問題対処型」リーダーになり、起こった問題をどう捉えるかが問題だと考える人は「問題解決型」リーダーになる。
前者は例えば、人が辞めたということに対して人が辞めた=人が不足しているということを問題視し、その穴をどう埋めるかを考えますが、後者は人が辞めた=穴が空いたということは事実として捉え対処しますが、それ以上に「なぜ辞めたのか」という理由や背景を考えます。
つまり、問題対処型は起こった事実に振り回され、解決型は起こったことが二度と起こらないようにする、あるいは起こったことから得られるものは何かを考えるということです。

最後に久保講師は、冒頭に言った通り4つの幸せはCS、ESで一番重要であり、お客さんに向ければCSに繋がり、社員さんに向ければESになる。
だからとにかく周りに「ありがとう」を伝えること、そのために相手の良いところや大事にしていることを知る、気づくということを習慣にしていくことが大事だと教えてくれました。

久保華図八講師、貴重なお話をありがとうございました。
ご参加いただいた皆様にも改めて感謝申し上げます。

(注)講話では「4つの幸せ」についてマザーテレサの言葉だとありましたが、確認がとれませんでした。大山泰弘氏の著書には書かれてあり、講話でも大山氏の名前が上がっていましたので、そちらを紹介させていただきました。