今回は大阪に本社を構え、海外にも店舗展開している靴下メーカーで上場企業のタビオ株式会社代表取締役社長 越智 勝寛さんにご登場いただき、お話を伺いました。

越智講師は日創研の「起業家養成スクール」の12期生でもあり、長く日創研で学ばれてきた私たちの仲間です。

1968年に創業、現在の社員数が821名、昨年の売上高157億円、メーカーであると同時に「靴下屋」という専門店をFC合わせて214店舗、その他海外も合わせて270店舗を展開しています。全商品の95%が日本製、自社に検査研究室があり品質管理と研究開発をしています。生産はすべて協力工場(48社)で行いますが、縦の親子の関係ではなく、横の兄弟の関係、同じ立場で仕事をするパートナーだということです。

タビオ・ネットワーク・システムによる生産体制

[特徴]

・需要の予測はたてない
・供給の計画をたてない
・基本的には工場に発注しない
・ヒット商品の初期段階での品切れはあきらめる
・工場のあらゆる状況を共有する

予測も計画もたてないというのは、投入した商品の売れ行きを見ながら工場が独自に判断し生産ラインを調整、工場から商品を供給をしていくというもの。これだと投入したばかりでヒットした商品は品切れが起こるが、それも折込済みで、体制を整えた上で改めて安定的に供給させるということです。これには協力工場との情報共有が不可欠であり、生産用の糸の在庫から職人さんの状況、会社の後継者についてなど細かな情報共有が大事なポイントです。

タビオさんはユニクロに代表されるようなSPA企業(アパレル分野で、小売業が製造の分野まで踏み込んで自社のオリジナル商品の開発を行い、自社で販売する企業)ですが、その生産の流れは独特なものです。SPAにおける一般的な流れは店舗が売れ筋等の情報を企業に流し、企業はその情報を元に新しい製品の企画や既存商品の生産指示を工場に伝えます。企業が企画し計画を立て生産をコントロールすることになります。

しかしタビオさんでは、店舗からの情報はタビオさんにも伝わりますが、同時に工場にも直接伝えられ直接発注されます。タビオさんが配送などを行いますが、タビオさんはあくまで工場の相談役としての立場で、計画を立てたりコントロールすることはしません。工場との関係はフラットで、タビオに入ってくる情報はすべての工場に伝え、同時に工場が他社の仕事が入っているという情報も共有されます。情報を共有することで、計画的な販売や生産体制ではない、臨機応変でかつ無駄無理むらを抑えた生産と販売を実現しているということです。

タビオの社風

社風の前に現在の社長である越智講師とお父様である現会長との関係性について触れられました。

越智講師が本部長の時代に1年間休業をして日創研の起業家養成スクールに行かれたのですが、研修修了後の3年間で売り上げを大きく伸ばしました(80億から140億)。その後社長に就任された越智講師でしたが、経営の舵取りについて会長との意見の相違などもあって、売り上げは上下動を繰り返すことになりました。

タビオさんは会長が一代で築き上げた会社であり、創業者としての自負とカリスマ性のある会長との相違が生じるのは当然のことなので、現在は会長から出される経営課題について「ゲーム感覚」でクリアしながら舵取りをしているということでした。このことからもわかるように、タビオさんの社風は「プロダクトアウト体質」で「トップ・ダウン体質」だということです。

「良いものを作ればお客さんほうから来てくれる」という考え方が根強く、なおかつ強力なトップ・ダウンで会社は牽引されてきました。こうなると、売れるものを考え現場を動かすという「本部主導」の考え方と、情報が集まる現場に任せようとする「現場主義」のぶつかり合いが生じてきます。越智講師はタビオさんに入社する前は化粧品会社の販売員や飲食店の店員などを経験してきた現場主義なので、これまでの本部主導のやり方とはぶつかり合うことになるということでした。

もう一つは「不易流行」という経営理念について。言葉の意味はご存知の通りで、不易は「変えてはいけないもの」、タビオさんでは靴下という伝統や文化であり品質がそれにあたります。流行とは「変わるもの」ですが、ファッション性やお店の形態や形状がこれにあたります。

アパレル業界では2000年代後半から2010年代前半まではある特定のファッションビルに出店することが目標でした。今では、2020年代では「フォロワー」、寄せ集めでは無い「生きた」フォロワーがどれだけいるか、あるいは動画チャンネルの登録数はどれだけあるかが目標であり指標になってくるということです。

この理念が理解されているので、タビオさんの社内では常に「品質とは何か」ということについて語り合うという社風があると越智講師は言います。
品質には2種類あり、一つは技術的な品質(破れにくいなど)、もう一つは感性的な品質(風合いなど)。伝統や文化として大切に守ってきたものを日本の職人さんの技術で高いレベルの品質にするには、ということを常に語り合う良い社風がタビオさんにはあるということでした。

流通革命への対応

流通は年々リアルからバーチャル(EC)へ移行しており、タビオさんでは完全にEC販売へシフトするべく動いていると言います。そのような中にあって、リアルな店舗はどうあるべきかを考え、近年の「働き方改革」に合わせて「考え方改革」を推進してきました。

越智講師やトップの人たちはPCからスマホやタブレットといったモバイルで仕事をする、あるいは会社オフィスではなくシェアオフィスで働きネット上でやり取りをするなど率先してスタイルを変えてきました。社内のリテラシー向上のためにはまず社長が、トップの経営者が変わらなければならないと学んできたからです。

同時に全社で変わるために、高める指標として「フリークエンシー・リアリティ・クオリティ」を掲げているということでした。
フリークエンシーとは配信頻度のことで、一人一人が如何に多くメッセージや情報を配信し、また配信されたものに対して素早く反応できるかにこだわっています。つまり、新しくSNSのアカウントを開設して取り組み出したとしても1年に1回しか発信しない、更新しないということでは意味が無いので、変わるために積極的にツールを使っていこうというのがその狙いだということです。

リアリティとは社長をはじめとする経営トップが建前ではなく本音や本心をつねにさらけ出す、「良い話」をして共感を得ようとするのではなく同じ仕事のパートナーとして良いことも悪いこと辛いことも共有することだということです。現在のコロナ禍に陥った時もすぐに関係者を集めて、売り上げが見込めないことを伝えて値引きや関係先の給付金の手続きをしてあげるなどの対策をすぐにオンラインの画面越しで発した、そこで弱音も吐いたと越智講師は言います。今の時代は社員さんでも、パートナー会社でもこの「リアリティ」が無いと響かない、伝わらないということでした。

現在は社長自らがホームページ、ECサイト、SNS、動画サイトの運営を行っています。越智講師曰く、社長に就任してからは会長(父親)との関係性もあって、楽しく仕事をするために何事も「ゲーム感覚」で行っていると言います。問題課題に対して悩むのではなく、幹部や社員さんを巻き込んで問題課題というステージをどのようにクリアしていくか、というように捉えているということでした。変化する環境に合わせて変えていくこと、リアルからバーチャルへ、そのための働き方や経営を改革していくためには、まずはトップ自らが変わること、特に「考え方」を変えること、そして行動を変えることが大事だということです。「社長だから」「社長なのに」といったこれまでの考え方に囚われていては何も変わらないということでした。

愛社精神について

社長であっても同じ人間ですから感情があり、好き嫌いがある。好きな社員さんもいれば、嫌いな社員さんもいる。だからといって当然差別はしない。常に考えているのは一人一人の社員さんが持っている力を発揮させるにはどうすれば良いかということ。そのためには会社内の立場や役割といった関係性の根底には人間らしいフラットな関係性がないといけない。社員さんとバンドを組んだりサッカーチームを作ったりしているが、当然仕事を離れてのそういった付き合いの中では同じ趣味を持つ仲間なので、社長ではなく「勝寛さん」「かっちゃん」と呼ばれている。最近の若い人は会社の飲み会に参加しないというが、それは飲み会を開こうとする側の人が最近の飲み方を知らないからだと越智講師は言います。

このことからも、越智講師はどのような組織形態、どのような機能が必要かということよりも、800人の社員さんに対して一人一人が活躍できているか、あるいは活躍できる場はどこかを考えると言います。

立てられた戦略に対する人事を含めた戦術が現場で走らされるわけですが、現場の社員さんの動きや評価を見て、もし合わないと判断した場合は次の日にでも異動させるということです。その際には本人にしっかりとヒアリングをして得意分野を見つけた上で、それに適した場へ移します。この時に重要になるのがこれまでのビジネススキルとしての強みではなく「本当の強み」、つまり本当に好きなこと、得意なこと、特徴的なことを把握し、それを会社がビジネスで生かせる場や機会を与え、「成功体験」をさせることだということです。

上場企業だから、多くの社員さんを抱える社長だから、といったことよりも、日本の靴下産業・文化を守るために何をすれば良いか、あるいはタビオはお客様に何を買っていただいているのかということを常に社員さんに問いかけ、気軽に話し合う中でそれぞれが活躍できるように柔軟に変化させていく。これができるのも、先代からの家族的な社風にあり、それがそれぞれの愛社精神を育んでいると越智講師は言います。

[対談]越智 勝寛×髙橋明希(株式会社武蔵境自動車教習所 代表取締役社長)

髙橋:
15年前の起業家養成スクールでのシリコンバレー研修でご一緒になり、スタンフォード大学のブックストアで、日本ではまだほとんど知られていなかったiPodを購入して参加者に見せていた姿をみて「変わった人だな」というのが第一印象でした。その頃とまったく変わっていない姿を見てホッとしました。

越智:
その話には一つ抜けてまして、私はその時直接「あなた変わってるわね」と言われました(笑)

髙橋:
それは大変失礼しました(笑)今日はたくさん質問も頂いているのですが、いくつか先に質問させてください。
最近「イノベーション」という言葉をよく聞きます。日本では既存の知識や業界の知識を持っている企業は沢山ありますが、イノベーションを起こそうとする場合は新しいものにチャレンジしたり、全く異なる業界のものを取り入れたりしないと何も起こらないと言われ、日本の企業では中々イノベーションが起きにくいと言われています。
そんな中でタビオさんでは大ヒット漫画など全く異なる業界とコラボレーションをしたりしています。どうやって違う業種から新しいビジネスの種を持ってきて、どうやって自社のビジネスに統合させているのでしょうか?

越智:
まず会長から「ネット(の数字)を上げろ」と言われ、タビオより知名度の高い「靴下屋」という名前を使って何かできないかと考えました。そこで漫画とアニメが大ヒットして映画化も決まったという作品とコラボすることにしたわけです。
これまでは老舗で上場企業だからということもあって、やるのならこれといった勝手な概念がありましたが、今は頂いたお話については全部お受けしています。お受けしてからどうするかを考えています。今はカーワックスの会社さんとのコラボが決まっているのですが企画がまだ浮かばなくて(笑)
これまでは「これはやってはダメ」という禁止のルールはありましたが、それを「可能ルール」に変えていくようにしています。

髙橋:
そこにはスピード感が重要になってくると思いますが、プロジェクト化や商品化するといった場合にどれぐらいのスパンで行ってますか?

越智:
情報共有についてはLINEで常に行なっており、その場で決定したり、具体的な指示を出します。ちょうどその件で会議中にあれこれ注文が出されている時に現場担当者とLINEでやりとりをして、次の日にはその答えを会長に提出したりしています。

髙橋:
社長になられて13年ということですが、タビオさんは常に新しいものを取り入れています。
「不易流行」の経営理念の会社を継承され、どのようにして新しさを創っていかれたのでしょうか。

越智:
日本の特に創業経営者の後継者は一種の呪縛にかかっているように思います。例えば松下幸之助を聖人君子のように称えて、先代からのものを頑なに守り続けないといけないと考えているところも多いように思います。逆に会社を大きくして売り上げを上げようというのも、我々のような製造小売では限界があります。日創研でも学んだように、永く続けるのであれば拡大ではなく、臨機応変に社会環境に適応して変化していくこと。つまり拡大ではなく、現在のパートナー工場47社が常に仕事で満たされる状況を創り続けることだと考えています。

髙橋:
お話の中でも品質へのこだわりというのがありましたが、もう少し詳しく教えてください。

越智:
私は競合とされる会社とも仲良くお付き合いさせてもらっていて情報交換もします。競合に勝とうという考えはなく、現在のポジションをキープして、タビオが提供する品質を求めるお客様を育成していく中で、靴下なんか何でも良いという方にも「靴下はタビオでないと」となってくれるような取り組みをしていくということです。例えて言うなら、老舗の和菓子屋さんが羊羹なら羊羹を時代の変化に合わせて変化させながらもずっと羊羹を作り続けるというのに近い。コンビニでワッフルが流行ったからといってその和菓子屋さんがワッフルを売らないのと同じです。

髙橋:
後継者を目指して学んでいる方からの質問です。
後継者として大事にされていることは何でしょうか?

越智:
越智 勝寛であることです。先代にはなれませんし、先ほども言いましたが特に創業者は美化されて伝わることが多いのですが、本当は支えてくれた社員さんや協力会社さんがいたからこそ。スポーツの世界でもいろんなタイプの名監督がいますが、共通して言えるのはそれぞれの特徴がリーダーシップに現れているということです。頭脳派の監督が感性豊かな監督の真似をしたところで上手くいくはずがない。人柄も含めて自分自身を認めて、自分らしさを思いっきり出せば良い。繰り返しますが、伝えられる先代や名経営者のことは良いことばかりなので、それを真似しよう目指そうとしても上手くはいきません。

髙橋:
越智 勝寛とはどういう人間ですか?

越智:
私の中で今年一番残念だったことは、コロナではなくE.ヴァンヘイレンが亡くなったことです。私は趣味人間で、仕事を趣味のようにしていますし、それが自分らしいと思っています。仕事だけでなく人生をゲーム感覚で過ごしていますから、失敗しても「じゃあ次」というようにクリアできるまでやります。とにかく悔いのないように生きようとしています。だから人から「社員さんに読んでもらいたい本」を尋ねられたら、公には「孫子」などと言いますが、本心では漫画の「ONE PIECE」です。社員さんにはこの漫画の主人公のような生き方をしてもらいたいですから。

ただ付け加えて言うなら、私は会長がやろうとしていることの「意図」は理解するようにしています。その実現のためにどのような方法や手段を使うのかは自分次第ですし、そこで喧嘩しても意味がありません。意図さえしっかりと理解できていれば出た結果で揉めることはありません。

髙橋:
人材育成について教えてください。他にはないという人材育成はありますか?

越智:
基本は自由にさせています。特にこれといった教育をしているわけではありませんが、常々言っているのは「靴下のことを好きになろう」ということです。目的さえわかってくれていたら、どのようなやり方で向かおうが構いません。それだけに上場しているからといって会社では学歴は関係なく、確かに東大卒や京大卒もいますが高卒も多く、高卒の子が東大卒に指導しているというところがあります。本人にやる気があり、会社がその人の特徴を捉えて適した仕事をさせれば、会社の規模に関係なく実現できることだと思います。

髙橋:
現在の起業家生からの質問で、現在の研修が修了後は何を学んでいけば良いか教えてください。

越智:
一番は学んだことを一度はやってみることです。特に社員さんからすれば1年間何をしていたのだろうかと思っている人もいますから、学んだことを実行して実績を出し信用を得ないといけません。でも、心配せずとも学んだことを下手にアレンジを加えずにそのまま実行すれば驚くほどの成果が出ます。

髙橋:
別の質問です。現在の会長が亡くなられた後の会社はどのような姿になっているとお考えですか。また、越智講師が考える後継者育成について教えてください。

越智:
会長が亡くなったら、後継を決めて私も退任します。仕事とは別にやりたいことがあるので、退任してそれをやります。社長の1番の仕事は自分がいなくても会社が回るような右腕・左腕を作ることで、それをやれるのが会長がいる間です。

髙橋:
次の質問です。越智講師はタビオの靴下のどんなところが好きですか?顧客が喜ぶタビオの靴下の1番の自慢はどんなところで、社員さんはそれを知っていますか?

越智:
前提として好きな靴下というのは十人十色で、私が好きな靴下と会長が好きな靴下、事務員さんの靴下は違います。同様にタビオが好きな方もいれば他社さんの靴下が好きという方もいます。私たちは私たちが考える靴下が好きという方に売っています。例えばベースとなる靴下にスポーツのエッセンスを取り入れたスポーツ用靴下を販売していますが、私は好きではありません。己の信念を持ちながら、多様性を認めているというのがタビオのやり方です。ですから、社員さんにも「この靴下が好き」というのを持たせるようにしています。色々な靴下好きの集合体がタビオという会社であると考えています。

 

越智 勝寛講師、本当に貴重なお話をありがとうございました。
また、ご参加いただいた皆様にも改めて感謝申し上げます。