戦国時代と言われる競争激しい化粧品業界

経営者は常にリスクヘッジして会社を安全に成長させなければいけない。そうは言っても思いも寄らないところから危機は襲ってきます。近年の自然災害罹災による経営危機もその一つです。
今回は経営理念委員会が経営理念を研究するにあたり、このような危機に直面した際に経営者はどのように考え行動すべきなのか、会社の立て直しと経営理念実現のためには何が必要なのかを、会員企業の「生きた事例」を元に参加者全員で考える例会を用意してくれました。

事例を提供してくれたのは株式会社ASK LABOさん、代表取締役の唐橋良幸さんと社員さんです。
唐橋さんは、2005年に前身の株式会社オードレマンコスメティックという会社を立ち上げ、社名の通りオードレマンという会社の化粧品を販売する会社でした。2018年12月に現在の社名に変更し、化粧品の製造販売をしています。エステティックサロンや理美容室などのフェイシャルの施術をしているところが主な販売先になります。

化粧品の市場は約2兆6千億円、ここ数年はほぼ横ばいで推移しています。ただ、近年は富士フィルムやサントリーなどの異業種を含め多数が市場に参入し「戦国時代」と言われるほど競争の激しい市場になっています。
化粧品は口紅などのいわゆる化粧品だけでなく、化粧のための素肌を整えるスキンケア、ヘアスタイルのためのヘアケア、体全体のためのボディケアなど複数のカテゴリーがあり、すべてをカバーする大手だけではなく、それぞれのカテゴリーを専門に扱う会社があり、参入障壁の低さもあって市場のプレイヤーが増える要因になっています。

強みが一転障壁に

ASK LABOさんはスキンケアに特化、シルク由来の主原料にこだわり、製造段階で「界面活性剤」などの薬品を使わない「安心安全」な製品を製造販売しています。
同じような製品を販売している競合はいますが、いずれも製造過程で一部薬品をしているので「安心安全」面ではASK LABOさんの製品の方が優れていると言えます。ただし、マーケティング、ブランディングにおいてその競合他社に差をつけられているのが実状です。

販売先であるエステティックサロンにおける化粧品のマーケットを見てみると、サロンでの売り上げ構成比率は全体の3割で、業界全体で見ても化粧品販売は約1,000億円、化粧品市場が約2兆6千億円ですからマーケットとしてかなり小さいと言えます。
その中でもASK LABOさんが販売されているのは個人経営のエステティックサロンになります。

売上高の推移を見ると、2011年をピークに縮小傾向となり、2016年にはピーク時の半分にまで落ち込んでしまいました。
その最大の要因は製造元の経営不振でした。2015年には経営危機に陥り、資金援助したにもかかわらず2017年1月には一方的に契約解除となり、完全に商品を仕入れることができなくなりました。

先述の通り製造元の製品を専門に販売していたわけですから、売るものが無い、注文を頂いているお客様に納める商品が無いという状態。商品が期限通りに納品されないという製造元の不振はそれ以前から起こっていたので、いざという時のために新たな製造会社をあたっていましたが、それも間に合いませんでした。
その理由は原材料であるシルクという天然素材を扱っているところがほとんど無いからです。強みであり一番の特徴であったところが、危機に面して一転障壁となってしまったのです。

再スタートに向けて

その後それまでのシルク以外の薬品を使用しないという高度な製法による製品を製造できるという会社や研究機関を探し回り、何とか協力してもらえるところを見つけることができたASK LABOさんは、2017年1月に「製販業許可」を取得、晴れて製造販売元としてリスタートすることができました。

とは言え、安定して製品が出来上がるまでには数多くの失敗を繰り返し、多額の費用を要することにもなりました。何よりも大きな痛手となったのが、これまでのお客様に要望される製品を供給できないこと、そのことで失った信用でした。
個人経営のサロンさんをメイン顧客として、1件あたりの売上高は小さくともいわゆるロングテールでの売上を構成し、それが販売面での強みの一つと考えていましたが、今回の事態を受けて決してそうではなかったことにも気づかされました。

小さなサロンさんにとってもそこで販売するものは一つの特徴となるものであり、サロンの顧客のために扱ってきたものですから、それが手に入らなければそれはやはり「死活問題」になりかねません。だからこそ、自社を、顧客を守るためには取扱商品を変えるのは致し方ありません。
このことから、リスタートし社名も新たにした現在ですが、まだまだ厳しい状況は続いています。

自分ごととして共に考える

今回の例会のテーマである「共に考え、共に栄える」ということから、この唐橋さんが代表を務めるASK LABOさんのこの危機を参加者全員が受け止め、この先のことを一緒に考えようというものです。
最初に唐橋さんから現在の化粧品の購買層の分析と自社のこれまでの顧客層を考えて今回改めてASK LABOさんのペルソナを設定、同時に売上構成比の高いエステティックサロンさんの顧客イメージを設定し、その上で戦略、アイデアを参加者全員で議論することになりました。

ここで具体的な内容を書くことはできませんが、様々な質問、意見、アイデアがたくさん出されました。
進行役の寺門副会長からも「異業種だからこそ”勝手な”意見を自由に出せる」ところが経営研究会の良いところです。業界の常識に囚われず、会社の外の人だからこそ出せる自由なアイデア、反対意見でもとても貴重な資源です。

参加者にとっても、ASK LABOさんが直面していることを事細かく公にしてくれることで、「取引先が無くなる」というまさかの事態に遭遇したことを同じ経営者として体感し、「自社が遭遇した場合自分ならどうするか」自分事として考えることができたとても貴重な機会になったのではないでしょうか。

発表の最後に唐橋さんからは、これまで、そしてこれからも苦労を共にしてくれる社員さんに対して感謝の言葉が述べられました。
発表中も目を潤ませて社員さんの努力に感謝していた唐橋さんですが、社員さん、そして家族の支えが無ければ、恐らく乗り越えることのできないことであるということを参加した全員も理解できました。
ASK LABOさんの経営理念は「心からの笑顔創り」であり、社員さん、家族、そしてお客様の「心からの笑顔」を経営を通して創っていくことです。それを実現させるためには、経営者一人だけが考え悩むのではなく、社員さんや家族と共に、そして経営研究会のように「共に学び、共に栄える」ために一緒に学ぶ仲間との協力関係、協働が必要であることを実感できた例会でした。

 

勇気を出して登壇し、発表をしてくださった唐橋良幸さんとASK LABOの社員さんに心から感謝申し上げます。
また、ご参加いただいた多くの皆様にも改めて感謝申し上げます。